12 その12
ダンジョンに潜って翌日、「
━━━━━━━━━━━━━━━
- 第1階層から第2階層までは面倒なので省略しますね! -
(帰る時も思ったけど、何でこんなに早く移動できんだ!?)
マシュウは思った。普通は探索者は周囲に気を配り、回避できる戦闘はなるべく回避して探索範囲を広げ、地図を埋めていって…運が良ければドロップ品の取りこぼしや宝箱を発見して中身を貰い受け、問題が無ければバックパックが一杯になるまで粘り、食料が尽きそうになったり疲労が溜まってきたら地上へと戻って収穫をギルドに収めて金を得る。宿代、消耗品や装備の修理代で稼ぎの半分が消えていき、残りを仲間で分け合うと食費で殆どが消えてしまって女たちの服代にも困ると…仕方なく彼女らは針と糸と布を買って縫い繕っていると聞くが…話しが逸れたな。
(それが何だ…既に第2階層も終わりが見えている。俺らは彼が…ザックくんが狩った魔物のドロップ品を拾って回るだけの存在に…ま、まぁそれはいい。問題なのは地図を見ることなく迷う素振りも見せずに歩くことと、襲ってきた魔物を接敵と同時に屠るその攻撃力。まるで目が顔の前だけでなく、横や上にも付いてるかのような…)
ガアア…げぴっ!?
叫び声が聞こえたと同時にザックが
(ザックくんは今までソロでダンジョンに潜っていたと聞くが…俺たちは団体行動のお手本とならなきゃいけないってのにこれじゃ意味無いんじゃないか?歩いている間は確かに周囲の警戒をしていた…だが、それは最初だけだ。今となってはドロップ品が早く出ないかな?…と餌を狙っているハイエナみたいな状況だ。後方警戒をしている俺が馬鹿みたいじゃないか…)
第1階層はゴブリン、コボルト、スライムなどの雑魚のオンパレードで確かに緊張感も無くなる。第2階層ともなると強化版のそれらに加え、偶にオークなどが混ざるようになる。が、それも数人で囲んでボコれば倒せる。複数で現れるのも稀な為、気を付けてれば倒すのは難しくないのだ。
- 第3階層への階段通路 -
「第3階層か…」
(何度も…まだ3回目だけど。此処に来ては先に余り進めずにトンボ帰りを繰り返している進めずの階層だ。今日は先に進めるだろうか?)
そんなことをぼんやりと考えていると、お腹がくぅ~と鳴った。そういえばもうそろそろお昼の頃合いだ。
「えっと、お腹も減って来たのでそろそろお昼を取ろうと思いますが」
階段通路の中でそう訊くと、
「そう…だな」
「私、お腹ぺこぺこ!」
「じゃあ準備するか」
「弁当買って来てくれたんでしょ?配膳は任せて!」
と、いつもの順番で返事が返って来た。
「あ~…じゃあまずは第3階層に出ましょう。アレを出しますんで。その中で食事を摂ることにします」
といい、ザックは階段通路を出た。
・
・
「よっと…」
階段通路を抜けて、暫く壁沿いを左へ向けて歩く。そして、階段通路への入り口が視界から消えた辺りで
「「「うわぁ…」」」
一瞬で現れる
「じゃ、強化っと…。皆さん先に入って下さい」
「お、おう…」
ぞろぞろと
「では毛布を隅に片付けてテーブルを中央に。椅子は1つしか無いので創りますね?」
と、彼らがいわれた通りにした後、追加の木の椅子を4つ生成するザック。
「なぁ…普通、あんだけ魔力を消費したらMPポーション飲むとかしないか?」…と小声のマシュウ。
「普通はね…偶に魔力だけ異常に多い魔法使いとか居るから、居ないとはいわないけど珍しいわよね」…と小声のジュン。
「はぁ…そうなのか」…と小声のジャッカル。
「ほぇ~…ザックくん凄い人なんですね!」…と小声のパトリシア。配膳を終えて隅でこそこそと話している中に入った模様w
「…あのぉ~…用意できたので食べて下さい?」…と小声のザックw
「「「うわぉおっ!?」」」
びっくぅっ!?…と小さく飛び上がって驚くパトリシア以外の面々。何をこそこそと相談?していたのかわからないが、驚愕顔が面白かったので、ぷっと笑って許すことにしたザック。いや、早い所先に進みたいから少しイラついていたのだが、3人の顔が面白かったので…
