第58話 試練
一同固唾を飲み行方を見守る中、仏様からの決定が正式に下される。
「桃次郎を生き返らせます。そもそも君の魂は渡るべきでは無かったのですからね。
そして、桃太郎と友三人を一緒に住まわせる事を特例として認めましょう」
そう告げ終えた瞬間に部屋中大歓喜の声に包まれた。手を取り合って飛び跳ねている者らまで居る。
「ただし、」
仏様は真剣な眼差しになりじっと桃次郎を見つめこう続けた。
「ただし、桃次郎。君には一つの試練と一つの条件を与えねばならない。君に負うべき責は無いとは言え、一度こちらへ来た者を何もせずそのまま返したのでは天界と地獄共に面目が保たれないのです。
その為、こうして君のように特例でこちらへ来てしまった者には試練などを与え無事クリアする事が出来たらばと言う条件を課しているのです。
何度も言うが、君に負うべき責は何もないのですよ。しかし、どうか理解して欲しい」
やはり、無条件にと言う訳にはいかないようだ。
それはそうだよな、僕一回死んでるんだし。生き返るとなると色々面倒そうだよね。そもそも人が死んで生き返るなんてねぇ、ファンタジーだって相当難しいぞ。
特に疑問に思う事もなく納得の色を示す桃次郎。
試練と条件はしっかり聞いておかねばと前向きに顔を上げて質問する。
「その、仏様。受ける試練と条件とは一体何でしょうか」
「おや、あまり驚かないのだね……。
うん、それではまず試練の説明をしよう。
一つの試練とは、地獄にて隔離されている空間へと飛びそこに幽閉されている者を討つ事。地獄では牙島の統括の下で多くの鬼や小鬼達が改心し働いてくれている。ですが、ただ一人だけどうにも出来なかった者がいたのです。力が強いばかりでなく、厄介な妖力を見つけており私と閻魔でどうにか封じる事には成功しその空間を地獄の果てで隔離したのです」
「なるほど、わかりました」
聞いていた一同が愕然とし凄い悲壮な面持ちでもって桃次郎を見る。
それを聞いても尚、驚くどころか落ち着きまくった桃次郎を見て周囲が逆に慌てふためいてしまう。
「も、桃次郎様……そんな簡単にお受けなされて」
「これはいかに……」
「いけませんわ、そのような慈悲もなにもないような試練を」
「そうです、なにもそうしてまで……」
「も、桃次郎……」
「怖くは、ないのか?」
「ジロちゃん……大丈夫なの?」
口々に桃次郎を案じる声がかかるのだが、当の本人はとんと気にせずに皆何をワタワタおたおたと狼狽えているんだ。と首を傾げるばかり。
「え、だって僕今死んでるんだし。これ以上死ぬことあるのか?」
桃次郎としては至極当然な質問であったつもりだ。だって、肉体としては死んでこっち世界に来た身だ。だから、死以上の死なんてないだろうと思った訳であったがそれは次の瞬間に華麗に打ち砕かれる事となった。
「うん、あるよ」
サッパリとした口調でスッパリと言い切ったのは仏様だ。
思わずツッコミのような速度で口走ってしまったが、あるんかいっとは言わなかった自分を褒めてやりたい。
「あるんですかっ」
「消火と言おうか、アレは恐ろしい妖力を使うよ。力も相当強い。君は人魂、とか鬼火というのを見た事があるかい?」
「あの青白く光って飛ぶやつですか? 見た事はないですね……僕は霊感とかないと思うので。あ、桃太郎じいちゃん自体は例外みたいですけど」
「今まで一度も? ……ふむ、そうだったのか。なるほど……君には結構な試練になってしまうかもしれないね。でも、きっと君ならばやり遂げられると私は思うのだよ。そう、確信している」
「確信ですか……」
「うん。そうそう鬼火とか人魂って色々言い方があるんだけど要は魂なんだ。命の火、命の源と言っても過言では無い。それを、アレは消してしまう。消火された魂はどうなるかと言うと、完全に消えてしまうんだ。無に帰すんだよ。巡る命の軸にも入る事なくその場で搔き消えて何も残る事がない」
聞くのも恐ろしいと村人達は震えあがっている。この住人達は、肉体は等の昔に滅び亡くなっているがこちらの世界では消滅していない。霊体ではあるが、それぞれ暮らしを営めるし困る事は殆どないという。
しかし、なんらかで彼らの魂が消火されてしまう事があると蝋燭の火がふわっと消えるかのように瞬きする間に完全に消えてしまうのだそうだ。
「え、こわ」
「だよね」
だよねって仏様。お茶目か。
「うーーーーん、消える……消えるのか……」
「桃次郎……無理せんでもよいぞい。向こうの世界に万一戻れないとあってもこっちで苦労はさせんぞい」
しょんぼりと肩を落としまくってワシのせいでこんな事に……と小さな小さな声でつぶやく。
別に僕が死んだことは桃太郎じいちゃんの所為じゃないんだけどね。
ずっと気にしているみたいだ。
いや、まあそれより。今は試練の内容の方が重要である。
完全に消えてしまうのは困ったものだ。なんといっても愛理さんの事、家族の事色々あるんだから。学校だってまだ卒業してないし。
悶々と思考に耽っていると、仏様がこう言う。
「心配せずとも、桃次郎一人で行かせる訳ではありません。桃太郎を初めとし、牙島や閻魔の息子達も連れて行きなさい。……わかりました、あなたがたも行っていいですよ」
心配そうにソワソワとしながら話を聞いて、自分達の名前が挙がらなかったのでサル助、五郎、ケンはじっと仏様を見つめていたのだ。やっと許可があり三人共にヨシヨシと笑顔になる。
「え、一人でやるのでは……?」
「試練とは言え、君をたった一人で向かわせたら私みんなに呪われそうですしね。それに、知恵者が集えばそれなりに色々とヒントになると思いますよ」
仏様を呪うだなんてそんな大層な事できっこないでしょ、と思いながら皆を見ると驚く程にウンウンと頷いている(名前の挙がらなかった村人達も含め)ので桃次郎の方が驚いた。
ちょっと、皆罰当たりすぎない……? 仏様だよ?
「村人の皆様、流石にあなたがたを同行させる事は出来ません。場所が場所なだけに皆に見せる訳にはいかないのです。良いですね」
何名かはブー垂れ、屈強な男は「ワシも一緒に……」と言いかけたが周囲にやめとけ、これは仏様がお決めになったのだから、諦めろ等々宥めるような声が上がりしょんぼりと肩を落としながら挙げた手をしゅるしゅると下ろすのだった。
パンパンっと手を合わせる音が響いて一同、仏様に注目し直す。
「さてさて、もう一つ。条件とは、生き返った君がこの者達の新しい墓を納得のいく形で造ってあげなさいね」
仏様はそう言って気軽にポムっと桃次郎の肩に手を添える。
不思議な温もりを感じながら
「やっぱり僕ですよねぇ……はい。頑張ります」
正式に生き返れるのは正直嬉しくあったが、その前後に成し遂げなければならない重大な任務にカックリと肩を落とすのであった。
(口走った手前、やらないわけにはいかないしここまで来たんだからね)そう前向きに思い直す事とした。
そして何故か、胴上げじゃと誰かが叫んだ。
あれよあれよという間に桃次郎は大勢に担ぎ上げられワッショイワッショイと何度も宙を舞う事となる。
もう途中から何だこれ状態であったが、そんな桃次郎本人の意思はさておいて嬉し涙に歓声にと暫くの間止む事はなかったのであった。
桃太郎の桃ハウス みずなし @mizunasi9
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