第2章 成り上がる探索者?

探索者ランクが上がった僕

01 その1

ようやく「サクヤの腕輪」を本人に手渡すことができたザック。暫く様子を見ている限りは問題無く機能しているようで、当人からもこっそりとだが感謝の言葉を頂戴した。唯…ドジっなのは地のようで、時々ドジをしては怒られてはいるようだ。そんな平和な毎日を送っている中、探索者ギルドから呼び出しを喰らうザック。果たして、何が待ち受けているのか…当の本人はよくわからないといった顔で出頭することとなった…

━━━━━━━━━━━━━━━


- 探索者ギルド -


「えっと、呼ばれたんですが…何処へ向かえばいいんでしょうか?」


取り敢えず受付カウンターへと来たザック。受付はリンシャ…でもハンスでもなく、別の受付嬢だ。


「あ…久しぶりですね、ザックさん。わたし、サンディです。覚えてますか?」


マウンテリバーでは珍しい、獣人族の彼女はサンディ。猫耳と猫尻尾だけが獣人族の名残りを残す猫獣人と人間のクォーターである。親は既に他界したというが、父方がハーフの猫獣人で、母方は生粋の人間だという話しだ。帽子かフードで耳を隠し、スカートで尻尾を隠せばまんま人間で通る彼女だが、特に隠す様子も無く、猫耳愛好家の探索者や冒険者のアイドルでもある。故に、畑違いの冒険者や一般人が彼女を見に訪れることも少なくはない、らしい。


「あ、お久しぶりです。あの時はお世話になりました…」


初めて探索者ギルドに訪れた時、偶々空いていた受付に居たのが彼女であり、その時に色々とレクチャーを受け教わったのである。その後はほぼ受付が空いていることがなく、代わりにリンシャの受付カウンターに向かうことが多かった為に疎遠となっていたのだが受けた恩は忘れないザックだった。


「えっと…呼び出しを受けたんでしたね…えっとぉ~…ああ、これこれ」


受付カウンターの向こう側でサンディが何やらごそごそとしているなと思ったら


「あ、今のギルドカード渡してくれないかな?」


と手を差し出された。ザックは首から下げていた探索者の身分とランクを証明するカード、探索者ギルドカードを外すとサンディへと渡す。受け取ったサンディは再びカウンターの向こう…こちらから見えない陰で何か作業をしているようだ。そして、僅かに光ったと思ったら、顔を上げてこちらへとカードを差し出した。それは最低ランクのカードとは違う色合いの物だった。


「ん?…何か色が違うけど、何したの?」


訝し気に手を出して受け取るザック。今までのカードは金属製の名刺サイズくらいのドッグタグといった面持ちのデザインをしており、通常は首から鎖で下げている。魔力を込めれば簡単に鎖から抜き差しできるようになっているけど、魔力が扱えない人は鎖毎首から外せばいいだけだ。色は灰色で泥が付いても水で洗い流せばすぐに元に戻るように表面加工されている。ちなみに最低ランクのFだと真っ白だ。1つ上のE…現在の僕の所属するランクは灰色なんだよね…目立たない上に何で白から灰色になるのか意味がわからないけど、そう決められているからしょうがない…


「えっと…銀色かな?」


銀色といえば聞こえがいいけど、地金色ともいえる。つまり、ギルドカードの素材の金属…多分表面加工されてるけど鉄だよね…その地色だ。「手抜き過ぎない?」…と思ったけど決められてるなら文句をいっても仕方がない。


「ううん、銀じゃなくて鉄を磨き上げた色かな?」


ほら思った通りだ。凝視して見た所、丁寧に磨き上げられてるのか傷1つ見当たらず、鏡のように見える。所謂「鏡面加工」って奴かな?…灰色や白の時は殆ど写った顔が見えなかったから反射しないように非光沢加工していたのかも。


