02 ハーブティーを飲んだ僕

ダンジョン第1層から帰還して受付でちょっとドタバタがあったけど、無事に常宿に帰った僕。戻った時、いつもならご飯食べてから部屋に戻るんだけど…

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- 常宿に帰る -


「ふわぁ~…何か疲れたなぁ…」


精神的に、と思いながら常宿にしてるギルド指定の宿に入る。安い宿だけどご飯も美味しいので僕は好んで利用している。ダンジョンにもギルドにも近いしね。但し、探索者ギルドに登録してから3年以内の探索者しか利用できないという制限があるけど。若しくは、探索者だけどギルドと契約していてこの町から勝手に離れられない事情がある探索者という例外もある。僕は登録してから1年のペーペーなので、後2年は居られる計算だ。


「あら、お帰りなさい!」


女将さんが僕に気付いておかえりを言って迎えてくれる。女将さんといっても、まだ30前のお姉さんなんだけどね…口の悪い人はババアっていうけど…何でこんな美人さんをそういって貶すのかわからない。いや、それなりに胆が据わってる女性だなとは思うけどね…口喧嘩で負けたことがないって聞くし…


「ただいまです!」


疲れてるけど元気よく返事する。ちなみに例のクリーンで体は綺麗にしてるので、汗の臭いもせずに清潔感漂う体は風呂に入った後のように爽やかだ。


「…あら?もうお風呂に入って来たの?」


目敏く女将さんが鼻をクンクンさせながら訊いて来る。


「あ、いえ…そのちょっと…」


答え辛いので口籠ってると


「ふ~ん…まぁいいわ。夕ご飯できてるからね?」


「あ、はい!」


流石にお腹はぺこぺこなのでそれは有難い…ので、早速食堂へ歩いて行く。



(あ、そうだ。早速だけど例のハーブでお茶を作ってみようかな…)


どんなお茶ができるか楽しみだし…と思い、厨房へと入る。


「おうザック。どしたぁ?」


ギルド職員の調理担当のお兄さんが厨房へ入って来た僕に声を掛ける。いつも顔を合わせてるけど機会が無くて名前は知らないんだけどね…


「えっと、お茶にできるって聞いて集めてきたハーブがあるんですよ…」


採取袋からハーブと言われる種類の雑草を取り出して見せる。


「これがか?…雑草にしか見えんけどな?」


手に取ってハーブを見ていた調理担当者が返しながらいう。まぁ知らなければそんなものだよね。


「取り敢えずいつもの場所、お借りできますか?」


「ああいいぜ。ちゃんと後片付けは頼むぜ?」


「わかりました!」


僕は使用許可を貰い、調理場の片隅の何故か1つだけ離して置いてある小さ目の机を置いた場所を拝借する。というか、ここは場所だけ借りて持ち込みの机と魔導コンロ(自前)を置いただけのスペースだ。


「さて、と」


採取袋からハーブを取り出してドサドサと置く。植物鑑定を行使して種類別に仕分けし、今回使う物だけ残して残りは小袋に種類別に詰めて採取袋に戻しておく。


(ん~…自分が飲む分しか作る予定無いし…小鍋でいっか)


採取袋とは別に持ち歩いている道具袋から小鍋とコップを取り出す。後、かき混ぜ棒も出す。お茶を沸かすんだし、あるといいかな?と思ったので。


(え~っと…あっちか)


流し台に向かい、小鍋とコップ、そしてかき混ぜ棒を洗う。毎朝井戸から汲んでくる水亀の水を使うのは申し訳ないので、生活魔法のピュアウォーターを使って、だけど。


(う~ん…毎回思うんだけど、何でこんなにも視線が突き刺さるんだろう?…水亀の水は使ってないんだけどなぁ?)


流し台で食器などを洗ってると何か知らないんだけど視線がザクザクと突き刺さるんだよね…いや、僕の名前がザックだからってことはないと思うけど(というかそうであって欲しい…)


突き刺さる視線から逃げるように流し台から退散してハーブを置きっぱなしの作業机に戻る。


(そー言えばハーブは最初に濯いだ方がいいんだっけ…あ~2度手間だよなぁ…)


ヘコっと凹みながら再び流し台へ。今度はボールにハーブを入れてからだけど。見た目雑草のハーブを衆目に晒しながら往復するのは…多分余り良くないと思ったから。野菜なら文句はいわれないと思うんだけどね…


(じゃぶじゃぶじゃぶっと…こんなもんかな?)


簡単に汚れを洗い流し、ボールに入れて持ち帰る。さて、ハーブティーなるものの淹れ方なんだが…小鍋に水を満たしてボールからそのまま洗ったハーブを入れようと思ったが、普通の茶葉類は一度乾燥させてからお湯に入れると聞く。ハーブティーも似たようなもんじゃないのか?…と思い、まずは紅茶と同程度に乾燥させて淹れようと思う。



結論からいえば…まぁまぁの結果だと思う。風味というか匂いはそこそこ。味も悪くはないと思う。何かが足りない気がしないでもないけどね。そこはしょうがない…専門店で淹れたお茶じゃないしね。多分、乾燥の仕方とかお湯の温度とか沸かす時間とか色々試さないといけないんだろう…と思う。お茶だけでお腹が膨れても困るので、試しに作ったハーブティーは小鍋に入れて蓋をし、カップだけささっと洗って食堂へ戻ることにする。


