13 その13
再びダンジョンに潜るというザックについて行く「
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- 戻る3人。取り乱す1人 -
「ま、待ってぇっ!?」
ドアノブに
がっ!
だが、無情にも
ぱたん
と、ドアが完全に閉じてしまい…
ガチャリ
施錠する音が鳴り響くのだった。手を伸ばした状態で硬直したパトリシアはバランスを崩して地面に顔をぶつけた後、鼻血を流しながら涙を流す。
「あ゛…、やっ…ちゃっ…た………」
昔からパトリシアは慌てん坊のドジっ子だった。落ち着いて行動すれば普通に何でもこなせるが、慌てると途端に落ち着きが無くなり、いわれた通りにこなせずに失敗する。1度やったことは2度、3度と繰り返してしまう程のおっちょこちょいでもある!
「あ~あ…そういえば今朝、やったばかりだったっけ…」
そう、ウルフの巣を発見して静かに撤退しようとしたその時だ。ウルフの大群に身を竦ませた彼女は全身がブルってしまい…足をもつらせて転倒してし、見つかってしまう主原因となってしまったのだ。この第3階層はそのウルフたちが根城としている巣と繋がっている草原だ。距離的にはかなり離れているが心の何処かで怯えている彼女は、矢張り冷静さを失っているのだろう。マシュウたちは…ジャッカルはそれを察して留守を任せたのだが…
「ジャッカルさん…わたし、ダメですね…またドジっちゃいました…」
orz状態で呟くパトリシアに、不意に背後から声が掛かったのは果たして誰か…
「あぁ?またドジったのか?…しょーがねーな…」
片手でひょいっとパトリシアの腹を支えて肩に担ぎ上げたのは誰か…
「あ、ちょっ!ちょっとおっ!!…人を荷物と勘違いしてるんじゃないですかぁっ!?」
途端、肩の上でじたばたと暴れ出すパトリシア。担ぎ上げたのは何を隠そう…
「はぁ…パットの嫌がらせをしたら天下一品だね…じゃなくて、いい加減下ろして上げなさいよ!…ジャック?」
「うっせーな…つーか、俺はジャッカルであってジャックじゃねーって前からいってるだろぉっ!?」
ぶんぶんとパトリシアを振り回して、「や、やめれぇ~…」と悲鳴を上げる彼女をすとんと地面に降ろすジャッカルその人だった。尚、目を回したご当人は座ったまま視点が定まらずに頭をふらふらさせている。
「はぁ…いい加減にしてくれ。遊んでる暇は無いだろう?」
遅れてやってきたマシュウが溜息を吐いている。
「それより早く中へ。まだ見えないがじきにウルフたちが集まってくるぞ?」
と、鼻をひくつかせながら話すマシュウ。視覚だけでなく、鼻も敏感と見える。
「そ、それが…」
パトリシアが復帰し、座ったままで話し出す。
「どうしたんだ?立てないなら手を貸そうか?」
マシュウがいいながらパトリシアに手を貸し、すぱ!と立たせる。その傍らでジャッカルがドアノブに手を出して回そうとして…
ガチャリ
と開錠の音が鳴り響き、あっさりとドアは開いてしまった。
「あれ?えぇっ!?」
目を白黒させたパトリシア。先にドアを開けたジャッカルが入り、続いてジュン、マシュウと入って行く。
「どうした?急いで入ってくれ?」
「えと…あ、はい」
マシュウに急かされて取り敢えず中に入るパトリシア。後ろ手にドアを引き、閉めると…
ガチャリ
矢張り、施錠の音がしてドアは固定される。試しに、「開けよう」と思わないでドアノブを握り、回そうとすると…
「…開かないわね」
ドアノブはガチャガチャともいわず、回されるのを固辞するかの如く、固定されたままだ。今度は「開けよう」と思いつつ回そうとすると…
ガチャリ
開錠の音が響き、ドアが開き…
ガアッ!
