07 その4

最初の野営地で水泥棒に遭遇。チートスキルを駆使して冤罪を華麗にスルーするザック少年。そして、暗くねっとりした政治手腕で水泥棒に罪を認めさせ、金貨30余枚の賠償金を手中に収めるミランダ婦人。平々凡々の御者・キャスパーはビクビクしながら己の仕事を忠実にこなして旅程は消化されて行った…。彼らは無事、サンフィールドの町に辿り着けるのだろうか?…それは神の味噌汁(ちゃんと無事に辿り着きますってば!)

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- サンフィールドまで後僅か… -


「おお…あれが砂場…じゃなくて砂漠かぁ…」


ここ暫くの間、普通に山の中だったのに空気が変わったというかやけに砂っぽい空気感が漂ってたんだけど、ガラリと風景が変わり…というか、山間を抜けたら植物の植生がガラリと変わって砂地が目立つようになってきたんだ。


「まだ序の口だけどな。さて、次の休憩地に辿り着いたらやることがあるから手伝いな」


「あ、はい!」


砂地が目立ってきた街道…いや、人や馬、馬車が通るから踏み固められただけの道に車輪が取られがちになる道中、一路次の休憩地へと向かうザックたち一行だった…



「車輪にこれを巻くんですか?」


「あぁ…砂地が増えれば動かなくなることがあるからな…」


確かに、土の道より砂の道では抵抗が低くなって車輪が回りにくくなる。今までは馬2頭で動いてた馬車が動かなくなることもあるのかも知れない。


(回転しない車輪の馬車は、その重量がモロに馬に掛かってしまうってことかな…)


「わかりました。お手伝いします…」


「おう。まずは1つ巻いてみるから真似してくれればいい」


「はい」


車輪に装着している様子を見る。最初に車輪を浮かせる為に道具を馬車の片側の下に据えて使用する。見た目は風船みたいなモノだけど…まぁ一応目的通り浮いたみたい。


(何て名前の魔道具なんだろ?)


次に、弾力のある繊維みたいな物を巻いていき、紐で数か所を縛っている。そして丈夫そうな布を車輪に沿って同じように巻いていく。最初に巻いた繊維を保護する目的で巻いているように見える。これも紐で固定するのだけど、繊維を固定する箇所に比べてその数は多い。きっと、繊維が飛び出さないようにする為だと思うんだけど…


(これって、結構ガタつかないかなぁ?)


ちゃんと回転するか車輪を回しているけど、横から見ると厚みが一定してないのか車輪もガクガクと不安定に回転してすぐ止まってしまう。これでは故障も早いんじゃないかなぁ?


「あの、いいですか?」


「あ、何だ?わからない所とかあったか?」


「いえ…この覆い布?ですが…故障が早くなったりしませんか?」


「あー、まぁな…。でも、付けないと馬車が動かなくなるし、仕方無いんじゃないか?改良品が出回りゃいいんだけどな…」


(あぁ…一応欠点はわかってるんだ…なら、改良品が出るのを待ってるよりは、今すぐ改良した方がいいよね?)


僕はそう思い、思い立ったら即実行と進言するのだった。



「これは…」


「どうですか?一応ガタつかないように工夫はしてみたんですが…」


目前の馬車は、土の道でも砂地の道でも同様にスムーズに行き来している…と思う。寧ろ、木の車輪のままよりは振動が減ったので乗り心地も前よりはマシなんじゃないかなぁ?


「ミランダ婦人、乗り心地はどうですか?」


「え?えぇ、そうですね…振動が少し減ったのでいいのではないですか?」


「御者台からでもわかる。随分と振動が減ったように見えるんだが…大したもんだな!」


まぁ…木の車輪に土や砂を素材にして創り出した「ゴムタイヤモドキカバー」を巻き付けただけなんだけどね…。先日の土ロープの応用だな。魔法陣は3つまでなのは同じ仕様だけど、機能は次の3つを仕込んでいる。



・木の車輪の外側に沿って装着すること

・地面からの振動を吸収して馬車に伝わり難くすること

・性能維持する魔力は空気中から消費した分を再吸収すること



土ロープは最初に作った時に込めた魔力分しか動作しないのでせいぜい1日しかもたなかったけど、馬車は使わない時もあるだろうけど使う時は今回みたいに1箇月とか使いっぱなしもある訳だしね。


