14 その14
第3階層で疲労回復の名目で休憩するザック。殲滅したウルフのドロップ品回収に外に出て行くマシュウたち3人。寝ているザックを護衛の目的で留守番を頼まれたパトリシアはうっかり
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- ドロップ品回収再び -
「じゃあ面倒だろうけど宜しくね」
「あ、あぁ…さっきの群れでこのエリアの殆どを殲滅しただろうし…大丈夫だ」
ザックがドロップ品の回収を頼み、マシュウがそれに応じる。戦闘はザック本人と彼が生成したクレイゴーレムが担当した訳だ。ほぼ何もしてない「
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・
暫くしてザックの元に4人が戻ってくる。全員、貸与したアイテムボックス機能付きの紐付き手提げ袋を…
「あれ?パトリシアさんの分は?」
見ればパトリシアだけ手ぶらだ。勿論胸に手を当てている訳ではない。
「あ~…パットの分は物置の中だ」
指差された方を見ると、成程…物置として作った狭い部屋の中に転がっていた。
「最初に集めた分を突っ込んであるんでな。念の為(溢れる可能性を考慮して)置いてたんだ」
「…わかりました。でも気にしなくてもいいですよ?」
実はアイテムボックスとは仮の姿…その実態は、各袋の中身をストレージとリンクしただけの「アイテムボックスに擬装したストレージの端末袋」なのだから!
【ストレージ(ザック)ステータス】
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耐久値:9,916 / 10,000
残魔力:9,923 / 10,000
収納量:
(数量)1,412 / 1000M
(重量)26.157t / 100Mt
※単体の容積・重量が小さく、総量が重い物は重量で表現されます
※水や砂などが該当。出し入れする時は容積か重量を指定して下さい
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久々に見るストレージのステータス画面だ。現わしている数値が大雑把過ぎて余り参照してないが…
(重量と収納数が増えてるけど、まさに「微々たる数値」だよね、これ…)
下手をすると国家規模の倉庫でも全部収納できそうな最大数にクラっときそうだ…けど、何てことはないと装って、
「今どれくらい入れてるか知らないけど、多分まだまだ入ると思いますよ?」
と、断言するザック。
「おい、ひょっとして…」…とマシュウ。
「あぁ…アイテムボックスの中身まで把握してるんじゃないのか、これ…」…とジャッカル。
「凄い…としか表現できないんだけど。マジにチームに入ってくれないかなぁ?」…と必死そうなジュン。
「そうしたら、私たち手ぶらで行動できるから楽ちんですよね?」…と能天気なパトリシア。
それぞれが楽がしたいが為に(主に女性陣がw)ぼそぼそと話し合うのだが、
「あのぉ~…人の話し、聞いてますか?」
と突っ込むザックの言葉に、
「「「聞いてます!」」」
と、気を付けの恰好で綺麗に横一直線に立つ大人たちだった…軍隊かっ!w
- 取り敢えず出発だ! -
「はぁ…いつ見ても手品みたいよね…」
「…で、俺たちは何処に向かっているんだ?」
マシュウが問うと、
「降りて来た階段通路から反対側の壁を目指しています。要は壁に沿って進んでれば辿り着くって感じですね」
そうザックが答える。
「何でだ?…そりゃ階段は壁にできてるのが今までの通例だがよ…」
ジャッカルが疑問に思い質問する。ジュンとパトリシアも同意なのかうんうんと頷いている。
「ひょっとして、第3階層のど真ん中に階段があると思ってます?」
「ま、まぁ…そういう可能性もあるかもと思わないが…」
実は、もっと下層に行けば此処と同じ開けた空間形状の階層もあったそうだ。そこには階層の真ん中辺りに闘技場めいたボス部屋が設置してあり、倒した後には中央付近に次階層への回り階段が現れたらしい。恐らくはジャッカルはそれと同じかもと思っているようだ。
「でも、此処は
「そうだがな…」
それっきり無言を貫くジャッカルに視線を向けていたザックは、パトリシアの「あれ!」という言葉で前方に視線を戻す。そこには…
「やっぱりありましたね。次階層への下り階段が」
感覚的には丁度第2階層への上り階段から中央を突っ切って反対側となるだろう位置。この円形の第3階層は中央に近付くと森が鬱蒼としており、推測ではあるが討伐困難な森の主っぽい魔物が跋扈していると考えられる。ウルフはその場を守護する下位の存在…尖兵なのだろう。ザックに依ってその半分以上は殲滅させられたと思われるが…
(ダンジョンの先を目指すなら、いつまでも第3階層で足踏みしてる訳にもいかないしなぁ~…先に進むか!)
