09 休日。趣味に没頭する僕

膀胱の危機を脱出した僕。その後、監禁されたのは僕のことを良く思わない人が居て閉じ込めたって話しだった。まぁ、無事に解放されたので良しとしようと思う…ま、まぁ…解放された時にちょっと怪我したけどね…あはは(苦笑)その後、本来のお仕事をさせて貰ったんだけど…ちょっと余計なことをしたせいで、当初の予定ギリギリまで掛かっちゃったのは…あんまり笑えないけど…まぁ間に合ったのでいいか。ただ、今回のお仕事の内容は他には内緒にして貰わないとなぁ…あちこちで似たようなお仕事をやってくれ!っていわれても、ちょっと無理だからね…。いや、無尽蔵の魔力も体力も無いし、この身は1つしかないからね?…同時に依頼が来た日には、逃げ出すしかないと思う…

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- 丸一日の休日の後 -


「ふわぁ~…むにゃむにゃ…」


昨夜は晩御飯を辞退して、起きた後は朝だけ食べて…後はず~っと寝てたんだけどね。魔力が結構際どい所まで減ってたので回復させないとだし。1度目が覚めた後は、砂漠まで出掛けてって、魔石モドキ水晶を量産してたよ。今後も便利にしたいからね。…で、ついでに砂を物質変換して指輪に変えて魔導具を創ってみた。前から欲しかった物が、ここの魔力を多く含む砂なら代用素材として創れそうな気がしたからね。それは…


「疑似オリハルコン神の金属精製。疑似ミスリル聖銀精製。高濃縮魔石精製か…」


「オリハルコン」…神の金属といわれてる魔力を良く通し、高い魔力耐性を有し、強度も「アダマンタイト」に次ぎ、金剛石といわれている自然界最高硬度10を凌駕した硬度19を誇る金属だ(アダマンタイトは硬度21で、今の所は「ヒヒイロカネ」と呼ばれる文献から名前だけでしか知られていない物質に次ぐ硬さを誇る。らしい)各種耐性も非常に高く、加工するには高い魔力をもつ鍛冶師が錬金術師と協力して魔力を徐々に馴染ませないと無理だともいわれている。だけど、生活魔法の土系魔法を操ると、疑似とはいえ…何故か精製できたんだよね。かなりの魔力を含む素材が無いと無理だし、僕自身も魔力をかなり消耗するんだけど…


「…よし、指輪1つ分の小さいけどインゴット精製完了っと…」


次はミスリルの精製だ。こちらも疑似だけど、オリハルコンが疑似なので合わせないと馴染まないのでしょうがない、と。予め創っておいた魔力補充用の魔石を拾って「吸引」する…まとめて10個を手持ってたけど、今回は8個からの吸引でほぼ満タンになったようだ。


「空っぽのは後で充填と。2個は戻しておくか…」


離れた場所に空魔石を置き、魔力が残っている僅かに光っている魔石を戻す。一応、3回の精製と1回の錬成用にと40個を用意していたけど、何個かは余りそうだな。


「じゃ次。ミスリル精製っと…」


疑似オリハルコンと同様に神経を集中させて、小さ目のミスリルインゴットと、最後に高濃縮魔石を精製する。ミスリルはエルフという種族が特定の魔力場で精製する金属っていわれてるけど、普通にミスリル鉱山が存在する所からエルフは関与してないみたいだ。ただ、エルフが住居としている近所の山地が産地になってることは多いみたいだけどね…駄洒落かと思った?…うん、僕も最初は「は?」って思ったけどね。高濃縮魔石はその名の通り、通常の魔石をより圧縮して濃縮した物で指輪の宝石と同等の大きさまで魔石を小さくした物。まぁ、普通に自然界ではそれくらいの大きさの物しかないってだけなんだけどね。


魔導自動車とか魔導飛空艇には、それを幾つも繋ぎ合わせた大型のの高濃縮魔石を造って魔力タンクにする研究があるそうだけど、成功したって話しは無いみたい。天然物といっていいかわかんないけど、10mクラスのドラゴンから取り出した巨大な魔石を飛空艇に転用してるとか、3mクラスのドレイク低級ドラゴンから取り出した魔石を自動車に転用してるとか。まぁ、魔導自動車は高そうだけどお貴族様がステータスの為に購入して使ってるとかは聞くね。魔導飛空艇は流石に見たことはないけど、国や軍用、友好国との行き来に運用してるとか?…まぁ、また聞きだけどね。平民な僕にはそんなのは目にする機会もないだろうなぁ…せいぜい、馬車に乗って移動がいい所かな。


