第17話 春果の日曜日
『駆流の面倒見てやってね』
打ち上げをしたファミレスを出る時に、菜緒にこっそりそうお願いされてからあっという間に一週間が過ぎていった。
言われてすぐに『イベントの時は傍にいてあげてね』という意味だと考えた春果は、菜緒に頼まれるまでもなく、売り子としてきちんと駆流の傍にいて様々なフォローをするつもりだった。
いや、売り子としてはもしかするとフォローされる側になるのかもしれないが、それはあまり深く考えないことにして、とにかく言われた通り、駆流の面倒を見ることにしようと固く決意したのである。
「ここのステージはちょっと難しいなぁ……てかデバフあるなんて聞いてないし! これ、パーティ組み直さないといけないやつか……?」
小さく頬を膨らませた春果が、うつ伏せのままでバタバタと両足を布団に叩きつける。
日曜日、春果は部活が休みなのをいいことに、相変わらず家でゴロゴロとゲームをしていた。
少しゆっくりめの朝食の後すぐに二階の自室にこもり、昼までずっと一人で自由に過ごす。そして昼食のために部屋を出て、食べ終わったらすぐに戻る。
朝陽や他の友人との約束のない休日は、いつも大体こんな感じである。
一見すると引きこもりのように思われるかもしれない。だが春果は、たまの休みだしそれくらいはいいじゃないか、とすっかり開き直っていた。
そんないつも通りの休日を楽しみつつ、自由気ままにのんびりと過ごしていたのである。
部屋着のままでベッドの上に転がって、ひたすらスマホのゲーム画面をタップする。
「篠村くんはもうクリアしたのかな……」
そんなことを呟きながら仰向けに体勢を変え、「さて、これはどうやってクリアしたらいいものか」などとゲーム画面を睨んでいると、いきなり画面が切り替わって電話の着信を知らせてきた。
「わっ、ビックリした……って篠村くん?」
表示されている名前を見た途端、反射的につい笑みが零れてしまう。今の自分がニヤニヤとだらしない顔をしていることは鏡を見なくてもよくわかっている。
最近は学校で話すことが多くなっていたこともあって、電話は二、三日に一回程度になっていた。
画面に表示される名前ももう飽きるくらい見慣れたものではあるが、春果はそれにも関わらず「やっぱり好きな人の名前は何度見てもいいものだ」と悦に入っていた。
そんなにやけた顔のまま、スマホの通話ボタンをタップする。
「もしもし、篠村くん?」
そのまま待つこと数秒。
(あれ、どうしたのかな?)
春果は首を傾げた。
普段の駆流は春果が電話に出た途端、テンションの高さそのままに勢いよく話し出すのだが、今日はその気配がない。
だが、電話をしてきたということは何かしらの用事があるのだろう。もう少しだけ待ってみることにした。
「……じょう……」
「?」
ようやく聞こえてきた駆流の声。しかしいつもとはまったく違う、掠れた声に違和感を覚える。
「……東条、たすけ、て……」
助けを求める声に、春果は思わず大声を上げた。
「篠村くん!? 今どこにいるの!?」
「……家……」
そこでぷつりと通話が切れてしまう。
「篠村くん! 篠村くん!?」
何度も名前を呼ぶが、すでに切れてしまったスマホの向こう側からは返事があるはずもない。
(一体何があったの……!?)
駆流のただならぬ雰囲気に、春果は呆けている暇もなく慌てて身支度を整えると、そのままの勢いで家を飛び出した。
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