長期出張に出る僕
04 その1
ギルドの宿屋の料理長からハーブ採取の口約束をしたんだけど、ギルドに出向いたら長期出張的な依頼を半ば強制的に請けた件。
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- 出張のどたばた -
「えっと…今から、ですか?」
水不足で困ってるから解決する為に一緒に来てくれと懇願されてるんだけど、どうも強力な水魔法使いと思われてるっぽい。まぁ協力するのは
「それと、僕、水魔法使いじゃないですよ?…さっきもいいましたけど「生活魔法」しか使えません。誤解無きようお願いします」
取り敢えず頭を下げられっぱなしなので上げて貰うようにお願いする。
「では、ご一緒してくれますか?」
「えぇ…他に適任が居なくて困ってるようですし、僕で助けになるのでしたら…」
魔法使いなんて割と希少扱いで、敵国との戦争の最前線か王宮の宮廷魔法使いとか。他にはランクSの冒険者集団とかに所属してるくらいしか知らない。特に水属性魔法使いは人々の生命線に繋がることも多いから、安全な国内に就職することも多くて表立って出てくる人も少ないとか何とか。勿論、高ランクの冒険者の元に居ることもあるみたいだけどね…旅の間は不可欠な存在だろうし。
「ありがとうございます!…では早速…」
まてまて。こちとら宿を出たばかりで何の準備もしてないし、往復2箇月以上掛かる旅程の長期出張だと絶対宿の部屋が使えなくなるだろ!…少ないけどまだ置きっぱなしの荷物があるんだし…と、そこまで考えた所にハンスから声が掛かる。
「おう、依頼は請けるんだよな?宿の方なら安心しとけ。荷物置いてるだろうから、一旦宿預かりにしとけば部屋をいつ明け渡しても問題無いからな!」
「いや、それされると色々困るんだけど…最終的には出るにしても、今は…」
少なくとも3年は居候…って訳じゃないけど、3年は居座る予定で部屋の家具の配置なんかを都合よく変えてたりする。その他にも…などと考えてたら、また横から口を挟まれた。いや、物理的にじゃないけど…
「それでしたら、その宿賃を肩代わり差し上げようと思いますが…如何でしょうか?」
婦人が困ってる僕に救いの手を…いや、依頼人だから報酬の一部と考えれば問題無いか?…でも、まぁ、いつ戻ってくるかわからないし、居ない間の宿賃を肩代わりして貰えればそれはそれで助かるけれど…
「えと…助かりますけど、依頼が成功するとは限りませんが…いいんでしょうか?」
成功しないとは限らない。けど、僕の実力で砂漠の民が十分満足できる程の水を生み出せるかは保証できない。でも、まぁ、当分凌ぐ程度の量は…保証できるかな?…恐らくは。
「構いません。確か探索者ギルド付属の宿でしたかしら?…不在中の宿賃前払いで3箇月はお幾らかしら?」
婦人がハンスに向いて訊いた。ハンスは暗算で計算するかと思えば、指折り数えて…
「しょ、少々お待ちください!」
…というが早いか、慌てて受付へと走って行った。通常、その日払いかまとまった収入があっても1週間くらいしか先払いしないから、1箇月単位の先払いでの割引価格なんて覚えてないんだろうな…。ちなみに朝夕の食事付きで1泊銅貨5枚。1週間分…7日分を前払いすると、1割引きの銅貨32枚。銅貨より下の貨幣はないので、銅貨0.5枚分は食事券を1枚だけ渡される(食事だけすることもできるけど、銅貨1枚を請求されるので、この食事券は実質銅貨1枚分ともいえる)まぁ、銅貨より下の卑賎ってのもあるにはあるがスラム街くらいでしか流通してないし、そもそもこの宿じゃ扱っていない。僕が払ったことがあるのは2週間分…半月で14日分だね。単純に1週間分前払いの1割引きが加算されて合計2割引き扱いだったので、銅貨70枚の所が7枚引かれて63枚になっただけだった。でも、割り切れてるのに食事券2枚サービスされて「え、いいの?」って驚いてたら「いいよいいよ、サービスサービス♪」って返された。まぁ、有難く受け取ったけどね。でも、使用期限があるので仕事を休む日…ダンジョンや草原に行かない日のお昼ご飯に使うことにしたよ。それぞれの券は週末までで期限が切れるように書き込まれてたし…
「お待たせしました!」
わざとらしくぜいぜいと息切れてるハンス。お前は目と鼻の先のカウンターからダッシュするだけで息が切れるのか…運動不足なんじゃ?