「ラスト…といっても素材の用意だけどね。さて…高濃縮魔石か。こいつが一番大変かな?」


再び魔石を10個掴んで吸引する。今回は9個を消費して魔力が満タンになった。さっき、何か力が湧き上がった気がしたから、アイテム精製の経験値が入ってレベルアップしたのかも知れないな。


「やっぱしレベルアップしても体力は回復するけど魔力は回復しないんだな…」


※回復してるけどレベルアップして上限が増えた量だけ回復し、減った魔力量が回復量より多いと回復してないと勘違いするだけ。インゴット精製で消費した魔力量は素材によって左右される為、消費本数も変わるというのもある。ザックの体力は魔力より少ない為に(探索者としては普通の体力ともいえるが魔力量は規格外に多い)レベルアップすると常に満タンをキープしている為にそのような勘違いをしているともいえる。魔力量が多いのは、探索者を始める前から常に生活魔法を使用して鍛錬していたこともあるが、それはまた別の話し(普通は生活魔法で鍛錬はしない)


「さてと…」


ずずず…と砂が減り、穴がどんどん深く大きくなっていく。普通の魔石を生成していた時とは桁違いに砂を消費するようだ。その穴の大きさが半径30cmを越え、深さも50cmくらいになった頃に穴の拡張が鎮まる。ザックは額を汗だらけにして一息を吐く。


「ふぅ…って、げげ。こんなに大きな穴に…拾えるかな?」


時刻はそろそろ夕刻になっており、暗くなってきている。太陽はまだ地平線より高い位置にあるけど後2時間もすれば地平線に到達するんじゃないかという高さだ。僕はまだ魔力を含んでいる魔石を1つ拾い上げ、穴にかざしてみる。


「う~ん…もう1個」


もう1本を手に取り、両手で穴にかざすと…


「お、これか」


穴の中で魔石の光に反射してキラリと光る高濃縮魔石を見つけて、傍に魔石を置いてから拾い上げる。流石に通常の魔石の数10倍の魔力を内包する為か、紫の色が濃い。日にかざすとキラキラと色々な色に移り行き、宝石の万華鏡みたいだ…いや、万華鏡って見たことはないんだけどね。これもまた聞きで…円筒形…要は筒だね。中に色々と色細工されていて空いている穴を光にかざして覗き込み、くるくる回すと中の模様も移り変わっていてとても綺麗なんだそうだ。高濃縮魔石も指の中で動かすと、そんな感じでキラキラと光って綺麗だったって訳だ。


「…いつまでももてあそんでてもしょうがないか。最後の仕上げと行こうかな?」


取り敢えず空いた穴は後で塞ぐとして、場所を移して台を造る。いや、後ろにぶっ刺して置いたスコップを使って盛り土ならず盛り砂してウォーターで少し濡らしてからスコップでパンパン打ち固めただけだけどね。そして、インゴット2つと今精製したばかりの高濃縮魔石を横に並べる。


「さてと…機能と性能の設計…完了」


機能とは錬成し完成した後に任意に起動することで得られる能力。魔導具なので魔力を消費して起きる能力だね。この場合は「ストレージ」という機能となる。よくある収納袋やアイテムボックスの最上位バージョンで、指輪タイプなので場所も取らずに超便利な魔導具となる予定。いやぁ、今まで創りたくても創れなかったんだよね…何しろ、「魔力を多く含む素材」とか、「枯渇してもすぐ魔力を回復できる安全な環境」とかが無かったからね…いや、魔力を多く含む素材ってあっても無茶苦茶高いし、仮に買えたとしてもそんなに多く売ってるものじゃないしね。大抵は武器防具魔導具に作り変えてしまうもんだし…。魔力回復も、MPポーションが物凄く高いしそんなに量が無いんだよね。冒険者の魔法使いさんとかが道具屋にあれば全部買い占めちゃうからねぇ…。探索者には魔法使いさんは居ない訳じゃないけど、数が少ないしMPポーションをがぶ飲みできる程裕福な人は居ないっぽい。大抵、1本を持ち歩く程度しか常備してないみたいだし?(逆にHPポーションはそこそこ多く持ち歩いているみたい。HPポーション用の薬草は、住んでいる地域では群生してるみたいだからね)


