【童話】なくなっちゃえ【朗読あり】

武藤勇城

本編

なくなっちゃえ

 あるところに一人ひとりどもがいました。

 名前なまえはサトシくん。

 小学校しょうがっこうはいったばかりの7さいです。


 サトシくんはピーマンがきらいです。

 学校がっこうのきゅうしょくでピーマンがました。

 サトシくんはべたくありません。


 でも先生せんせいいました。

 サトシくん、のこさずに、ちゃんとべないとダメです。


 それから、こういました。

 もしべなかったら、みんなかえれませんよ。


 サトシくんは、いやいやべました。


 おかあさんは、いえではピーマンをつかいません。

 りょうをするときにサトシくんのきらいなピーマンはれません。


 いえかえったサトシくんは、おかあさんにいました。

 学校がっこうでピーマンがたんだよ。

 きらいなのにべなさいってわれたんだよ。


 おかあさんは、サトシくんにいました。

 しかたないわね。

 これからべられるように、どりょくしましょうね。


 なんでだよー。

 ぼくはべたくないのにー。

 サトシくんは、だだをこねました。


 べないと、みんながこまっちゃうから、がんばろうね。

 おかあさんはいました。

 でもサトシくんは、どうしてもべたくありません。


 なきながらサトシくんは、自分じぶんのへやにはいりました。

 ベッドによこになると、いました。


 ピーマンなんて、なくなっちゃえ!


 ―――――


 つぎの

 サトシくんがあさをさますと・・・。


 ピーマンはせかいから、きえていました。

 おかあさんにいても、先生せんせいいても。

 ピーマンなんてらない、といました。


 サトシくんは、おおよろこびしました。

 もうピーマンをべなくてもいいんだ。


 サトシくんのともだちの一人ひとり、アキコちゃんがいました。

 アキコちゃんもピーマンがきらいだったので、サトシくんはいました。

 ぼくがピーマンなんて、なくなっちゃえ、っておもったらきえたんだよ。


 でもアキコちゃんは、そのはなしをしんじてくれません。

 うそつきー、ピーマンなんていたこともないよ。

 アキコちゃんはいました。


 うそじゃないよ、本当ほんとうだよ。

 何回なんかいはなしても、しんじてくれません。

 サトシくんとアキコちゃんは、けんかをしてしまいました。


 いえかえると、サトシくんはおかあさんにいました。

 アキコちゃんがね、ぼくのはなしをしんじてくれないんだよ。


 おかあさんは、サトシくんにいました。

 しかたないわね。

 これからしんじてくれるように、どりょくしましょうね。


 なきながらサトシくんは、自分じぶんのへやにはいりました。

 ベッドによこになると、いました。


 アキコちゃんなんて、きらいだ、いなくなっちゃえ!


 ―――――


 つぎの

 サトシくんがあさ学校がっこうくと・・・。


 アキコちゃんがいません。

 先生せんせいいても、アキコちゃんなんてらない、といました。


 いえかえると、サトシくんはおかあさんにいました。

 アキコちゃんがね、いなくなっちゃったんだよ。


 おかあさんは、サトシくんにいました。

 アキコちゃんなんてらないわよ。


 なんでだよー。

 きのうはアキコちゃんのはなしをしていたじゃないか。


 らないはなしをされても、こまっちゃうわ。

 おかあさんはいました。

 でもサトシくんは、なっとく出来できません。


 おとうさんがかえってくると、サトシくんはいました。

 アキコちゃんをね、おかあさんがらないってうんだよ。


 アキコちゃん?

 おとうさんもいたことがないなあ。

 おともだちかい?


 もういいよ!

 なきながらサトシくんは、自分じぶんのへやにはいりました。

 ベッドによこになると、いました。


 もう、おとうさんも、おかあさんも、きらい!

 先生せんせいも、みんなみんな、きらい!

 いなくなっちゃえ!


 ―――――


 つぎの

 サトシくんがあさをさますと・・・。


 サトシくんは、こじいんのベッドのなかでした。

 まわりにいるのは、たことがないひとばっかりです。


 おとうさん、おかあさん、どこにいるの?

 サトシくんは、こじいんのなかをさがしまわりました。


 サトシくんは、いんちょうさんにきました。

 おとうさんと、おかあさんはどこ?


 サトシくんには、りょうしんはいませんよ。

 それよりも、はやくごはんをべなさい。

 いんちょうさんはいました。


 サトシくんのきらいな、ニンジンがはいっています。

 ニンジンはきらいだから、べたくない。

 サトシくんはいました。


 いんちょうさんは、たいへんおこって、いました。

 わがままをってはいけません!


 きらいなニンジンも、タマネギも、ブロッコリーも。

 ここでは毎日まいにちべなければいけません。


 おかあさんみたいに、きらいならべなくてもいいよ。

 とはってくれませんでした。


 あまえは一切いっさいゆるされません。

 こうかいしても、ときはもどりません。


 サトシくんは、りょうしんをうしなって、はじめてがつきました。

 自分じぶんがどれだけあまえていたか。

 大切たいせつなものは、なくなるまでからないのです。


 なきながらサトシくんは、自分じぶんのへやにはいりました。

 ベッドによこになると、いました。


 もう、こんなせかい、なくなっちゃえ!

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