「それは良かったです。ではもう少し休憩したら、出発することにしませんか?」


「そうですね」


「わかりやした。では、馬を休ませますんで…おい、水だけでいいから用意してくれ!」


「はい!」


(水瓶の水はもう温くなってるだろうし(流石に温度を一定に保つ、時間を停めておく、などの機能は無い模様)、サービスしちゃおうかな…)


僕は水桶を2つ用意してキャスパーさんが馬車から馬を開放して木に繋いでいる場所へと向かう。


「水はどした?…あぁ、後から汲んでくるのか?」


「あ、いえ…お馬さんたちも温い水は余り美味しくないかと思いまして…」


空の水桶を置き、飲もうとした2頭は悲しそうな顔でこちらを見た。


「ちょっと待っててね?」


魔法の設定を弄りながら、僕はウォーターの魔法を唱える。


(温度設定は…余り冷たいとお腹を壊すかも知れないから15℃くらいでいいかな?…量は水桶満水くらいで…)


「…ウォーター×2」


どぽんっ!


水桶は大体10リットルくらいの水が入るくらいの大きさ…丁度水瓶の半分くらいだね。お馬さんが首を突っ込んで飲むから水瓶みたいにひょろ長くはなく、木製の円筒形かな?…上に行くに従って少しだけ広がる感じだけどね。


「なっ!?」


「さぁどうぞ、お馬さんたち!」


僕の合図で一斉に首を突っ込んでがぶ飲みしだす2頭。最初は気温に対して冷えている水にびっくりして首を引っ込めたけど、すぐに頭を突っ込んでがぶ飲みを再開した。やっぱり、馬でも口当たりのいい水を飲みたいんだろうね。


(まぁ、僕が居なくなったらおひやは飲めなくなるのが難点かな?…この国、冬でも年中暑そうだし…)


その後、馬車に引っ込んでコップを取り出した後、ミランダ婦人と師匠にもお冷を振舞った。…いや、師匠が


「馬が冷えた水飲んでるのに人間様が飲めないなんて許せん!」


って怒ってたからだけど。別にいわれなくても出すつもりだったんだけどね…本当だよ?



「本当に快適ですね」


「思った通りになって良かったですよ」


僕は目的地であるサンフィールドまでそれ程時間が掛からないということで、打ち合わせも兼ねて馬車のキャビンに戻っていた。いや、休憩中とかちょこちょこ話しは聞いてたんだけど、今回は領主の…婦人の旦那さんに会う時の注意点などを重点的に聞くことになったんだ。別に気難しい人ではないのだけど、僕に貴族に会う時に持ってなければいけない常識とか色々仕込まれてるって寸法だ。聞いた話しに依れば、どちらかというと両夫妻よりも家来というか使用人たちの対策に感じるんだけど…う~ん?


「1度聞いただけじゃ覚えきれないと思いましたのでここに注意点を記してあります。忘れたと感じたら読み直してちょうだいね?」


「あ、はい。わかりました」


4つ折りにしたメモを受け取り、取り敢えず懐に入れておく。夜にでも復習しておいた方がいいかな?


「そろそろ町です」


キャスパーさんの声掛けに御者席側に付いている小窓を覗き込む。すると、そこには砂色の街並みが見えてきた。辺りはすっかり砂漠然とした風景で全部が砂って訳じゃないけど半分くらいは砂地で、乾いた大地が続いており…


「うわぁ…町の向こう側はもう砂漠なんですね…」


太陽がぎらつく砂の大地は、生物の侵入を拒む様に広がっていた。十分な準備もせずに足を踏み入れれば、町を見失う程に奥まで進んでしまったら、もう2度と生還できない…そう思わせる雰囲気を感じさせていた…。



- サンフィールド -


こうして1箇月より若干短い期間でマウンテリバーからサンフィールドへの工程を消化した僕たちは、サンフィールドの町へと到着した。2人にとっては2箇月ぶりの故郷って訳だけどね。


「よく戻ってくれた…ミランダ」


「ただいま、あなた。少し痩せたかしら?」


夫婦の抱擁を見せつけられてる。いやまぁ、夫婦仲がいいのはいいんだけど…


「おお、そちらが例の?」


「えぇ…ザックくんよ」


何か既に話しが通ってるって感じ。早馬か伝書バトか…いや、わからんけど。


「はい、今回の依頼を請けましたザックといいます。宜しくお願いします…」


いや、正直言って何て対応すりゃいいか頭から飛んじゃってね…。取り敢えず無礼にならない程度に丁寧に挨拶してみたんだけど…うわぁ。ミランダ婦人の旦那さんは笑顔だけど、周りがちょっと怖いっす…直視しないでおこ。