「きゃあああっ!?」
いきなりウルフと思われる鼻っ柱と前足がドアの隙間から差し込まれて来た!
「ばっ!おまっ!!」
話しを聞いてなかったのかと思いつつ、ジャッカルが剣をドアの隙間から突っ込まれていた鼻っ柱に突き刺して退ける!
ギャイン!
血を流して鼻っ柱が引っ込められ、その隙を突いてドアを慌てて閉める。
ガチャリ
施錠の音が鳴り響き、先程まで聞こえていた外で鳴き騒ぐウルフたちの吠え声と壁やドアを削る爪の音、体当たりの音が遠のいていく…
「あ~びびった。パット、死にたいなら俺らを巻き込むんじゃねーっての!」
心臓の音が未だにドキドキとうるさいくらいに鳴り響いていたパトリシアは、ジャッカルの余りな台詞に顔だけ振り向いて、
「しっ!失礼な!!…ちょっと試したいことがあって開けただけで、自殺なんてこれっぽっちも考えてませんよ!!」
と叫び返していた。そして…
「ん~…うるさいですよ?」
と、ザックが目を覚ました。眠ってからまだ30分と経ってない今、それ程疲労は抜けてない。…そんな時に騒いでいれば機嫌も悪くなることだろう。
「…一体何があったんですか?」
目がしょぼしょぼしてるのか、目を擦りながら訊くザック。
「えと…ごめんなさい」
ここ一番の大声を上げたパトリシアが謝る。
「あ~、すまん。ちいと外のことでな…」
ジャッカルも謝る。ドアさえ閉めてしまえば炎を扱うことができない獣系の魔物は物理で削るしかない。が、この
「すまない。もう少し寝ててくれ。起きてから状況を話そう…」
マシュウの言葉にジュンも頷く。ザックはジト目で見ていたが、
「わかりました。じゃあもう少し休ませて頂きます。起きたら、お願いしますね?」
頷く一同を見て、ザックは今一度ベッドに横になるのだった。その後、毛布を掛け直すジュン。各々は端に寄せてあったテーブルを中央に戻して椅子を置き直す。
「さて…取り敢えず報告からだな…」
「あぁ…」
椅子に全員が座ると、
「じゃあまず外の状況を共有するとするか…」
と情報の共有が始められるのだった…
- ザック、眠りから復活する -
「おはようございます…」
「「「お、おはよう…」」」
むくり、と起きるザック。ビクリ、とおっかなびっくりする4人。情報の共有は終了しており、パトリシアのやらかしたドジに3人が顎が外れるかと思う程に大笑いした途端に起きたザックに、
((やべぇっ!…また大声上げて起こしちまったぁっ!!))…と男性陣がビビり、
((げげっ!…またザックくんがぁっ!!…あの子怒った所見たことないけど、きっと物凄く怖いんじゃない!?…普段温厚な子程、怒ったら怖いっていうし!?))…と女性陣がビビっていたw
男女でそれぞれ内心「やべー!」と戦々恐々としており、大声で叩き起こされたザックはちょっとイラついていたが、そのおっかなびっくりの顔が面白くて、つい「ぷっ」と軽く吹いてしまい、それを隠そうとしてブスっと不機嫌そうな顔で対応していた訳だが…腫物扱いかっ!w
「取り敢えず疲れは取れましたし頭もスッキリしたので、情報の共有をお願いします」
といったザックに、
(((また同じこと話すのかぁ…めんどくさっ!)))
