トホホな復路の僕
10 その1
水不足を解決してくれという依頼を請け、依頼人のミランダ婦人に同行して1箇月を掛けてサンフィールドに来た僕。更に1箇月の期間を掛けて、貯水池に改良を加えてウォーターという生活魔法で底が見えてたり見えかけていた貯水池を満水状態に。苦労した甲斐があり、サンフィールドは雨季が来るまで水不足には陥らないと思う。寧ろ、改良を加えたせいで、雨季が無くとも数年は耐えられるっていうね…。そんな過剰な改良は僕がやったと公言しないように頼んだのだけど、快く婦人は請け負ってくれた。まぁ、その日の内に追い出されるように領主の館を出ることになったんだけどね。で…マウンテリバー行きの乗合馬車に乗って帰ろうとしたんだけど…ちょいと路地に入って余分な荷物を指輪形状のストレージに仕舞って戻ったら…既に乗合馬車が出て行ってしまった後だという…おいおい、どうするよ、これ。
━━━━━━━━━━━━━━━
- ザック、取り敢えず食料を求める -
「はぁ…仕方ない。宿を取って1週間待つしかないかなぁ…」
出て行ってしまった馬車を追ってもその場で乗せてくれるかどうかも不明な現状、一番確実だと思われるのは宿をとって待つことだろう。若しかすると、これから行商や荷物の運搬でマウンテリバーに行く商人が居るかも知れないが、恐らく冒険者ギルドの管轄で探索者では護衛の依頼請けられない可能性も高い。
「若しくは、お金を払って乗せてって貰うかだよな…下手をすると乗合馬車に乗るより高いかもだけど…」
どちらにせよ、食料の確保をしようと歩き出すザック。水は兎も角、原価がクソ高い兵糧丸を浪費するのは後々困ることになる可能性が高い為だ…
・
・
「う~ん…何か知らないけど高いなぁ…」
弁当の類。歩きながら食べられる軽食の類。加工前の食材はそうでもないが、買ってすぐ食べられる食料は軒並み高騰していた。また、やたらと人が多くて道も歩き辛く、食堂なんかも混雑して行列を成す店が殆どだ。
「何かお祭りでもあるのかねぇ?」
道を行き来する人は仕事をしていた期間に比べて倍以上に増えていた。よく観察すればサンフィールドとは若干違う服装をしている人も多く、外から来ていることが伺える。みな笑顔で歩いており、先程買えなかった食料を持って食べ歩きしている人も多いのだ。
「はぁ…何か腹減って来たな…」
仕方なく、何処かで調理して食えばいいかと食材店を覗くことにするザック。表通りの店舗は混雑で近寄れなかった為、脇道に逸れて裏通りに向かうことにする。余り治安は良くないと聞いていたが食材の品質や鮮度には差がないとも聞いていた為だ。
「えーっと…あ、あったあった、あそこだ」
記憶を頼りに目的の店舗を探して見つけたザック。裏通りでも人が居ない訳ではないので気を付けて歩く。裏通りと聞くとよく盗賊とか引っ手繰りとかスリに狙われてトラブルに遭遇すると思い勝ちだが、まさか昼前の午前中から活動している裏の業界の人物が食材店の前で待ち構えている…なんてことはなく、無事に目的の食材を購入を済ませていた。
「野菜類と肉類と調味料と…。流石に1箇月分だと持ちきれないから何処かで収納しないとなぁ…」
矢張り宿を取った方が無難かと思い、一旦表通りに出て宿を探す。流石に路地で収納作業は誰かに見られているかわからず危険だと判断したからだが…
「あぁ、満室だ。帰った帰った!」
「明後日のお祭りで人が押し寄せてるからね。空いてる部屋はないよ?」
