13 その4
サンフィールドに出戻り、道中で起こった事案を説明する僕。そして詫びを入れられ、気休めだが無いよりはマシだろうということで「擬装用身分証明カード」と「顔を変えられるローブ」の2つを与えられる。そして、再びサンフィールドを出て暫く進んだ先で馬車に轢かれそうになり、その後から続いて来た集団の1人に殺されそうになる。思わず「えぇ~!?」となったが、危うい所で斬りかかってきた騎士の主人に助け出される。彼女はミュール。そして斬りかかってきた気短い騎士はハーミットといった。何故か馬車に招待されて道中を共にすることとなったんだけど…大丈夫だろうか?
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- 野営地に到着 -
「で、結局追っていた連中って何なんですか?」
「え…えぇそうね…説明…必要?」
ミュールお嬢様が上目使いで訊いて来る。いや、質問を質問で返すのって狡くないですか?
「え~、まぁ…殺されそうになった手前、説明は欲しいかなぁと…。勿論、守秘義務とか機密が絡んでくるなら要りませんが…」
(知ったが最期、命が無くなるとかありそうだし…)
ちょっとガクブルしながら待っていると、ミュールお嬢様がもぢもぢしながら小声で口にした。
「…のよ」
「はい?」
「だから…を盗まれたのよ」
「えと?…何を、ですか?」
「だから!…替えの衣類を入れた箱を盗まれたのよ!!」
僕は宝石とか高価なアクセサリーでも盗まれたのかと思ってたのだけど…
「…」
口をぱくぱくしながら何と返答したらいいかと喘いでいると、
「もう、知らない!」
と、頬に1発びんたを喰らって…当のお嬢様は反対側を向いて黙り込んでしまった。お嬢様は耳まで真っ赤に…恥ずかしいのはわかるけど、貴族のお嬢様ってもっと踏ん反り返って毅然としてるものだと思ってたんだけど、庶民みたいな態度に好感を得ていた僕だった。まぁ、後でハーミットから胸倉掴まれて怒鳴られたんだけど…はぁ。
・
・
「ようやく休めるかな…」
馬車と同行していた騎馬が野営地に着き、騎士たちは下馬して野営用のテントを組み立て始めた。先行して賊を追っていた騎士たちが後から到着してお嬢様に報告をしていたが、ブツは奪い返せなかったと項垂れていた。が、お嬢様は彼らを怒鳴ることをせずに労っていた。だが、取り返せなかったということは今着ている衣類を使いまわすことになり、洗っている間は何も着る物が…まぁマントなどはあるから素っ裸ではないんだろうけど…貴族の未婚の女性としては不味いんじゃないか?…と思われる。まぁ、余計な詮索はしない方がいいんだろうけど…見た所、騎士たちは殆どが男性であり、女性騎士も居ない訳じゃないけど身の丈が合いそうもないし貸し借りもできないんじゃないか?…と思う。
(う~ん…何とかしてやりたいけどねぇ…どうしたもんかな?)
そういえば最初に追剥共に襲われて撃退した時、僅かだけどあいつらの落とし物を拾ったっけ…その中には外れて落として行ったマントやポンチョみたいな装備品が幾つかあった筈…そう思い、
(汚れてるけどあるにはあるな…よし、一度ストレージに収納してと…)
中に手を突っ込んでストレージに収納し、その中で素材…要は糸のレベルまで分解する。樹・草・獣属性の分解を調節して実行すればそれくらいは問題無くできる。そして糸を結い合わせて布を編み、記憶にある彼女の体格から凡その数値を推測して…
(取り敢えず、
下着は「ズロース」なら凡その大きさがわかれば問題無く制作が可能だ。若干サイズがずれても着れないことはないだろうし。服装をチェニックにチョイスしたのは、残りの布の量的にそれしか作れないだけで他意は無い。着替え分を用意する必要があるので、ズロースを3着、チェニックを3着だけ制作して作業を終えた。
「ねぇ、降りないの?」
お嬢様が外からドアを開けて訊いて来た。(どうやって渡そうかな?…)と思案していた僕は丁度いいと手招きをする。お嬢様は小首を傾げながら馬車に乗って来た。
「さっきの話しだと、替えの衣類が無いよね?」
「え?…えぇ、まぁ…恥ずかしながら、今は着たきり雀で他には…」