なんてことを考えているザック。だが、事態は急展開を迎える…
「待てザック。背後からウルフの大群が…」
「え?」
振り返ると、マシュウが鼻の穴を広げてくんかくんかしていた。恐らくは嗅覚を用いた索敵をしているんだろうと思うけど…
「ちょっとマシュウ…」
ジュンが吹き出しそうな笑いを堪えた表情で突っ込む。
「リーダー、その顔してこっち見ないで!」
パトリシアは既に笑っていた!
「お、おいマシュウ…マジにウルフたちが?」
ジャッカルも口に手を当てて笑いを堪えながら問うが既に目尻に涙を湛えており、笑いを我慢し切れてないことが伺えていた…
「くっ…しょうがねーだろ。前世だか前々世だか知らないが獣人だったらしいんだからよ…」
それって先祖の話しじゃないのか?…と思いつつ、ザックも探知を発動する。
「…確かに結構な数のウルフらしいのが迫ってますね」
階段まではまだ結構な距離がある。今から走って行っても間に合うか…ザックだけなら恐らくは間に合うだろう。だが…
(4人に
自身に対してなら数秒で済むが、他人に対しては本人に確認しながら調整する為に少なくとも1人当たり1分くらいは余裕で掛かってしまう。4分も掛けていたら囲まれて蹂躙されるのは確実だろう。自身に掛ける場合も微調整は必須なのだが、ザックに関しては日常的に行使していた為に殆ど調整は不要なのだ。
「仕方ないか…迎撃するから、まずはあそこへ移動します!」
指差した先は…壁だ。階層をぐるっと囲っている先が見通せない岸壁…もとい、岩壁だ。その先は空へと続いていると思われるが、此処がダンジョンの中ということは本当の空ではなく疑似的に空に見せているだけの天井か何かなのだろう。それこそ幻像などの…
・
・
「着いたぞ!」
「これからどうしたら…?」
マシュウとジュンが問い、ジャッカルは途中で疲弊したパトリシアを担いで走ったのでぜいぜいと激しく息急き切っており、返事は無理そうだ。抱えられていたパトリシアも息が荒く、まだ言葉を発することは無理に見えた。
ザックは何も言わずに
「取り敢えず中へ入ってて下さい」
有無を言わさず指示を下し、「だがな…」と反論し掛けたマシュウを視線だけで黙らせて全員を中へ避難させる。
「さて…と」
地面に手を当てて防衛用の砲撃ゴーレムを創造する。1辺は岩壁を背にしている為に3辺に設置するだけでいい。だから4体分余裕ができた訳だが…
「牽制用小土塊射撃クレイゴーレム創造!」
腕が細く、肩から3本づつ細い腕を生やした6本腕のクレイゴーレムが4体。横に1体づつ、正面に2体新たに生えてくる。目的は銃弾程度の大きさの土塊をばら撒いて足止め牽制用だ。足を止めたウルフは土塊砲撃用のクレイゴーレムのいい的となる。
「よし、頼んだぞ!」
そういうと、ゴーレムたちは声にならぬ声を上げて応じ、まるで「任せてくれ、マスター!」と叫んでいるようでもある。頷いたザックは
「じゃ、緊急時に備えて英気を養いましょう!」
と、お茶の入った大瓶を取り出してパトリシアに配るのを頼むのだった…
- あれから3時間後… -
「段々散発的になってきましたけど…」
30分毎に襲撃があり、その合間にゴーレムのメンテを行ったり小休憩をするザック。他の面子といえば
「まだ終わらないのかね…」
「まだ、だな…」
ザックが疲労を重ねた顔でうんざりしているとジャッカルが同意したように返し、獣の嗅覚(と結局本人が恥じらいながらスキル名をバラしましたw)を用いたマシュウが断言する。
「それよりさ…何か寒気がするんだけど?」
「はいぃ~…ひぃ」
女性陣が生存本能めいた危機感を感じたのかガクブルしている。
(これって、まさか…第3階層の主が?)
探知するとウルフの物とは思えない程の大きな存在が接近中と警告を発している。ウルフたちは動いてないことから…
「今が好機かも…。皆さん、急いで外へ!」
「え、何でだ?」
「説明してる暇はありません。なるべく身を軽くして下さい!」
ザックがいきなり叫び、外へ出ろといいだしたことに疑問を感じるマシュウたちだが…」
「
5人に纏めて掛けると、いの一番にザックがドアを開けて飛び出して周囲を見回している。4人が順次出て来たことを確認したザックは
「階段通路に急いで!」
第4階層へと続く下り階段へ走れ!と叫んでザックが走り出す。4人も慌てて後を追うがその時、背後から音の暴力が襲ってきた…
があああっっっ!!!
