05 その5

金に目が眩んだ探索者チーム3つが上層へと走った後、ザックは溜息を1つ吐いて第3階層を探索しようと階段区画から第3階層へと戻ろうとした。だが、巨大な足音が響き渡り、ついには黒い壁が出口に現れ、階段を逆流して第2階層へと追いやられるのだった…。ザックは報告案件だろうとギルドに戻ることにした。依頼の期限まで6日と半日程。このままでは間に合わないのではないか?…と思ったのだが、第3階層で起きたことを報告すると、その報酬として魂魄草10本を渡される。「こんなあっさりと…」とは思ったものの、依頼主にとってもいいことじゃないかと思い直し、受付で依頼完了の報告を行う。だが、依頼完了の報酬と共に渡される感謝の手紙。宿に戻ってから確認した所、その手紙の宛主は何と…ザックだったのだ!…手紙の痛み具合からしてその場で書いて手渡した可能性は低い。どう見ても1年近くは経過したような感じだったのだ(買ったばかりのレターセットが既に痛んでいた可能性も無くはないが、書かれた文字に空気中の水分が浸透して僅かに滲んだ状態を見るに、それ相応の時間が経過していると思われた)そして決定的なことに、ザックの元へ客が現れる。名をマリア(愛称)といい、マウンテリバーの領主の関係者らしい。領主本人か娘か、領主婦人かは明かされてないが見た目の年齢を見るに恐らくは娘だろうと考え、それ相応の対応をしなくては…と思ったが安宿住まいのザックにそんなことはできる筈も無く。そして時刻は夕暮れを過ぎ、魂魄草はマリアを送って来た馬車に乗せて先に送り届けるようにと既にマウンテリバーには居ないという。マリアには安宿に泊まらせる訳にはいかず、別の真っ当な宿に泊まって貰うこととし明日領主邸に戻らせることになるが、何故かザックが護衛でいくことに。果たして、ザックに護衛任務が務まるのだろうか…

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- 翌日 -


こんこん


「お早うございます!」


こんこここん!


元気なノック音にむくりと毛布から顔を出すと、窓の外はとうに明るくなっていたが…


「うわぁ…鍛錬の時間より早え…」


やや暗めの空模様に…いや、晴れてはいるが、まだ朝日が昇ってからそんなに時間が経過してないっていうか…がっくりくるザック。


こここんここんここん!


「ザックくぅ~ん!朝ですよ~!まだ寝てるんですかぁ~?」


(朝からテンション高いなぁ…え…と、マリアさんだったっけ?)


などと思いながら、寒くて震える肩を擦りつつ、ザックはベッドから起きざるを得なかったのだった…



「お早うございます…」


ようやく着替えをして、ボサボサの頭をピュアウォーター純水でとかしてドライで乾かして固めてからドアを開けるザック。ドアの外には、待ちくたびれた!…と少々不機嫌な様子のマリアが立っていた。


「遅いですよ?私、もうすっかり出発の準備万端なのですが!?」


「えっと…」


確かに護衛の依頼を押し付けられたけど、時間は決められてなかった筈。そもそも。朝食もまだ食べてないし、護衛の条件や成功報酬、何処に向かうか…そりゃ領主の家というのはわかり切っているが、何処にあるかすらも知らされてないし、何日くらい掛かるかも知らされていない…など、色々情報不足なのだ。


「あ、そうそう。これ、探索者ギルド?…のギルド長から預かってるの。読んでおいてねって」


ぴらっと手紙を渡されるザック。そこにはこんな内容が記されていた…



【マウンテリバー領主の娘の護衛依頼】

------------------

◎マリアンヌ=フォーチューヌを領主邸まで護送せよ

◎馬車は既にチャーター手配済み(4人乗り)

◎基本的に馬車に乗って領主の娘の話し相手をしていれば構わない。いざという時は、外部に配した別途雇った護衛の冒険者に相手をさせる。もし、馬車まで害意が及んだ時、ザックが娘を死守すること

