04 その4

久しぶりにダンジョンアタック!…ってことで、マウンテリバーの探索者ギルドの建物内で管理しているダンジョンに入ったザック。第1階層は気が付いたらクリアしており、目の前には第2階層への入り口である下り階段が…ということで第2階層へ。途中、他の探索者が戦闘している場所を避けながら探索を進めていくが、妙な男と遭遇する。こちらを魔物と勘違いして弓矢で攻撃してきた探索者らしい男だ。だが、ザックを人間と認識してからも無言の戦闘が続行する。攻撃行動は取っていないが敵対的な意志を持って睨み睨み返していた訳だ。結果的には向こうが折れて別れた訳だが。そして気を取り直して降りた第3階層では他の探索者がたむろしていた。何事かと耳を澄ますと何やら徘徊老人ならず、徘徊ボスが現れているらしい。思うに、ランダムエンカウントする魔物の強化版がうろついているということだろう。そして俄かに騒がしくなる。徘徊している魔物がこちらを見つけて襲って来たと思われるが、目前には人の壁があり、子供のザックが参戦するには肉壁が多過ぎた。ザックは騒ぎが収まるまで安全地帯である階段まで引き籠る。そして毒を受けた探索者が現れ、解毒薬を提供する為に一部のチームの人間を階段前に導くのだった…

━━━━━━━━━━━━━━━


- 騒動が収まり、第3階層を往こうとしたら… -


(あ~あ…行っちゃったよ…)


ま、嘘を吐いたけど金儲けと勘違いして行くのは事故責任だ…いや自己か?他人の言葉を鵜呑みにしないで真贋を見極めることも必要だとじっちゃ…いや、あの食堂で偉そうな爺さんもいってたし、僕は悪くないよね?


(…よし!)


騙された?側としては納得のいかない言い訳をしたザックは、再び第3階層へと歩き出すのだった…



「う~ん…居なくなったね…」


さっきまで結構な人数が居た第3階層の階段前は、第2階層へ行ってしまった3チームを差し引いてもそこそこの人数が居た筈だが既に1人も残っておらず、遠くから何かの音が僅かに聞こえるのみとなっていた。


「徘徊ボスってのが居て危険っていってたけど、大丈夫なのかな?」


耳を澄ませば、僅かに空気が振動している気がする。恐らくはあれが徘徊ボスの足音なのだろう…


「ていうか、遠くに居たら聞こえて来ないよね…足音なんて」


ずずぅぅぅん………ずずぅぅぅん………


(ん?…何か音が近付いてる?)


ずずぅぅぅん………ずずぅぅぅん………


(んん?…振動が伝わって来たような?)


ずずぅぅぅん………ずずぅぅぅん………


「ちょっ!?」


やや、ぐらぐらとしだす床。視界も揺れ出してきた!


「やばいやばいやばい!」


僕は慌てて階段にダッシュした…そして、


どんっ!!!


「おわっ!?」


つんのめってこけた!…が、体は全身が階段への通路に収まっており、そのまま勢い余って階段まで転がってぶつかった!


「痛ててて…って、え?」


ふと、振り向くと。第3階層へ続く道が闇に閉ざされており、恐る恐る近付いて黒1色となった元出口である壁に触れると、


ぺたぺた…


壁に変じていた。


「は?え?…何なの、これ…」


狼狽えてそう呟いていたら、いきなり…いきなり、その壁が突進してきた!


どがぁっ!!!


そして壁は階段を遡り、階段入り口まで伸びて…僕は第2階層まで弾き出されてしまったんだ…



- 第2階層・元第3階層の降り口 -


「痛ててて…何なんだ、一体…」


弾き出されたといっても、何10メーターも…ではなく、せいぜい1メーターくらいだ。最初に弾かれた時の長さくらい?


