11 その2

サンフィールドでの依頼を終えて帰途につく僕。だけど乗合馬車に乗ることができなかった。仕方なく次の便をと思ったけど1週間後と聞いて唖然とする。徒歩で帰路につくか宿で待つかの二択を迫られる。だが、運悪くお祭りがあるらしくどの宿も満室か高い部屋しか空いてないと来てる。そうすると、もう徒歩での帰宅くらいしか選択肢がない。道中で消費する食料を買い込み、門を抜ける時にちょっと騒動があったけど、何とかサンフィールドを出ることに成功。さて、無事にマウンテリバーに帰れるんだろうか?

━━━━━━━━━━━━━━━


- サンフィールドを出て1時間経過… -


「お、あそこに薬草が…此処には食べられる草が…」


などとついつい見つけては採取していた。帰還の行程は予定よりどんどん遅れてしまっている。気付けば砂漠から最初の山の中に入った中程でとっぷりと日が暮れてしまっていた。他には歩いている者も居らず、僅かに残った日の光りで人や馬の踏んで築かれた道が何とか見えるといった具合だ。


「あ、やべ…。えっと…明かりよ!ライト


ぽわっと人魂みたいな周辺を灯す明かりが生まれる。本来なら杖の先端などに灯すんだけど、今は杖なんて持ってないので追随する明かりの玉を生み出した。ちょっとしたアレンジで自分の体から相対座標に固定しただけなんだけど、意外と便利。


「…まぁ道は見えるけど、何かがいきなり出て来たら困るかなぁ…」


(敵対的ではない動物ならいいんだけど、敵対的な何かが出て来たら…う~ん)


野営予定の休憩地まではまだ暫く掛かるだろう。溜息を吐きながら歩を進めるけど疲れてきた両の足では一向に目的地に辿り着けないでいる。


(…う~ん。小休憩した方がいいかなぁ…)


きょろきょろと周りを見回すも、適当な場所は見当たらない。が、あることを思いつくザック。


「休憩に適した場所が無いなら、作ればいいよな…」


…と。



- 土魔法?…いいえ、生活魔法です! -


「ここら辺でいいかな…」


道からやや離れた狭い空き地を見つけ、ザックは荷を下ろす。そして周囲を見回して取り敢えず問題無さそうだなと判断すると意識を集中させる。


(…ん~…。かまくら状の物でいっか。入口は入ったら塞げばいいし…)


ザックは地面に手を付き、「土操作アースクラフト」と唱えると、もこもこと地面が盛り上がって行く…そして人間が1~2人くらい入れる大きさの土でできた、


「…かまくらか、これ?」


(かまくらを想像しながらやってみたんだけどなぁ…まぁ中で休めればいいか…)


土色のそれは丸いかまくらとは思えない…強いていえば、2~3人入れる四角いでっぱりに穴が開いた代物だった。ザックは荷を持って中に入り、入り口を土壁で蓋をすると雨が降ってきても中に水が入らないように、斜め下に向けて空気穴をこさえた。


「ふぅ…。じゃ、毛布を敷いてっと…」


単純に毛布といっても外側は雨露を凌ぐ為に撥水加工が施され、内側は保温というよりは熱が通らないように断熱加工がされている。寝転んだ時の肌触りがいいように毛糸がびっしりと縫い付けられた野営用の毛布だ。雨が降って寒い時は頭からすっぽり被り、余った部分は地面に敷いて体を包んでいれば体温で温かい空気が保たれて一昼夜を過ごせるという優れものだ。これは別にザックが創ったという訳ではなく、冒険者向けの道具屋で普通に販売されていた物だ。値段は相応に高く銀貨2枚もしたが、加工前のとある魔物の皮が高価だと聞いた覚えがある(魔物の名前は忘れたが)


「ふぅ…疲れたなぁ~…」


横になっている内にザックは目を閉じ、気が付くとそのまま寝てしまっていた。途中、何か物音がしたのだが起きることはなく、翌朝まで…腹を空かして自然と目が覚めるまで、夢の世界の住人と化すザックであった…



- 翌朝・冤罪被害 -


ガッ!ガッ!ガッ!…ドガァァン!