「料理長、場所ありがとうございました!」


「おう…って、料理長じゃねーっていってんだろ!」


「あはは…」


とまぁ、いつものやり取りをこなしてから食堂へ戻る。背負い袋類を背中に背負って、小鍋をトレイに乗せ、カップも添えていつもの席へと歩いて行くと…


「はいザック。いつものA定食よ?」


と、看板娘と揶揄されてるギルド職員2年生のサクヤさんがいつも使っている隅っこの席にトレイを置いている所だった。いや、先回りされて困る訳じゃないけど…


「あ~、いつも済まないねぇ…」


とボケると、


「それはいわない約束よ?」


と、ボケ返される。まぁいいんだけど…


「よぉ、夫婦漫才は他所でしてくれっていつもいってるだろ!?」


「結婚式はいつ挙げるんですか?」


などと、周囲からブーイングが飛ぶ。


「いやいや、僕16歳で彼女は19歳なんですがっ!?…相手にしてくれな…あ、あれ?」


見れば、サクヤさんが顔を真っ赤にして顔面から火を吹くんじゃないか?ってな状況になっていた。


「あ、あああ、あの!ゆっくり食べてってね?ザッくん!」


とまぁ、愛称呼びしてサクヤさんはダッシュで駆けてって…あ、コケた。


「ぱんつぅ~、丸見え!」


などと幼稚な声を上げてるバカが居たのでピュアウォーターを着火でお湯にして頭からかけてやった!


「うわっっちゃあ~!?」


いきなり頭から熱湯を受けて外に走り出す男。多分、井戸があるからそっちに向かったんじゃないかな?…その間にサクヤさんはスカートを手で整えてノロノロと起き上がり…こちらと視線が合うと、


「しっ…失礼しましたっ!」


と叫んで厨房へと走り去ってしまった…うむ、白だった(結局見てたんかいっ!)



さてさて。A定食を平らげ、食い終わる頃にはハーブティーの状態も飲み頃になるんじゃないかなって思ってたのでコップに注いで…まずは匂いを嗅いでみる。


「ん~…やっぱ淹れたての方がいい香りがしてたかな?」


あれから10分以上経過してたので温度も下がってるしね。ちょっとだけ口を付けてこくりと一口。


「ん~…味は変わらないか。取り敢えず、何度もトライして淹れ方を変えてみるしかないか…紅茶じゃないから教えを乞うこともできないしなぁ…」


ひとまずは、温度や乾燥や蒸らすとか色々試せねばなるまい。若しくは、サクヤさんにハーブを預けて試行錯誤して貰うのも良いかも知れない。一応、宿の厨房で働いてる人なんだし、ね。


「ふぅ…じゃ、残りはサクヤさんに…って思ったけど」


あのパンツ丸見え事件の後じゃ話しにならない可能性もある…と思った僕は、時間を置いて頭が冷えた後にした方がいいか…ということで、明日以降に相談することにした。



- 翌日、厨房にて… -


「あ、おはようございます。サクヤさんは居ますか?」


厨房の朝は早い。仕込みとか仕込みとか食器を整理するとか色々あるからだけど…


「おお、おはよう。早いな?…そういや嬢ちゃんはまだ来てないな?」


遅番なんだろうか?…いや、知らないけど。などと思った僕は、


「そ、そうですか…」


と、残念な気持ちでいると、


「何だぁ?…坊主、デートの約束でもしてたのかぁ?」


などと茶化される。いや、幾ら何でも年下の探索者1年生のガキが逢引きなんてする訳ないでしょ?…将来性とか全くわからない内に!


「いえ…ちょっと相談したいことがあったんですが…」


「ほう、相談。ひょっとして料理関係か?」


「いえ、料理じゃなくて飲み物です」


と、昨日飲んだハーブ…雑草を入れた小袋を取り出しながらいうと、


「紅茶…じゃないな。雑草か?…昨日飲んでたのはこれか?」


奇妙な物を見る目付きで料理長(仮名)が訊いてきたので、


「えぇ、植物鑑定でお茶にできるハーブ…まぁ一般的には雑草ですね…って出たんで。試しに紅茶みたいにして淹れてみたんですよ」


一応書いておいたメモ用紙を取り出し、書き記してあるレシピと飲んでみた感想を見せた。


「ほほう…俺は仕事が忙しいからなぁ…まぁ、嬢ちゃんに頼んでみるのもいいんじゃないか?…オリジナルの料理とか勉強して作ってみたいとかいってたからな」


料理じゃないけど、ハーブティーは今の所は聞いたことはないし、いいかも知れないと思った。


「じゃあ、このレシピと材料のハーブ、預けますんで頼んでもいいですか?」


「あ?…あぁ、嬢ちゃんに渡して美味く飲めるようにレシピを改良してくれっていえばいいのか?」


「まぁそゆことです。足りなければ材料は調達してきますんで!」


料理長(仮名)は少し考えこんでいたが、


「…わかった。じゃ、材料は毎日じゃなくてもいいから…ちょっと待て」


のそのそと奥へと引っ込むと、何処からか肩掛けバッグを手にして戻ってくる。


「これ一杯に入るくらいになったら持って来てくれ。何、こいつは特別製でな…昔、俺が探索者やってた頃に使ってたお古だが、見た目以上物を突っ込んでも入るし重さも変わらない。ま、貸すだけだからな?…持ったまま行方を晦ます…なんてことはしないでくれよ?」


料理長(仮名)は、ニカっと笑いながら肩掛けバッグを放り投げて寄越したが、顔は笑顔なのに目が笑ってなくて非情に怖かった…うむ、絶対に返しに来ないとな!


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一般的なショルダーバッグ(革製)の大きさで、登山用のリュックサックくらいは入る内容量拡張・重量軽減の付与魔法が掛けられた魔法の肩掛けバックです。容量的には10倍くらいでしょうか?(元が小さいので総容量は少な目)

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