「えっと…3箇月分とのことですが…」
テーブルの上に置いた紙を覗き込むと、何とか読める殴り書きで以下のように書かれてた。う~ん汚い…僕の書く文字より汚い字とか、ちゃんと書き取り勉強した方がいいんじゃないか?
ギルドのお宿・3箇月分の宿代
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1週間分…銅貨32枚(食事券1枚サービス)
2週間分…銅貨63枚(同上)
3週間分…銅貨94枚(食事券2枚サービス)
4週間分(1箇月分)…銅貨126枚(同上)※銀貨1枚+銅貨26枚と同等
以後、1箇月分に上記の宿賃を1週間単位で加算のこと
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3箇月分…銅貨378枚(食事券6枚サービス)※銀貨3枚+銅貨78枚と同等
※長期出張とのことで、食事券の期限は特別に帰還するまで差し置きとする
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(ふむ…1週間以上で一律1割割引か…まぁ元々安いんだし、割引があるだけでも凄いかも?)
食事券のサービスもあるしな。1週間で実質銅貨5枚割引とか、経営は大丈夫なんだろうか?…などと思ってたら、目の前でジャラジャラと…ではなく、1枚1枚きっちりと数えながら婦人がお財布から白光りする銀貨とやや暗い暗褐色光りする銅貨が積み上げられていた。低い声で数えながら…。う~ん、受付嬢の誰かさんみたいな雰囲気に、ごくりと唾を飲み込んじゃったよ…
(銀貨は一目瞭然だけど、銅貨は数が多いからか10枚単位で置いてる…あぁ、10枚だけ数えて置けば、後は高さだけ合わせればいいからか)
声を出しながら勘定してたのは銀貨3枚と銅貨10枚の束と8枚の束だけ。後は10枚の束と同じだけの高さを適当に掴んで置いて、高ければ引いて低ければ追加で重ねて…。貨幣の造幣技術が高ければこれでいいけど、大丈夫なのかな?
「えっと…ご婦人が代わりにお支払いするってことで?」
こくりと頷く婦人。ハンスは少し脱力して、
「わかりました。念の為、こちらでも数えさせていただきますね?」
再びこくりと頷く婦人。ハンスは再び受付まで戻って、報酬を入れる革袋を持って戻って来た。
「では、計量の為にお預かりします」
三度頷く婦人。特に不機嫌になってない所を見ると、日常的にこういうやり取りをしてるか見てるのかも知れないのかもね。
・
・
「えと…砂漠ってどんな所ですか?」
待ってる間、手持無沙汰なのでこれから行く場所のこと…一番多く目にしそうな砂漠のことを訊いてみる。生まれてこの方、村と山と川、そしてこの町「マウンテリバー」のことしか知らないからなぁ…名前の由来は、山と川に囲まれてるからとか…そんなんどこにでもある地形じゃ?…と思うんだけどね。後、「ン」が少ないのは「サンフィールド」と同じく、くどいから除外したんだって…。町の名前付けの共通ルールなのかね?…くどいから同じ文字を除外するのって…
「そうね…簡単に表現するなら、「広大な砂場」かしら?」
砂場って…大きな町にあるっていう、子供の遊び場「公園」の遊具のことかな?…まぁ見たことはなくて、王都とか行き来してる商人の話しを聞いただけだけど。いや、僕がその商人と話したんじゃなくて、偶々聞いただけなんだけどね…何処かの食堂で。一応、僕もお使い依頼で別の町に行ったことあるんだよ。日帰りできなくて野宿したんだけどね…町の中で野宿なんてできないし、1泊する金も無かったので町のすぐ外でね…少ないとはいえ、魔物も出るって聞いてたから怖かったなぁ…
「砂場、ですか」
うん…村には公園なんて無いし現物は見たことないから…まぁ想像は付くよ?…砂が散りばめられた遊び場なんだろうな、くらいにはね。これも聞いたことしかないけど、海っていう巨大な水溜まりに接している浜辺の縮小版みたいなもんだろうな。海ってショッパイって聞くけど本当なのかな?…何でも塩が含まれてて、市場に流通してる塩はそこから作られるとか。…僕の村じゃ、山で時々採れる岩塩から塩を削りだしてたけどね。取り尽くすと困るからって何処で取れるか村長と採取する家の者以外には知らされてないんだよね…まぁ理由はわかるけど。無限に掘れるなら兎も角、有限な資源だろうしね。
「えぇ。その砂場が、地平線の彼方までずっと続いているの…十分な準備もせずに
ごくりと唾を飲み込む音が響く…
「砂漠に潜む魔物に食われて死ぬしかない、死の大地なのよ…」
それっきり黙り込む婦人。それって、山の奥地も傍を流れる川でも似たようなもんだよなぁ…。ダンジョンだって人間がまだ侵入してない未開の区画も何が出て来るかわかんないし…などと考えていると、三度ハンスの慌てた声が聞こえて来た。
「おっ…お待たせしましたっ!!」
紙をテーブルに置いて、またぜいぜいと息が荒いハンス。休日に体力強化トレーニングでもした方がいいんじゃないか?…って本気で思うんだけど。
「お代は足りたかしら?」
婦人が訊くと、ハンスは貨幣を入れていた革袋をその隣に置いて中身を静かにテーブルに零す。
「ええと…3箇月分の前払いは前例が無かったのですが、1割引きの請求額に更に1割引きをすることになりました。代わりに食事券のサービスは無いですが…」
多分、いつ帰還するかわからない僕の受け取る券の管理が面倒だからだろうな…。普通に住んでれば問題無かったんだろうけど。
「…銅貨340枚。銀貨3枚に銅貨40枚か。お釣りは…」
「銅貨38枚ね」
僕が紙に書かれてる請求額を読み上げて、婦人が釣り銭を引き継いで呟く。そして銅貨を1枚1枚拾い上げて小声で数えている…。うん、何処かで聞いたお皿を数えて最後に1枚足りないって泣き叫ぶホラー話しを思い出すので止めて欲しい…いえないけど。あれって何処ぞの貴族さまに雇われた平民のメイドが高価な皿を割っちゃって、主人の貴族にバレて処刑されて以後、夜な夜な調理場で泣きながら低い声で皿を数えて、最後に「1枚足りない~!」って絶叫して聞いてた者の命を奪うとかそんな話しだっけ?…え、バンシーやマンドラゴラの逸話と混ざってる?…まぁいいじゃん。伝え聞いてる物語なんてそんなもんでしょw
「銅貨38枚、確かに」
左手に積み上げた銅貨を自身の財布に収めてから顔を上げる婦人。ホッとしたハンスは、
「では、収めてきます。後、ザックくんの依頼受諾の処理もしてきますね!」
と、待ったを掛ける間も無く走り去ってしまうハンス。僕は手を挙げることすらできずに力が抜けた。
(いや、引き受けようとは思ってたけどハンスにはまだいってないんだけど…ったく)
どうやら最初から引き受ける前提で話しが進んでるみたいで面白くない。だが、依頼受諾処理はもう進んでるみたいだし、腹を決めるしかないかぁ…
「では、僕は宿で必要な道具を取って来たいと思います。…此処に戻ってくればいいでしょうか?」
待ち合わせ場所があれば聞こうと思い、婦人に話し掛けたが…
「いえ。この町の宿に馬車を停めてありますので。そこで落ち合いましょう。「馬房の宿亭」というのだけどご存じかしら?」
あぁ、馬車や馬で旅をしている平民が利用可能な馬房や駐車場があるでっかい宿か。流石に貴族なんかはもう1ランク上の宿を利用するけどね。商人とか旅人はこちらを利用するんだよね。名前もわかり易いし…
「えっと知ってます。ここからそう遠くないですし」
ギルドの前の中央通りを挟んで目の前にあるしね。探索者やってれば大抵は知ってるんじゃないか?ってくらいには…
「では、1時間後に落ち合いましょう」
婦人はそれだけいうとスッと立ち上がり、軽い会釈をしてからギルドを出て行った。必要な荷物を取りに行って戻るのに1時間も要らないんだけど…
(多分、知人との暫しの別れをして来いって意味だろうな。宿の前払い…最大3箇月はこのマウンテリバーを離れる訳だし、ね。取り敢えず、女将さんとサクヤさん、ついでに料理長にも話しておくかな…それ以外の人たちには女将さんから伝えて貰えばいいか)
取り敢えず自室になっている宿の部屋に戻り、旅の間や到着してから使うかも知れない道具や細かいアイテム類を確認して背負い袋に詰める。結構くたびれてるから、道具屋で新品を買い直した方がいいかも…
(次に暫く留守にするって挨拶しに行かないとな…。今朝頼まれたハーブも後回しにして欲しいって断らないと。代わりに、渡した以外のハーブも渡しとくかな?…ハーブティーの材料になる物だけ。食事の添え物になる系統は持っておきたいしね。香辛料みたいな使い方じゃないけどあるとないとじゃ味に差が出るし…)