と、4人の心は1つになっていた…。いや、話した内容をメモにでも残しておけば良かったんじゃないか?(貧乏チームにそんな余裕は無いだろう…合掌)
※低品質紙なら銅貨1枚で10枚買えるくらいには安いが、ペンとインクはセットで銅貨5枚するので「そんなん買うくらいなら飯を買うぜ!」とジャッカルがいってはばからなく、必要とする場面ではペンとインクは借りられるので紙だけありゃいいという結果で未だに所持してない貧乏チームでした…
・
・
「…成程。つまり、ドロップ品を集めてる間に例の探索者らしい人たちを追いかけていたウルフが戻って来たと…そういう訳ですね?」
「あぁ、そういうこった」
ザックがあーだこーだといっていた説明を簡潔にまとめたことに多少驚きつつ、マシュウが頷いて肯定した。聞いている時間は4人が時系列関係なくてんで勝手に喋っていた為、頭の中で纏めようとすると時間かかるだろうなと思っていただけにだ。ガラス窓に視線を寄越したザックは「はぁ」と溜息を吐く。あれからまだ1時間と経ってない為、殲滅すれば先には進めると思われるが…
「一体何体湧いてくるんでしょうねぇ…。これ、全部いちいち倒してたら疲れちゃいますよ…」
それはそうだろう。剣の腕や魔法の腕が立つといってもザックはまだ成人に成り立ての子供だ。体力そのものは大人に比べくもなく低い。探索者や冒険者には成人になる前…12歳頃からギルドに加入はできるが、前線で活躍できる程度に体が出来上がるには少なくとも数年は掛かる。一人前と見られるにはパトリシアと同じ17歳やもう1つ上の18歳まで掛かると思われる。冒険や探索に出なくとも師を仰いできつい修行を経ればもう少し早く一人前と成れるかも知れないが、そこまで恵まれた者は少ないだろう。
「仕方ありません。ちょっと卑怯ですが…」
とてとてと歩き、ガラス窓の前に立ち…少し背が足りなかったので椅子を引いてその上に膝立ちをした。採光窓だったので、余り考えずに自分の背より上の位置に設置したのが不味かったのだが、今どーこーいっても始まらないので無言で外を睨むザック。
「…一体何をするんだ?」
マシュウがゴクリと唾を飲み込み、そして問う。
「静かにして下さい」
それだけいってザックが口噤む。
「あ、あぁ…わかっ…た」
迫力ある言葉に大人のマシュウが黙り込み、最初から黙っていた他3名もその迫力に静まっていった…。これから何が起こるのか、疑問に思いつつも…見たことも聞いたこともない何かが起こる予感をしつつ…
・
・
(参ったなぁ…アレをやるには外の地面に触れてないと無理なのはわかってるんだけど…でも、外に出て地面に手を付けるなんて、ウルフたちの格好の餌食になれっていわんばかりだしなぁ…)
流石に直接手を触れないで…媒体になる物質に手を触れずに生活魔法を発動させることはできない。生活魔法とは、少ない魔力を燃料にその属性の媒体…風なら空気に、水なら最低でも空気中の水分(水蒸気)に、火なら最低でも空気中の燃焼素(酸素)にと、関連する媒体に触れていないといけない。膨大な魔力を持つ属性魔方使いならごり押しで魔力だけでその結果を現わすことは可能でも、生活魔法使いにはごり押しできる魔力を持つ者は少ない。ザックですら、属性魔法使いに成り立ての者よりは多い魔力を内包しているが、高名な魔法使いに比べると見劣りがするだろう。生活魔法を長時間維持できる程度の魔力では、膨大な魔力を消費する上位の属性魔法の消費には少しだけ耐えられるという程度でしかないのだ…尤も、ほんの少しだけ生活魔法を使える者から見れば、ザックの魔力は想像もつかない程に多いのだが。
(仕方ない。裏技を使うか…)
樹属性の魔力を練り、壁に小さな穴を開ける。そこからストレージから出した、予め創っておいた土ロープを垂らす。尤もロープを細く目立たないようにしなくてはいけなかったが4人は外に目を向けていて気付くことはなかった。
(これで届いたかな…)
細くなった土ロープはウルフたちにも気付かれることもなく、すぐ外の地面に接地していた。ザックは土ロープ…今となっては土糸だろうか?…を
(よし、
ずごごごごご…
(他の3辺は見えないけど…まぁちゃんと思った通りの形だろうな…じゃ、やれ!)
クレイゴーレムは腕を前方に向けて
どっどっどっどっ!!!