・
・
「ごち(そうさま!)(でしたぁ~!)」
「はい、お粗末様です。尤も、これはギルド直営宿の厨房で作って貰った弁当ですけどね?」
「あぁ…それは知っている」
「あ、そうなんですね」
「いや、お前がそこで買って来るっていってたんだろが…」
「あれ、そうでしたっけ?」
などと雑談をしてた所、いきなり
「!…何だ!?」
「これは…魔法による攻撃!?」
「ジャイアント系が大岩を投げたのかも…」
「「「それはない!」」」
ジャッカルの暴言?に全否定する面々w
「…何か探索者っぽい人たちが取り囲んでますけど…」
パトリシアの言葉に小さいガラス窓に詰め寄る4人。
「ちょお!顔面潰れるから押すな!」
「リーダー!あんた頭でかいんだから横から見なさいよ!」
「はぁ…俺は反対側見て来るわ…」
「ザックくん、見える?抱っこしようか?」
「あ、いえ…僕は探知で外の様子がわかりますから…まぁ何が何体居るかってくらいですけどね」
「「「え…!?」」」
ザックの一言に凍り付くマシュウら4人。尚、マシュウは一般的な職業でいえば戦士となる。少しだけ斥候のスキルを覚えており、後方警戒が可能なのはそのスキルの恩恵だ。ジュンは狩人に当たる。後衛火力となるが精密射撃ができるだけで探索系スキルは取得してないので戦闘シーンか不意打ち攻撃くらいにしか役に立たない。ジャッカルは遊撃手だ。敵のかく乱が主な役割で足でかき回す、散発的に攻撃して攻撃先を固定させないなど、後衛に攻撃の矛先が向かないようにとヘイト管理も担当する。盾役が存在しないこのパーティでの重要な存在ともいえる(マシュウは戦士だが前衛火力なので盾役には向かない)パトリシアは珍しい吟遊詩人という職業だ。楽器を持ち、歌でバフ・デバフスキルを操る。バフは味方の強化。デバフは敵の弱体化を司るが、効果発生まで時間が掛かる上に楽器の音や歌はその性質上、ダンジョンの中ではリンク(敵を引き付けてしまう)を引き起こしかねない。現状では先に敵を発見した後に楽器の音や声が届かない場所まで引いてから味方にバフを掛けてから突っ込む…といった使い方しかできていなかった。それでもパトリシアが仲間から追い出されずに済んでいるのは「癒しの歌」のお陰だろう…それは聞いた者に体力回復と傷を塞ぐ効果をもたらすのだ。その効果は熟練度次第だが、浅い傷なら十分に効果があり戦闘で疲弊した者たちの体力を回復する為に(失礼な物言いだが)パット薬として重宝されていた…つまり、離れた敵の索敵能力に欠けるチームということでザックは現状、マシュウたちが一番欲しい能力を所持する人材だったという訳だw
「「「ザックくん!良ければ正式に我がチームに入る気は無いか!?」」」
「あの…それより外の対処を先にした方がいいんじゃないですか?」
詰め寄って来たパトリシア以外の3人に冷たく返すザック。
「あ、いや…そうだな。敵?…は何人…それとも何体か?…居るかな?」
マシュウの問いに、少し考えるように
「外に居るのは人…みたいですね。マシュウさんたちと同じかもう少し体格が大きいみたいですが。魔物の人型なら武器は持っていてもせいぜい粗末なこん棒くらいでしょうし」
第一、ゴブリンやコボルドならザックと同じかもう少し小さいだろう。ここはまだ第3階層なのでそれより大型の魔物といえばオークくらいだろうか?…それならば太った体格だと聞いていたので、それとは違うと確認できている。
「探索者なら、何で攻撃して…あれは!?」
「どうした、ジュン」
ガラス窓を覗き見れば、
「ま…またウルフの大群よ!…一体、この第3階層では何が起こっているの…」
ぺたんと女の子座りでへたり込むジュン。流石に漏らしてはいないが肩が震えているのが見て取れる。
「え…あ、本当だ。今朝、集まって来てた分は殲滅したのに。まだ居たんですね…」