そんなこんなで宿の従業員の知人たちに挨拶をして回り、女将さんに残りの人たちにも伝えておいて欲しいといったら、「んな水臭い!自分でいいな!!」と背を叩かれたらいつの間にか仕事そっちのけで揃っていた面々。
「ちょっ!…仕事そっちのけで何してんですかっ!?」
と突っ込んだら、全員から笑いながらパンパンと背中を叩かれて、
「あははw相変わらず心配性だな!」
とか、
「砂漠の国に出張だって?随分と出世したもんだな!」
とか、
「元気で帰って来いよ?これ、餞別だ!」
といいつつ何か入ってる小袋を渡される。
「「「じゃあな。行ってこい!」」」
全員から背中を突き飛ばされて…いや、それで倒れる程力は入ってないけど…振り返ると全員が手を振って笑顔で見送ってくれていた。約1名は後ろ向いてたけど…
「サクヤさん…」
多分見られたくない顔してるんだなと判断し、
「…行って来ます!」
と元気良く応え、前を向いて歩き出す。う~ん…村じゃここまで感動的な行ってらっしゃいはされなかったからなぁ…別に親子仲が悪かった訳じゃないけどね。妹のが出来が良かったせいか、不出来な兄貴はさっさと出てけってことかな?…違うよね?…ま、それはさておき、次はギルドだ。
「ちょい待ち」
ぐいっ!…と首根っこ掴まれる僕。
「な、にを!?」
掴んでるのは女将さん。ハーフオーガの力で両方の脇の下を腕で支えて運ばれる…
「行く前に、井戸の補充を頼むわ。減った分だけでいいからさ?」
「え~…今朝やった筈ですが…」
「まーまー。朝食で使った分だけ。な?頼むよ!」
調子のいい顔で頼み事する女将さん。まぁそれくらいはいいか…と思い、裏庭へ行く。いや、流石に抱え上げられたままは恥ずかしいので降ろして貰ったけど!
- 宿・裏庭 -
「じゃあやりますね」
「頼むよ」
女将さんはすぐに宿に引っ込んでった。信用されてるのか最後まで見届けずに…
「はぁ…しょうがないなぁ、女将さんは」
旦那である大将にもよく言われてるのに直ってない。まぁ信用してる相手にはそういう気性なんだろうとは思うけど。人間はズル賢いから裏切られないといいけど…。え、僕?…裏切る訳ないでしょ。あんなに優しくも怖い女将さんを…地の底まで追いかけて捻り殺されそうだしな!…勿論、そんなこと思ってるなんていえないけどさ!(苦笑)
・
・
「さて…水の補充とはいうものの、今の水位が半分と少しか…」
この分では今日の夜か明日には全部使い果たしそうだ。枯れ井戸だから何処からか水脈を繋ぐしかないんだけど、そうすると町中の井戸の水の供給に支障が出そうだしなぁ…
「はぁ…疲れるからやりたくなかったけど…」
この1年で魔力も増えたし多分大丈夫だろうということで、アレを使うことにした。アレってのは…
「探知」
発動キーワードを唱える。生活魔法は大抵は無詠唱で発動する魔法で、発動キーワードを口にするか脳裏で思い浮かべれば発動する。口に出した方が確実に発動するし、効果も安定するし、何よりイメージも鮮明になるから効果拡大もする。今回は町の外を探知したかったからわざわざ口に出してみた。
「…あった、けど…ちと遠いか」
探知で何を探したのか?…まぁ、枯れた水脈の源泉なんだけどな。それがあれば、絶たれた水脈を再度繋げば枯れ井戸が復活するんじゃないかって思ったんだけど。
「それに…源泉も枯れてる、か。予想通りだけど困ったな…」
流石に残り30分少々じゃ源泉まで行って更に上流を調査、とはいかない。かといって枯れ源泉をピュアウォーターで満タンにするには魔力も足りないし…
「…元々の生活魔法の「ウォーター」ならどうだろうな…」
ピュアウォーターは純水を生成する為、結構魔力を浪費する。それこそウォーターの数10倍くらいは…いや、数値化して見れないのでどの程度消費してるか、などは体感でしかわからないのだけど。後、僕の魔力値なら、ウォーター1回でコップ1杯なんてしょっぱい量で済むとは思えない。いや、ピュアウォーターを使えるようになった後にウォーターを行使したことはないんだけどね…だって飲むなら美味しい水の方がいいしね!