「な!何だ何だ何だ!?…ぐあっ!…痛ぇっ!?」


破片が体のあちこちにぶつかり、激痛で…文字通り叩き起こされるザック。土壁や崩れ落ちてきた天井がぶつかって悲鳴を上げ、寝ていた毛布から飛び退いて痛みを堪えつつ様子を見ると…


「何だ?…やっぱ人が中に居たのか…」


と、覗き込む複数の人間が居た。その手には太い棒や剣などが握られており、折角作った土製の隠れ家を破壊したようだ。


「お~い、大丈夫か?怪我してないか?」


その人間は呑気にこちらに声を掛けて来る。


(確かに打撲くらいしかしてないけど…って、うわぁ、青あざになってるし…。後で熱とか出ないよなぁ?)


ザックはしかめ面をしながら、こう答えた。


「…痛っ………青あざができてて凄く痛いです」


暫く黙んまりの時が経過し、これ以上待ってても意味は無いかなとゆっくりと立ち上がろうとすると、


「わかった。すまない…調査を命じられてな…入口が見つからなかったので仕方なく破壊したのだが…まさか、子供が中に居るとは知らなくてな…」


うん、とって付けたような…今、即興で考えて応えたろ?…って感じの回答だった。この打撲痕は後には残らないと思うけど、薬とか持ってなさそうだし「治療して」といっても無理そうだな…と考えたザックは溜息を吐いて店仕舞い…ではなく、荷物を纏める為に立ち上がった。


「…!?」


(?…何で殺気?)


荷物を纏めて旅の続きを再開するだけなのに殺気を当てられなければならないんだ?…と思いつつ、ザックは背負い袋に毛布を丸めて縛り付け、それを背負って肩掛けバッグを左肩に引っ掛ける。青あざは多少痛むが後で薬草を加工して塗ればいいかと考えながら仮の宿…元土壁小要塞を出る。


(おっと…後始末しとかないとな…かまくらモドキ、解除)


土操作で創造した仮初めの宿はあっという間に崩れ落ち、盛り土と化した。風でも吹けばその土は何処かに飛んでいって何かがあった痕跡はその内に消えてしまうだろう。


「なっ…こいつ、土魔法使いか?」


ざわざわする中、誰かが呟いた。だが残念…生活魔法使いだ!


「えと…何だかお騒がせしたようで…すいません」


一応、原因が自分だと理解して謝罪をした後、ザックは人混みの中を通ろうとする。


「ちょちょちょい待ち!」


がし!っと腕を掴まれて足止めを喰らうザック。何なんですかもう!…といいたげに掴んだ人物を睨むと、


「おお?…えらく反抗的な目じゃないか、えぇっ!?」


と、中年のおやじが掴む手に力を込めて挑発してくる。


(…っていうか、さっき「怪我してないか?」って訊いて来た人じゃないか?)


なら、さっきの土壁粉砕のせいで打撲を被った責任を取って貰おうかなと口を開ける。


「あぁ…さっき僕が寝てた仮初めの宿をぶち壊した人ですか。その時、この通り…打撲で青あざができちゃったんですよ…治療費とか頂いても?」


その場で青あざを完治できる治療魔法を掛けてもいいけどね、と続けて呟くが…


「んなもん怪我の内に入らんよ…ふざけんなよ?」


と、何故か逆ギレされる始末。セルフチェックした所、腕だけでなく頭とか顔とか足とか…肌が露出してる部分のあちこちがズキズキと痛み、青あざになってなくても今日中は痛む予感がする。下手すれば目に直撃して失明していたかも知れないが、今の所は無事だ。


「ふざけてはいませんが…でしたら手を離してくれませんか?…旅を急いでますんで」


ぐいっと腕を解こうと力を入れると、更に力を込めて握ってくるおやじ。痛みに顔をしかめるのもお構いなしだ。腕が段々と痺れてきて、握る先の皮膚が嫌な色合いになって来ている…


「だからふざけんなよ?といっている。てめぇ…逃げるつもりか?」


「は?逃げる?…訳わからないですね…何から逃げると?」


「だから、ここからだよ!」


「逃げるも何も、どの道朝になったらここを立つ予定でしたが…」


「はぁ?」


うん、何がいいたいのかさっぱりだ。仕方なく、時間を無駄にするのを覚悟の上で、昨夜から今までの経過を説明する。だが、返って来た返事はこうだった…


「嘘を付け。この犯罪者め!」


うん…何をトチ狂ってるんだろう。このおやぢわ…人の話しを全く、これっぽっちも理解してない上に人を犯罪者扱いとか…だが、突き付けられた紙ぺらを見せられて、その理由に理解が行くことになった。それは…