「時々隣接階層への階段の位置が変わるのって、これが原因なんだ…」


ギルドで時々報告があった階段の位置が変更された…という現象の正体を知ったザック。依頼の期限までの時間を考えると戻るのは悪手ではあるが、これは報告義務が発生する案件だろう。報告義務がある身としては戻るしかないと諦めて来た道を戻るザックだった。



- 探索者ギルド -


「はぁ…疲れた」


帰り道では殆ど魔物に遭遇しなかったお陰で夕暮れになる前にギルドに辿り着いた。具体的な時間がわからないけどね…


(今度、何処かで時計を見せて貰って模倣した魔道具でも創ろうかな…不便で仕方ないし)


などと考えながらギルドの受付カウンターへど歩く。幸い、それ程並ばなくても受け付けて貰えた。


「あの…報告義務案件についてなんですが…」


そういい報告を始めたら、途中で奥に引っ張られた。


「またこれ~!?」


と叫びつつ、ずるずると…



結局、全てを報告したら特別報酬を貰えることになって、ダンジョンに潜るのが禁止された。まぁ1週間くらいなんだけど…


「それだと、押し付けられた依頼が自動的失敗になるんですが…」


と返すと、依頼の目的は?と訊かれたので、


「魂魄草を10本集めてくるんですが…3日以内に」


と答える。最終期限も1週間で切れるというと、何故か魂魄草10本渡されて報酬品とされるっていう…。受付に持って行って納めてくるといいって…何で塩漬け依頼になってたんだろう…と思ってると、ついさっき引き上げてきた探索者連中が放出した品なんだそうだ…ひょっとしてあの連中だろうか?


「わかりました、有難う御座います」


それだけいって僕は受付に戻ることに。リンシャさんも戻るんですか、そうですか…そう、受付に居たのはリンシャさんだったんだ。



「はい!確かに魂魄草10本の納品を確認しました」


リンシャさんについさっき報酬品として貰った魂魄草をそのままリンシャさんに依頼票と一緒に渡した。そのままサクサクと処理されて報酬の金貨1枚が差し出される。僕は受け取って財布に仕舞うと


「有難う御座いました!」


といってその場を去…ろうとしたんだけど、


「あ、ちょっと待って」


と、リンシャさんに呼び止められる。そして1通の手紙を手渡され、


「後で中を読んでね」


といわれる。なんでも、依頼主からの感謝の気持ちが綴られているらしい。ならばと、


「わかりました。宿に戻ってから読みますね」


と答えて、軽く頭を下げてから宿に戻ることにした…けど、色々と消耗してるので、道具屋で補充してから戻ることにした。



- 宿の自室 -


「ただいまぁ~…といっても誰も居ないんだけどね」


鍵を開けて中に入り、再び鍵をする。そしてベッドに座って寝そべる。


「感謝の気持ちねぇ…」


(何処に住んでいるか知らない依頼主。半年は毎月依頼が完了したか確認しに来てたっていってたっけ…それなのに感謝の手紙を用意するとか…変な話しだよなぁ?)


1年近くも放置されていた塩漬け依頼なのに、まるでクリアを確信してたかのような行動と思える。


「取り敢えず、見てみるかぁ…」


がそごそと手紙の封を解き、中から取り出し、開く。


「………」


中身を読み終え、むくりと体を起こすザック。暫くぼ~っとした後に、手紙を元に戻す。


「嘘でしょ…」


中には感謝の意を示す内容がただ綴られていた。1年近く前に書かれた手紙の筈だ。依頼を請ける者の名前がわかる筈も無い。だが…


「何で、僕だと…」


僕宛の手紙だったのだ!



こんこん…


「ザックくん、お客さまですよ?」


ショックを受けている僕に客が訪れていた。鍵を開けてドアを開けると、そこにサクヤさんと見慣れぬ人が居た。


「えっと…何方どなたですか?」


サクヤさんが下がって居なくなると、その人はぺこりと頭を下げて1歩前へ。そして、


「初めまして。魂魄草の採取依頼をした者です。名は…」



- マウンテリバー領主 -


「初めまして。魂魄草の採取依頼をした者です。名は…」


「ちょっと待って下さい。あの、この手紙を書いた人、ですか?」


いきなり名乗りを上げようとした女性。訊きたいことがあり、手紙を持ち出してまでして、その口上を止めた。


「…えっと…はい。そうですね、凡そ1年前に書いた物ですね。ギルドに預けてあったものと合致しますわ」


(間違いじゃないみたいだ。最初から僕が請けると確信していた?…でも、目の前の女性と僕は面識もないし会ったことすらない…)