「検証…現有する素材から設計図の錬成品は完成に至るか?…完了」


検証結果は十分に完成に至るっぽい。成功率96%ってことは、失敗も4%だけある訳だけど…


「まぁ、何事も絶対100%なんてことはないか」


素材の品質と量。そして錬成する者の技量と魔力量。更に錬成するその場の力場や環境など、様々な要因はあるけど…


「もうちょっと中天に太陽があれば100%を突破してたんだろうねぇ…」


今や太陽は地平線に向かってまっしぐらで、後2時間弱で地平線に。1時間もすれば暗くなってしまうから、成功率が減ってるんだろうね。素材がさんざん太陽の陽光を浴びた砂漠の砂だけに、太陽の影響が強いということだろうし。


「じゃ、急ぎますか。これ以上成功率が低下しない内に!」


3つの素材をじっと見詰めて目を閉じる。脳内に展開した設計図を幻視し、それぞれに嵌め込むように考える。現実の素材は台座の上に置かれたまま。ザックが設計図を思い浮かべたと同時に魔法陣が台座に浮かび上がり、素材を嵌め込む様に考えたと同時に魔法陣の空いた位置にひとりでに移動する。空いた円は三角の頂点、底辺の左右に開いており、穴の開いてない三角も組み合わさっている様は六芒星のように見える。


「…よし。魔力注入…」


穴の開いてない三角の頂点それぞれに光った円が浮かび上がる。それはザックから放たれる魔力の光を吸い込み始め、暫しの後に魔法陣全体が光量を上げて光り始める。時間経過と共に光量を上げた魔法陣が徐々に宙へと浮かび始めて、やがて魔法文字がくるくる回り始める。一定の速度に達した後、内部の六芒星も回転を始める。


「…ここだ。錬成!」


目を閉じたままのザックにはわからないことだが、既に目にも止まらない速度で回転していた魔法陣は、サングラスで防御していなければ失明しかねない光を溢れさせていた。但し、熱などは感じられず…魔法陣は消失し、台座には1つの物が最初からそこに在ったかのように置かれていた。ザックは魔力の大半を消費し、「はぁ…」と息を吐いた。


「ん…」


ゆっくりと目を開くザック。既に魔法陣は消失し、太陽も後30分もすれば地平線と融合するだろう。空はすっかり夕焼けの赤に染まっていた。


「結構時間掛かっちゃったな…さて、成功かな?」


眼下には指輪が1つ台座の上に鎮座している。ひょいっと拾い上げてしげしげと見詰める。


(…特に綻びも傷もないな。テスト運用してみないと何ともいえないけど…)


ザックは何処に付けようか少し悩み、右手の人差し指に付けることにした。出来上がった指輪は親指に嵌めても少々ブカブカなサイズだったが…


「よし、問題無くオートリサイズ機能は働いてるな」


人差し指に嵌めると、適度な深さまで勝手に移動して人差し指にぴったりな大きさに縮んだ。具体的には第2関節と第3関節の間辺りだ。外す場合は、外れろと思えば元の大きさまで戻って指先までずれるって寸法だ(落っこちると傷が付くので指先に引っ掛かる辺りで止まるように設計してるよ?…慌て者だと落とすかもだけど)


(無理やり外されそうになった場合…まぁ、「外さない」と思いながら引っ張ればいいかな?)


再び嵌めた後に「外さない」と考えながら引っ張ってみた。セキュリティ機能の検証だけど、先程はオートリサイズ前の大きさに戻ったけど今度はピッタリ嵌ったまま動こうともしなかった。


(指を切断されたら指毎持ってかれると思うけど、そこまで接近させなきゃいいだけだしね。さて、本来の機能の検証をするか…セキュリティ検証は他人が居ないと無理だからねぇ…)


「その前に、もうちょっと魔石創っとくかな?」


僕はスコップを手に取って空いている穴を埋め、台座を均して消してから、砂から魔石を何10個か創ることにした。夜までの30分でなら、同時生成で1000個くらいは行けると思う…多分。


(回収の方が時間かかるかもね…)



「ふう…また吸引しないと。ちょっと無理し過ぎた」


最初に用意していた魔石を消費して魔力を満タンにした。流石に枯渇寸前で気持ち悪かったので、魔力回復しても気持ち悪いのは改善されなかったけど。気休めに「ヒールハンド癒しの手当て」を胸に手を当てて行使する。何となく、胸がムカムカしてたので胸に使ってみたんだけど、多少は効果があったようでスッキリとまではいかないけど改善はしたみたい。