【犯罪者「ザック」を捕まえて欲しい】

--------------------

依頼元 :サンセスタ国王

依頼内容:犯罪者「ザック」を捕まえて欲しい

・下手人は我が国の貯水池復興計画の予算の大部分を奪い、逃亡した大悪人である

・逃亡してまだ間もない。我が国の領地の何処かに潜伏中だと思われる

・ザックを生きて捕まえ、王の前まで連れて来た者には褒美として金貨100枚を取らせる。決して殺してはならない

・下手人の顔は以下の通り。年の頃は16歳くらいの男


    似顔絵があると思いねぇ!w


・必ず生きて捕まえること。死体を連れて来ても褒美は出ない。以上

--------------------



「なんじゃこりゃ?」


(一体、僕が何をしたと?…というかあの大金貨1000枚の予算を奪って逃走?…大金貨なんて見たことすらないわ!後、似顔絵は微妙に似ていない。こんな太ってないわ!…ぜえぜえぜえ………)


とまぁ、一言呟いて心の内で文句を吐いた後、


「人違いでは?…大体、治水工事の予算って宿の人に聞いたんですが、大金貨1000枚っていってましたよ?…僕、そんな大金持ってるように見えますか?」


そこまでいって両腕を広げるように見せると数人の男たちが背負い袋をひったくってひっくり返す。


どさどさどさ…


毛布を退かしてから紐を解いてひっくり返した背負い袋からは、上に詰めていた衣類、その後に下に詰めていた食材などがどさどさと地面に落ちて転がった。


(ひでぇなぁ…一部とはいえ、貴重な食材を乱暴に扱いやがって…)


幸い、先に落とした衣類がクッションになっていたのでそれ程には傷物にならなかったのだが…


「おい!それも貸せ!!」


と、乱暴に左肩の肩掛けバッグも強引に引っ張られて奪われる。


「ちょっ!…ぐっ」


取り戻そうとすると、右腕を掴んでいた手に力が再び込められて引っ張られる。さっきは背負い袋を奪う為に一時的に腕から手が離れていたんだけど、またきつく握られた。


「痛いな…離せよ!」


「黙れ…疑いは晴れてない訳だからな。それとも、それに入っているのか?」


「んな訳ないだろ…大きさを見りゃわかるだろ!」


「さぁ…どうだろうな」


肩掛けバッグを奪った男がバッグの紐を解いてからひっくり返す。見た目以上の中身がどさどさと落ちて行く訳なんだけど…お金なんて銅貨1枚入れてない。日常的に使う道具類とお菓子が少々入れてあるだけだ。あんなに乱暴に落とすとか、割れそうな物は入れてなくて良かったと安堵していると、


「ふむ…そこにも無いとすると…」


僕の腰に付けているポーチを睨むおやぢ。


「それが怪しいな…おい!」


「うす!」


腕を掴んで拘束してるのをいいことに、腰のポーチを奪う男。ベルトに細い紐で括りつけていることが災いし、ぶち!と引き千切られてしまう…そして、


どさどさぱりん!


「やっちまったな…どうしてくれんだ?…ポーションって高いんだぞ?」


いい加減うんざりしている僕は、言葉使いに気を使っていられなくなっていた。特に、さっき肩掛けバッグを持っていた男の口から聞こえていた台詞も関係してくる。何といったかといえば、


「おほ♪これアイテムボックスじゃんか…今回は大儲けできるな♪」


…とだ。どういう訳か犯罪者扱いしてるこの集団は僕から全てを奪った後に、この国のトップに犯罪者として引き渡すつもりらしい…ならば、犯罪を犯してない身の上としては抵抗する理由もあるという訳だ…


「はぁ…殺しちゃうと多分、人殺しの前科付いちゃうんだろうな…なら手っ取り早く、死なない程度に痛めつけて放置、が最善なんだろうな…胸糞悪いけど」


ぶつぶつとそれだけ呟くと、まずは散らばっている荷物を回収することにした。


「収納!」


いきなり目前の荷物が消え去り、どよめく悪漢たち。さて、10倍返しに時間だ!