などと混乱していると、目の前の女性はクスリと笑い、こう述べた。


「では改めて、初めまして。私は魂魄草採取の依頼主であるマリアンヌ=フォーチューヌです。気軽にマリア、と呼んで下さいね?」


「あ、はい…ザックです」


取り敢えず、いつまでもドアの前で立ち話しも何だからと部屋の中へと招き入れようとしたが、ここはギルド直営の安宿で…要はロクな家具が無い。部屋の中は自分で使い易いようにと家具の配置を変えていて、とても女性の客を招いて持て成す…なんてことは考慮してない訳で…。


「あ、えーと、その…」


家名持ち…ということは何処かの貴族の娘なのだろう。多分。そんな高貴な女性をベッドに座らすとか、安い椅子に座らすとか、どう考えても不敬だろうし…などと考えがぐるぐるしていると、当のマリアからくすくす笑いながら


「大丈夫ですよ?…ギルドの安宿の惨状はよく知ってますので!」


と、ニコニコしながら小さ目の机の前に無造作に置かれている椅子に腰掛けていた。流石にベッドに座ることは避けたようだが…女性自らベッドに座るということは、押し倒されても文句をいえない…なんて聞いたことがあったっけ…などと思考が空転しているザックだった。



「落ち着きましたか?」


「はい、えっと…失礼しました」


取り敢えず、


「水が欲しいなぁ~。喉が渇いたなぁ~」


と要求されて、慌ててコップを取りに行ってよく冷えた純水を生成して戻って来たザック。勿論、洗浄するのも忘れていない。そして、ごくごくと飲み干すマリアを見て満足そうな顔をしてホッと安堵している内に落ち着いたという訳だが…


「さて、依頼の報酬とは別にお礼をしなくてはいけませんね。特に決めてないので本人が欲しい物がいいかな?と思ったので足を運んだ訳ですが」


「はぁ…」


「今、何か欲しい物とかありますか?」


「え…と、ん~…特に無いかな?」


「何でもいいですよ?…金貨1枚では足りないでしょうから、もっと上乗せしますか?それとも、何か別の物でもいいですよ?」


ちなみに、マリアは椅子に座っているがザックは少し距離を置いて立ったままだ。椅子は1脚しかないし、ベッドに座るにしても貴族相手に座るという訳にもいかないだろうとの判断でだ。


「いえ、ですから特にありません。請けたその日に10本全部入手したので苦労はしませんでしたし…」


(報告義務で報告したら貰った物だしなぁ…)


だが、依頼主からすれば期限ギリギリでようやく入手できた待ちに待った魂魄草だ。何を作るのかは知らないが嬉しさではち切れそうなんだろう。


「そういえばアレで何を作るんですか?…ギルドの図書館で調べたらエリクサーって書いてたんですが…」


まさかな、と思いながら訊いてみると、


「え…何でエリクサーと知って…」


ばばっ!っと周囲を見回してマリアの雰囲気が一変する。


「いえ、だからギルドの図書館の本に書いてあったんですが…」


再度同じことをいうと、


「あ…そういうことですか。確かにあそこの本には書いてありますね…」


と、ホッと安堵するマリア。何か不味いことを訊いたんだろうか?…と不安になるが、誰か身内が病気なんだろうなと思い、それ以上は訊かないことにした。


「でも、急いで持ち帰らなくていいんですか?…あれは採取してから3日以内に処方しないとダメって書いてましたが」


「それならばご安心を。既にうちの者に持ち帰らせておりますので」


「そうですか。なら安心です…ねって、あの、マリアさんの帰りの足は!?」


恐らく、馬車か何かでこの町に来ていて、ついでにギルドに寄ったら念願のアイスソードを!…じゃなくて、魂魄草が入っていると聞いて、馬車に積んで早々に帰らせたんだと思うけど、何で残ってるんだろう…と思い、慌てて訊くと、


「大丈夫ですよ?ちゃあんと自分の足で歩いて帰れますので!」


とかいう呑気な娘さんが目の前に居た…いや、もうすぐ日が暮れるんですが?