◎領主邸まで通常ならば馬車で3日の道のりとなる

◎報酬は領主邸で受け取ること。探索者ギルドとしては特に決めてないが、それなりの報酬を得られることは保証しよう(業務の管轄外なので報酬額の決定権がないというのもある)

◎帰りは同じチャーターした馬車を利用するもよし、徒歩でゆっくり帰って来ても構わない(但し、チャーター料は片道だけなので自腹となる)

------------------



「はぁ…」


何とも世知辛い内容だった…主に最後の文章が。


「何て書いてあったの?」


ザックは無言で手紙を渡すとマリアは受け取って読み始める。


「ふんふん…えぇ~…冒険者の人が来るの?…う~ん…でも馬車に入ってくるんじゃなきゃいいかな…」


流石に御者とザックの3人だけでは不安とみてか妥協するようだ。来る時は御者とマリアの2人だけではなく、他に領主邸で雇っている私兵が4人が随行していたのだから。


「では、朝ごはんを食べてから…でいいですか?」


「ええ、勿論。私もまだですので!」


といった途端に、元気にお腹が鳴りだすマリア。そして顔を真っ赤にして、


「しっ…知りません!」


と、叫んで駆け出すのだった…若いっていいなぁ…はっ



- 馬車に乗って、いざ出陣!(何処に行くんだ、何処に!) -


「あ…此処ですね」


「そのようですね」


ザックとマリアは安宿の食堂で食事を終えてから、手紙に記してあった馬車停へと向かう予定だ。そこにチャーターした馬車と雇い入れた冒険者が待っていると記してあったからだ。時間は朝飯を食べて、暫く経ってから出手も間に合う程度には余裕があり、出立の準備をしていなかったザックは自室へ戻って慌てて準備をしたのだった。


(昼過ぎくらいに出るつもりだったからなぁ…まさか朝食べてすぐ出るとか聞いてないよぉ…)


何て愚痴を零しつつ、ザックは準備を終えた。往復1週間くらいなら大して持って行く物も無い。


(着替えが数着に、いざという時の為に保存食…は、ダンジョンアタック用に購入した物でいいか。1食だけは買っておいて食べてない弁当で済ませばいいだろうし、他にはストレージに放り込んである物で十分…あ、解毒薬はどうしよう?…ギルド内の道具屋で補充すればいっか…)


ぶつぶつと呟きながら道具屋を経由して解毒薬を補充するザック(4つ購入して銅貨16枚を支払…と思ったら1枚しか無かったので銀貨1枚と銅貨1枚を支払い、お釣り銅貨75枚を受け取る)また、食堂に出向き人数分の弁当を買うことにする。せめて、最初の1日くらいは…と思った訳だが。弁当7人分で銅貨6枚を支払った(一気に7人分のご購入ってことで、1食分サービスとなった模様…多分、多過ぎる練習用ハーブの1件もあってのサービスだろう)弁当7人前を大き目の木箱に詰めてストレージに仕舞う。流石にアイテムボックスの巾着袋にも肩掛けバッグにも大き過ぎて入らない為だ。解毒薬は1つづつ巾着袋に入れてある。


(さてっと…弁当は後で食べる時に1つづつ出して手渡せばいいかな。冒険者パーティの分は出発前にリーダーさんに押し付けておけばいっか…)


ザックは待たせたマリアに謝罪し、2人で馬車停を目指す。此処安宿から凡そ10分で目的地へ着くと既に冒険者たちが待機しており、チャーターした馬車もそこに在った。



「お待たせしたでしょうか…初めましてザックといいます。今日から3日の予定ですが宜しくお願いします」


ぺこりと頭を下げて挨拶をするザック。何事も最初が肝心という訳だが…


「おお、こりゃご丁寧に。俺たちは「疾風のドレッド」ってパーティだ。リーダーはこの俺、ドレッドで壁役を受け持っている」


「副リーダーのアイシャ。斥候をやってるわ…」


「遊撃をやってるゴウンだ。近接アタッカーも兼任してるんだがな」


「後方支援と火力担当のサンジャだ。回復魔法の使い手が不足しているんでな。なるべく怪我しないでくれよ?」


流れ的に自己紹介タイムの模様だ。名前だけいうのも何なので、仕方なくザックも自己紹介を行うことにした。


「先ほどは名前だけで申し訳ありません。名前はザックです。探索者をやらせて貰っています。ランクはCになったばかりです。いつもはソロで活動しているので特にポジションとかは無いのですが…強いていえば常時前衛、ですかね…」