そこまでいって口籠るミュールお嬢様。そこに、肩掛けバッグに予め移しておいた先程制作したばかり、出来立てほやほやの衣類を…袋に入れた状態で取り出して見せる。流石にそのまま剥き出しで手渡す程僕も馬鹿じゃないよ…うん。
「これは?」
受け取りつつ訊いて来るお嬢様。
「中身は後で見て欲しい…今、ミュールお嬢様が一番欲しい物だと思う。えと…買い物を頼まれてた奴で申し訳ないんだけどね?…あ、頼んだ奴には後で謝っておくので大丈夫!」
我ながら苦しい言い訳だなと思いつつ、入れ替わりに馬車を出る。静かにドアを閉めてから外に出た僕は、
「お、ハイザくんようやく出て来たか!…すまんが水を汲んで来て貰えないだろうか?」
と、水汲みを頼まれる。流石に色々あって(精神的に)疲れている手前、ウォーターで中を満たして手抜きをしたんだけど大変感謝された…。まぁ、本当はピュアウォーターを使いたかったんだけど、余り
・
・
「ご馳走様でした!」
「お粗末様!」
夕食は騎士の人たちと一緒にご馳走になった。いや、色々と手伝いしてたら何人かの騎士さんたちと仲良くなれたので…。お嬢様?…後から追いついて来た荷物をメインに積んでる馬車とそこに乗ってた従者さんたち(お屋敷の使用人さんだと推測)に取り囲まれて大き目のテントで食事を摂ってると思う。外からは中は見えないのでわからないけどね。ちなみに替えの衣類はその馬車から盗まれたそうで、お嬢様がいうには
「箱の装飾がそこそこ立派だから、宝石とか高価なアクセを入れてる箱と勘違いしたんじゃないかしら?」
…だそうだ。そういう類の物は、お嬢様の身に着けているネックレス…所謂アイテムボックス機能付きの魔導具…に収納していて、本人じゃないと出し入れできないセキュリティが施されてるとか。まぁ、そうしてた方が安全だろうね。本人毎盗まれでもしない限りは。
「ふーん…大変だね」
とだけ返しておいたけど、着替えが無いと女性は大変だろうね…。探索者や冒険者の女性たちは割と奔放というかガサツというか…冒険中は着の身着のままが多くて匂いだけ香水とかで誤魔化しているそうだけど、貴族や身分の高い女性はそうもいかないもんね…。臭いがキツイ人は替えの下着だけは持って行くそうだけどね。野郎はどうしてるかって?…水場があれば水浴びして衣類もその場で水洗いするんだって。水棲の魔物とか居たらどーすんだろうねぇ…
(だから、
ちなみに、アイテムボックスの中でも性能的に差が生じる。僕の持ってる
ストレージ…これはアイテムボックスに加えて様々な機能を付与しているだけど、一番の違いはこれだろうね。
・最初に魔力登録した本人しか扱えない
・アイテムボックスと違い、魔力登録した本人の魔力に依存する内容量
・収納した物の一覧閲覧、一定以上離れた物でも収納できる遠隔収納機能、収納した物を手元、或いは一定距離離れた場所に取り出す機能、収納した物の時間停止機能
…などが主な特徴となる。アイテムボックスとの最大の違いはどんな物にでもその機能を付与しておけて、その形状に囚われない。僕の場合は指輪に付与したんだけどミュールお嬢様はネックレスに。但し、どうも本人の魔力依存ではないのでアイテムボックスと称している模様。ネックレス型のアイテムボックスは珍しいし、ストレージはかなり上位の錬金術師、魔導具師じゃないと創れないそうだから…え?僕?…唯の生活魔法使いですが何か?
・
・
食事も終わり、また手伝ってコールで呼び出されて色々と扱き使われてへとへとになった頃、
(う~ん…汗かいたなぁ…シャワーかお風呂に入りたい…)
などと襟口を引っ張って汗の臭いをくんくん嗅いでたらいきなり声を掛けられてびっくりし、
「…あ、えーと…ハイザといったかしら…その…」
と女性の声が…あ、ミュールお嬢様か。
「ありがとね…」
までいって、パタパタと足音が…振り返ると渡したチェニックの服装だった。
(あ~…着てくれたんだな。荷物を入れてる馬車が追い付いたって聞いてたんだけど、衣類はサンフィールドで補充して来なかったのかな?)
一応、
(そんな長期間着る訳はないと思うけど、もし成長した場合はどんどんキツクなっていって着れなくなる欠陥品なんだよね…まぁ、成長期だとしても半年くらいは着れる…かな?)