「空いてないこともないけど、あんたスイートとか泊れる金持ってんの?」
などなど。金があれば泊めてくれるっていう最後の宿は急いで出てきたが(一泊金貨1枚とか法外過ぎる…)程々な金額設定の宿は大体満室らしい。その中で話しを聞いてくれそうな受付の居た宿で
「何のお祭りなんですか?」
と聞いた所…
「あんたそんなことも知らないでサンフィールドに来たのかい?」
「え、えぇ、まぁ…お仕事しに来ただけですので…」
「あぁ、成程ね。大変な時期に…とはいえ、急に決まったって聞いてたからね。調整しようもないよね、そりゃ」
と、半ば苦笑いしていた。まぁ早い話し…貯水池に水が満たされ、具合の悪い半ば放置されていた貯水池も全て修理され、それどころか全ての貯水池が貯水量を増強されて周辺の町や村で干ばつ被害があっても対応ができるくらいになった。そのお祝いに祭りを大々的に行おうと…そんな内容だった、よ…
「へ、へぇ~…凄い大事業が成功されたんですね?」
苦笑いで返すと、
「そうなんですよ!…何でも、大金貨1000枚規模の大事業だったとか…昼間にそんな工事をやってるのを見てないから、夜間にこっそりとやってたんでしょうかねぇ?」
(大金貨?…俺の報酬って確か…)
ギルドの宿3箇月分前払いで銀貨3枚と銅貨40枚。1箇月の作業の報酬が金貨23枚と銀貨81枚と銅貨77枚。確か、これは帰りの乗合馬車の代金も含めてる筈…食費も含まれてると助かるんだけどなぁ…はぁ。
「大金貨1000枚ですか。想像もつかないですね…」
「そうだねぇ…わたしらは大きくても扱うのは金貨がせいぜいだしね」
あはは…と苦笑いする受付の人。ちなみに…と大金貨の価値を訊くと、
「あぁ、お兄さんは知らないのかい?…確か、金貨1000枚分って聞いたことあったかな?」
通常は素材の違う貨幣は殆どが100枚で上位の貨幣と交換が可能だ。つまり、銅貨100枚で銀貨1枚に。銀貨100枚で金貨1枚と等価値となる。一般的に流通してない卑賎の類も、本当かどうかは知らないけど石貨100枚で鉄貨1枚。鉄貨100枚で銅貨1枚と交換できる、らしい。流石にスラム街には行ったことがないのでまた聞きの情報なんだけどね…
「更に上のお金もあるって話しだよ?…それこそ王様に下賜される、国に貢献した人にしか貰えないらしいんだけどね?」
…ちなみに名前は白金貨といってミスリルが混ざっている金貨らしい。価値的には大金貨の1000枚分。たったの1枚で金貨の100万枚分の価値とか…それ、重過ぎて持ち切れないし運べないよね?
(あぁ、だから高額貨幣に需要があるのか…)
どちらにせよ、ストレージに殆ど収容してる僕には関係はないんだけど…
(事業費の大金貨1000枚って…白金貨1枚と等価値か。でも、実際に掛かった費用は合計すると金貨23枚と銀貨84枚と銅貨147枚か…)
必要経費として買ったスコップの代金と部屋の賃料・食費も報酬から差し引かれてるらしい。僕が泊ってた1箇月分の生活費諸々を含めたとしても、金貨24枚も行かないんじゃないかなぁ?…泊ってた部屋だって1人で何とか住まうことができるような個室だったしねぇ…。寝泊まりするだけの部屋で生活するに困ったことは無かったけど、公表してる事業費と比べるとケチ過ぎないかなぁ?(差し引いた残りの大金貨999枚と金貨76枚と銀貨14枚と銅貨53枚は何処で使われたんだろうねぇ?)