あはは…と、力無く笑うザック。


「あ、後、生活魔法が使えます。皆さん、飲料水とか不足していても水を出せるので、不足したらいって下さい」


取り敢えずいえる範囲で話し終え、続いてマリアが口を開く。


「マリアンヌ=フォーチューヌです。領主邸までの護衛、宜しくお願い致します」


と簡単に自己紹介をしてぺこりと軽く頭を下げ、口を噤む。


(え…それだけ?)


とはいえ、冒険者ギルドでそれなりに説明を受けているだろうし、それだけでいいのかも知れないが…


「じゃ、じゃあマリアさんは馬車に乗り込んで待っていて貰えますか?」


こくりと頷いたマリアがそそくさと馬車へ乗り込んで行った。そこに人足が数名現れ、荷物をどさどさと置いてから近寄って来た。


「え…と?」


ザックが何だろうと思ってそちらを振り向くと、


「あ~、君がザックかい?」


と、リーダーらしい人足が訊いて来るので頷くと、


「この荷物、マリアンヌ=フォーチューヌさまの手荷物だ。領主邸に帰るにあたって必要な荷だそうだ。受取人のマリアンヌさまは?」


「そこの馬車に乗ってますけど…」


人足が一瞥すると、


「わかった。じゃあ後は宜しくな」


と、ひとまとめに荷物を置いた人足たちは帰って行く。


「ああ、忘れていた。受領サインをお願いします」


「え?…僕、フォーチューヌ家のサインなんて知りませんが…」


「あぁ、大丈夫ですよ。護衛の方なのでしょう?」


「えぇ、まぁ…」


受領証とペンを渡される。仕方なく自分の名前を書き込み、半券として下半分を切り取られて渡される。サインは上下2箇所に書き込んで、両方に同じ内容が書かれた状態となっている。これで、後で問題があった時に照合されて確認したりするらしい。


「では、これで…」


リーダー人足さんが去って行くと、冒険者パーティの面々が集まってくる。


「これ、依頼主の荷かい?」


「えぇ、そうらしいです」


本人に確認してないので一旦確認を取ってくるというと、ドレッドが


「わかった。取り敢えず盗まれないように荷物の護衛をしておくさ」


といってくれたので、


「宜しくお願いします」


といってマリアの元へ走るザック。他の3人は


「大変だねぇ…」


「そうね」


「じゃ、ちょっくらお姫さまの荷の護衛といきますか!」


と、4人で適当に立って周囲の監視を始めるのだった…



「え…荷物ですか?」


「えぇ…ついさっき、人足さんたちが運んで来たんですが。頼んだんじゃないですか?」


「あ~…そういえば。すっかり忘れてた!」


(おいおい…勘弁してよ…。まぁ、女性が3日も着た切り雀とか、食べ物も食べないで飲む物も飲まないでとか、耐え切れないか…生きてるんだしね)


少なくとも着た切り雀は耐えられるとしても、飲まず食わず出さずとはいかない。あの量からして1回分は着替えがあるだろうし、食料や水は最低限の3日分はあるだろう。


「わかりました。では、馬車の荷台に運ぶように手配します。一応、冒険者さんたちの準備も確認して、不足があれば今の内に揃えるようにいっておきますね」


「え、あ、はい…宜しくお願いします」


ザックの滑らかな対応に戸惑いを覚えたマリアだが、丸投げという形で済ましてしまう。


(何なのあの子…同年代か年下と思ってたのだけど…)