と、土を固めて造られたかのような塊を発射しだした!
「「「なっ!?」」」
マシュウを始めとした4人は驚き、固まる。それもその筈…クレイゴーレムから発射された塊の直撃を受けたウルフたちは吹き飛ばされ、一撃で死なずとも何度も当たっていく内に倒れてダンジョンに吸収されて行くのだ!
(((矢張り、ザックくんは…土属性魔法使い?)))
恐る恐るザックを見る目が、脅威を見る目に。そして安心感へと変わって行く…大いなる勘違いをしまくりながら…だが、彼、彼女らは知らない。これが生活魔法の土属性の応用だということを…
※生活魔法には土属性編でゴーレム創造がある。「お使いでの荷物持ち」が主な使用用途だが、他にも「ウォーターを併用した畑での水撒き」などの応用もある。ゴーレムだけあって力もそこそこある為、「溝に嵌った馬車の移動補助」なんかにも利用可能だ。「込められる魔力が十分にあるならば」という前提はあるが。
・
・
「「「・・・」」」
「ふぅ…ちょっと魔力が目減りしちゃったけど、直接動くよりは楽できたかな?」
ザックが満足そうに呟いている。
(ちょっと?)
(動くよりは楽?)
((マジかよ…こんな子供が…))
女性陣がザックの言葉に信じられない!…とでもいいたそうに睨んでいる。いや、敵意は含んではいないが、今後どう扱ったらいいかわからないとでもいうようにだ。男性陣は男性陣で、おーまいがーっ!?とでもいいたそうになっている。最早思考を放棄した感じだった。
「さて…外のゴーレム砲はそのままにしとくので、ドロップ品集めをお願いできますか?…勿論、魔物に対してのみ撃つようにしてるので安心ですよ?」
ザックは「ちょっと考え事があるのでお願いします」と続けていうと、
「あ、あぁ…わかった」…とマシュウ。
「…俺らに撃たないってのは本当か?」…と怯えながらジャッカルが。
「…わかったわ」…と、何か含みのある表情でジュン。
「もう寝ないのね?…じゃ、行ってくる、ね?」…とパトリシア。ドジを見られないか少々不安そうだw
「うん、大丈夫です。尤も、撃ってから射線上を横切ったら当たりますけど…」
と、不安なことを追加されて「うぅ…」と呻く一同。そこは避けて欲しいが、投げた石ころを例に出して説明し、「わかりました…」と渋々出て行く4人だった。魔物の持つ魔力が接近してきたら自動応答で土塊を発射するだけのシンプルな行動を取るゴーレムな為、人みたいに人間が横切ったからといって発射を中止する機構までは組み込めなかった。
「さて…と」
(ここは土が一番力を持ってる地形だからね…)
生活魔法のゴーレム
(偶には珍しいゴーレムが創り出せるんじゃないかな?)
先の階層を考えると、ザックは少しだけ、ワクワクとしていた…
━━━━━━━━━━━━━━━
ゴーレムで土塊弾を何故打ち出せるのか?…水撒きゴーレムを想像して下さい。水を貯めるタンク。水を撒く為の放水口付き腕部。遠くまで水を飛ばすのに水を圧縮して放水する機構…中身を土に置き換えれば…ほら!…土塊弾発射ゴーレムの出来上がり!(まてw)
備考:
探索者ギルド預け入れ金
金貨250枚、銅貨1617枚(変化なし)
ストレージ内のお金
金貨173枚、銀貨70枚、銅貨1815枚(変化なし)
財布内のお金:
金貨1枚、銀貨20枚、銅貨55枚(変化なし)
今回の買い物(支出金):
なし
ザックの探索者ランク:
ランクC(変化なし)
本日の収穫:
※拾った分のドロップ品が未確認の為、不明(追加分はまだアイテムボックス付き袋の中なので不明)
チームの共有資金:
※仮加入したてで教えて貰ってないので不明(個々の個人資産は記入しない予定…面倒だしw)
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