「そうなんですか…あの、差支え無ければ裏庭を1時間くらい借りることはできませんか?」
「ん?…何でだい?」
「あ、いえ…見て頂ければわかると思いますが…食材を仕舞う暇が無くてですね…あはは」
苦笑いを浮かべながら、両手に抱いている大袋を見せるザック。一応、空っぽの背負い袋を背中に背負っているが、混雑している道では詰め直すこともできずに困っていたのも事実だった。
「あ~…この混雑じゃしょうがないよね。あなたも外から来たばかりで宿も無いってのはさっきの問答でわかっているし…仕方ないね。いいよ、1時間で済むんだろう?」
「はい!…貸して頂けるので?」
「あぁ。だけどそれ以上は無理だからさっさと出て行っておくれよ?」
「わかりました!」
受付の女性…この宿の女将さんだったらしい…に場所を聞いたザックは、裏口を出て裏庭へと行く。表向きは食料を背負い袋に詰める作業+αをこなす為に。その実、別の作業をこなす為に…
- 収納系アイテムをでっちあげます -
(やっぱりお手軽に使えて高額でも売ってる奴をもう1つ揃えて置いた方がいいよねぇ…となると、袋タイプが無難かな?)
脳裏で設計図を組み立てるザック。傍から見ていれば、背負い袋の中に買って来た食料を苦労して詰めている…と見えている筈だ。量が多いので袋も駆使して中の住み分けをしないと傷付けてしまう…と悩んでる風に見せている訳だ。
(錬成は目立つからなぁ…特に光が。ストレージの中でできるといいんだけど…)
(よし、設計図はこんなもんかな?)
【肩掛けバッグ(アイテムボックス)設計】
--------------------
・収容能力:元の収容量(1立方メートル)の30倍
・重量軽減:満載時でも元の収容量と同等量の水1kgと同程度(軽減率は1/30となるので、例えば鉛など重たい物を限界まで詰めた場合はその総重量の1/30が肩に掛かることになるので注意)
・バッグの口より大きい物は収容不可。但し、口より小さい物ならば、収容しきれない長さ…例えば槍などは収容は可能(周囲に高価なアイテムボックスを持っているとバレることを厭わなければ、だが)
・バッグの素材は魔力を内包している砂。砂を物質変換して革のバッグとして精製・形成し、機能のメインとなる高濃度魔石も精製する。
--------------------
(よし、これでストレージ内の砂に…素材の革を精製。精製した革を錬成して肩掛けバッグを生成…)
どうやらストレージ内での作業は可能なようだ。砂も26.16トンから26.15トンに減っているがもっと細かい数値が見れれば大した量は減ってないと思う。
(…よし、次。高濃縮魔石(小)を精製…)
昨夜精製した物より遥かに小さい高濃縮魔石だ。然程時間を掛けずに精製が完了する。ストレージに生成済みの肩掛けバッグと高濃縮魔石が並んでいる。
(…あの時は台座を作って魔法陣を展開して並べたけど…)
少し考えたけど、悩んでも始まらないとストレージの中で錬金術の魔法陣を展開する。すると、どうやら専用の枠があるらしく、そちらで魔法陣がくるくると回っているようだ。
(ふむ…じゃあアイテムを載せてっと…)
思考操作で素材の肩掛けバッグと高濃縮魔石を丸い枠に乗せる。すると、後は実行するだけといわんばかりに魔法陣が光を強めて回転を始める。
(外気の影響を受けない分、安定して精錬できるのかもなぁ…まぁいいか。では、「アイテムボックスタイプ:ショルダーバッグ」を錬成!)
ストレージである指輪と比べ、短時間で錬成が終了する。そして、「錬成成功しました。「アイテムボックスタイプ:ショルダーバッグ」をストレージ収納領域へと収納します」とメッセージが表示される。
(おお、成功した!…なら、今後はストレージの中で色々作業ができちゃうかな?)