- 誰が被害者だって? -


「なっ!?」


一瞬で散らばってる荷物や背負い袋と肩掛けバッグが回収され消える。


「…消え…た?」


暫く、あちこちへと目線を巡らしていた男たち。やがて僕に視線が集中すると、


「今、何を、した?」


腕を掴んでいるこの集団のボスなのか、単なる力持ちで捕縛役をやってるのかわからんおやぢが凄む。


「さぁ?」


端的に答えて惚けると、ぎりぎりとさっき以上に腕を握り締めてくるけど…既に身体強化生活魔法で身体能力は底上げ済みで今は痛くも痒くもない。


「てめぇ…今日から暫くベッドの上で天井の染みを数えるだけの体にしても構わねえんだぞ?」


(おーおー、凄い脅しが来たなぁ…でも、全然怖くないんだけど…)


性的になのか大怪我的になのか不明な脅しを掛けられた僕は、「はぁ」と溜息を吐いてから自由な方の手で握り込んでいる手の…小指をおもむろに掴み、


ぽきん


と折った。多分、すぐに戻せばちょっと…いや、かなり痛いけど動かせると思う。関節外しただけだし。


「ぎゃあああああ!?」


おやぢはすぐさま腕を掴んでた手を離して絶叫してドスンバタンと転がりまくる。いや、そんな乱暴に転がってると完全に折れるよ?


「…て、てめえ!」


「よくもおやっさんの小指を!」


「嫁さんを娶れなくなったらどう責任取るんでぇっ!?」


子分だか部下だか知らないけど、若い衆っぽい男たちが口々に僕を責めてくる。小指で嫁?…あんな与太話を信じてる人ってまだ居たんだ…小指を失うと嫁ができないって奴。


「…っていうか、え?…あれでまだ未婚というか独身なの?」


びたっ!…と世界が静止する。つい先ほどまで大絶叫で転がっていたおやぢも含め、世界に静寂が訪れる。聞こえてくるのは風の流れる音とか遠くから聞こえてくる何かの動物だか魔物の遠吠えだ…


「てめぇ…」


いっちゃなんねぇことを…と聞こえた気がする。


囲んでいた男たちが気が付くと離れていた。そして背後から殺気。


「死ねえっ!!」


いつの間にか痛くて転がって絶叫して泣いていたおやぢが刃物を手にし、大上段から振り下ろしていた。それは既に頭へと到達寸前であり、そのまま間抜けに見つめていれば頭を勝ち割られてスイカ割りの如く、真っ赤な脳漿と脳髄を撒き散らして命も絶たれていただろうと思う………だけど、


「…遅い」


一言口にして、避ける。今は身体強化中であり、通常より体を動かす能力はアップしている。それは神経系も筋力系もアップしており、目の前まで到達している刃物を躱すのは呼吸するよりも簡単なことだ。


「…ふっ!」


息を吐きつつ回避する。いや、回避なんていうのも烏滸おこがましいか…右足を軸にしてくるっと左に90度回転しただけだ。唯、普通の人間から見たら尋常じゃない速度で動いたので刃物…鉈みたいな道具感溢れる物だったけど…がスカり、勢い余って体勢を崩すおやぢ。


「はっ!」


目の前に体を流しているおやぢをドン!と両手で押し出す。それだけで横っ飛びに数m吹っ飛んでゴロゴロと転がって行く。


「…動かなくなったな。死んだかな?」


ピクピクと小刻みには動いているけど。おやぢという程に年は行ってるぽいから体もそれなりに老化してるだろうし…そろそろ無理は禁物なんじゃないかな?


「次、誰が来るの?…いっとくけど手加減できないから死んだらごめんね?」


そういいながらゆっくりと振り返る僕。この時、ニヤっと笑うのが重要。普段温厚な人物がキレたらヤバイという演出で。できれば2度と関わって欲しくないからねぇ…もう1人くらい見せしめに半殺しした方がいいかな?…何て考えてたら、


「ぎゃあああっ!?」


「にっ逃げろぉぉぉっ!!」


…と、悲鳴を上げて一斉に全員逃走しちゃったよ…。おやぢは放置して行くかと思ったけど、流石に置いていけないのか数人で抱えて走って行ったけどね…


「…あ~…」


一応、さっきの指名手配の紙のこと、本当かどうか聞きたかったんだけどなぁ…聞きそびれてしまった。


「はぁ~…出戻り…じゃないか。サンフィールドに戻って確認しないとなぁ…」


本当に指名手配されてるなら誤解を解かないとだし、さっきの集団のでっちあげなら捕まえて貰わないと。


「多分、何処からか情報が洩れて多額の報酬を1人で持ち歩いているだろうからと捕まえて強奪…てな線が濃厚だろうし…」


実際には金貨24枚にも満たないんだけどね…


(誰だよ、事業費大金貨1000枚とか大法螺おおぼら吹いたのは…とばっちり受けるこっちの身も考えてくれよ…はぁ)


そんな気疲れをしつつ、僕は周辺に一杯落ちている強盗たちの忘れ物を回収してから、来た道を戻ることにした。ちなみに使えそうなのは清浄化クリーンで綺麗にしてからストレージに収納したけど、どう見てもゴミっぽいのは穴開けて埋めておいた。食べ物なんかはなかったけど景観が悪くなるのは良くないからね!