「あ~、じゃあ、1つお願い聞いて貰えますか?」


「はい、何なりと!」


「ちゃんとした宿に一晩泊ってから、明日お帰り下さい…」


「え?…そんなことでいいんですか?」


「はい、お願いします…」


下手にそのまま帰らせて、途中で追剥おいはぎとか盗賊とか人さらいに遭遇して僕に責任転嫁されるのも嫌だし、何より年頃の娘さんを夜の街道に歩いて帰すのも、ね…。そんなことがバレたらフォーチューヌ家に何されるかわかったもんじゃないってのもある。


「あ…宿泊料とかは足りますか?…いや、どの程度お金を持ってるかわからなので…失礼なことかも知れないですが」


「大丈夫ですよ?…ほら、これだけ持って来ていますので!」


と、懐から取り出した財布を机の上でひっくり返して…


ちーん!じゃらじゃらじゃら…


いや、ちーん!って何だよ。パチンコかっ!?…と、一瞬何だかわからない思考が過ったけど、明らかに財布に入りきれない量の金貨と銀貨がこんもりと…何枚かは勢い余って床に転がってるけど。


「えっと…アイテムボックスですか?」


「アイテムボックスって何かは知りませんが、見た目より沢山入るので便利ですよ、これ。貨幣しか入らないって制限はあるんですけどね!」


と、のたまうマリア。ザックは零れ落ちた金貨銀貨を拾ってマリアの財布に戻しながら溜息を吐く。


「あの…お金は余り雑に扱わない方がいいですよ?…ご両親にいわれたこと、ありませんか?」


「あ、はい…よくいわれます」


机の上のお金も摘まんでは財布に戻しつつ、つい思ったことを呟くと、マリアはそっぽを向きながら静かに答えていた。


(はぁ…常識が余りないお嬢様って所かなぁ…)


どう扱えばいいか困りながら、最後の1枚を財布に戻して閉じてマリアに返すザック。


「確かにこれだけあれば、この町の最高級の宿でも連泊できますね。でも、無駄使いはいけませんよ?」


と、ついおかんみたいな台詞を吐くと、


「うう…こんな子供にもお母さまと同じことを…」


「何か?」


「いえ!…何でもないです…」


と、似たようなことを家でもやり取りしていると思われる台詞が零れる。窓をチラと見ると、夕暮れどころかどんどん暗くなりつつある空に、これから宿を探すとなると苦労しそうだな…とザックは判断し、


「宿の当てとかはありますか?」


とマリアに訊く。マリアは


「う~ん…」


と暫し悩んだ後、


「此処に…「却下!」…否定早っ!?」


と、何処の漫才コンビかっ!?…と思うようなやり取りを経て、結局探索者ギルドの受付まで赴き、相談したのだった。結果、賓客用の客室があるのでそこに泊めることになり、明日、馬車をチャーターしてザックが護衛についてフォーチューヌ家まで護送することとなった。


「え…何で僕が護送?」


「私が依頼しました!」


「冒険者ギルドに行って頼めばいいじゃないですか!」


「だって、あそこの人たち、柄が悪いし臭いですし…」


「まぁ、確かに…」


「その点、ザックくんならいい子ですし臭くないですから!」


「…いや、僕だって汗かけば臭い、ですよ?」


「そんなこと、ありませぇ~ん!」


ちゃんちゃん♪


━━━━━━━━━━━━━━━

何だか、「全国の冒険者に謝れ!」って言われそうな終わり方…はっ!?


備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨250枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨23枚、銀貨10枚、銅貨61枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨1枚、銀貨13枚、銅貨1枚(魂魄草採取の依頼報酬)

本日の買い物:

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクC(変化なし)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る