ザックは指輪から肩掛けバッグ(アイテムボックス)を取り出し、横に置いておいた借り物の肩掛けバッグを拾い上げる。こちらも若干の収容量を拡張されている物だが、その性能は比較にならない。それぞれ開口部を広げて今創った方を下に。借り物の方を開口部を下にして真上に持つ。
どさどさどさ…
中に入っている物が上から下へと落ちていく。ストレージは指輪タイプなのでそんなことはできないが、これは普通のバッグタイプなので逆さにして振れば落ちて来る。使う時にはうっかりひっくり返してしまうと中身をぶちまけることになるので注意しないといけないって訳だ。
(これで全部かな…一応、空かどうか確認してっと…)
開口部から覗き込むと、外見の大きさよりも広い内側が見えている。借りた方は大体10倍くらいの内容量がある。それでも十分高価な物だとわかっているが、30倍の物と比べると霞んで見えてしまう。
(後は…背負い袋の中身ぎっちりだな。軽い物と一部交換した方が良さそうだ…)
ストレージに突っ込んであった毛布など、軽くてすぐに出して使う物をチョイスして重い食材と交換して詰め直していく。
(下に重い物を入れて上に軽い物を入れるのが鉄則だよな…じゃないと潰しちゃうし)
黙々と詰め込んでいると、すっ…と見ている地面に影が掛かる。
(あれ…雲かな?)
と思っていると目の前に受付に居た女将さんが立っていた。
・
・
「終わったかい?」
「え、ま、まぁ何とか…」
目の前には辛うじて食材が詰まっている背負い袋があり、上に毛布などの野営セットを載せて固定すれば完了といった感じになっている。
「そうか…なら」
「あ、すいません!思ったより時間掛かっちゃったみたいで…すぐ退きますね?」
と、ザックは捲し立ててから背負い袋を背負い、肩掛けバッグを右肩に吊るすと慌てて出て行こうとした。
「ちょっと待ちなよ…」
ぐい!と背負い袋を掴まれてしまう。
「ぐはっ…何するんですか!?」
「いや、慌てて出て行こうとするからだよ。昼飯、まだなんだろう?」
背負い袋を引っ掴む女将さんがニッと笑う。
「えぇ、まだですが」
恐る恐る振り向いて正直に答えるザック。そういえばお腹が空いたなぁと腹を擦っていると…
「じゃあ決まりだな?…うちで食って行きな!…まぁ、流石に部屋は空いてないけどな」
という訳で、肝っ玉母さんみたいな女将さんに食って行けと宿の食堂に引き摺られていくザックだった。下手に逆らっても空腹な今…逆らえないだろうというのもあるが、他人の作った暖かい料理は力を与えてくれる。食べてから出発するのも悪くないだろう…
・
・
「ごちそうさまでした」
「お粗末様。どうだい?お腹一杯になったろう?」
「え、はい。お陰様でお腹が幸せです…」
「うんうん…」
事実、美味しかったし満腹とまではいかないけど腹8分目程度には膨れている。これなら夕方までは十分もつだろう…途中でトラブルとか発生しなければ、だけどね。
「えっと…お幾らですか?」
食堂まで引っ張られて空いてる席に座らされて、メニューも寄越さずに料理を並べられて、「さあ食え!」と…それでも美味しかった料理の数々だ。対価を渡さねばならないだろう…そう思ってたんだけど。
「ん~、そうだねぇ…」
しげしげと見詰められる僕。そんなに珍しくもない普通オブザ普通の男の顔を見ても何も面白くないと思うんだけどなぁ…
「幾らくらいなら払ってもいいと思うかい?」
「へ?」
(幾らくらいならって…若しかして試作品とかで代金を決めてないのかな?…それとも試されている?)