「じゃ、最終検証と行くか…。まずは手に魔石を持ってと…「収納」」


片手に1つだけ魔石を手に取り、指輪ストレージに収納してみた。ちなみに魔力吸引で魔力が空っぽになった魔石だ。魔力を保持してない物品が収納できるかどうかの検証という訳だね。


「…入ったね。次、「収納一覧開示」」


目の前に半透明の枠が現れ、たった今収納した魔石が在ると表示される。



【ストレージ()収納品一覧】

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空の魔石×1

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(どうやら一覧表表示の機能は上手く稼働しているらしい…けど、()って何だろ?)


左の人差し指で右手の人差し指に嵌っている指輪を触れてみる。頭で考えても機能するだろうけど、物理的接触の機能もついでに検証しようって訳だ。


「…ヘルプ表示っと」


触れたことによりやや小さい半透明枠のメニュー一覧が現れたので、一番下のヘルプの文字に触れてみようとしたが、声に漏れていた「メニュー表示」に反応してメニューが展開した。どうやら音声コマンド機能も動作に問題はないようだ…


(検証するつもりじゃなかったけど、まぁいいか…一覧表示の()って何だろうな?…普通に考えれば指輪の固有名詞が設定できて、それが表示されると思うんだけど…)


幾つかヘルプの項目を選んで表示すると、どうやらその考えは合っているようだ。ヘルプを閉じてメニューの設定項目を選ぶ。


「名前の付与…これか」


機能ヘルプがあったのでそれも参照すると、名付けて魔力登録することにより使用者登録して登録以外の人間は使えなくするようだ。しなければ誰でも使えるが、名無しの魔導具は奪い合いの原因になるのでなるべくなら登録した方がいいと注意書きがしてあった。


「…っていうか、僕が精錬したのに何でこんなにヘルプが充実してるんだろ?」


実に不可解ではあるが、この世の魔導具は全て神さまが設計した物らしいのでそういうことなんだろう…と無理やり納得することにした。考えてもわからないものはしょうがないし…


「次は…さっき作った魔石だな」


今度は手に触れずに収納可能か検証する。


「遠隔収納」


目に見えている範囲の生成したばかりの魔石が、元々灯っている光より強めの光に包まれたと思った瞬間…


「うおっ!?」


一斉に光の軌跡を引いて指輪に吸い込まれていった。流石に視界外の魔石は残ったままだったけど。それも再びコマンドワードを唱えれば先程と同様に指輪に吸い込まれ消えて行った。


「…成功っと」


一覧表示をすると、次のように表示された。名前はまだ付けてないので()のままだけどね。



【ストレージ()収納品一覧】

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魔石(魔力枯渇)×40

魔石(魔力充填済み)×1000

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(最後に、無詠唱の機能検証だ…収納範囲設定…収納!)


設定した範囲は目の前の砂地の砂を1cmの深さで見えている範囲全て。そろそろ太陽光も限界なので見えている範囲は扇形に500mくらいかな?視野角って人間は左右に120度くらいらしい。視野角が広い人は真横とかやや後方も見えるみたいだけどね…馬か兎かっ!?…って思うよ、本当…


(さてさて、どれくらい収納できたかな?)



【ストレージ()収納品一覧】

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魔石(魔力枯渇)×40

魔石(魔力充填済み)×1000

砂(魔力含有)×26.16トン

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「…は?」


まさかの小数点以下第2位までの表示だった。いや、トン単位なら0.16トンで160kgあるので表示してくれれば助かるっちゃ助かるけど…


(う~ん…流石に範囲が広過ぎたかも知れないなぁ…端数を適当に捨ててみるか?…160kgだけ取出し)


取り敢えず右手を差し出してそう無詠唱で行使すると、どさどさと恐らく160kg分の砂が現れる。出し終えた砂は、流石に量が多くてこんもりと小山に様相を成していた。いや、流石に僕の身長よりは低いけどね?


「うーん…何砂遊びしてんの?っていわれそうだし、収納しとくか…」


子供扱いされるのが嫌だったので、再び収納しておく。ついでにスコップや弁当箱、砂地に直接座らなくてもいいようにと貸し出されていたシートも収納して、今日は領主邸に帰ることにした。だって、もう太陽が地平線ギリギリに見える程度にお隠れになってて、そろそろ寒くなるからね!


(砂漠は夜は季節によっては氷点下になるって聞くし、さっさと帰るか!)