「まぁ、この井戸はピュアウォーターで補充しとくか…」
井戸は綺麗な石で囲ってるからそんなに味が混ざるとは思わないけど、汲み上げた後に桶を落とせばぶつかって僅かに削られるから徐々に味が土臭くなるよね…水位が減ってると、だけど…それでもこの宿の人たちには喜ばれてるけどね!
「さて…」
ウォーターで生成する通常の水用にもう1つ井戸を創ろうと思う。
「あ~…まぁ町中の井戸と同じ、屋根無しでいいか。桶とロープは宿で用意して貰えばいっかな…」
流石に錬金術師でもない僕は、桶もロープも滑車も滑車の台も創ることはできない。せいぜい、穴掘って周囲を固めるくらいしかできない。
「人が乗ったり桶をぶつけても大丈夫なくらいに固めてっと…こんなもんかな?」
持っていた木剣でコンコンと叩いてみる。うん、隣の井戸の石材くらいには硬くできたかな。これなら大丈夫だろう!
「後は…届くかどうかわかんないけど…遠隔生成で…ウォーター!」
探知しながら目標を設定して、その場所にウォーターが発動するように発動キーワードを唱える…ではなく、叫ぶ。魂を込めて全力で。
「………枯れ水脈に通常水の供給を確認…10%注水…30%注水…50%…70%…90%…ストップ」
流石に満水状態にすると、今まで枯れてたのにいっきに水圧で土壁や天井が崩れてしまうかも知れない。と気付いたので、慌てて次の生活魔法を唱える。
「
…どうやらやや崩れてしまったけど、何とか間に合ったようで水源の源泉と地下水脈は保護&強化に成功したみたい。割と広域だったせいで、ウォーターで水を満たすより魔力を消費したけど…まぁ今日中はもつだろうと思う。高価な
「はぁ…。さて、新井戸の方はどうかな?」
歩み寄って覗き込むと、底の方に少し水が染み出た所だった。後数分もすれば使えるようになるとは思う。まぁ最初は砂を含んだ水しか汲めないだろうけど、ね。急造だからそこは我慢して貰うか、職人に来て貰って桶を設置するついでに整備して貰えばいいかな?
「じゃ、説明してから行こうかな…」
下手に詳しく説明すると時間が掛かるから、「裏庭に井戸作ったから使えるようにしてね」とだけ言ってすぐさま逃げた。いや、ギルドと馬房の宿亭に向かった。だってさぁ~、約束の時間に遅れるとか失礼なことできないしね…
- 探索者ギルド -
ギルドに行ったんだけど、依頼の受諾確認と依頼主と一緒に町を出る確認をするだけだった。後、ついでというと失礼な!…って思ったんだけど、本人確認。まぁ、ある意味有名人だから有るようで無い本人確認だったんだけどね。
「じゃ、元気でね。ちゃんと帰ってくるのよ?」
「リンシャさん、子供じゃないんですから大丈夫ですよ…」
「そういう所が子供なの!…ほらほら、依頼主さんが待ってるんでしょ?行った行った!」
「リンシャちゃん、あれ、ほら!」
「あ!いけない!!」
隣の年上の受付嬢さんが突っ込むと、席の後ろから何か包みを取り出すリンシャさん。この人、一応1歳年上なんだけど、美少女なんだけど、素が可愛らしくてリンシャちゃんって呼びたいんだよね…でも、まぁ、お世話になってる人だし、年下扱いは好まないみたいだからその願いは永久封印かなぁ…はぁ。なんて妄想が暴走しかけてたら、目の前に差し出された包みでリンシャさんが見えなくなった。
「はい!これ、ギルドのみんなからの餞別。腐らない内に食べちゃってね!」
「あぁ…それいったら中身がバレちゃうじゃない…」
「あはは…俺のは腐らないけどな!」
どうやら餞別の品は食べ物らしい。お菓子か何かだろうか?
「ありがとうございます!…大事に食べますね!!」
「いや、腐る前に食べてって…暑い土地に行くなら猶更ね!」
「あはは…じゃ、じゃあ行ってきます!」
「「「おう!気を付けてな!(ね!)」」」
流石に宿みたいに背中を叩かれはしなかったが、耳がちょっと痛い。至近距離で大声は出さない方いいと思ったけど、みんなからの声援に痛む耳を我慢しながら笑顔で手を振りながら出入口を出る。外に居た他の人たちが驚いてた…すいません、驚かしちゃって。
- 馬房の宿亭 -
目の前の中央通りを歩く。一応、馬車も時々通るので左右確認は忘れずに。まぁ、走ってる荷物運搬業の人のが多いんだけどね…。偶に前方不注意で歩いてる人にぶつかって怒鳴られたり、大怪我させて怪我人運搬してる人が居たり…物騒だよねぇ。
「時間ぴったりですね」
見上げると例の婦人が自分の馬車だろうか、傍で佇んでいた。
(えっと…ずっと待ってたのかな?)
馬車の周囲には人足が数人居て忙しく荷物を運び込んでいた。馬車は結構大きく、屋根の上に荷物は積まれていたが中にも運び込まれている。御者も馬車の周囲を見て回っており、恐らく壊れている個所がないか調べてるんだろう。
(今から故障個所を調べても壊れてる部分なんかすぐ直らないのに…)
今更何してるんだろう…と思っていると、婦人が無視されたと思ったのか、こちらをぢぃ~っと見詰めていた。目が少々冷たいというか、怖い。
「あ!…はい!…すいません、遅れないようにしたんですが時間ギリギリになっちゃって!!」
時計なんて高価な物は持ってないので、何とか間に合うようにしたつもりだけど、時間ぴったりということは時間ギリギリということでもある。最初からこんな調子だと幻滅されるかも知れないと思いつつ、はっきりと謝罪する。
「あ、いえ…んんっ!…大丈夫ですよ?…それより急な出立でこちらの方がこんな状況ですからね…」
つい、と顔を背後に向ける婦人。まぁ、この状況ではすぐには出られなのはわかる。
「荷物はどれくらい残ってるのでしょうか?…あ、いえ。手伝えばそれだけ早く出発できると思ったのですが…」
ぴたりと人足たちの動きが止まる。すぐに動き始めたが、一番偉そうな人足がこちらに向かってくる。
「おう、坊主!…すぐ終わらせるから黙って中で座っとけ」
「…そういいながら、もう30分は過ぎてますよね?」
荒々しい台詞で凄まれるけど、婦人がイライラとした目付きと口調で突っ込んでいた。
「あ、すいやせん…うちの荷の発注担当がヘマをしやしてね…おい!残りの荷はいつ届くんだ!?」
「へい…連絡では10分以内といってやしたが…」
「はぁ…」
(どうやら急な出発で十分に荷物…多分食料とか消耗品だと思うけど。が揃ってないんだろうな…)
「えと、何が不足なんでしょうか?」
「あぁ?…あ~…水だよ。これから砂漠地方に向かうからな。十分に綺麗で密封された飲料水を発注したんだけどな…」
頭をガリガリと掻きながら溜息を吐く男。この人足たちの長だろうか?…まぁどーでもいいんだけど。でも、不足品が水なら問題はないな。
「水ですか。今回運ぶ水は道中で使う予定の物ですか?」
「いや…」
「わたくしの町に運び込むので、道中では使わないのよ。焼石に水…とは思うけれどね?」
若しや、と思って探知を発動させる。目の前にある馬車に使うので脳裏でキーワードを唱えた。
「この馬車、カーゴスペースだけ容量拡大されてるんですね…」
道理で、それ程広くないのにどんどん水瓶…それもかなり大きい物が積まれていくと思った。普通に積まれれば3つか4つで一杯になるのに、話している間に10幾つも搬入されていたのだ。一体どれ程の拡張が成されているんだか…
「残りの水…水瓶は?」
「いやそれがな…流石にマウンテリバーの傍を流れてる川の水は余り綺麗じゃないからな。一旦数日ゴミを沈殿させないと使えないし、井戸の水はそこそこ綺麗だが急激に汲んじまうと…」
「あぁ、ギルドの宿の裏庭の井戸みたいに枯れちまうからな…」
(初めて聞いた記念の日。じゃなくて、そんな経緯で枯れたのか、あの井戸…)
「あ~…聞くと時間掛かりそうなんで敢えて枯れた経緯は聞きませんが…」
「あぁ。今度時間が有る時にでも聞くといい。この町の人足ギルドに居るからよ」
人足ギルド…運搬全般を請け負う集団なんだろうか?…取り敢えず、大雑把な場所を聞いたので、時間がある時にでも行ってみようかな?