心臓を鷲掴みにする恐怖が襲って来た…
ザックは物ともしないで走るが、後ろの4人は恐怖に足を止めてしまう。
「ひぅ…」
パトリシアに至っては、その場に崩れ落ちて頭を抱えてしまった。心が折れてしまったかのように…
「マジか…こりゃあ…」
マシュウが片膝を着いてカタカタと震えている。
「…10階層の、奴、じゃ、ないの、か?」
ジャッカルが奴といって震えている。このチームは第10階層まで辿り着いたのだろうか?
「む、り…も、う…」
ジュンが泣いている。両膝から崩れ落ちて、頭を抱えて嗚咽を吐いている。
(そういえば第10階層で高レベルの探索者が全滅した代わりに生還した中堅レベルのチームが居たって聞いたけど…)
そこまで記憶を片隅を突いていたザックの耳朶を打つ魔物の叫び声が響く。
があああっっっ!!!
仕方ないなとザックは自身に
「
滅多に行使しない
(…間に合ってくれ!)
ロケットダッシュで走り出したその場に上空からのスタンプ攻撃が舞い降り、
ずずぅぅぅうううんんんっっっ!!!
と轟音と共に粉塵が舞い散った!
(ひゅう…やばいやばい…後1秒遅れていたら…)
そう思うと背筋に冷や汗が流れてしまうザック。仮に直撃すれば全身が飛び散った肉片と化して地面の染みに。直撃せずとも、瀕死となるか一撃死確実なダメージを負うこと間違いないだろう攻撃だ。迎撃用にと置いておいたクレイゴーレムたちは離れていた場所にあったにも関わらず、全部が消し飛んでいて役に立ってないのがいい証拠だ。仮に頑丈なストーンゴーレムだったとしても、果たして反撃できる状態を保っていたかどうかも怪しい…
(第10階層のボス…といっていたジャッカルの言葉が正しいなら、今の僕たちじゃ絶対に敵わない…。ここは逃げの一手と…)
可能ならば、地上に戻ってギルドに報告しなければならない。ダンジョンの異変などの報告は探索者の義務であり、ダンジョン探索者全員の安全確保でもある。そしてダンジョンの管理を司る探索者ギルドはスタンピードを防ぐ役割を持っており、ダンジョンの異変をいち早く察知せねばならない。
「まっ…にっ…あっ…えぇ~!!!」
再びジャンプする第10階層ボスらしき影。4人を担いで疾走していたザックは、目の前に第4層への階段を目前にしており…
(ちぃぃ…これじゃ間に合わない!)
仕方なく、4人に
「「「ぎゃああ~~~!?」」」
まだ意識の残っていた4人は恥も外聞もなく泣き叫び…階段通路へと放り込まれたのだった。そして…
「あっはっは…こりゃあヤバいかも?」
思考制御で4人のアイテムボックスに向こう数日間必要な水と食料、そして各人の装備と今回のドロップ品の一部を転送しておき、リンクを切る。これで小容量のアイテムボックスとして機能するようになった各人の紐付き手提げ袋だが…
(僕が居なくなっても、これなら何とか生きていけるでしょ…)
ドロップ品は軽くて小さくて高額で売れそうな物をチョイスしておいたので数箇月くらいなら何もしなくても問題無く生活できると思う。まぁ、この危機を脱すことができればって前提だけど…。ストレージからポーションを取り出して飲み干す。体力が減ってたのでスタミナ回復ポーションだ。
(さて、と…これからどうしようかな…)
目前の大きな獣…よくよく見ると、伝説のフェンリルに見えるこの魔物だが…
(どう見ても真っ黒なんだけど、汚れてるだけのフェンリル?)
氷雪を司っているともいわれるフェンリルは、元は真っ白のモフモフな魔物だという…
「若しかすると、綺麗にすれば仲良くできたり…はしないよね?」
イラついてる目前の魔物は三度唸りを、咆哮を上げて自身の周囲に発生させた衝撃波でザックを吹き飛ばすのだった…
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伝説上の魔獣、フェンリルっぽい真っ黒なモフモフが現れた!…目前のザックの命は風前の灯火!…「
備考:
探索者ギルド預け入れ金
金貨250枚、銅貨1617枚(変化なし)
ストレージ内のお金
金貨173枚、銀貨70枚、銅貨1815枚(変化なし)
財布内のお金:
金貨1枚、銀貨20枚、銅貨55枚(変化なし)
今回の買い物(支出金):
なし
ザックの探索者ランク:
ランクC(変化なし)
本日の収穫:
※拾った分のドロップ品が未確認の為、不明(追加分はまだアイテムボックス付き袋の中なので不明)
チームの共有資金:
※仮加入したてで教えて貰ってないので不明(個々の個人資産は記入しない予定…面倒だしw)
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