第2話 ハーレムは戦争

 ―― 一ヶ月後 ――


「……う~ん?」


 夜。

 寝ていると、まぶたの向こう側が明るくなり、目を開けると、眩しい光を放つ円盤が近くに降りてきたところだった。


 円盤の扉が開き、中から姿を現す、長い頭で大きな目の、銀色の服を着た人物。


「モムンネノホーーーミミミンじゃないか」


「やあ、久しぶりだね」


 手を振り、こちらへ歩いてくるミミミン。

 約一ヶ月ぶりの再会だ。


「元気してたか、ミミミン?」


「うん。タクミは?」


「俺も元気だよ」


「そっか。ところでタクミ」


「うん?」


「どうしてこんな、絶海の孤島にいるんだい?」


「……」


「しかも、手作り感たっぷりのボロ小屋で寝たりして」


「……」


「もしかして、ここがタクミのハーレム王国なのかい? 女性たちはどこに?」


「……ここにいるのは俺だけだよ、ミミミン」


「そうなのかい? 女性は? ハーレムスイッチを使わなかったのかい? それともうまく起動しなかったかな?」


「いや、使った。ハーレムスイッチを使った次の日に、玄関開けたら一秒で告白されたよ」


「起動も問題なかったんだね」


「学校への道すがら、たくさんの女性に迫られてさ」


「うん」


「学校でも女性に大人気でさ」


「うんうん」


「学校出ると、数えきれないほどの女性に囲まれてさ」


「うんうんうん」


「そして、第三次世界大戦が始まったんだ」


「……うん?」


「どうしてこんなことに……」


「……本当に、どうしてそんなことに? 何があったんだい?」


「SNSに俺の顔が上げられて、世界中に拡散されて、それを見た世界中の女性が日本の俺のところへ、求婚するためにやって来たんだ」


「いいんじゃない?」


「その中には、各国のお偉いさんやら王様のご婦人、ご令嬢もいたんだ」


「あれま」


「そこからは、もう大変でさ。覆面の人にさらわれそうになったり、暗殺されそうになったり、それを知った女性大統領が女性だけで編成された軍を日本に勝手に送り込んだり、大国が侵略を防ぐためとか理由つけて軍を動かして侵略はじめて、それを止めるために世界中の軍が動き出して……もうてんやわんや。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


「笑い声が乾いてるね」


「俺は、日本に居づらくなって船で海外へ逃げようとしたんだけど、途中で俺が乗ってるってバレて女性が騒ぎ出して、俺を取りあってケンカをはじめて、船が事故って沈んで、俺は命からがらこの島にたどり着いて、今この通りってわけさ」


「そうだったんだね……」


 神妙な顔になるミミミン。


「こんなことになるだなんて、タクミには悪いことをしてしまったね。ごめんよ」


 頭を下げて謝罪してきた。


「いや、気にしないでくれ。ミミミンは、俺を思ってハーレムスイッチをくれたんだ。うまく使いこなせなかった俺に責任があるんだから」


「でも」


「もうこの話は終わりにしよう。な?」


「……うん、タクミがそう言うなら」


「まぁ座れよ。今、雨水でも出すからさ」


「ありがとう」


「ミミミンはさ、よく俺がここにいるってわかったな」


「君の体に素粒子チップを埋め込んでおいたから、その信号をたどってね」


「おいおい、俺の体で人体実験とかは勘弁してくれよ?」


「まさか、友達にはしないさ」


「プッ、アハハハ」


「ハハハハ」


 やっぱり隣りに誰かがいるってのはいい。

 久しぶりに笑ったような気がする。


「タクミ、これからどうするんだい? ずっとここにいるつもりかい?」


「俺がここを出て人と会うと問題が起こるから、ここにいるよ。寂しいけどね」


「だったら、僕たちの星に来ない?」


「ミミミンの?」


「うん。どうかな?」


「う~ん……」


 地球にいる限りみんなに迷惑をかけてしまう。

 だったらミミミンの星に行くのもありかな。


「あ、ちょっと待って。脳波連絡だ」


 ミミミンが夜空を見上げた。


「%#$*。&$%##。*$#&$&――」


 謎の言葉で会話してる。

 ミミミンの星に行くなら、言葉を覚えないと。

 覚えられるかな。


「――&%#*%$%。お待たせ」


 こちらへ向き直るミミミン。


「今の、僕の母さんからなんだけど、僕とタクミのやり取りをカメラで見ててさ、母さんもタクミをウチに連れてきなさいって」


「そうなの?」


「僕の母さん、僕たちの星の女王陛下だから、安心してウチへおいでよ」


「マジで?」


 だったらミミミンは王子様か。

 さり気にすごいやつだったんだな。


「で、どうする?」


「行くよ。もう争いはこりごり。これからよろしくお願いします」


「うん」


 笑顔を返すミミミン。

 ミミミンが王子様なら安心だ。


「じゃあ、さっそく行こうか」


「宇宙に行けるのかぁ。ミミミンの星って遠いの?」


「そんなことないよ。地球からたかだか二万光年くらいのところさ」


「ふ~ん?」


「心配しなくても、さらった地球人もいるからすぐに慣れ……あ、あれは!?」


「どうした?」


 空を見上げて驚くミミミン。

 俺も顔を上向けると、いくつもの不規則な動きを見せる光が見えた。


「他惑星の宇宙船がなぜここに……!?」


 他惑星ってことは、ミミミンたち以外にも宇宙人っているんだろう。


「あっちは、カルエル星の女帝の船。あっちは、フュージ星の姫騎士の船。あっちは、女宇宙海賊団マーリーブランの船じゃないか」


 ミミミンの頬を汗が流れる。

 あまりよろしくない状況のようだ。

 みんな女性というのが気になる。


「何!? タクミを渡せだと!?」


 脳内で誰かと会話しているもよう。


「断る! タクミは命に代えてもカカカ星に連れてこいとの女王陛下の命令なんだ!」


 女王陛下の命令。

 女王陛下。

 女。


 女帝に姫騎士に女海賊。

 嫌な予感。


「ね、ねぇ、ミミミン。俺のハーレムスイッチの効果って、地球人にだけなんだよね?」


「急ごう」


 質問をスルーして俺の手を引くミミミン。


「はい、命に代えてもタクミを連れ帰ります」


 脳内会話中。


「ミミミン? 聞いてる?」


「姫騎士よ、私を攻撃するつもりか? 銀河全体を巻き込む戦争に発展するぞ」


「戦争? 今戦争って言った?」


「女帝よ、お引きを。あなたが私の船に砲を放てば、宇宙戦争の引き金となりましょう」


「宇宙戦争? ミミミン? 俺、争うのが嫌で地球を離れたいんだけど?」


「タクミを手に入れるためならかまわないと!? いいでしょう! こちらにも覚悟があります!」


「ミミミン? 俺の話聞いて?」


「第七十七次宇宙大戦のはじまりだ!」


「これまで七十六回もそんなことあったの? ねぇ? また俺のせい? ミミミン? ミミミンさん?」



 ………………

 …………

 ……



 宇宙大戦の火ぶたが切られた。

 宇宙の外に逃げ場ってあるのかな……。

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ハーレムスイッチ 蝶つがい @Chou_Zwei

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