しょうがないなと、はぁと溜息を吐いたザックはドアを
- ザック無双…ウルフたちを喰らい尽くす! -
「はぁ…
巾着袋に仕舞い込んでいる予備のダガーを取り出す。流石に左腕のバックラーを装備していては余り大きな剣は使い勝手が悪い為、サブウェポンとして
「
双方の刃に風を纏わり付かせると、ザックは文字通り風になった!…本当に風になったのではなく、事前に
・
・
「はぁ、疲れた」
多数のウルフを殲滅し終えたザックは
「ちょっと疲れたので寝ます。ドロップ品の方、お願いしますね?」
草原の草が邪魔で見落としもあるかもとついでに除草し終えていた為、地面が見えていてドロップ品を集めるには苦労しないが…
「あ~…一旦バックパックの中身、小屋に置いて来るか…」
マシュウがいうと全員が頷いて、
「あれ?これ…」
テーブルの上に紙が置かれていた。
ドロップ品収集にはこれを使って下さい。
見た目は普通の紐付き手提げ袋ですが内容量は拡張してあり、重量軽減も付けてあります。但し、素材が無かったので時間経過遅延の効果はありません。
今回のダンジョン探索往復程度ならこれで事足りると思います。
注意…貸与するだけですので、チームから脱退する時には返却して下さい。でないと、実費を請求しますからね?(転売や譲渡はできないようにしてあります。悪しからずご了承ください)
ザックより
「「「…」」」
パトリシアが4つ置かれていた1つを掴み、物置部屋に焦って早歩きで向かうと中に入っていたドロップ品をどんどん紐付き手提げ袋へと詰めていく。乱雑に置かれていたそれらはどんどん袋の中に入っていき、
「うそ…全部入っちゃった…」
そして、すっくと立ちあがるパトリシア。その左手には袋が握り締められており、傍目には重さを感じさせない所作でマシュウたちの元へ歩いて来る。
「マジか…こいつぁ…本物っていうことか」
「ザックくん、本当にアイテムボックス付きの袋とか持ってたんだぁ…」
「パット、ちとそれ貸してくれ」
マシュウ、ジュンが感動したかのように呟き、ジャッカルがパトリシアの手にした袋を貸せという。パトリシアは「うん」と頷いて手渡すが…
「おお、本当に重さを感じねぇ…いや、袋そのものの重さは感じるがよ?」
ひゅんひゅんと紐に指を引っかけて振り回すが、矢張り山ほど詰めたドロップ品の重量は感じられない。4人分のアイテム袋(普通の唯の革袋で、丈夫なのが取り得なだけの代物。1つ辺り50kgくらいまで、容積にして50リッターの水が入る(入るだけで漏れない保証は無いがw))に半分以上は詰まっていた…単純計算で合計100kg前後のドロップ品が1つの袋に重さを感じさせない状態で収まっている訳だ。それが4つ…
「確かに、これ4つもあれば何処まで潜るかは知らないが…十分事足りるだろう、な」
マシュウはテーブルの上の1つを手に掴み、外へ出て行った。
「そうね…お姉さんに1つ、プレゼントしてくれないかなぁ~…」
悩ましい声を上げつつ、ジュンが袋を手にしてマシュウに続く。
「はぁ~…ま、いいや。こいつは中身入ってるからパット、お前が持っておけ。んで留守番しててくれ。護衛対象が就寝中だからな…ちゃんと任務を全うするんだぞ?」
ジャッカルがパトリシアに袋をぽいっと投げ寄越し、テーブルの上の残りの袋を持ち、「じゃ、行ってくらぁ」といいつつドアを潜り、閉める。
ガチャリ
ドアを施錠する音が鳴り響き、ドアが
「え?」
ザックはベッドで寝たままだ。だが、勝手にドアが閉じられた。
「な、何で?」
このままだとマシュウたちが締め出されたままになると慌てるパトリシア。ドアに走りドアノブを回そうとすると…
ガチャリ
と音が響き、力を入れずともドアノブが回る…
「きゃああっ!?」
思わず開いてしまったドアに圧し掛かったパトリシアは、当然の帰結として外に投げ出され…ドアノブを握ったままなので不格好な体勢で滑り、地面に倒れる…仰向けで!