「長旅で疲れたろう?…もうすぐディナーができるからね。部屋を用意しておいたから、荷物を置いて来るといいよ」


「あなた?その前にお風呂に入りたいんだけど…」


「おお、そうだな。ミランダは先に風呂に行くといい。ザックくんはその後でいいかな?」


そうするとみんなの夕食の時間がかなり後になるよね?…周囲の視線も痛いくらいにびしびし刺さって来てるし、遠慮しとこう。


「いえ、僕は濡れタオルでも使って体を拭いて済ましますので問題ありません。お食事は…」


(食事くらいは大丈夫みたい?…流石に食べるなとはいえないからかな?…まぁ自前の保存食でも一向に構わないけどね。後3箇月分くらいはあるし…)


「用意ができたら知らせてくれればお伺いします」


そこまでいって黙ると、


「そ、そうかね?…わかった、そのように取り計らっておこう。おい!」


「旦那様。私が…」


「うむ、任せたよ?」


「はい…ついて来て下さい」


自己紹介されずに領主であるミランダ婦人の旦那さんとの初顔合わせが終わり、メイドさん…というか使用人って色が濃い女性についていって割り当てられた部屋へ到着する。


「ここがあなたの寝起きする部屋になります。一応鍵はありますが、安全上の都合もありまして鍵を掛けないで過ごして貰います」


「え…それはどういう…」


「依頼で来られたお客様は皆さんそうしてますので。ご了承くださいませ」


有無を言わさずに使用人の女性は頭を下げるとドアから出ていった。


きぃ~、ぱたん


(余り痛んでないドアみたいだな…それはいいとして、プライベート無しってマジ?)


前途多難だなぁ…と思いつつ、取り敢えず体の汚れを流すか…といつものオリジナルを発動させる。外着のままだけど、洗濯ついでにやってしまおう。


ウォータークリーン洗濯改」


洗濯物を綺麗にするウォータークリーンの改良版で、衣服を着たまま洗濯しつつ、体の汚れも落とすマルチな生活魔法だ。体の洗浄も同時に行うので、多少時間は掛かるけど時間が無い時なんかに重宝している。


「ふぅ…スッキリ!」


大体10秒くらいだろうか?…唯、このまま出て行っても問題があるだろうし、着替えを荷物から取り出して着替えるとしよう…といっても数着ある着替えはどれも同じなんだけどね。


「服のセンス無いからなぁ…僕」


苦笑いを浮かべながら最初に目にした上下と下着類を取り出して、パパっと着替える。後は食事の用意ができたら呼びにくる筈だから待ってればいいと…



「あれ?…いつの間に寝ちゃってたんだろ…というか、遅いなぁ…」


窓の外からは眩しい日差しが差し込んでいて、外を見ると砂漠らしく砂が混ざった風が吹いていた…あれ?


「朝?…朝だよね、これ…」


昨日は夕方くらいに到着して、すぐ夕食を用意させるっていってたけどミランダさんがお風呂に入りたいっていってたから…まぁ遅くても1時間くらい後かな?…って思ってたんだけどなぁ。


ぐぅ~~~~………


(まぁ1食抜いてるから流石にお腹は空くよね…はぁ)


「勝手に出歩くと怒られそうだし、待ってるかな…」


しかし、待てども待てども呼びに来る気配がない。それにもよおして来たんだけど…


「しまったなぁ…トイレ、何処にあるんだか聞いてないから何処にあるんだかわからん。困ったぞ?」


その上、外から鍵が掛けられてるのかドアを開けようとしたら…


「何故だぁ~~~!?押しても引いても開かない!?」


引き戸かと思って横にスライドしても開かなかったし!(いやいや、使用人の女性が出ていく時は普通に開け閉めしてたじゃん!!)


仕方なく、行儀が悪いけど外で…と思い、窓に手を掛けたのはいいんだけど、


「くっ!…嵌め窓って…開かないジャマイカぁ~~~っ!?」


ガタガタと揺すってもビタ!と接着されてるが如く動かない。ってことは…


「ひょっとして、ここって牢屋みたいなもんなの!?」


何故閉じ込められたかは不明なんだけど、下半身が絶体絶命?のピンチなのには変わらないのでした…


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普通、牢屋でもトイレくらいは設置してあるよねぇ…。つまり、牢屋じゃないのでトイレが無い普通の部屋ってこと?(ドアと窓が細工されてる普通の部屋説浮上!)

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