ザックは急ぎ足で砂漠を後にし、残された僅かな窪地は風が吹けば均されてしまうだろう…多分。



- 貸し与えられている自室に帰還 -


今日は朝食の後に「昼と夕は外で摂る」といっておいた為、弁当を2食分持たされていた訳。ついでに外で過ごすと思われたので2~3人くらい座れる大きさのシートも押し付けられていた。結局はお昼は自室で食べて昼寝をし、目が覚めてから出掛けた訳なんだけど。


「弁当箱とシートは返却したし、お風呂も入って来たから後は寝るだけだな…」


帰る途中で冷えた体も、湯船に浸かりよく温まったのでポカポカだった。


「さて、最終検証してから寝ようかな…」


指輪にタッチしてメニューを表示させてステータスを表示させる。人間にも鑑定魔法やギルドのカードを魔導具に掛ければ詳細なステータスを見られるらしいけど、この指輪の機能ではそこまで詳細な情報は見られない。せいぜい、幾つかのステータスを見られる程度だ。



【ストレージ()ステータス】

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耐久値:9,999 / 10,000

残魔力:9,999 / 10,000

収納量:

(数量)1,040 / 1000M

(重量)26.161t / 100Mt

※単体の容積・重量が小さく、総量が重い物は重量で表現されます

※水や砂などが該当。出し入れする時は容積か重量を指定して下さい

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「細か…。やっぱし使用すると魔力を消費するんだな…」


その残魔力もほぼ回復しており、後付け機能の「空気中に漂うマナを取り込んで魔力を補充する機能」も問題なく稼働していると思われる。


(名前長いな…まぁ公開する予定はないからいいんだけど)


この補助機能の魔導回路が公開されると後悔するであろう事態が…まぁ駄洒落だけど一部の業界には洒落にならない打撃を被るだろう…それは。


(魔石業界だよな。メインとなっている魔力タンクとしての魔石は一部を除いて使われなくなりそうだし…クズ魔石って呼ばれる低ランク魔物産の魔石はこいつで本当にクズと成り果てるだろうし…)


回復効果は本当に僅かしかないけど、放置しておけば満タンになるので小さい魔石を使用する魔導具なんかでは使われなくなる可能性が高い。魔導ランタンなんかでは、この回路を組み込むことで、一晩中使っても魔力枯渇から解放されるから…尤も、マナの薄い場所では魔石の方が安定して使えるんだけど。


「…まぁ、その内に誰かが発明しちゃえるような物だから、そうなったらそうなったでどう住み分けできるかが鍵かな?」


話しが脱線しまくってるけど、取り敢えず検証は全て終了した。問題なく使っていけるということで…耐久値の回復に関しては、金属製製品向けの回復魔法を使えば問題ないと思う。流石に魔導具にも使えるようなそれ系統の生活魔法はないので僕は使えないんだけどね…


(正確には、精密機器向けじゃないのは土系統にあるんだけど)


耐久値再生デュラビリティ・リペアーって奴で、非生物…金属製品でも革製品でも、兎に角耐久値を回復してくれる。但し、確率で最大値が最大10%目減りしてしまうんだけど。全く減らないこともあるので運次第。逆に生物はヒールなどの回復魔法があるのでそちらを使えってことだね。あちらは怪我を当人の治癒を促進させて回復するので、怪我の度合いに沿った体力も消耗するので大怪我をしていて体力もどん底だと使えないってデメリットもある。怪我が治っても体力がゼロになっちゃうと過労で死んじゃうような状況になっちゃうからね…大怪我の場合、まずスタミナ回復ポーションを飲ませてからヒールを使ってるみたいだけど。


(ま、包丁とかは壊れかけになるまで酷使してから耐久値回復ってやり方が一般的か。耐久値が減っても最大値の90%だから、数回は回復させて使える訳だし)


勿論鍛冶屋に持ち込んで研ぎ直して貰うでも構わないんだけど、研いだ分目減りするから耐久値が絶対に減るんだよね。一か八かで完全回復する耐久値回復の方がいいし、何より時間が掛からないってのもあってこちらの方が奥様方には受けがいいらしい。何より、うっかり刃こぼれてして研ぎ直しして使えるかどうかわからない傷でも使える状態まで回復するからねぇ…ある意味万能か?


