ヒーロー・キャット・イン・ザ・ボックス・シティ
亜未田久志
第1話 箱の街の猫
夜、ネオンが街を照らす。煌びやかな装飾品を纏った婦人やタキシード姿の紳士が通り過ぎる。地べたには物乞いが這いまわり。黒スーツにグラサン(夜なのに!)をかけた男どもがうろついている。
此処の名前は「ボックスシティ」
一度入ったら出られない。
実験都市だ。
「これをここに置いてっと。地味な作業だな~相変わらず」
少女が空中に空き缶を並べている。螺旋状に、階段状に、螺旋階段状に。それは天まで伸びていた。辺りの人々はそれを見咎める事もせず。ただ静止していた。歩くのを途中でやめてそのままのような状態で止まっていた。物乞いに投げたコインは空中で止まっている。世界が静止していた。
「空中歩行に必要な作業だもんね。派手に行くにはこうしなきゃ」
少女は空き缶を踏んで天へと上る。ちょっとしたビルの屋上まで行くと街を見渡す。時間が動きだす。
からんからん!!
空き缶が地面に落ちる音が鳴り響き、これから飛び降り自殺しようとしていた少年は後ろを振り返る。
「な、なんだ!? お前!?」
「この街で私を知らない子がいるなんて」
少年はその白いドレスのようなコスチュームを見てハッと顔色を変える。それは歓喜の色のような、諦めの色のような。
「キャット……来ちまったんだな」
「いかにも、世界の愛され系ヒロイン、キャットここに参上ってね☆」
くるりと回って決めポーズ。どうだと言わんばかりの笑顔。少年は呆れたように肩をすくめてみせた。
「今回は降参だキャット。でも俺はまたチャレンジするぜ」
「そんなに生きるのが嫌?」
「此処は反吐の出るような街だぜキャット、強者が弱者を食い物にしてる!」
「そうね、それはとってもよく分かる」
深く深く頷くキャット。なにか思うところでもあるのだろうか。少年はなおもつづける。ビルの上、寒風が吹く、夜空には一等星が一つとヘリコプターの灯り。
「俺はこの街に閉じ込められた! 出られない! 借金漬けで! 毎日追い回されてる! 俺は金なんか借りてないのに! 騙されたんだ!」
「よくある話ね。この街じゃ」
「いい加減、楽になりたい……」
「落ち着きなさい少年、ようはそのマフィアもどきをやっつければいいんでしょう?」
「無理だ! あいつら強化改造したボディガードを雇ってる!」
キャットはそこでちっちっちっ、と人差し指を振る。少年の言葉を否定するように。こう宣言した。
「私がいる」
と。
☆
マフィアというかギャングのアジト。
そこら辺の違いは自分で調べてくれと言わんばかりのごろつきと見間違う風体の悪さ。
それがこのボックスシティに蔓延る悪、その名も。
「俺達『フォージャック』は無敵だ。そうだろ
「いかにも……兄弟……誰にも負けない四人組……」
「その一角がなんでこんな事になってる?」
そこは火事場だった。
ビルが丸ごと焼け焦げている。まるで屋上から大量のガソリンをぶちまけてそこから一気に着火したように、今や燃え残った蝋燭に等しい。
「それが……一階のポストにこれが」
手紙、ハートマークのシールで封されている。それを乱雑に破り開けて中身を確認し、破り捨てた。
「ちっ! キャットの野郎!」
「拝啓、フォージャック様。
この度は貴方達の行き過ぎた集金作業を看過できなくなったため。
アジトを一つ一つ念入りに潰させていただく事にしました。
よろしくね☆
キャット、敬具」
眼光鋭い男は弱気な小男に対して睨みを利かせながらドスの効いた声で言い放つ。焼け焦げたビルの匂いが辺りに広がり野次馬が去って行く。
「強化サイボーグをありったけ集めろ」
「え……でも」
「いいから!」
「わ、わかった……」
これは総力戦だった。
キャットの火力と、フォージャックの人海戦術、どちらが勝つかの賭けだった。
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