ハーレムスイッチ
蝶つがい
第1話 友人は宇宙人
「これは、ボタンを押すと世界中の女性が君に夢中になるハーレムスイッチさ。タクミは、ハーレムに憧れてたろう? だから、友情の証として僕から君へこれを贈るよ。あ、もう行かないと。またね、さようなら」
そう言うと俺の友人は、光を放つ円盤に乗り込み、夜空へと飛び去って行った。
故郷に帰らなきゃいけなくなったから最後に会ってほしい、と突然の連絡があり、指定された山の中に来たんだけれども、まさかあいつが宇宙人だったなんてな。
高校に入学して以来、かれこれ二年以上の付き合いになるが、まったく気づかなかった。
言われてみればあいつって頭が長くて、目がでっかいサングラスかけてるみたいに大きくて、手足が長くて、いつも銀色の服を着てて、名前がモムンネノホーーーミミミンと発音しにくかったっけ。
「元気でな、ミミミン」
すでに夜空にきらめく星々のひとつとなってしまった友人の乗る宇宙船へ別れの挨拶を送った。
「さて……」
手の中にある、友からの贈り物に視線を落とす。
四角い箱に赤いボタンのついた、クイズ番組などでよく見る、なんでもなさそうなスイッチ。
ハーレムスイッチか。
ボタンを押すと世界中の女性が俺に夢中になる、と。
本来ならば一笑に付すような話ではあるが、宇宙船を見た後では笑えない。
本物である可能性は高い。
ならば、このボタンを押せば、昔からの俺の夢だった俺のためのハーレムが現実のものになるかもしれない。のだが、
「……気持ちだけ受け取っておくよ」
俺は、ハーレムスイッチをそっとポケットにしまった。
ハーレムには憧れる。
だが、強引に人の意識を変えてまで実現させようなんて思わない。
自分の力で成し遂げてこそのハーレムだ。
それに今、俺には好きな人がいる。
幼馴染みの早瀬真紀のことだ。
真紀のことが好きだと気づいてからは、ハーレムのことなんて妄想しなくなった。
ハーレムスイッチがあれば、真紀も俺に惚れさせることができるのだろうが、やはり自分の力で惚れさせなければ意味がない。
ハーレムスイッチに頼るつもりはなかった。
今、俺と真紀はとても良い雰囲気だ。
順調にいけば、恋人という関係に発展する日も近い。
恋人になれたあかつきには、ミミミンともう一人の親友である龍一を呼んで発表するとしよう。
二人とも、さぞかし驚くだろうな。
ピリリリリ
「ん?」
電話だ。
画面を見ると、想い人である真紀からだった。
もしかして、向こうからの告白電話だったりして、フフフ。
「もしもし」
応答をタップして電話に出た。
「っん、はぁんっ……え!? 本当にかけたの!? も、もしもし、タ、タクミ? あ、あのね、ち、ちょっと用事というか、そ、その、ああんっ、い、今はやめてって! あ、な、なんでもないの、ウ、ウチのペロがね、イ、イタズラ、やんっ、や、やめてってば、三本なんて無理だって龍い……じゃなくてペロ! んっ、タ、タクミ、んっ、い、今、んっ、何して、んっ、るの? んっ、わ、私は、んっ、ペロと、んっ、あ、遊んで、んっ、るんん~~~~~~~~~~っ!」
「……」
カチッ
俺は、ハーレムスイッチのボタンを押した。
◇◆◇◆
翌日。
「いってきまーす」
学校へ行くため家を出ると、
「私と付き合って!」
告白された。
「え? え?」
戸惑いつつも相手の顔を確認すると、
「真紀?」
幼馴染みの早瀬真紀だった。
「そうよ真紀よっ、私と付き合って! もう昨日からタクミのことを考えるだけで下着がグショグショに濡」
「ま、待て待て。真紀って龍一と付き合ってるんじゃないのか?」
電話でLiveセックス聞かされたし。
「付き合ってないわよ! ただのセフレ……でもないんだからね! 勘違いしないでよね!」
そんなこと言ってない。
「さあ! さあ! さあ!」
グイグイ迫る幼馴染み。
血走った目が怖い。
「おやめなさい!」
そこへかけられる後ろからの声。振り返ると、
「あなたに息子は渡しません!」
母ちゃんが立っていた。
「私と結婚するんですからね!」
プロポーズされた。
母ちゃん、朝からやたらとベタベタしてきてたけど、そんなキツいこと考えてたのか。
「おばさんは親子だから結婚できないでしょ!」
「お黙り小娘! 結婚できる国に行くのよ!」
そんな国ないよ。
「おばさんは引っ込んでて!」
「ビッチこそ引っ込んでなさい!」
取っ組み合う二人。
怖くなったので、さっさとその場を離れた。
「あ~、ビックリした。あのハーレムスイッチ、本物だったみたいだな」
昨日の夜、ボタンを押してから今朝まで何もなかったので、偽物だと思ってた。
しかし、その名の通りの代物だったようだ。
「ちょっとあなた」
歩いていると、綺麗なお姉さんに呼び止められた。
「はい?」
「私をお抱きなさい」
命令された。
「あたしとチューしてください」
幼女にせがまれた。
「一緒の墓に入っとくれ」
おばあさんに誘われた。
ハーレムスイッチの効果だろう。
お墓はともかく何て素晴らしいスイッチだろうか。
「好きです」
「アイラビュー」
「ウォーアイニー」
その後も続々と俺の周りに集まってくる女性たち。
俺は、それらの告白に曖昧に返事をしつつ、学校へと向かった。
……
学校へ着いてすぐ、女子に囲まれた。
みんながみんな、俺へ愛の告白をしてくる。
朝の全校集会では、体育館の舞台壇上に立った女子の生徒会長から、マイク越しに、
「みなさん、おはようございます。タクミ、好き」
告白され、授業では女性の先生から、
「では、教科書の十五ページを読んでください。タクミ、愛してる」
告白され、休み時間には、スピーカーから、
ピンポンパンポーン
『先生のお呼び出しを申し上げます。タクミ、結婚して」
告白された。
授業の合間には、学校にいる女子全員が俺の教室へとやってきた。
さらには、朝から校門前に集まりはじめていた女性たちが、昼を過ぎた頃には黒だかりの山となり、学校の敷地を取り囲んでいた。
女性たちは、無断で学校敷地内へと入りだし、ついには警察も出動する事態となって、今日の授業は昼で終了。
強制的に下校することとなった。
俺が靴を履き替え昇降口を出ると、
「「「きゃーーーーーーーーーーっ!」」」
待ってましたとばかりに女性たちが黄色い声を上げ、人員整理をする警察の脇をすり抜け、俺に群がった。
「ハハハ、みんな押さない押さない。あれ? あなたはもしや、加野雨姉妹? あなたのメンズに? まいったなぁ。おや、あなたは、ヒリス・パルトンさん? 全財産上げるから結婚してくれ? うれしいなぁ。ありがとう、みんなありがとう、俺もみんなが大好きさ。ハハハハ、アハハハハハハハハハ」
やっぱりハーレムは最高だ。
俺の夢が叶ったんだ。
こんなにも素敵な贈り物をありがとう、ミミミン。
俺、立派なハーレム王国を作るよ。
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