(あ~、でも。流石に真っ二つに折れちゃった奴はダメだったか。別個のモノって認識になってて復活しなかったんだよねぇ…新発見だったけど。説明も難しかったので、「これは完全に死んでますね。直すのは無理なようです」って適当にいってお帰り願ったら、後日「鍛冶屋で打ち直したらできましたよ?」って突っ込まれた。いや、そら地金として溶かして打ち直せばいいんだけどさ…魔法だって万能じゃないんだし)


…とまぁ、考え込んでたらまたいつの間にか寝落ちしていた。う~む…考え込むと集中し過ぎるのは悪い癖だよなぁ。探索中だとヤバイぞ、僕!?



- 翌日、朝食の後にて… -


「ザックくん。お話しがあるのだけど…」


「あ、はい。ミランダ婦人なんでしょう?」


領主の旦那さんは相変わらず忙しいらしい。領主邸内では食事の時くらいしか見掛けない。多分職務室で仕事か外出してるんだと思うけど…香ばしいくらいにブラック無糖だよね(コーヒーかっ!?)


「一昨日を以て依頼は完了ということになりました。お疲れ様です」


「あ、はい…」


何と返したらいいのかわからないので言葉少なに返す僕。まぁ、ギルドでも似たような感じなんだけどね。


「疲れていると思ったので、昨日1日を休息日に当てたのだけど、よく休めましたか?」


「え、はい…。ゆっくりと昼寝してました」


取り敢えず昼寝してぐ~たらしてたので休んだことには違いない…だよね?(誰に確認してるw)


「そう、良かった…さて、報酬なのだけど」


ホッと一息吐いた婦人。流石に1箇月もの間、週休1日でガンガンと扱き使われてたんだけど気にはしてくれてたみたいだ。流石にダンジョンでお仕事していたとしても、休み無しで馬車馬の如く扱き使われてたら3週間目くらいには過労で倒れてたかもだけどね。まぁ、そん時ゃ兵糧丸でドーピングして対処してたと思うけど。あれは栄養満点だから体力回復効果も高いしね…めっちゃ不味いけど。


「まずは前払い分で3箇月分の宿代肩代わり。これはもう支払いは済ませていたのでいいかしら?」


「えぇ、銅貨340枚でしたっけ?」


お財布は銅貨が340枚も入る程大きくなく実際には銀貨3枚と銅貨40枚を支払った訳だ。最初は銅貨378枚だったけど、更に1割引きとなって銅貨38枚が返却された。僕は常に持ち歩いてるのは小さい袋に銅貨20枚と銀貨1枚くらいかな。ギルドカードを持ってれば、最寄りの探索者ギルドで預けてある資金を引き出せるしね。持ち歩く現金は少ない方が何かスリに遭った時の被害額も減らせるって訳だ。


「そうね。それとは別に今回の依頼の報酬があります。これを…」


使用人の女性が別の使用人の男性を引きつれて部屋に入ってくる。っていうか、呼ぶ仕草無しの合図無しで入って来たけど偶々タイミング良く入って来たのか、それとも…


「どうぞ収めてくださいね?」


婦人はニッコリと微笑み、使用人さんたちがテーブルにお金の入ったトレイと何かが書かれた紙を添えて置いた。


「あ…その前にいいでしょうか?」


「何か?」


婦人が訊き返したので、数々の今回のやっちまった案件を黙って貰うようお願いをする。下手をすると砂漠地方の別の町や国、果ては砂漠じゃないけど水不足の国などから次々と仕事の依頼が舞い込む可能性がある。はっきりいってそれは引き受けたくない。特に水不足で永久に枯れた川しかない国や町などから仕事が舞い込んだ場合、無期限で仕事をさせられる羽目に遭うこと必至だ。誰も好き好んでブラックな底なし沼に足を囚われたくないのだ…


「そうですね。わたくしも好き好んで言い触らすようなことはしないつもりです」


「では!」


「…つもりですが、ここまで派手に貯水池を改造してしまっては、サンフィールドを要する我が国…サンセスタにいつバレますことやら…」


「あれ?…サンセスタってお隣の国じゃ…あ」


そう。マウンテリバーはハイマウンテンという大陸の高山地帯を含む中央部から北部の一部、南部の一部、東部の一部までを支配する山岳国家で、現王都は温暖な南部に構えているけど、旧王都は中央部の山岳地帯の中にある。昔は山を切り開いて王都を建設しようという王様が居たみたいなんだけど、結局住み着いている竜種を手懐けも討伐もできなくて、要塞砦みたいな旧王都から撤退したとかなんとか…人間、できないことには手を出さない方がいいよね?