まさか半年以上何処にも寄らないで旅を続けるなんてことはないだろうし、問題は無いだろう…と思う。取り敢えず、
「どう致しまして」
とだけその背中にいっておいた。それ以上は野暮というものだろうしね…それより、シャワーか風呂だ。濡れた布で体を拭くだけでもいいんだけど、今日は疲れたし何とかしたいなぁ…う~む。
- 夜も静まった中…真夜中の野営地 -
「む~…痒い」
一応水で濡れた布で清めたんだけど(
(水浴びは…凍死はせんだろうけど、風邪をひきそうだよな…)
砂漠地方が近くて昼間は汗をかく程暑いんだけど、夜は逆に冷えるんだよね。そんな中、渓流で水浴びとかしたら…あっという間に冷え過ぎて風邪をひくだろうな…少なくとも火照ってる体がいきなり冷やされたら調子は悪くなりそうだ。
(どうしよっかな…何処かで隠れて
過去にそれで問題が起きて毎日嫌味をネチネチといわれ続けた辛い日々を思い出し落ち込むザック。そんな過去のトラウマのせいで、ぼっちが加速したともいえるのだが…
「…ま、今夜は我慢するか。明日、何とか考えだすことにしよう…」
取り敢えずすぐに解決できない問題は繰り越して、明日考えようとスルーするザック。だが、ようやく寝付いた所で叩き起こされる。
「おい!起きろハイザ!!」
「んあ?…一体何が…」
強引に腕を引かれ、立たされる。ちなみに、荷物は盗まれたり奪われたりすることを懸念してストレージに全て格納済み。寝ていたテントも予備の貸与品の為に、いきなり体1つで放り出されても問題は無い…
どん!
腕を引っ張られて何処かに引き回され、最後に背中を押されてつんのめる。何とか倒れずに済み、ようやく覚めてきた目で夜中に叩き起こした張本人を見ると…
「ハーミット?」
「様を付けろ、様を!」
昏い目でこちらを見ていたのは、最初に短気を起こして斬りかかって来た暗黒w騎士、ハーミット様wだった!…真夜中でよく見えないが、昏いオーラを身に纏っている気がする(気のせい)
「えっと?…こんな夜中に何か用?」
普通に疑問に思ったザックは、そう訊くのだが…
「何か用、だと!?…貴様ぁぁぁあああっ!!」
短気の騎士だけあって、超高速で沸騰して抜刀&スラッシュと来た!…いや、普通の騎士剣で両刃剣だけどね。
「って、えええ!?」
(いきなり斬りかかってくるか普通!?)
頭に血が上ってるせいか振るわれる剣に精彩さはなく、力任せに振り下ろしたり横に薙ぐだけなので避けるのは簡単だが斬りかかってるくる原因が…
(あ、昼間のあれか…)
逃走してた盗人たちの仲間と勘違いして短気を起こして斬りかかる。その振る舞いを主人であるミュールお嬢様に怒られる。そしてその後に同じ馬車に同乗して外からは楽しくお喋りをしている平民に怒りが積もると…
(あ~…ったく、面倒な騎士さまだな…)
するすると回避していたが、考え事をしていたザックは背後の木に気付かずにぶつかり、背に木を背負った状態で足を止めてしまう。
「
「いや、
(自分1人しかいないけど、一応罪らしい罪は犯してない筈…)
と思いつつ
すっ
としゃがみ込み回避。そのまま木の後ろに回り込んでそのまま逃走すりゃいいかなと思い走り出す。
「まっ待てぇっ!貴様、卑怯だぞ!!」
多分、首を刈ろうと斬りかかって、僕が避けたのでそのまま木に食い込んで抜けないんだろう…騎士剣が。
「そんなの自業自得じゃん…知ぃ~らねっと…」
街道?のすぐ傍にある野営地には魔物避けが設置してあるので弱い魔物は近付けない。だけど、道から外れたこの辺りには夜には魔物もそこそこ徘徊してると聞く。つまり、武器を失えばどうなるか…
「うぎゃああああ…!?」
かなり距離を空けたと思ったけど、此処まで絶叫が聞こえて来た。
「…はぁ。殺そうとしてきた相手だしな。放っておくか…」
どの道、
(この偽証してる名前だけど、変更できないかな?…このままだと騎士殺しのハイザとして噂が流れそうだし…っと、できるみたいだな)
名前の欄に魔力を流すと変更可能になったようだ。
(ん~…似たような名前だとすぐバレるよねぇ…何にしようかな?)
擬装用のハイザから連想される名前は止める。本名のザックも止めておく。但し、呼ばれても即反応できない懸け離れた名前も問題がある。偽名といってるようなものだからな…となると。
(3文字くらいで1文字くらいは同じ読みの字を含んで…となると、ザから始まる3文字がいいってことかなぁ?)
