第2話 秘境アマゾンの猫
キャットが時間操作の力を手に入れたのは本人曰く。
「アマゾンの秘境に住む猫に噛まれたからよ」
らしい。そんな事信じる人間はボックスシティには一人もいなかったし、彼女を神だと崇める非公認集団でさえ、その事は経典には記さなかった。
☆
フォージャックとキャットの闘争は苛烈を極めた。
強化サイボーグの武装がいつの間にやらネジ単位でバラされていた時にはフォージャック幹部は怒りを通り越して唖然としていたという。
フォージャックの本拠地「ロイヤル・ラウンジ」にて作戦会議が開かれていた。ボスの「スペード」がテーブルにトランプを配る。
「最強の役はロイヤルストレートフラッシュだ……キャットはロイヤルストレートフラッシュか?」
「いいえ……違いますボス……俺達、フォージャックこそがロイヤルストレートフラッシュに……」
「それは違うなハート……俺達はロイヤルストレートフラッシュを支える一枚であればいい。違うか?」
「その通りです! だから許してください!」
ハートがスペードにひれ伏す。先ほどから彼は巨大な銃口を向けられていた。それはスペードの右腕が変形したものだった。
「そうだ……それでいい。それでキャットは?」
「俺の……ハートの基地を潰して……燃やして……ゴミ箱にポイ……っと」
「いいジョークだ。100点をくれてやる」
「ありがとう、ボ
銃撃が放たれた、世界が白む。それは夜明けの光ではない。マズルフラッシュだ。世界は銃から放たれた明かりによって照らされたのだ。
「俺の銃撃は光より速い……お前を必ず捉えるぞキャット……」
☆
ダボダボのジャケットにキャスケット。ダボダボのジーンズ。彼(?)
はゴミ箱から空き缶を拾う仕事をしていた。
そう彼は家無しで。ボックスシティじゃよくいるストリートチルドレンだった。路地の子供達は口々に言う。
「キャットは餌はくれるけど、家はくれない」
彼は「無茶を言う」と苦笑する。義賊の真似事は出来ても、貴族の真似事までは出来ないのが「ヒーロー」の辛いところだ。
彼は「仮の宿」に立ち寄った。そこに居たのはパソコンをいじくるメガネの少女、名前を。
「やあ『ピーキー』調子はどう?」
「今日もとってもピーキー!」
これが「彼女達」のいつものやり取り。
「空き缶拾いご苦労様。正義のヒロイン・キャット?」
「ここではその呼び方やめて。私の名前はライブ。生きてるだけで必死のライブ・ライブ」
「かっこ悪い名前。ピーキーのが百倍かっこいい」
「そうだねかっこいいかっこいいピーキーさん? フォージャックのアジトの位置は分かった?」
パソコン上では監視衛星の映像が流れている。それは人の動きを補足し足跡を追っていた。
「フォージャックの幹部の足取りは大方追ったけど、これまでが限界。ていうか対策されたっぽい」
「じゃあ次はあいつらの食料調達先から追って。あいつらだって飲まず食わずで籠城戦は出来ないはず」
「そりゃそうだけど、どうやってこの人口六百万人のボックスシティからフォージャックの台所事情を調べろっての?」
「あいつらのアジトには大体「ロイヤル社」のレーションがあった。多分、あいつらの好み、もしくはバック」
「はいそういう事先言う!! ロイヤル社を直接ハッキングする!!」
「逆にセキュリティに捕まらないようにね」
ピーキーは腕まくりしてメガネをくいっと上げた。
「誰に言ってる? 電子の申し子ピーキー様だよ? もうプログラムは走らせた。後はエンターキーを押せば結果が出る」
「じゃあ早く押して」
「風情が無いねぇ、ノットワビサビ~」
「は・や・く」
ッターン! と小気味いい音が、オンボロの仮の宿に響いた。
その瞬間。キャットとピーキーは。
光の銃撃を受けて吹き飛んだ。
「おっと危ない。いくよピーキー」
時間操作。時間停止でも、時間加速でもない。『時間操作』。
それは時間の逆行さえ可能にする。
それがアマゾンの秘境に住む猫の力?
だとしたら今頃、アマゾンは猫のパラダイスだろう。
本人は断固としてそれ以外の説を認めようとはしないが。
「どういう事?」
「あんたの安易なハッキングがバレた。それ以外にある?」
「あんたがドジったんじゃなくって?」
「ここで喧嘩してる場合じゃない。相手が私を殺したと思っているうちに逃げる。パソコンは持っててね。あいつの足跡を追うから」
そこである事に気づくピーキー。
「ねえ、あいつの右腕……っていうかでっかい銃。動いてない?」
「馬鹿言わないのここは私が時を止めていて――って嘘でしょマジ!?」
少女達から放送禁止用語の罵倒が飛んだあと再び世界が照らされ、そして逆行した。
一目散に逃げだすキャット達。
男は時間操作を超えて来ていた。キャットは最大の敵と対峙する事ととなる。
ヒーロー・キャット・イン・ザ・ボックス・シティ 亜未田久志 @abky-6102
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