既に殆どを食べ尽くしていて料理の詳細を知ることはできない。唯、この料理に払う代金なら…そうだなぁ………
「う~ん…宿の日替わり定食で一番高いのが銅貨2~3枚くらいだったかな?…でも、あれよりは遥かに美味しかった…でもマウンテリバーとサンフィールドじゃ物価も違うだろうしなぁ…」
サンセスタとハイマウンテンとでは採れる食材の種類や値段も違う。同じ食材もそれぞれの国では値段が違うことも珍しくない。雨季以外では川が干上がっているサンフィールドでは生の魚なんて入手できないから輸入に頼ることになり高額になるのに比べ、川が普通にあって湖も存在するハイマウンテンでは川魚に限っては豊富に取れるので割と安く入手が可能…といった感じだ。食べた料理は魚は無くてメインは獣の肉。野菜も少な目だったけど香辛料などはそこそこ使われてたと思う。マウンテリバーでは香辛料などの調味料は高くて使われていても少量で後は塩などで整えられている。岩塩などは普通に入手できるので、調味料といえば塩!って感じなんだよね…
(美味しかったけど毎日同じ料理ばかりだと栄養が偏りそうな感じだったかな?…お腹が空いてたからあっという間に平らげちゃったけど…とすると)
「そうですね…高くても銅貨3枚くらいなら払えるんじゃないかな?…それより高いと、ちょっと手が出難いって印象ですし」
料理は得意分野じゃないのでどれくらいのコストが掛かってるか、なんてわからないけど。1年近く食べていた、ギルドの宿で食べた代金を支払った数々の料理と比べたら、それぐらいが妥当なんじゃないかと判断して話した。すると、女将さんがニカっと笑いながら。
「そうだよねぇ…矢張り、その辺りが妥当なんだろうね」
という。後ろに居た料理担当らしい男性が
「えぇ~…それだと少し足が出ちまうなぁ…」
とぼやいていた。
「なら、早速コストダウンだね。無駄を省いて利益が出るように頑張るんだよ、あんた!」
と、バンバンと背中を叩きながら笑って離れて行く。
「え…あの、代金は?」
慌てて立ち上がって叫ぶと、
「まぁ…色々参考意見も頂けたし、味についてはあの食いっぷりでわかったからね。試食して貰って、価格設定の参考意見も頂けた…ってことで、タダでいいさ。やったね、タダ飯食いができて!」
くぬくぬと肘をこちらに向けていた女将さんは、「じゃあ、またね」と手を振って受付へと戻って行った。料理担当者改め旦那さんは、
「ありがとよ…まだまだ研鑽しなきゃいけねえが…な」
と、こちらもこちらで厨房へと引っ込んで行く。そして、食べ終えた食器類を片付けたウェイトレス?さんが
「食べたなら邪魔だから出てって貰えますか?」
と、ちょっとキツイいい方で追い出しにかかる…
「あ、はい、すいません。ごちそうさまでした!」
といって慌てて出ることに…。
(一体何だったんだろうな…まぁ、1食浮いたってことでいいのか?)
こちらは1食浮き、向こうは悩んでいた値段設定に参考意見が聞け、その値段に合う料理にする為にコストダウンを余儀なくされると…まぁ努力しなければならないけど決まらなかったことが決まったと。
(Win-Winだったってことでいいか…)
僕は宿を出て、背負い袋を背負い直して肩掛けバッグを左肩に掛けた。利き腕の肩に掛けてたら、何かあった時に困るかも知れないからね…。僕は少しだけお世話になった名も知らない宿を後に…
「って看板くらいあるか…」
その宿の名はこう書かれていた…「止まり木の宿」と………。意味?鳥なんかが止まれる枝とかそんなんだっけ?…僕の知識じゃそれくらいしかわかんないよ。子供の頃、学舎なんて通えなかったからまた聞きの知識なんだけどね…
- ようやくサンフィールドを出る -
「さて、まごまごしてると次の休憩地まで間に合わなくなるからなぁ…そろそろ出るか」
乗合馬車が出発してから遅れること3時間。徒歩移動で移動するなら朝食を摂った直後に出ないと到着前に夜になってしまうのだが、ザックには余裕さえ伺える。その手には板が握られていた。木製の壁の補強にでも使いそうな物で、町中を歩いている時に見つけて購入した物だ。