「山5つを越えてるのですよ?…国境はあって無きが如しなので自由に行き来はできますが」


馬車が通れるので道だけは立派だけど、国境は山の中。それも山3つ越えて周辺に村もあることはあるが、山2つ戻らないと存在しない。ので、国境を見張る砦も関所も無い。要は、道を進めば気付いたら別の国になっていて地図上にしか国境線が無い状態だった。そんな訳で、地理に疎い僕は別の国に居るとは気付けなかった訳で…


「そ、そうだったんですか…」


(道理でマウンテリバーと服装が違うし食事も食べたことが無い物が多いと思った…砂漠地方だからかなぁ?…なんて思ってたんだけど、お国そのものが違ったんだね…)


斜め上の今更な事態にカルチャーショックを受けていると、


「ま、国のお偉方にはぼかしておくこととしましょう。それが原因で過労死されても後味が悪いですし」


と、苦笑いしつつも黙ってくれると約束してくれた。流石に契約書を交わさない口約束だけど。王様とか偉い人に追求されたらエライ目に遭うだろうし、その場合は口を割らざるを得ないだろうしね。僕もそこまでは望まない。


(でも、過労死する程ブラックな仕事が集中したら逃げるかな…死にたくないし?)


この先どうなるかわからないけど、今思えば関心が無いか薄い故郷の村は過ごし易かったかもな…村の水の便を良くしても特に何もいわれなくて…。まぁ、多少は感謝されたけどな。水の便が悪くて困った村人たちだけだけど…


「えと…この後は、もう帰ってもいいので?」


「そうですね。報酬には帰りの馬車代も含んでます」


「成程…わかりました」


「では、報酬をお受け取り下さい。諸々を含めましてこちらになります…」


使用人の女性が差し出した紙を受け取って読む。そこには細々と作業内容と期間、そして掛かった費用と報酬としての対価が書かれていた。目線を最後の部分…報酬額合計に向けると…


「金貨23枚と銀貨81枚と…銅貨77枚ですか」


はっきりいって多いんだか少ないんだかわからないけど、滞在費用と食費も減らされてたり、滞在中の備品購入費用も引かれている。いや、必要経費だと思うんだけどなぁ…ケチ過ぎない?


(う~ん…誰も使い道が無い訳じゃないスコップ代も引かれてるし…だったら持って帰ろうかな…って、ストレージに入れっぱなしだった!)


思わず返しそびれていた現実にショックを受ける僕。ま、まぁ…代金を引かれてるなら持って帰ってもいいか…と思いつつ、


「では、整理が付いたら出発しようと思います。1箇月の間お世話になり、有難う御座いました」


「こちらこそ、難しい仕事をやり遂げて頂き感謝に堪えません。お疲れさまでした…」


僕は腰まで曲げて頭を下げてそういい、婦人は軽くぺこりと頭を下げ、使用人さんたちは婦人よりは角度を強めにしていたって感じだった。う~ん…何か温度差があるけど、これが貴族って奴なのかな…まぁいいや。


「では、早速荷造りをします」


再び頭を下げた僕は食堂から出て行った。昼までには出発したいしね!



「よし。こんなもんかな?」


背負い袋と肩掛けバッグを身に纏い、サンフィールドに来てから増えた荷物は指輪ストレージに仕舞い込む。背負い袋と肩掛けバッグの中身も、急いで使う可能性のある物を除いてストレージ行きだ。肩に掛かる重量を軽減したいって目的もあるし、道中買い求めた物を一時的に仕舞えるしね。ついでに部屋も綺麗にしてから出ようか…


クリーン清浄化


部屋の中の表面に付着した汚れをこそぎ落とし、空気中の臭いも分解する。これで僕の体臭や髪の毛、垢なども一掃できたと思う。一応、仕事のあった日は体も小まめに綺麗にして、翌日には部屋を出る時にクリーンで綺麗にはしてたけどね。掃除担当の使用人さんは僕の部屋は掃除する必要が無いくらいに綺麗で不思議がってたっけ…


(人間じゃないんじゃないか?って噂が出た時には、流石に「魔法で綺麗にしてるんです」っていったけどね。化け物と勘違いされたら何をいい触らされるかわかったもんじゃないし…)