「ぐえっ!?」
乙女の声とも思えない、カエルを踏んづけたような声を発して倒れたパトリシアは自らの体がドアが閉まる妨げとなっていたが…
「あいたたたた…」
といいながら立ち上がる。途端にドアがドアクローザーも無しに閉まっていく。はっ!と気付いて慌ててドアに飛び付くもののそれは逆効果で…
「ま、待ってぇっ!?」
ドアノブに
ぱたん
と、ドアが完全に閉じてしまい
ガチャリ
と施錠する音が鳴り響くのだった…
「あ゛…、やっ…ちゃっ…た………」
昔からパトリシアは慌てん坊のドジっ子だった。落ち着いて行動すれば普通に何でもこなせるが、慌てると途端に落ち着きが無くなり、いわれた通りにこなせずに失敗する。流石に致命的な失敗は…
「あ~あ…そういえば今朝、やったばかりだったっけ…」
そう、ウルフの巣を発見して静かに撤退しようとしたその時だ。ウルフの大群に身を竦ませた彼女は、全身がブルってしまい…足をもつらせて転倒してしまい…見つかってしまう主原因となってしまったのだ。この第3階層はそのウルフたちが根城としている場と繋がっている草原だ。距離的にはかなり離れているが心の何処かで怯えている彼女は、矢張り冷静さを失っているのだろう。マシュウたちは…ジャッカルはそれを察して留守を任せたのだが…
「ジャッカルさん…わたし、ダメですね…またドジっちゃいました…」
自動で
※成人してから2年目のパトリシアさんは現代日本なら花の17歳ですが…この世界では後3年で行き遅れちょい前になる、結婚を目指すなら少し急いで相方を探した方がいいといわれる年齢でもあります(地方にも依る)…なので、人に依っては「女の子」と自称すると笑われる可能性はあります(苦笑)
・
・
パトリシアがそんな状況に陥ってるとは露知らず、マシュウたちは急いでドロップ品を集めてひた走っていた。別に慌てなくても1日以内に拾い切れば問題は無いとはいえ、急ぐ理由はある…それは
「急ぐぞ…ウルフたちは暫くは近寄ろうとは思わないが」
「あぁ…最初に小屋を攻撃してきてた連中だな?」
「非常識よね。魔法?で攻撃してくるなんて…」
そう。最初に小屋を攻撃していたのが、同種族と思われる人間…つまり、探索者というご同業がしでかした可能性が高い。そして、こんな場所を見つかれば…
「全く…どんな意図があってか知らないが、恐らく見つかればまた攻撃してくる可能性があるんだよな…ったく」
仮にウルフたちに襲われて逃げ込もうとしてドアが開かなかったという可能性も考えられるが、魔法で攻撃して爆破してしまっては中に入れるとしても…それはウルフたちも中に侵入可能ということを想定できなかったのか…
「まぁ…あの時の私たちも似たような状況だったけど」
「そうだな…魔法という攻撃手段を持ってなかっただけでな…」
あはは、と苦笑いを浮かべる3人。今、此処に居ないパトリシアが必死にドアに齧り付いて開けて貰えたというだけで…
「そういえば、だが…」
「何だ?」
「ここから諦めて逃げてった探索者らしい連中。第2階層へ逃げてったんだろう?」
「多分な…」
マシュウとジャッカルが話題を変えて話し合っている。ジュンが「はっ!?」と気付く。
「追いかけてったウルフたち…ひょっとして、こっちに戻って…来る?」
追跡して行き、第2階層へと続く階段に逃げ込まれ、いつまでも出て来ない獲物を諦めて人工物である小屋へと戻るとすれば…走らずに歩いて来るとすれば…
「丁度いい頃合いってか?」
ジャッカルがいうと、
「あぁ、そういうことだな」
と、2人の肩をぽんと軽く叩き…
「「わかった」」
何もいわずともリーダーの指示に従うジャッカルとジュン。3人はゆっくりとその場を離れ始め、最後には全力での疾走を開始する。
━━━━━━━━━━━━━━━
そして
備考:
探索者ギルド預け入れ金
金貨250枚、銅貨1617枚(変化なし)
ストレージ内のお金
金貨173枚、銀貨70枚、銅貨1815枚(変化なし)
財布内のお金:
金貨1枚、銀貨20枚、銅貨55枚(変化なし)
今回の買い物(支出金):
なし
ザックの探索者ランク:
ランクC(変化なし)
本日の収穫:
※拾った分のドロップ品が未確認の為、不明
チームの共有資金:
※仮加入したてで教えて貰ってないので不明(個々の個人資産は記入しない予定…面倒だしw)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます