身についた錆

れなれな(水木レナ)

コロナ禍だから……?

 おはこんばんにちは。

 初めましての方も、いつもの方もよろしくお願いいたします。


 さて、22年1月7日金曜日。

 今日は朝からどうしようもない日でした。

 なにって、横浜は前日雪で、道路がカピカピに凍ってました。

 こんな日になにを思ってからに、職業訓練所の面接の下見。

 坂道をつるつる下っていきながら、やっぱりつるつる後退する車を見て母と二人で噂して。

「やっぱりねえ」って、その車はあとで母が見かけたことには、かなりの遠回りをして広い道路を走っていきましたとさ。

 おかしくもないのに、寒い中マスクから吐息を吐いてアハアハ笑ってました。


 ということからもわかりますように、普段家から一歩も出ることのないわたくしなので、面接にそなえるためとはいえかなり気持ちがあがってました。

 いやぁ! 外を歩くのは気持ちいい。

 青ざめたアスファルトとこびりついた氷の塊を踏みつけながら歩くんでも、かなりきゅっと身がひきしまります。

 でね、母は普段働きに出ていて、生活がすれ違っていたりするので、一緒につき添ってもらっているだけで、かなりうれしいのですよ。

 子供かよって? いやー参りましたね、ハハハ。

 心を病んでいます(正直)。

 面接会場までバスと電車を乗り継いでいくんですが、まさかバスの本数が二時間に一本、あるかないかだとは……。

 しかし、それを思い知ったのは帰りのバスの時でした。

 新設されたバス停の近くに妹宅があるのですが、そもそもそのバスが一日に数本しかない。

 これでは面接に通っても、会場から帰ってこられないじゃないか、ああ、横浜って田舎!

 という話ではなくて、実はこの話はマナーを守りましょうっていうことなんですよ?

 わたくしと母は普段出かけるときは必ず車です。

 眠気がこないように、しょうもないネタで笑ったりしながらなごやかに過ごしています。

 今日もそんな調子でした。

 すると……降りるバス停で、通路をまたいではす向かいに座っていたおじいさんが「斜めに」寄ってくる。

 これ、嫌ですね。

 真っすぐ近づいてくるならまだしも、斜めに歩いてくるんです。

 わたくしは出口がそちらにあるからなのだろうと思って、道を譲りました。

 ところがおじいさんは、マスクした顔をわたくしに近づけこういったのです。

「子供じゃないんだから……」

 何かというと、バスの中でおしゃべりするのはマナー違反だから迷惑だというのです。

 瞬時に非を悟ったわたくしはおじいさんについてバスを降り、ひたすら頭を下げました。

 90度に腰を折り、「大変申し訳ございません」とペコペコペコペコ。

 しかし、おじいさんは続けます。

「ぺちゃくちゃ、おしゃべりなんて」

「大変、申し訳ございません」

「車掌さんも言っていたでしょう」

(わたくし耳は良いから聴いてたけど言ってなかったなあ)

 思いはすれども平謝り!

「大変、申し訳ございません」

「わたしに言ったってしょうがないんだよ」

「大変、申し訳ございません」

「コロナ禍だから」

「大変、申し訳ございません」

「コロナ禍だから、言ってるんだからね?」

「大変、申し訳ございません」

「でも」

 母が口をはさんだ。

「そんなに大声で話してませんでしたよ」

 おじいさんはそこからヒートアップ。

「わたしだって、コロナ禍でなきゃ言わないんだよ」

 わたくしは瞬時に思い出した。

 注意をしてくれる人には感謝しなくちゃいけないんだって。

「ご指導、ありがとうございます!」

 ひたすら90度射角。

 おじいさんは、周りに人がいなくなったことに気づいたのか、くるりと背中を向けて陽気に歩き出した。

 おやっ?

 しばらく歩いたところできょろきょろし始めた。

 広い道路に足をのばしている。

 あっ!

 おじいさんは、横断歩道でも信号でもないところをひょこひょこと歩いて渡って行った。

 コロナ禍以外は交通マナーも守らない人なんだ。

 だれも見てないところでは悪いことをするんじゃないか!

 感謝なんかするんじゃなかった。


 というお話。


   -おしまい-

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