「凄い顔がよく映るんだけど…これ、遠くから反射した光とか見えたら、遠距離射撃職は困るんじゃない?」


と、思いついたデメリットを語ってみたら、


「あはははは…そんなん、見えないようにポケットにでも仕舞っておくか、胸元が空いてない服着て中に仕舞えば済むんじゃ?」


と、笑いながら返された。確かに、その通りだよね…


「で、これはランクDのギルドカードなのかな?」


ちょっとだけぶすっとしながら訊くと、


「あ、そうそう。ザックくん、ランクアップおめでとう!…えっとね、2階級特進の栄誉でランクCになりました~、拍手ぅ~!!」


と、両手をぱちぱちと叩き合わせて拍手するサンディさん。


「え?…僕、殉職してませんけど?」


不穏な驚き方をしていると、


「あはは…それ、洒落になってないし、死んでもランクアップはしないよ~?」


寧ろはく奪されますとボソってたけど…それって遺族年金とかも出ない奴?…怖っ!…って、冒険者ギルドでは一時金が残された遺族にお金が渡されるけど、年金なんてどちらのギルドでも出ないそうだ。一部の高額納税者は納税した額によっては細々と引退後の生活補助金が年金として支給されるらしいけど、普通に働いてた方がよっぽどマシなんだとか…まぁ小遣い程度にはなるのかなぁ?


「ってことで、ギルド長の所にごあんなぁ~い!」


といいながら、僕はサンディさんの柔らかい手に引っ張られながら、またもや受付カウンターの奥へと強制連行されることになった…



- 探索者ギルド・ギルド長職務室 -


「ギルド長ぉ~、ザックくんをお連れしましたぁ~!」


こんこんとドアをノックし、すぐにそう叫ぶサンディさん。やや遅れて、奥から


「怒鳴らなくても聞こえる。入れ」


と、ドア越しに普通に返事が来る。


(この声がギルド長、なのかな?)


実はギルド長って初めてなんだよね。声すらも。というか、普段から顔を見るのって受付嬢や受付の人と、カウンターの奥に居る事務の人に買い取りカウンターの人。そして直営宿の職員の人たちくらいだから…身分の高いギルド幹部とか副ギルド長、そしてギルド長なんて見たことすらないんだよね…。まぁ低ランクギルド員なんかが相まみえる機会なんて無かったって訳だ。冒険者ギルドのギルド長は喧嘩っ早いとかで、受付前でギルド員同士の争いが始まると腕力で仲裁しに出張ってきて下の職員さんたちが苦労してるって話しもぼちぼち聞くけどねw


「はい。じゃあザックくん頑張ってねぇ~!」


と、ドアを開けてどん!と突き飛ばしてさっさとドアが閉められる。僕はつんのめって中に入り、辛うじて倒れずに済んだ所で唖然としていた。


(さ、サンディさん、謀ったなぁっ!?)


いや、一緒に雲の上の人ギルド長と話しを聞くのかと思ってたからね…まぁ、受付嬢がいつまでもここで油を売ってても受付カウンターに人が多く来たら困る訳で、一緒に居なくちゃならない理由にはならないってのはわかるんだけど…何か嵌められた気がして…うう~。


「君がザックくんだね?…こちらにきて座りなさい」


ふと顔を正面に向けると(ドアを睨みつけてました、はい)ギルド長が座るべきであろう椅子を指し示していた。顔を向けたらすぐに降ろしたけども。尚、男性かと思っていたご当人は20代後半くらいの見た目の美人さん…でした。多分、見た目と実年齢は差があるだろうし、身分も高い貴族さまって可能性も…あるよね?


「あ、はい…失礼します」


僕はぎくしゃくとしながらも、ゆっくりと歩いて…座れと指し示された椅子に腰を…下ろさないで待つ。確か、座れといわれても、身分が高い方が先に座るまで待たないといけないってじっちゃんが…いや、酒場の話しを聞きかじった覚えがある。勿論、割と年嵩の男だったので爺さんといっても過言ではないけどね。