- 再びサンフィールドの門前 -


「あれ、忘れ物ですか?」


サンフィールドの門に到着すると、最初に来た日にも見た門番さん…まぁ、昨日水を上げた人なんだけど…が居た。2連勤なんですか…お疲れ様です。


「お早うございます。いえ、まぁ、忘れ物といいますか…これなんですが…」


昨日見せつけられた指名手配の紙を懐から出して渡す。


「これ、何ですか?」


訝し気になる門番さんに、


「見ても驚いたり口に出したりしないで下さいね?…多分濡れ衣だと思うのですが」


頷きながら折り畳んだ紙を開いて中を読む門番さん。中の文章と似顔絵を見終えたのか、傍から見てわかり易い反応をしていたけど…


「これについて、上の人から何か聞いてますか?」


質問に対し、左右に首を振る。


(やっぱりあの集団が勝手にでっちあげた嘘かな?)


「それで、何か被害を受けたのでしょうか?」


門番さんが親切?に訊いて来るんだけどいっていいのか悪いのか…まぁいってもいいかと判断して、


「ここでいうのもちょっと…」


というと、門番さんが相方の門番さんに断ってから休憩時に使用する待機室に案内された。



「狭いけど我慢して欲しい」


多分、怪しい人物が居た時に使う取り調べ室みたいなスペースなんだろう。外から入って少し奥まった場所にある3~4人くらいで一杯になる大きさで、机と椅子2つ以外何も置かれてなかった。


「いえ、問題無いです」


まだまだ成長期な僕は、身長体重共にザ・平均値だ。年齢相応なので傍から見ればひょろっとしていてとても冒険者をやって1年も経っているとは思われないんだよね…年中駆け出しに見られるというか…いやよそう。トラウマが蘇ってくるし…ぐすん。


「先ほど、確認の為にあの紙をまわしておいた。少し時間が掛かるかも知れないが…」


「あ、いえ、大丈夫です。6日以内に確認が取れれば…」


「6日?…何か約束でもあるのかな?」


「えっと…乗合馬車が6日後に来るって聞いたもので…昨日の便、乗れなかったんですよね…マウンテリバー行きの定期便」


「あぁ…成程」


遠い目をした僕を見て悟ってくれた門番さん…それ以上深く突っ込まないでくれたので助かった。誰でも自分のミスでやっちまったことを説明するのは嫌だしね…傷を抉るようなもんだし。


「それでだ…。何があったかということについてだが…」


すぐに話題を切り替えてくれたので、浮いていた口から出掛かった魂を吸い戻して真面目な表情に戻す僕。


「えっと…」


かくかくしかじか…で省略説明?…いや、ちゃんと説明したよ?…まぁ、寝て起きた経緯だけボカしたけどね。休憩地以外で寝てたとか正気を疑われるし…


「ふむ…貯水池の件については聞いていたが…施工したのが君だったなんてな。大したものじゃないか!」


自分たちが住んでいる町が水不足に悩まなくて済む。しかもそれを成し遂げたのが目前のちょっとだけではあるが見知った少年と聞いて誇らしく感じたのか笑顔になる門番さん。だが、すぐに怒気を含んだ顔になる。


「…それを、あんなでっちあげの指名手配書を作って報酬を強奪しようとは。実に怪しからん!」


怒って貰っておいてなんですが、本物か偽物か確認中なんですよね…多分1時間とかそこらで判明するとは思うけど…調査してくれる上の人たちが余程無能じゃなければ!


