第6話 大まかな費用の算出
「あとですね、お父様が住まれていたおうちですね。そこの管理者様がお話したいとのことで、こちらも番号を教えます」
「もー、引き取るなって言ったらダメなやつやないの、これ」
「いやいや、お父様はきっと喜んでますって、たぶん。それぐらいだったかなぁ……。あ、そうだ。一か月分のクレジットカードの使用料が残高不足で引き落としが出来なかったようで、こちらも連絡をお願いいたします」
「ある意味、死人に口なしやな」
「それそんな表現でしたっけ」
「だって、周りはどうとでも代弁できるでしょ」
「まぁ、それはそうですが」
今更ながら、父を引き取りに行くと言ったことに後悔している自分がいる。これで全部でいくらになるのか、想像も付かない。貯金がないわけではないが、一人暮らしの生活ではそんなに多く持ってはいない。果たしてこれは足りるのだろうか。
「あ、あの……杉山さん大丈夫ですか? 僕の説明分かりずらかったでしょうか」
「いや、そこじゃなーい。ね、葬儀屋さん斡旋して」
「えええ、ダメですよ。斡旋とか。僕クビになるやつじゃないですか」
「バレなかったら大丈夫でしょ」
「勘弁してくださいよ。んー。街には二件しか葬儀屋さんがないんですが、今の状況を説明して、安くしてくれる方を選ぶのが一番だと思いますよ」
「まぁいいや。とりあえず電話してみる~」
電話を切ると、メモ用紙片手に言われた場所に電話をかけた。
そしてかかる費用を算出していく。
①葬儀費用、これが16万円。これは車代、棺桶、骨壺が含まれるのだが、それ以外にも警察署で借りている遺体を入れてある袋を返却しなければいけないためそれも含めなければいけなかった。
②溜まっていた光熱水道代、約3万5千円。
③死体検案書、3万8千円。思っていたよりは高かったが、これは仕方がない。もし自分だったら、この金額を出してもらっても、腐乱した死体の検死などしたくもない。
④父が住んでいた家の特殊清掃や、片付けの費用、80万円。ただ父の住んでいた家は保証人のいらないタイプで、相続放棄さえすればこれは払わなくてもいいとのことだった。ある意味、これが一番高かっただけに父の物件のチョイスには感謝だ。
⑤クレジットカード代、10万5千円。会社を辞め、所持金のなくなった父はこのカードで生活をしていたらしい。これも相続放棄すれば、払う必要性はないらしい。
ただ⑤にいたっては、払うかどうか少し考えるとこである。父は貯金が底をついてから、このカードで生活をしていた。どうやってこのお金を返すつもりだったのだろうか。むしろソコこそが、なんだか父が生きることを辞めてしまったトコのような気がしてならない。
一人の部屋で、お金もなく、誰にも頼ることが出来なかった父。離婚した時に、実家である祖母の家にも勘当され帰ることが出来なかった。一緒に逃げた女の人がいないということは、結局はなにもうまくいかなかったということだろう。
父の対して特別な感情はない。でも人として、同情はしている。それが本音だ。
「まったく……なにやってるのよ……ほんとに」
呟いた声は誰に拾われることもなく、部屋に落ちて行った。
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