長くても4文字くらいだろう…と逃げながら考えるザック。疲労が生まれる毎に休憩していては追い付かれるだろうと身体強化を掛け、喉が渇けばピュアウォーターで喉を潤し、朝日が出る頃には2つ目の偽名を考えつく。
「はぁ…疲れたな。んじゃ、擬装名再設定っと…」
その名を「ザンカン」と設定し、ついでに
(…こんなもんかな。余り目立たない何処にでも居そうな不細工な子供と…)
元々のザックも美男子とはとてもいえないフツメンではあったが…。創った顔は、ニキビを多めにして一重目蓋に前髪を少々伸ばしてややふくよかな頬。目にしても特に何も感じないか印象の薄い顔立ちにするのに苦労した。
(後は…デコレートか)
流石に装備が何も無いと襲ってくれといってるようなものだし、今までとは違う装いにしておいた方がいいだろう。土の多い場所へと移動し、
「中身スカスカの軽いだけの大剣と…軽装鎧のセット」
(打ち合ったくらい、攻撃を受けても壊れない程度に強化しておく。流石にB級魔物に襲われれば壊れてしまうが、C級までなら耐えられる程度に…)
全ての装備を揃えた後、衣服の上に軽装鎧を着込んでローブをその上に羽織り、背中に大剣を背負う。鞘に入れると抜くのが大変なので、見た目革製の輪っかに大剣を挿す。剣先の途中と根本に輪っかがあり、上から挿せばレールに沿って背中に収まるようにし、抜刀時はレールを滑って加速して振り抜けるって感じにした。
(結局大剣の鞘はローブに穴を開けて出したけど…機能を損なわなくて良かった…)
背中のど真ん中に穴を開けたのではなく、柄側の背中からはみ出す位置に穴を開けた形だ。マントなら何も考えなくて良かったんだけど、ね。代わりに剣先側にローブの布が引っ掛かって、納刀時の恰好が笑われそうな不格好になってるけど…
(まぁしょうがないか…)
ついでに、
(変声機能…自由に声色を変える機能だけど…矢張り必須だろうし)
口調とか抑揚なんかはすぐには変えられないけど、例えば成人した男の声が大人になる前の声に変わったらどうだろう?…すぐには気付けないし、余程注意深くなければ気付かれないと思う。流石に男なのに女の声だと変だとバレ兼ねないけど…
(取り敢えず子供の頃の声色になるだけだけど、まぁ何とかなるだろ…)
顔の見た目はローブを脱がないと元に戻らないけど、声色の変更のオンオフだけは思考操作でできるようにしておいた。でないと、着続けてるだけで子供と思われては色々と困ることもあるだろうしね…
(はぁ…大金を狙う悪人に狙われたり、騎士殺しの疑惑か…一体、僕は何してるんだろうな…。いや殺してないですよ?…あれは当人の闇が招いた自業自得だからね。でも、世間はそう見ないだろうし例え戻って真実を訴えても…)
平民が訓練した騎士を殺せるなんてことは有り得ない。が、騎士殺し=貴族殺しは重罪。悪は平民にあり貴族にはない。依って、ろぉ~ぼこぉ~ん、れいてん…ではなく、平民に罪あり。死罪、若しくは重罪は免れない…
(てな展開になるんだろうしね…。結局、逃亡して元のザックに戻るしか助かる道は無い訳で。…取り敢えず昼間は目立たないようにどっかで寝て過ごして、夜の間移動って感じかなぁ…)
という訳で、ザックの今後の方針は固まり、最初に創ったかまくらモドキに思い切り魔力を込めて頑丈に寝床を創造し、中に入って寝ることにした。勿論、空気穴は忘れてないよ!