「僕の言い分としては、大事業で大金貨1000枚って公言してる時点でいい迷惑なんですよ…実際、報酬は大金貨1枚どころか金貨24枚にも満たない訳ですし…」


と、依頼完了書と合わせて貰ってた報酬明細書を取り出して見せた。これには領主のサインもされているので本物と自信を以ていえる。


「これは…確かに」


探索者ギルドに提出する依頼完了書(依頼票とは別に発行される用紙。通常は依頼書にサインするだけだけど今回は特別、ということで別途完了の証として発行された。勿論、依頼票にはミランダ婦人の直筆のサインがされてるけど)は斜め読みしてすぐ返されたけど報酬明細書は多少時間を掛けて見ている門番さん。


「本物のようだね。だが、公言していた事業費には桁違いに安い…な」


そりゃそうでしょ。大金貨1000枚の千分の1にも満たないんだし。残りの大金貨999枚と金貨76枚と銀貨14枚と銅貨53枚は何処行ったんだ!?…って思うよね、普通。


「むぅ…すまないが、これも借りていいだろうか?…勿論、用が済めば返却する」


うーん…貸すのはいいんだけど、これもギルドで報酬額の証明として必要だそうだから無くされると困るんだよね…あ、そうだ。


「ちょっといいですか?…これと同じ枚数分だけ、書類で使う上質紙って余ってませんか?」


「え?…あぁ、あるにはあるが…書き写すのかい?」


「えーと、まぁやるのは似てますけどね。後、ペンとインクもお願いします」


「わかった…少し待っててくれ」


そういうと門番さんは部屋を出て行き、少ししてから戻って来た。手元の報酬明細書の枚数より多めの紙とペンとインクを持って…


「じゃ、今からやることは、できれば他言無用でお願いしますね?」


サンフィールドに来てから披露する2回目の男のウィンク。やっぱ可愛い女の子じゃないと締まらないよね…



「おお…これは…本当に生活魔法なのかいっ!?」


「だからそんなに大きな声でいわないで下さいよ!」


「あぁ、すまない。約束だったな…」


「男と男の約束ですよ?」


紙面複写ペーパートランスファー」の生活魔法を使っただけなんだけどね。書物でもピラ1枚の紙でも、紙の上にある文字や絵を別の紙面に複写する生活魔法。複写する先の紙が元となる紙とサイズが違うとリサイズして複写してくれるんだけど、余り小さい紙だと読み辛くなるので同じサイズの紙を用意して貰ったんだ。だって、ペンは紙が小さくても同じ太さの線を引くからね…文字サイズが小さくなるとそれだけ読み辛くなるって訳。


「あぁ…これは生活魔法を極めると誰でも習得できるのかい?」


「できる筈ですよ?…唯、魔力が少ないと練習量も限られてしまうので時間はかかっちゃいますけどね」


「成程…練習か…というか、何の生活魔法を練習していれば習得できるんだろうか?」


「…さぁ?」


「さぁ…って?」


「いえ、色々やってたらいつの間にかできるようになってたので、わからないんですよ…役に立てなくてごめんなさい」


「いや、いいんだ。こうして知る機会を得られるというのも大事なことだ。下手をすれば一生知る機会が巡ってくることも無かったかも知れないからね」


理解が早くて助かるなぁ…と思うも、そろそろ1時間くらい経過するけどどうなったんだろうか?…と思いながら複写元の書類を手元に残し、複写先の書類を整理していたら外から人が入って来た。


(ようやく、結果が出たのかな?)


そう思いながらドアを見ていると、


「此処にザックという少年が来ていると聞いて来たのだが…」


と、門番さんより年配の如何にも上司らしい人が数人の部下らしい人を引き連れていた。


「は!この少年がザックくんです!」


びしぃっ!…と立ち上がって敬礼をする門番さん。今までの砕けた様子が一気に固くなってて吹き出す所だったよ。と、僕も慌てて立ち上がって


「あ、はい。ザックです…えと、例の指名手配書の件でしょうか?」


と、頭を下げてから訊くと、


「うむ…此処では何だな。場所を改めて変えたいのだが…同行願えますかな?」


「わかりました」


と訊いて来る門番さんの上司?さん。取り敢えず報酬明細書(写)を門番さんに預けてから、荷物を背負って同行することとなった。


(う~ん…何処に連れてかれるんだろ?…まさかとは思うけど、いきなり裁判所…じゃないよね?)


何しろ、手配書の真贋を聞きに戻っただけなんだし。いきなりクライマックスは止めて欲しい…心臓に悪いしね!


━━━━━━━━━━━━━━━

これくらいの文明社会ではどんな扱いになるんだろうなぁ~…と思いつつ書いてます。まぁ、今の所は何も参考にはしてないですけどね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る