とてもそうは思えない…そう感じたマリアだった。



「ドレッドさん!」


「おう、どうだった?」


「マリアお嬢様の荷だそうです」


「そうか」


「それで、申し訳ないのですが…」


「あぁ、わかってる。ただな…中身を見て何処に積んだらいいか確認したいんだが…」


「わかってます。中身を潰したら不味い物が入っているか、ですよね?女性のアイシャさんに確認をお願いして貰ってもいいですか?…着替えなんかも入っている可能性が高いので」


「おお、そうだな。アイシャ!」


「わかった。中身の選別でしょ?」


「あぁ、頼まれてくれるか」


「はいはい…」


…という訳で、荷物の中身を確認し、着替えなどはキャビンで一旦包みを解いて内部の荷物入れに入れるそうだ。アイシャさんにそちらの作業を任せ、残りは予想通り食料、水、野営時に使う幾つかの道具が入っていた。


「テントなんかは野営時に使うからすぐ取り出せる位置に。他は潰れそうなのを上に、そうでないものは下に…そうそう」


ドレッドさんの指示に全員で動いて荷台に荷物を設置して落ちないように縛って行く。僕は体重が軽いのもあり、キャビンの天井…荷台に乗って、下から渡される荷物を設置し、縛る役を与えられて…まぁロープを縛っても非力に見えるので、後できっちり縛り直しされたんだけどね…あはは…はぁ。そんなこんなで20分くらい後に出発できるようになった。御者さん?…最初から最後まで御者席で横になってたよ…まぁ、そんなに体力ありそうに見えなかったし3日もの間、1人で御者をするからい~んだけどね…



- さぁ出発だ -


「お疲れさん」


「いえ、出発前から余計…ではないですが、契約内容とは違う仕事にお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした…」


そしてぺこりと頭を下げるザック。そんなザックを見て、4人は感心したような物珍しい物を見たような顔をしている。


「お前さ…あぁ、ザックくんだったか…あのお嬢様の従者か何かか?」


「え?…まぁ、雇われ護衛ですかね。さっきもいった通り、本業は探索者ですよ?」


「本当に?…何処かで礼儀作法とか習ったりしてない?」


「え?…まぁ、色々とこの町で見聞きしてますから齧った程度には…その、あはは…」


何か変な振る舞いをしてたかな?…と困惑するザック。


「…ま、いいや。急いで出るとしよう。折角朝早く出る予定だったのに、遅くなっちまうわ」


「「「了解」」」


ドレッドの鶴の一声に、パーティメンバーは応じながら頷く。早めに動き出せば急ぐ旅ではないがゆっくりと歩くことができるし、野営地まで早めに着くことも可能だ。街道として整備はされているが道を外れると深い森が続くこともあり、暗い夜道を進むには向かないのだ。


「じゃ、僕はキャビンに入ってますね」


「え、何で?」


「何でって…道中の話し相手になるって、仕事の内容になってますんで」


「「「狡い…」」」


「狡いといわれても…それに、馬車まで何者かが襲って来た時の最後の防波堤にならなくちゃいけませんし…」


「あぁ、成程な」


ザックの悲壮そうな表情に納得したドレッドたち。「頑張れよ」と声を投げ掛けて、その後ろ姿を眺め、馬車が動き出した時点で歩き出すのだった…。尚、ドレッドたちに忘れ物が無いか確認した所、「特にない」「既に準備万端だ」とのこと。流石歴戦の猛者っぽい冒険者パーティだといえよう!


━━━━━━━━━━━━━━━

ザック「あ…弁当配布忘れた!」

マリア「え…あぁ、お優しいのですね。ザックくんは!」

※という訳で、最初の休憩地で慌てて馬車から降りたザックは、まず弁当のことをドレッドに伝えるのでした…慌てん坊ザックと揶揄からかわれたのはいうまでもない!w


備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨250枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨23枚、銀貨10枚、銅貨61枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨1枚、銀貨12枚、銅貨69枚

本日の買い物:

 解毒薬×4(銅貨16枚)、弁当×7(1食分サービスで銅貨6枚)

ザックの探索者ランク:

 ランクC(変化なし)

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