友達を作らないらしい頑固な先輩をオトした後輩の話(事後)。

さーど

もう事後です。

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     ひとりでも、生きていける。


       【生きていける】


 「人は、ひとりでは生きていけない。」


 これと同じ意味を持つ言葉を、日本人の誰かしら一度は聞いた事があると思う。


 調べたところによると、これは最近の尼僧にそう様が述べた名言らしい。

 意味はそのまま。必ずしも誰かから世話になり、誰かを傷つけながら生きていく。


 この言葉に、間違いではないと思う。

 僕もその2つに心当たりがあるし、これを読んでる君達もそのはずだ。


 ……ん?今、身に覚えが無い、と少数ながら聞こえた気がするが。

 ──ならば質問しよう。君は誰の頑張りと、誰が受けた痛みでこの世に生まれたんだ?


 答えは両親だ。

 例え、君が捨てられた子であっても、既にその対象は両方とも居る、ということになる。


 ……悪い、冗談だ。少しばかり、タチの悪すぎる例えをしてしまったな。

 というわけで、本題と行こう。一旦、場を整え直させていただくとするよ。



 □



 突然だが、君たちは学園を舞台としたライトノベルを読んだことがあるだろうか。

 または、そのライトノベルを元としたコミックやアニメーションを閲覧えつらんしたことは?


 あるとすれば、もしかしたらこのセリフを聞いたことがあるのかもしれない。


「友達が居ないのなら、作ればいいだろう?」


 これの多くは、ぞくに言う陰キャがぼっちをなげく時、俗に言う陽キャに言われる言葉だ。

 サラッと、当然のごとく、悩みもなさそうな口調で吐かれる言葉である。


 ……ん?リアルで、更に自分に向けて言われたことがある、だって?

 ああ、念の為に言っておこう。奇遇だな、僕も言われたことがある、とね。


 ライトノベル等を閲覧していくとだと、お決まりとして、この後にこんな言葉が続く。

 それはもう、憎しみや悔しさを拳に込め、罪もない机に叩きつけながら……


「そう簡単に出来たら苦労はしない」


 どう話しかければいいか分からない。

 話せたとしても、思いつく話題がない。

 そもそもウザがられたりなどのマイナスな反応をされないかが怖い。


 等、理由としてのほとんどのケースだとこういう物が挙げられる。

 主人公が特殊だから、とかいう他の理由もあったりはするが、ここでは触れまい。


 だが、と。

 僕は一つ、思うのだ。


 例を出した陰キャという人物は、最初から友達という存在を乞うているが……

 そもそもとして、友達など、無理に作る必要は「無い」のではないか?


 別に、交友するのはいい。良い事だと言うつもりはないが、悪い事だとも言わない。

 ただ、僕達は別にだろう?


 ……ん?先程と言っていることが完全に矛盾している、だって?


 待て待て、勘違いしないで頂きたい。

 先程僕が言っていたのは、あくまで「一生」という人生のゼロから最期まで。


 で、今回言っているのは、人生の途中から途中までの「一時的な期間」のこと。

 更に細かく言うならば、僕の場合だと「家族以外と接している間」だ。


 店員や親の客等は流石に省くとして、学校等の公共の場で僕は友達を必要としていない。

 作ったところで、疲れるのだ。みんなと居るより、一人でいる方が楽だと本心で思う。


 ……誰か、そう言っているだけで本当は友達か何かを欲しい癖に、とか言うのだろう?

 勘違いしないで頂きたい。確かにそういう人もいるかもしれないが……一人でいる方が楽だと思っている人は、案外多いんだぞ。


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「──読んでて疲れる文章ですね。ウケ狙いの所も、無理矢理感が凄いです」


「うるさいな!?」


 先輩からLONEで送られてきたURL内の小説を見て、私は簡単な感想を作者に送ります。

 こんなにも面白い文章を読めた私はさぞ笑っていることでしょう。あ〜面白かった!(棒)


「……で、なんでこんなのを私に見せてきたんですか?負け犬の遠吠えですか?」


 大きな声の訴えは華麗にスルーしつつ、可愛い笑顔のまま私は高い声で訪ねました。


 そんな私の名前は小野おの結月ゆづきと言います。先輩からは未だに苗字呼びだったり。

 だけど、結ぶ月って何だか素敵な響きですよね!自慢の名だったりします。


 そして相手は岩井いわいはじめ先輩。少し調べれば、すぐに同姓同名が見つかりそうな名前です。

 通称「先輩」。え?そのまま?まあまあ、私しか読んでないでしょうし……ね?(威圧)


 冗談はさておき、私の視線は下に位置するスマフォを持ってない左手。なお、道路側。

 この状態を見れば、「負け犬の遠吠え」なんて言葉は否定出来ないでしょう。


「違う。最終的にこうなってしまったが、僕は今でもこう思っている、という意思表示だ」


「ふ〜ん……」


 じゃあ何で私の左手を握る力がずっと弱まらないんでしょうかねえ。ん???

 いつも並ぶ時は私の右側に行く先輩が、どうして今は態々左側にいるのかも……ん???


 まあ、今回は言及しないでおきましょう。

 それはさておき……


「こんな下らないエッセイを、昔の先輩は何を血迷ってWebサイトに投稿してしまったのか」


 投稿してから3年くらい月日が経ってるけど、評価数もフォロー数も0。勿論コメント無し。

 ま、流行ってないエッセイだし、そもそもどこ目線だよ、って書き方で楽しくないしね。


「『血迷って』って……一応初めて書いた小説なんだ、消すのもなんだか嫌でな」


「そうですか」


 私だったら絶対恥ずかしくて消してますね。

 ただ……『初めて書いた』、か。


「………」


「……もう読み終わっただろう。歩きスマホは危ないぞ」


「いや、最初にさせたの先輩でしょ」


 下校中に突然『これ読め』とか言ってきた人が注意する事じゃないでしょ。うん。

 まあ、仕方なく了承して読んでる間は事故しないよう色々配慮してたみたいですが……

 だからって、こんな日の下校中にとかどれだけ読ませたかったんでしょうかね。


 ただまあ……先輩の最初の作品を知れたのなら、悪くない体験だったのかも。

 今じゃ面白い小説を次々に生み出す先輩ですが……最初はこんなんだったんだ、と。

 

「……着いたぞ」


「え?……あっ、ありがとうございます」


 気づけば学校最寄りの駅に着いていました。

 先輩は学校からそこまで離れていないらしいので、徒歩通学。つまりここでお別れ。


 まだ触り慣れない手を離すのは、権利を得たばかりだと名残惜しく感じます。

 だけど、明日も会えるし。それに今の時期は寒いし、早く帰らないと風邪ひいちゃう。


「じゃあ、な」


「あっ……はいっ、また明日です!」


 『また明日』、先輩からその言葉は、実に初めて言われました。

 尤も、当の先輩はその事に気がついてはいない……いや、正しくは覚えてないか。


 まあでも、どちらにせよ先輩はもうオトすことができました。

 それを実感する『また明日』を胸に、私は改札へ向かいます。

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友達を作らないらしい頑固な先輩をオトした後輩の話(事後)。 さーど @ThreeThird

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