「ほう…」


ギルド長は目を細めてそう呟くと、軽く頷いて先に椅子に腰掛ける。ザックは座ったことを確認してからゆっくりと座り、次の句を待つ。


「さてと…この度はサンフィールドの依頼を大成功で終えたと聞き及んでいる。通常、クリアランクは最上でもAなんだが…Sランククリアだともね?」


クリアランクとはギルドのランクと同様に幾つか存在し、依頼達成した時のクオリティーを指し示すものだ。最低は失敗のE。次いで失敗ではないが問題があるD。通常…可もなく不可も無いC。通常よりはやや良い結果を生んだB。そして誰もが喜ぶ最上のAだ。例外として2つあり、最低より更に下。失敗どころか被害を撒き散らし、討伐依頼なら討伐対象が生き残っており、庇護すべき町や土地が荒らされて人が住めなくなるような甚大な被害を出した場合などはFとなる。採取依頼なら採取区画に数年は採取対象が採れなくなる…なんてことも例として挙げられる。そして最上の更に上…今回のように依頼者が望外の喜びを得られる結果をもたらすなど、最良の結果にはSを。過去にはSSやSSSなんかもあったようだけど、最近はそんなクリアランク実績が存在しないので割愛する(ちなみにAの上にはAAやAAAなんかもあるらしいけどそれも…Sよりは下らしいけどね)


「は、はぁ…でも、それが僕1人だけでやったってのは口外しないようには…」


と、念の為お願いしようとしたけど、


「…ふむ。それはサンフィールド領主婦人からもお願いされていたが…そんなに目立ちたくないのかな?」


と訊かれる始末。いや、目立つと色々と困るんじゃないかな?…と思うんだけど。


「え~、まぁ…色々はっちゃけた結果ですが、ああいうことが僕単独でできるってわかると…想像できませんか?」


「む…確かにな。ここは砂漠も遠いとはいえないし、水不足の地方は幾らでもある…」


魔法の水袋じゃあるまいし、死ぬまで扱き使われて死ぬのだけはご勘弁願いたい。魔力の完全枯渇はイコール死を示すからねぇ。魔力枯渇で気絶するのって、完全に魔力を失う前であって、ゼロになる訳じゃないので寝れば回復するんであって、ゼロになったら人は生命力を失って死んじゃうからね?(生命力≒魔力≒HP≒MPな世界なので、どれかがゼロになれば生物は死んじゃいます。ほぼ同価値なものなので…もし、ステータス表があったとして、仮に魔力を使って魔法をばんばん使っていればその4つのステータスの隠れパラメータは減って行き、魔力が0になった瞬間にHPも0になって死の状態になることでしょう!…そんなステータス表なんて無いけども)


「…わかった。考慮しておこう」


ギルド長は1つ頷き、そう返した。一旦口を噤んだが、再び開くと目前に書類を1つ置く。そして…


「ランクアップおめでとう。今日から君は探索者ランクがCとなった訳だが…」


くるりと回してテーブルの上で差し出される書類。読めといわれてるようなので手に取って読み始める。


「…」


そこには探索者ギルドの規則が並んでいた。昨日のハンスのいった規則違反が響いているのか、ギルド長の目前で黙読しろとの罰ゲームなのか…緊張しながら読み進めると、そこにランクEより上で初めて当て嵌まる規則事項が列挙されていることに気付く。追加されていた規則を抜粋し、簡単に書くと以下のようになる。



【ランクD】

◎ソロでのダンジョン探索許可階層:1~5階層まで


【ランクC】

◎ソロでのダンジョン探索許可階層:1~10階層まで



大きな違いはそれだけだった。細かい差異は殆ど無いが、ランクが上昇すると低ランクより重い責任を伴うなどくらいか。所謂、チームを組むとリーダーに任命されることが多いからだそうだが…


(ぼっちには関係無いかな…)


そもそも誰とも組んでないザックには余り関係無さそうな規則だ。ざっと斜め読みして関係ありそうな部分だけ頭に叩き込んだ。例の貴族区画に近寄るなという禁則事項も含めてだ。


「読んだかな?」


頭が少々茹った気がするけど、何とか顔を上げるとギルド長がそう訊いて来る。いつの間にか用意されたのか、紅茶の入ったティーカップとティーソーサーのセットが目の前に置かれていた。勿論ティースプーンも完備されている。テーブルの中心には砂糖壺とミルク壺が置かれており、手を伸ばせば届くだろう。


「えっと…はい、大体は」


「読めない文字は?」


「えっと…取り敢えずは有りません」


返事をする度に暫しの時間をおき、更に質問が飛んでくる。何かに感心してるような気もするがザックには残念ながら読心術は備えてないのでどうにもギルド長の考えがわからない。