「あ、えーと門番さん。マウンテリバーに帰るので門を出たいのですが宜しいでしょうか?」
無言で通ろうとすると呼び止められるのはわかりきってるのでこちらから出る旨を理由を添えて訊くザック。声を掛けられた門番はこちらに僅かに目を向けてからこう発言した。
「その板は何かね?」
と。ザックは、
(まぁ疑問に思うよねぇ…)
と思い、
「昼間の日差しが強いですから、日陰を作りながら歩けばマシになるんじゃないかと…あはは」
と苦笑いを浮かべながら説明する。門番も苦笑いしながら、
「あはは…そうだな。こう毎日暑いとな…いいだろう、通って良し」
と、あっさりと許可を出してくれた。いい人だなと思いつつ、
「ありがとうございます。お仕事頑張って下さい!」
と、頭を下げてからあることを思いつき、ピュアウォーターで創った水入りの瓶を錬成して肩掛けのバッグから取り出す(ように見せ掛けた)それを2本持ち、門番さんに手渡す。
「…あの、良かったらこれ、どうぞ」
陶器製の瓶を見た門番は、
「水…か?これから帰郷の旅に出るのだろう?」
暗に貴重な飲み水を渡していいのか?…と訊いて来る。
「え、あぁ大丈夫です。僕、これでも生活魔法で水くらい創れますから」
といってその大きな手に瓶を2本持たせる。ちらともう1人の門番に目配せしてから、
「同僚さんにも分けてあげて下さいね?」
とウィンクを1つ…いや、男の僕がやってもキモいだけかも知れないけどね。目の前の門番さんは、
「そ、そうか…すまないな」
といいつつ、何かを取り出そうとして両手が塞がってたことに気付き、同僚さんを呼び寄せて瓶を一旦預けると、
「これは…対価だ。何、気にすることはない。わたしはタダで施しを受けるのが嫌いなだけだからな?」
と、懐から小さな袋を取り出して中から銅貨を2枚摘まんで僕に見せる。
「えと…」
受け取るかどうか迷っていると、
「坊主、隊長からの折角の心付けだ。受け取らないとへそを曲げちまって出発が遅れちまうぞぉ?」
と、同僚と思っていた部下さんなもう1人の門番さんが突っ込んで来た。確かにそうなるとタダでさえ遅れている出発時間が更に遅れてしまうかも知れない。仕方なく僕は頭を下げて、
「あ、有難う御座います。そんなつもりでお渡ししたつもりではないのですが…そうですね。ここは砂漠の国。水は貴重品ですもんね…」
と、銅貨を受け取った。ちなみに、瓶は1リッターの半分…500ミリリッターの容量で2本で1リッターだ。瓶は陶器製だけど、薄く落としたくらいじゃ割れないように強度を上げてて、蓋も再利用できるように弾力性のあるコルク栓を使っている。まぁ、元は例の砂で強化や材質の変更もして実現しているんだけどね。
「まぁ…そうだな。有難く頂くとするよ」
門番(隊長)さんはニカっと笑うと、喉が渇いてたんだと早速蓋を取ってラッパ飲みする。ごっごっごっ…とあっという間に飲み干したんだけど、大丈夫かなぁ?…お腹。
「こっ…これはぁっ!?」
飲み干した後、まるで目や口から光の奔流を幻視する程に大声を出して驚いていた。いや、僕ももう1人の門番さんも驚いて後退ったくらいだ。
「どっ…どうしたんですか、隊長!?」
そんな門番さんに僕はこういった。
「飲んでみればわかりますよ」
と。結果、美食を食べると「うまいぞ~」って叫びながら目と口かあビームを吐く人間がもう1人増えたのは言うまでもなかったけど…味皇?…そんな人は知り合いに居ませんけどね!
「何か、此処に居たら不味い気がする…」
ってことで、通過の許可は取ってあるし僕はそそくさと通り抜けることにした。何であんなにうまいぞ~って感動されたのかは…多分、「冷たくて雑味の無い美味しい水」だったからだろうね…流石ピュアウォーター。冷えた美味しい水ってだけでこの国では値千金なんだろうね!
━━━━━━━━━━━━━━━
得られるとすれば、雪解けの高山で得られる水くらいでしょう(但し、純水ではなくある程度色々混ざってる水となるけど)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます