03 宿でハーブ採取を頼まれたけど、ギルドからも依頼を請けることになった僕

泊っている宿屋の料理長(仮名)にサクヤさん(宿に勤めているギルド職人・宿での職種はウェイトレス兼調理補佐、らしい)にハーブティーレシピの開発を頼んでくれといったら材料のハーブを集めてくれっていわれた。見た目より容量の多い肩掛けバッグを貸し出されたんだけど「それ一杯に」って…どうも登山用リュック並みに入りそうなんだけど…えぇ~…何その交換条件(タダで飲めそうも無いしなぁ…うぅ~ん)

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- 翌日、お仕事開始…? -


「ふわぁ~…もう朝か」


昨夜は精神的に疲れたせいか、早めに寝たんだけど寝た気がしない。それでも朝日は昇ってくる訳で…とりあえずベッドから起きて支度をすることにする。


「よし…鍛錬してくるか」


木剣とタオルだけを持ち、宿の裏…庭といえないこともないけど、薪や備品を置いている小屋が建ってる広場がある。一応、井戸もあるんだけど関係者以外は入れないように塀があるので宿の出入り口を通らないと入れない。僕?…僕は許可を得て出入り自由なんだよね。毎朝の日課の鍛錬の前にやることをやらないといけないけどね。それは…


「ピュアウォーター(大)」


裏庭…もうそれでいっか。裏庭にある井戸の上に巨大な水球を生み出し、暫く滞空しつつどぼどぼと音を立てながら綺麗な水が井戸に注がれていく。実はこの井戸、枯れ井戸なんだよね。でも、まぁ、毎日…じゃないけど2~3日に1回、溢れるギリギリまで注いでおけば、それくらいの期間はもつらしい。雨が余り降らないこの地方では、外を流れている川か井戸の水が命綱なんだよね…


「う~ん…もっかい流し込むか。ピュアウォーター(大)」


ぷくぅ~…と水球が空中に生まれ、膨張して…再びどぼどぼと井戸の中へと注がれていく。


「何となく周囲の空気が乾燥した気がするから暫くは使わない方がいいかな…後2~3日は大丈夫だろうし」


僕は通常の井戸では見られない「なみなみと満たされた井戸」を見て満足し、木剣を使った鍛錬に入ることにした。え?…2回も大きい水球を作って魔力は大丈夫なのかって?…あれくらいは魔力が減った内に入らないよ。だって、水は空気中の細かい水…詳しい人がいうには「水蒸気」って目に見えない程に小さい水が空気中に漂っているんだけど、それをかき集めただけだからね。普通の生活魔法はあれ程大きい水球どころか、コップ1杯の水を空気中から取り出すのがせいぜいだけど、僕はもっと効率良く絞り出す方法を見つけたんだ。まぁ、化学?科学?…まぁ錬金術の一種って聞いたけど、それを理解できれば他の人も同じようなことができるんじゃないかなぁ?…っと、それより鍛錬鍛錬!



「はぁ、ふぅ…疲れた…」


途中から余りの暑さと汗に上半身に着てた粗い布地のシャツを脱ぎ捨て…ると泥だらけになるので、裏庭にあるベンチっていう長椅子の背もたれに掛けておいといた。その後も木剣を素振りして…まぁ体力作りと剣に慣れる為の訓練って所かな。剣にだけ頼るのもいけないってことで、体術…格闘というのもおこがましいけど、要は手や足を使った攻撃の訓練。それと頭の中に仮想敵…今の所、戦ったことのあるのって草原の角ウサギとダンジョンのゴブリンやコボルトくらい。スライムも居たけど、あれって攻撃して来ないのでいつもは放置してるんだよね。何でも下手に攻撃すると大変だって聞いてたんで…えーと、戦ったことのある敵と戦ってるつもりで動きを組み立てて、防御も練習してるって所かな?…まぁ盾がないので木剣で受けるか避けるしかないんだけどね。


「あ~…疲れた。ピュアウォーター…」


頭上に水球を生み出して、そのまま体にちょっとづつ流れ落ちるように調整してシャワー…というよりはかけ流しのお湯…じゃなくて水だけど、頭と上半身の汗をざっと流した。これだけは生活魔法を使えるようになってて良かったと思うよ、うん。いやまぁ、前に同じようなことしてるのを目撃されて説明したことがあるんだけど、


「普通、そんなことできないって!」


って半ば怒るようにいわれたっけ…。まぁ、信じられないのも無理はないよね。生活魔法の水を生み出すのは「ピュアウォーター」じゃなくて「ウォーター」だし、コップ1杯くらい(普段使いの木製の大き目のコップなので大体500mlくらい?)しか生み出さないし、僕のピュアウォーターに比べると余り上等な水じゃないらしいし。町の外を流れてる川の水よりは遥かに清潔で綺麗な水みたいだけどね。ちなみに空中に滞空させて水球を作り出してドボドボと井戸に注ぐ…なんてことも不可能って言われた。


「あれが原因で、こっそり裏庭を使ってるのがバレて、使うなら井戸に水を注いでくれって…半ば命令されたんだっけ…魔力の鍛錬に最初はなってたんだけどね………」


半月くらいは毎日注いでたんだよね。魔力の半分くらいを持ってかれてたからなぁ…ピュアウォーター(大)を使うと。半月を経過した辺りから魔力総量にだいぶ余裕ができたかな?…って感じて、その月の最後に試しに2回使ってみたらできちゃって…。まぁその時は魔力欠乏でぶっ倒れるのも嫌だったので通常サイズのピュアウォーターで生み出せる水球2個で間に合わせてたんだけど(大体井戸の3/5くらいは埋まったと思う)…あ、今のとこ、通常サイズと大サイズの2種類しか生み出せないんだよね。中サイズとか小サイズとか使い分けられればいいんだけど難しくてね…っとと、話しが逸れたか。で、もっと余裕ができたかな?と思った翌月の中盤辺りで大サイズ2個で井戸満タンにできて、毎日注いでたのが2日1回になり、今の2~3日に1回の井戸の水補充作業とあいなった訳さ。何で2~3日とバラツキがあるのかっていうと、水を使う食堂の忙しさに左右されるからね。後、献立の中身で汁物とか鍋物があれば多く消費するし、客が多ければ洗い物で水を大量に消費するから。まぁ、井戸が満タンなら最低でも1日はもつだろうし安心ってことだね。


「さて…汗と汚れは流したし…ドライ乾燥


体表と衣服の一定量の水分を飛ばす。完全に飛ばしちゃうと、カラカラに乾いた衣服を着たミイラができちゃうからね。ついでに地面の水溜まりも最初の状態に戻しておいた。前、地面を放置してたらべちゃべちゃになってて足を取られて滑ったサクヤさんに怒られたんだよ…いや、水を汲みに来たらってことなんだけど。あれには参ったよ…いえ、隣に神社もお寺もなくて、困ったってことなんだけど…え、聞いてない?


「あ、ついでに掛けておいたシャツにもクリーンとドライ」


汗を吸って暫く放置してたから、土ぼこりが付着して少し汚れてたからね。クリーンで綺麗にして、まだ湿ってる感じがしたのでドライで瞬間乾燥と!…洗濯要らずで便利でしょ!…これも、生活魔法を覚えてて良かった2つめだね。ピュアウォーターで空中に留めておいて洗濯物を放り込んでくるくる回転させて、汚れが浮いてきたら水を下に落とし、その隙にクリーンで汚れを飛ばしてドライで瞬間乾燥。で、落ちてきた洗濯物を受け取れば洗濯完了!…てな具合でね。ま、まぁ…気付いたと思うけど、それを見てた人が居てさ…


「絶対おかしい!…つか、何だその便利魔法は!?」


って怒られた。僕、別に悪いことしてないんだけど。その人、生活魔法を駆使してやったっていったんだけど信じてくれなくてね…誰かって?…え~まぁ…今は辞めちゃったけど、以前この宿で探索者が出した洗濯物の洗濯と、宿の清掃(宿の清掃全般。廊下とか食堂とか空いた部屋など)をやってた人なんだけどね…。今は別の人が補充で来てやってくれてるんだけど、同じことがあると面倒なので今は裏庭ではやらないでるよ。洗濯を頼むとお金掛かるから、溜まったら町の外に出て川で…一応生活用水で使用してるから川下まで出掛けてってね…やってます。川下って生活排水が駄々洩れで汚いんだよね…だから、ディガホール穴掘りで適当な穴を掘ってからその上でさっきいったオリジナル洗濯生活魔法で…あぁ、最初は3つの生活魔法をタイミングを計ってやってたんだけど、面倒になって連続で行使できるように「アレンジ」してみたんだ。名前も付けてね。


「最初は編み出すのは苦労したよなぁ~…何回やっても上手く行かなくて。まぁ、苦労した分、その後で「アレンジ」は楽になったからいっかな」


完成した新生活魔法「ウォータークリーン洗濯」は、洗濯物の汚れ度合によって最初の水球で回転させてる時間を変化させて、残り2工程は普通に連続実行っていう形に収まったんだ。普通にダンジョン行って帰って来た程度の汗と泥にまみれた汚れなら、ノーマルモードで普通にウォータークリーンを行使すればこんな感じ。



ピュアウォーター(水回転洗い)…3秒

クリーン(浮いた汚れ分解)…1秒以下

ドライ(水分飛ばし(乾燥))…1秒以下

合計…4~5秒



空中に留まって魔法が終了したら両手なり籠なりで受け止めれば終了というイージーさ。魔法の自動実行中は僕はのほほんと終わるのを待ってれば良くて、最初にタイミングを計って次の魔法を行使…って手に汗握って集中して待ち構えなくていいから楽なもんだよ。次に、豪雨の中、水溜まりに足を取られてスっ転んで泥だらけな凄い汚れたとか、怪我をして血で汚れた…なんかの落ち難そうな汚れの場合。



ピュアウォーター(水回転洗い)…10秒

クリーン(浮いた汚れ分解)…1秒

ドライ(水分飛ばし(乾燥))…1秒

合計…12秒前後



他、洗濯物が多ければピュアウォーターの大きさや洗いの時間を拡大するとかあるけど両手に持ちきれない程多くは洗わないので残り2工程は合わせて2秒で十分みたい。いや、町の外に出たら偶に魔物と出会うからなぁ…両手を塞ぐ程洗濯物を持ってたら戦えないし?(リュックサックは容量拡張してない普通の布袋だから、見たまんまの量しか入らないんだよね…)


「へっくしょっ!」


余計なことを考えてたらすっかり冷えてしまった。僕は慌てて上着を着ると宿に戻ってった。考え込んじゃうのが僕の悪い癖だよね…いかんいかん。



- ザック、ようやっと宿を出る -


「じゃあ行ってきます!」


「気を付けて!」


「行ってらっしゃい!」


元気よく宿を出ると同時に挨拶行って来ますをいうと、受付に居た女将さんと偶々通り掛かったサクヤさんの2人に見送られる。


(今日はハーブの採取と…後はギルドに行けば何かしら依頼があるだろうし…)


一応、常設依頼の薬草採取とかは無くなることはないけど、供給過多になれば取り下げられることもある。念の為に確認する必要はあるってことだね。


(ハーブはダンジョンで生えてることもあるけど、実は外の草原のが多いんだよね…)


薬草は魔力溜まりが多いダンジョン内のが多く、外では草原でも無いことはないんだけど初心者の探索者が真っ先にかき集めるもんだから遠出しないとほぼ見つからない。とはいうものの、時間が掛かるし強い魔物も出るしで遠出は避けたいんだよね…


(それに、駆け出しの邪魔をするのも本意じゃないしな…)


どうすべえ…と考えてたら探索者ギルドに到着した。取り敢えず出入口を左に曲がって掲示板のある壁へと歩く。僕は最底辺から1個上の探索者ランクEなので、出入り口の傍にある小さな掲示板にしか依頼票は貼りだされてない…まぁ、殆どが常設依頼か、あっても町の中のドブ攫いとか大きい邸宅の庭掃除、探し物などの技術が無くてもできそうな依頼だけど…


(探し物って情報が命だから、情報料を支払えば割と楽なんだよね…ゼロから探すとか無理だし)


落とし物なら町の中ならとっくに拾得者が着服してるだろうから見つからないし、飼ってるペットなら「生きてれば」探せるだろうけど、大抵はスラムの貧乏人どもが捕まえて…最悪食われてるだろうし。探し人目当てで確保してても、依頼料より高い金を払わないと開放してくれないしなぁ~…。


(だから、ずぶの素人ができそうなのはドブ攫いとか掃除。薬草採取なんかだろうな…まぁ、掃除もそれなりに手先が器用じゃないと掃除してる場所が始める前より汚れるし、ドブ攫いも同様。薬草採取も、ちゃんと採取する薬草の形や採取する時の手順を理解してないと引き取ってくれなくて依頼失敗になるしね…要は「無報酬」になることもあるってことだ)


僕もギルドで薬草採取の方法を勉強することを怠ってたから、最初は「こんなのは受け取れない」「こんな雑な採取した薬草なんて雑草と変わらん!」って突っ返されてたんだよね…。余りにも改善されないもんだから、「勉強してこい!」って怒られた訳だけど(苦笑)…いやぁ、「文字が読めなくて勉強したくてもできない」っていったら、渋々最低限の文字の読み書きを教えてくれたんだよね…親切な人だったなぁ…。え?死んじゃったのかって?…いや、今でも元気に買取窓口で仕事してるよ。普段は温厚なんだけど、下手な採取物を引き取れないから怒ってただけなんだよね…今となっては僕の浅はかさが原因だと理解してるし感謝もしてる。うん、1年の間にきちんと勉強して、今じゃ人並みに読み書きできるようになったし、発音なんかも良くなったよ。前は「訛りが酷くて聴き取れなかった」なぁんて言われてたからね。2~3の山を越えた村にある村出身だったし、その村での会話に訛りのある言葉だったせいだろうな。今帰ったらびっくりするんじゃないかな?…当分戻る予定はないけどね。出て来てからまだ1年だし。もうちょっとランクが上がってからでもいいよね?



「ん~…特に目ぼしいものはなし、と」


いつも通りで笑っちゃう。いや、難易度の高い依頼が貼られてても誰もクリアできないと思うけど。


「おや、ザックじゃないか。ちょぉ~っと来てくれないか?」


背後から声を掛けられる。受付嬢…じゃなくて受付員のハンスだ。現在三十路一歩手前の結婚相手緊急募集中のナイスガイだ…とは本人の談。何処がナイスガイなんだろう?って思ったけど考えたらダメだ。感じるんだ!…とか訳のわからない台詞で熱く語るっていう…いや、仕事は普通にこなしてるんだけど。うっかりやる気スイッチを押してしまうと暴走するらしいので会話には特に気を付けている。


「え?…な、何ですか?ハンスさん」


そろぉ~っと振り返ると、矢張り予想通りギルドの暴走魔物、ミスターハンスが擦り手揉み手で近付いてたので、これ以上下がれないのはわかってるけど掲示板に背を付けてしまう。うん、完全に作戦負け、逃走経路無しってのはこのことをいうんだろう…って、左右に逃走経路はあるんだけど、雰囲気的に、ね?


「うん、ここじゃ何だからこっちきて?」


ちょいちょいと手招きされるので仕方なくついて行くことに。招かれた先は依頼人と探索者が話し合う時に使われる応接の間で、特に壁で区切られてなくてソファとテーブルが並べられてるだけの空間だ。頼めば飲み物くらいは出してくれるんだよね、ここ。席に着いてすぐ飲み物が運ばれてくる…水じゃなくてお茶だったけどね。飲んでみたら紅茶で食堂でも出してる奴だ。淹れたばかりで湯気が立っててそこそこ美味しい。やっぱお茶は淹れたてがいいね。


「…で、何です?」


「うん。用事は…依頼人がすぐ来るからもう少し待ってて?」


しょうもない内容だったら張っ倒そうかなと思ったけど。誰さんとのキューピッド役をやってくれとか、誰さんの情報を調べてくれとか、色々とあったんだよね…人が女性の好みの年下男子だからって、そんな不敬で不義理な真似できる訳ないだろ?…誰さんってのは町にいる女性数人のことだけどね…全員僕との面識があるからってそんなん引き受ける訳ないだろ?…そーゆーのは情報屋にでも行って欲しい。この町には居ないみたいだけど!(王都とか人の多い所なら居るんじゃないかな?)


「依頼人?…ハンスさん、僕のランク知ってていってます?」


「Eだろ?…ブービー賞の」


「そ…その通りですよ。依頼人ってそのランクEで請けられるんですか?…規定に沿ってれば問題無いですが…」


「まぁ話しを聞いてから決めりゃいいだろ。一応ギルド長と副ギルド長にも話しは通ってるからよ?」


「え…」


(そこまで話しが通っているって…。他の人じゃこなせない依頼なんだろうか?)


そんなことを考えてたら、当の依頼人が現れたらしい。


「えと…ハンスさんでしょうか?」


「おお、よくいらっしゃいました」


席を立って軽く頭を下げるハンス。いつものような粗暴な面は無く、余所行きのにこやかな笑顔で空いてる席に案内もしている。業務モードのハンスっていわれてる奴か…


「で、こいつが依頼を唯一こなせそうな子で…っと、おい。いい加減席を立って挨拶しろ」


「え…」


ガタガタと席を慌てて立って勢いよく頭を下げる僕。普段、こんなことしないから心臓バクバクいってるや。


「ええと…僕はザックっていいます。探索者になって1年のランクEです」


取り敢えず自己紹介と…


「よ、宜しくお願いします!」


頭を下げながらいったから相手の顔も見てないんだけど、


「あはは…そう畏まらなくてもいいですよ?」


「おいザック。頭を上げて座れ。そのままじゃ話しもできないだろ?」


依頼人の…声からして女性。それも歳を召したって感じだろうか。


「あ、はい…」


言われるがままに頭を上げて、着席する。うん、見たままでは優しそうなおばさん…おばあさん?…出身地の村長よりは若いと思うけど。あっちはジジイ!って感じだったけどな。


「でだな…依頼内容は俺は聞いてなくてな。詳しくはこの依頼人さんに聞いてくれ。俺は仕事があるんで戻るからな。頼んだぞ?」


などといってから受付に戻るハンス。それって業務放棄っていわないか?


「え…ちょっ!」


と手を伸ばすも、ハンスは既に此処には居らず。暫く手を伸ばしたままだったけど、諦めて降ろす。きっと、受付まで行ってもしらばっくれるんだろうな…あいつはそんな奴だし。そもそも、依頼人さんを放置してそれはできないよな…はぁ。


「あ~…すいません」


色々言いたいことはあるけど、困ったことがあって助けを求めて来てるんだろうし…可能なら助けてあげたいとは思う。可能ならね…でも、「強い魔物に襲われてて村が壊滅寸前なんです、助けて下さい!」とか、「作物が盗賊に根こそぎ奪われて、女子供を攫われて困っています。助けてください!(盗賊の討伐と攫われた人々の救出)」とか、できる訳ない。寧ろ、探索者じゃなくて正式な王国の騎士団や傭兵とかに出す案件なんじゃないかな?(この国には国を跨いで移動可能な冒険者という身分の人たちもいるけど、荒くれ者が多いので盗賊退治や魔物退治はお手の物だけど攫われた人を捜索して助け出すってのには向いてないし、そもそもこの町には殆ど居ないんだよね…管理されたダンジョンは探索者ギルドに登録してる探索者しか入っちゃいけないって決まりがあるもんだからってのもある)


「ええと、落ち着いたかしら?」


コクリと頷く。取り敢えず請ける請けないは話しを聞いてからにしよう…そう思ったんだけど、話しを聞いてから確かにこれは僕にしかできない案件だな…と。そう思った。その内容とは…


「実は…ここから山5つ超えた場所にある砂漠に近い町と村を幾つか治める領主…いえ、わたくしはその妻なのですが…」


「…は?」


身分を明かされて呆けてると、次に明かされた依頼内容に更に驚きを隠せなくなる。


「困っていること、というのは…砂の世界の近くにある地域特有なのですが…」


「ひょっとして…水不足、ですか?」


被せ気味に質問を口に出すと、「矢張り知っておられたのですね?」と続ける領主妻さん。砂漠くらいはこの1年で勉強したし。山5つ越えしないと辿り着けないけど、物凄く遠いって訳でもない。せいぜい1箇月も馬車に揺られてればいい。


(賊に襲われなければって前提だけどね)


「もうすぐここら辺は冬に…まぁ地域柄そんなに寒くはなりませんが…砂漠って冬でも水不足になるんですね…」


砂漠地帯が割と近いせいか、この町は冬でも凍える程には寒くはならない。冷たい風が吹いていても、せいぜい厚めの服を重ね着してれば問題にならない程度だ。動くことが多い探索者はダンジョンに入るのもあってか、普段着はいつも通りで冷えたら上からマントなどを羽織る程度で済ませている。流石に冬用のマントは生地が厚めだけどね。


「ザックさんといったかしら…貴方は聞く所によると、水魔法が得意とか…」


(え?…水魔法って…あの水魔法だよな?)


何か勘違いされてると思うのと同時に今更ながら魔法の基本を頭の中でおさらいしてる僕。通常、魔法と言えば四元素の火水風土の他に、特殊属性として光闇などがある。他にも色々あるんだけど人間が普通に習得できるのはその6属性のみだ。色々ある属性は生まれ持って習得…いや、生まれた時に備わっている魔法というべきか?…まぁ一般人とは関係ないしそれ程詳しい訳じゃないからスルーの方向で。


「あ、いえ…僕は「生活魔法」しか使えません。それ以外には植物限定の鑑定が使えますけど」


(あ…そういや「植物鑑定」も割とレアだから言い触らすなっていわれてたけど…。まぁギルマスと副マスにも話しが通ってるような人だし、問題無いかな?)


などと、ちょい焦りながら表面上は落ち着いて会話を交えていると。


「え…生活魔法だけ、ですか?」


ブツブツと「巨大な水球を生成してる所を見たと聞いたのに…」と呟く婦人…領主妻だと何かいい難いので名前を教えて貰うまではそれで通すか…ていうか、何人のシークレットを漏らしてるんですか?…このギルドにはプライバシーってものがないんだろうか?


「えと、いいかしら?」


「はい、何でしょう?」


問いに間髪入れずに返してみる。何か、5つ山を越えた地で毎日魔力を振り絞って水を作らされる、ある意味強制労働奴隷のような依頼になりそうなので能面の如し無表情で…ビクッ!とされたけど無表情。


「え、ええと…大きい水の玉を作れる人材が居ると聞いてたのだけど…貴方…ザックさんは作れるのかしら?」


暫し間を置いて、


「えぇ、まぁ…井戸を水で満たすくらいには」


数日置きにやってる宿での作業内容を大雑把に話す。嘘はいってないから問題はない。本当は魔力枯渇しない程度に絞り尽くせば、あの井戸を20本くらいは満たせるけどな…今の魔力総量なら恐らくは。そこまでやっちゃうと体力も相応に消費するから、その日はダンジョンどころかお使いに行く気にもならないけど。


「…」


暫く考え込んでいる婦人。悩みに悩んで、今!…てな勢いで顔を上げると、


「お願いがあるの。わたくしと…わたくしと一緒に来てくれないかしら?…砂漠の町、「サンフィールド」へ…」


(サンフィールド?…太陽の原?)


聞けば、砂の「サンド」と太陽の「サン」を広い原の「フィールド」と合わせた造語、らしい。ドが間にあると「サンドフィールド」でくどいからドを取り払ったとか何とか…。まぁ名前の由来は兎も角、強くお願いされて依頼を請けることになりました。えっと、ハーブはどうしよ…。まぁ正式な依頼じゃないし、ギルドの依頼で長期出張することになったっていえばいっかな…


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底辺探索者、大物案件に駆り出される!(意外な展開に作者もびっくりw)

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