「最後にもう1つだ」


「えっと…何でしょうか?」


何か厄介事を頼まれそうな雰囲気に、椅子の背もたれに背を引っ付けて背筋を伸ばすザック。何となく、座りながらも気を付けの姿勢になっている。


「これからも、ダンジョンに潜って生計を立てて行くのかな?」


暫しの間が空く。質問の内容は理解している。だが、質問の意図がわからないザックは…


「それって、どういう…」


意味ですか?…といおうとしたが、


「そうか。これからも引き続き潜って貰えるか。わかった、我がマウンテリバー探索者ギルドは、引き続き君を…ザックくんを支援しようじゃないか」


と静かに答え、一気に自らの前にある紅茶を一気飲みした。


(うわぁ…猫舌だったら火傷しそうな…)


まだ湯気を出している紅茶をストレートで飲み干したギルド長は、ちょっと熱そうにしていたが、我慢してこう続ける。


「では、私は執務が残っているのでね。ザックくんは十分に冷ましてから楽しむといい!」


といってから執務室の奥へと立ち去って行った…


(あ~…やっぱり熱かったんだなぁ…あんなに勢い良く飲むから…)


仕方なくストレージから回復薬の空き瓶を取り出しピュアウォーター純水で洗浄した後、中にピュアウォーターを注ぐ。その際、ヒールハンド癒しの手当ての効果を内包させて簡単な回復薬を創造した。効果は現在受けている怪我や火傷の回復効果。回復までの時間は数秒。効果維持時間は今から12時間以内。


(飲む飲まないは本人に任せればいっか…)


ザックはストレージから紙を取り出してメモを書き込んだ。普通にギルドでも売っている低品質紙にインクを付けて書くペンで書いたので少々滲んでしまったが…読めなくはないだろう。説明文を書き上げた後、テーブルの上に回復薬の瓶を重し代わりに置き、そろそろ飲み頃の紅茶を…砂糖とミルクを混ぜて頂く。


(流石にストレートで飲む程できた舌じゃないからなぁ…)


まだまだ子供舌のザックでは、コーヒーもブラックはノーセンキュウだったのだ…



「ギルド長。紅茶、有難う御座いました」


そういうと、奥から声だけが届く。


「粗茶だがな。また飲みにくるといい」


あはは…と苦笑いをして席を辞退する。静かにドアを開けて廊下に出て、


「失礼しました」


といってから受付へと向かう。



「うう…嬉しさの余り、クソ熱い茶を一気飲みしてしまった…うん?」


ギルド長が茶器を下げようと、愚痴をこぼしながらテーブルへと歩いて来るとその上に小瓶が置かれていたのを発見して言葉を止める。


(これは…?)


見るに、回復薬の小瓶に見える。中の薬液と思われる液体は回復薬には見えないが…


(メモか…なになに…?)


そこにはこう書かれていた。



ザックよりギルド長のお姉さんへ。


口の中をやけどしたと思うので調合したくすりをおいていきます。

なるべく今日中に飲んでください。効き目は明日になるとなくなります。

心配でしたら鑑定スキルを持っている職員さんにみてもらうといいかも?


毎日のお仕事おつかれさまです ザック



そんな子供らしいかは微妙だが、ギルド長の身を案じるような内容に、


「くあぁぁぁっ! ザックきゅん可愛過ぎだろおっ!…って、痛たたたた…」


と、うっかり大声を上げて口の中…火傷した部分が切れて内出血してしまう。そして思わず反射行動で小瓶の蓋を開けて一気に飲み込むギルド長だが…


「はっ!しまった…確認しないで…って、あれ?」


徐々に口の中の痛みが抜けていき、その上火傷でひりついた粘膜も舌触りが火傷以前の物へと変わっていった。


「…マジか、これ?」


大マジだが、小瓶を確認するとこんなラベルが貼られていた…


「MP回復薬」


と。


「…あれ?」


ギルド長は混乱する。


「これって…魔力回復促進薬では?」


…と。


━━━━━━━━━━━━━━━

いえ、唯の空き瓶再生利用です。中身は詰め直してますが、ラベルを剥がすのを忘れていたザックでした!w


備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨250枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨23枚、銀貨10枚、銅貨61枚(変化なし)

財布内のお金:

 銀貨5枚、銅貨20枚(変化なし)

本日の買い物:

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクC(E→C)※2階級特進(但し、殉職に非ずw)

 ギルドカード変更(灰色→鉄色)※鏡面仕上げで顔が映り込む

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