「おっと、また考え込んでしまったな…急がないと」


悪い癖が出たので慌てて頭を振ってから、僕は部屋を出た。1箇月世話になった1人用の割と狭い…ってあれ?…大仕事を任せるのに何でこんな狭い部屋で寝泊まりしてたんだろうね…まぁいいか…ベッドはフカフカだったし、困ることも無かったし…



- マウンテリバーへ帰還 -


「おや、もういいのかい?」


「はい。しつこくなりますが…お世話になりました」


廊下で見かけた婦人に声を掛け、これから帰りますと挨拶する。


「申し訳ないわね…主人は出掛けてて居ないのよ」


「いえ、構いません。お忙しいでしょうし」


かえって引き留められない分有難いと思ったザックは、頭を下げる。


「では、お元気で。また困ったことがあればお知らせ下さい。必ずとはいえませんが、できる限りはお力になります」


「わかったわ…。では、気を付けて帰るのですよ?」


ザックは本気でいっている訳ではない。所謂リップサービスというもので、内心は「できるなら2度と来たくないなぁ~」と思っていた。それでも円滑な人間関係を保つ為にはいいたくないことでもいうしかない。ミランダ婦人もそんな考えが透けて見えていたが、気付かない振りをして見送ることにした。これもまた、処世術の1つだろう。



「ふぅ…疲れたなぁ…精神的にも肉体的にも…」


領主邸から出ること30分程が経過し、サンフィールドの出口付近まで歩いてきたザックはこれからどうやって帰ろうか考えていた。本来なら馬車で帰るのが普通であり、それには定期便を探して乗るか、マウンテリバーまで行く行商の護衛としてついて行くかするのが正道だろう。少なくとも冒険者ならそのような手段を取るのだが…


(僕は探索者で冒険者ギルドのメンバーじゃないからなぁ…かといって乗り合い馬車を使って帰るのも何かなぁ…)


帰る時も領主邸の馬車で送って貰えるものと思ってたのに当てが外れたザックは溜息を吐きながら歩いていると、乗合馬車の停留所を見つけた。


「…やっぱり…マウンテリバー経由の奴で1箇月半も掛かるのか…」


乗合というからには御者を含めて2人しか乗らない訳でもない。見える馬車は割と大型だが、かなり年季の入った代物で車輪には最初に取り付けていた振動が腰に来そうなガタガタな紐が多数結わえてあった。あれは車輪に掛かる重量を分散させる為に一杯あるんだろう…砂地では車輪を取られると動けなくなってしまうからな。


「…中は人間だけ乗るなら10人以上か?」


詰めれば15~6人は乗れる面積があるがそれだと手荷物は乗せられなくなる。10人くらいと見るのが正しいだろう。勿論、屋根の上にも荷物は載せられるようになっていた。


「う~ん…背負い袋は収納しとくか。肩掛けバッグだけで十分だしな…」


細い路地に入り、背負い袋を降ろしてからストレージに収納する。そして肩掛けバッグを首にまわして斜め掛けしてから路地から出てくると…


「あれ?」


いつの間にか乗合馬車が居らず、停留所は空っぽだった…


「ちょ!…もう出ちゃったの!?」


驚いて叫ぶと、


「あ~、あんた乗り遅れたのか?」


「え、えぇ…ちょっとそこに行ってる隙に」


路地を指すと、


「ちょっとって、まさか立小便して来たんじゃあるまいな?」


「まさか…それより、次の便っていつ頃でしょうか?」


流石にここから見えない路地に入るってことは…と疑われたけど、即違うといい返した。男は暫く疑わしい目で見てたけど、はぁと溜息を吐いて質問に答える。


「今日はもう無いな。1週間したら次の便が来るから待つといい」


とだけいって引っ込んでしまった。ちなみに、停留所にある事務所らしい小屋だが、それまで暇になるのか出て来る気配がない…


「えぇっ…マジで!?」


(そういえば今日報酬の受け渡しがあったということは、マウンテリバー行きの便があったからなのか…普通、仕事が終わったら即帰って貰う為に追い出しても不思議じゃないもんな…。あの休日は、実は乗合馬車のスケジュールの為の調整日でもあったんだな…)


だが、その甲斐も無く、帰る為に乗る馬車はサンフィールドを既に出発していた。どうするザック!…1週間後に来る馬車を待つか、それとも…


「流石に徒歩で帰りたくないなぁ…それこそ、まさにトホホだし…」


…と、駄洒落で締め括るザックだった。


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座右の銘に「駄洒落なくして何が人生か」といい残しているかは不明です

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