「じゃあ、水瓶そのものはあるんですか?」
「おう…中身は空っぽだけどな。後100本くらいはあったか?」
「へい。正確には108本ですが…」
「お頭!…やっぱ無理っした。生活魔法使いや水魔法が使える魔術師を当たってみたんですが、「水瓶(大)に100本も水を補充するなんて無理!」って…」
急に現れた無個性的な同じ背格好のイカツイ人足さんがそう怒鳴っていた。うん、うるさくて鼓膜が痛い。
「おめぇいつもいってるだろうが!…お客さんの前ではも少しぼりゅうむを下げろって!!!」
…うん。お頭さんの方が暴力的ですわ…ご婦人が両手で耳をガードしてるし…って、前もやったんだろうな、このやりとり。僕?…ちょっと耳から赤い液体がトロリと出てきそう…破けたかな?
(しょうがない…)
僕も両手を両耳に被せてぼそっと呟く。
「…
これも生活魔法である「
「…よし、治ったかな?」
僕は懐から手拭いを取り出して…クリーンで綺麗にしてから耳の穴に突っ込んでぐりぐりする。
(…やっぱ鼓膜敗れてたかぁ…いや、破れて)
耳の穴から抜いた手拭いは真っ赤に汚れていて、再度クリーンで綺麗にして…ピュアウォーターで少し濡らして再び耳の穴に突っ込んでグリグリと…
「ちょっと!…ザックくんだったわね?…耳、大丈夫なのっ!?」
「えぇ、聴こえます。ちょっと鼓膜破れちゃいましたけど」
いいながらすぽんと引き抜いて再三クリーンで血と耳穴の汚れを綺麗にして、ピュアウォーターを少量含ませて逆側の耳穴をグリグリと…これ、3回くらいやらんと綺麗にならんな…。最近、耳掃除サボってたからなぁ…
「ダンカンさん!…ザックくんの鼓膜を破壊するなんて!!」
(あのお頭さん、ダンカンっていうのか。今度人足ギルドに行く時に誰を呼び出せばいいのか聞こうと思ってたけど手間が省けたなぁ…)
グッジョブ、ご婦人!…何て思いつつ、スポン!と引き抜いた手拭いがびっちょりと血を含んでいてちょっとびっくり。と当時にそれを目にしてしまった血が苦手だと思われる人足さんがフラッ…とぶっ倒れて抱えていた水瓶を割ってしまう。当然中身…まぁ水なんだが…もざばーっと流れ出てしまう。大丈夫か?この人…顔が真っ青なんだけど。
「「「!?」」」
「てっ…てめえっ!何してんだゴラァッ!!」
ぶしゅっ!…と、再びお頭さん改めダンカンさんの音波兵器に敗ける僕の鼓膜。ご婦人は相変わらず両手ガードに成功したようで無事。無事で済まなかったのが最大威力の音波兵器で派手に割れまくる馬車と周辺の建物のガラス窓のガラス…。パリンなんて可愛い割れ方じゃなくて、粉砕して粉々になってズザザーッ!って下に零れ落ちやがりましたよ…ナニコノニンゲンヘイキ。
「またダンカンが吠えてるし…」
「おーい、人足ギルドに請求しておいてくれ~」
「ったく、風が強いと埃が入ってきて困るんだよな…ブツブツ」
(どうやら、有名人らしいな、このおっさん…つか、僕の鼓膜を2回も破りやがって…ガラスみたいに粉々になってないだけマシだけどさぁ~…)
ぶつくさ言いながら再びヒールハンドを行使。ジンジンと痛んでいたが、治癒されて痛みは止まった。
「てめぇっ!大事な商品を壊しやがって!!」
その後のダンカンの台詞は聞き取れませんでした。理由は…折角治癒した鼓膜が3回目の崩壊を迎えたからね…。はぁ、耳から何か温かい液体がタラーっと流れ落ちたのだけは感じたよ…耳の奥がジンジンと痛いわ…
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ザック、出張直前に鼓膜を3回破かれる…ぶふっ(笑っちゃダメだ…けど吹いちゃったw)
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