- 時間は巻き戻り、真夜中 -
「おい、ハーミット!何処行った!?」
「…居たか?」
「いや!…そういえばハイザくんも居ないが…」
「「ま、まさか…」」
夜警をしていた騎士たちがハーミットの寝ているテントと、ザックの寝ていたテントを見て騒ぎ出していた。
「様子がおかしいから夜警はやらなくていいとしたのが不味かったか…」
「あぁ…まさか、ハイザくんを連れ出すとは…」
ザックの寝床から荒々しく連れ出したであろう痕跡を見て呟く騎士たち。その顔には苦渋に満ちていた。
「行くぞ?」
「ああ!…だが、その前に」
「あぁ、報連相は大事だからな!」
2人の騎士は、あちこちで叫んでいる仲間を呼び寄せて主であるミュールお嬢様が休んでいるテントへと駆ける。
・
・
「何事です?…お嬢様はお休みです…下がりなさい!」
豪奢なテントの入り口の横にある柱をノックすると、中に控えていた使用人が出てきてこの第一声を不機嫌な顔で口にした。そろそろ休もうと思っていた所悪いが、こちらは緊急事態だと騎士は話し出す。
「騎士ハーミットが客人のハイザ氏を何処かに連れ去った模様です。ハイザ氏の寝床であるテントを見るに、強引に起こし引っ立てて行った痕跡を確認。下手をすると処刑し兼ねません…。主にこの事実を報告し、事が起きない内に探し出して客人を保護するよう許可を頂きたいのですが…」
そこまで一気に喋る騎士。だが、使用人は
「たかが平民風情にそこまでする必要を感じませんね。お嬢様の睡眠妨害になるような雑音は、例えドラゴンでも許しません…下がりなさい!」
と、一喝の元に却下された。
「ですが!」
と、尚訴えようとすると…
「下がりなさいといいましたよ?…わたくしは」
とても使用人とは思えない鋭い瞳に斬られそうな程に強い圧を感じ、騎士は頭を下げ、
「で…出過ぎた真似をしました…」
と、下がらざるを得なかった…。使用人は「ふん…」と一言吐くとテントの中へと戻っていく。騎士は仲間の1人にぽんと肩を叩かれ、すごすごと夜警に戻ったのだった。そして暫くの後、
「うぎゃああああ…!?」
と、絶叫が夜の森の中に響き渡った。
「なっ…何事だ!?」
「あの声はハーミット…一体何が!?」
夜の野営地にが俄かに騒がしくなり、原因を調べるべく騎士たちは3人1組で2パーティを組んでハーミットの捜索隊が組まれることになった。ザックを気にしている騎士はザックの捜索も頭に入れていたが、ついにザックを見つけることは叶わず…
「これは…」
「ハーミット、なのか?」
恐らくは完全装備である騎士鎧に包まれていただろうハーミットは、騎士剣を喰い込ませた木の傍でバラバラになって見つかった。鎧の下にあったであろう肉は食われたのだろうか骨しかなく、柔らかい部分は雑に食い千切られて辺りに散らばっていた。思いの外出血が少ないことから、吸血する魔物も混ざっていたのかも知れない。
「ハイザくんは…」
「ハーミットがこんな状況だ。鎧を着込んでない彼は恐らく…」
全身くまなく食われてしまったのだろうと推測されると、暗にいう騎士たち。ましてやハーミットは鍛え上げられた騎士で固い筋肉や骨は残っているが、ザックは成人したての子供だ。そんな柔らかいであろう子供の体は魔物たちの絶好の獲物となる。
「うう…俺たちがすぐ捜索をしていれば…」
涙する騎士に仲間の騎士たちが肩ぽんする中、
「このままでは俺たちもヤバイかも知れん。ハーミットの亡骸と形見だけでも回収して撤収するぞ…急げ!」
「「「…はっ!」」」
隊長格の騎士が叫び、騎士たちは背負っていたマントを除装して急ぎ残った骨やら装備品の一部を包んで急ぎ野営地へと戻って行くのであった…
- 野営地 -
「…そう、わかったわ。貴方たちは騎士ハーミットの処理をお願い。後は戻ってからね…」
「…は」
急ぎ叩き起こされたミュールは事後報告を聞き、それだけいうと疲れた様子で用意されていた椅子に座り込む。
「…」
(何で…何がどうしてこうなったのよ!…だからハーミットなんて連れて来たくなかったのに…)
一応は、幼馴染の兄さんという位置づけの男。将来は結婚すべき許嫁…と、わたくしが10歳の頃に決まったのだけれど…その頃からあのハーミットは…兄さんはおかしくなっていった…まるで、わたくしが誰にも…男性限定だけれど…近付けてはならないと…
(結局、心の奥底に秘めた執着心が暴走すること多数。騎士としての成績は優秀なんだけど。戦争をしてる国に遠征でもさせれば良かったのにねぇ…平和な国内で護衛なんてさせてるから無駄な争いばかり…)
今となっては死んでしまった兄さん。せめて、冥福を祈ろうかな?…と、ミュールは夜空の星々を眺めていた。夜空に浮かんでいる筈の月は新月となっており、その姿を確認することはできなかった…
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ザックは…否、ハイザは魔物に食い散らかされて死亡したとされ、追跡される可能性はほぼ無いこととなりますが、そんなこととなっているとは知らないザックは変装の旅を続けることとなりましたとさ!
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