閑話⑦ 派遣契約終了の裏側

5月半ば。今日は月曜日。

ついにその時がやってきた。


10時半頃に派遣元の担当から1本の電話があった。


「あのね…ちょっと…先週の勤務が最後で…今週いっぱいで終わり!」


突然のクビ宣告だった。


一瞬だけこの事実に驚いた。

だが先週にあった前兆が事実だったし、仮想通貨や副業で稼いでいることもあって、気持ちの切り替えも早かった。



真太郎は部屋の片付けの続きをし、終わった後は高速バスに乗って小樽へ遊びに行った。



一方、真太郎が突然クビになるまでの背景がもちろんある。



先週の木曜日。

真太郎は夜勤だった。


日勤の坂東の班に、突如上の人間2人が真太郎の勤務する工程に現れたという。


上1「坂東くんちょっといいかな?」


坂東は上の人間に対して慎重な態度となる。


上1「派遣の相葉さんのことでね、ちょっと話があって…。」


サブリーダーの坂東は、真太郎が派遣先での給料以外に収入を得ている事実を知る。


上2「論外だろ!あんな楽して稼いでる奴にこれ以上給料あげたいと思うか??みんなはちゃんとルール守ってるのによぉ…一人だけルール守らない奴必要ねぇだろ!」

坂「でっ…でも相葉が…いなければ…回らないと思うので…」

上2「回る回らないの問題じゃねぇよ!!毎日毎日頑張って働いて、それで貰ったお金でご飯食べて、家族を養って暮らしてる人だっているんだ!わかるだろお前もよぉ!!一人だけ楽して稼いでよぉ…そういう人たちを踏みにじる奴なんかいらねーだろ??」

坂「いっ…いや……あ…あの…」

上2「いらねーだろ????」


もう一人の上の人間の怒鳴り声に現場の空気は凍りつく。


坂東は泣きながらもう一人の上の人間に怖気付おじけづくことしかできなかった。


坂東が驚いたのは、真太郎が単純に他に収入を得ていることではなかった。

真太郎が他に稼ぎがあることに対してとんでもない言い回しや情報が広まっていた。

坂東もそれが事実であることは認めたくはなかった。

真太郎本人から聞きたくても、なかなか会うことがないので聞くことができなかった。


そして真太郎は何も知らずに出勤し、小田原との公休日の入れ替え交渉に応じたのだった。



そして月曜日。

真太郎にクビが宣告される約2時間前のこと。


朝礼にて主任の水口が、真太郎のことについて触れていた。


「今週から相葉いねぇからさ、まあいねぇ奴のことを考えても仕方ないからいる奴だけで頑張れ!あとは何か困ったことがあったら呼んでくれ!あんまり引きずらずにいつも通り集中するんだぞ!」


西野は北山を含め、真太郎が抜けた北山の班員にそう強く背中を押した。


真太郎が抜けた後でも、西野の言われた通りできるだけ真太郎の事を考えず、できるだけいつも通りに仕事に集中していた。



ただ一人を除いては……。



そして2日後、真太郎はバスに乗って小樽へ遊びに行っていた事が報告され、金曜日までの契約が水曜日までになってしまう。


昼頃に派遣元の担当から電話がきて、集合寮に戻って来た後にすぐ追い出された。


だが、寮から去る前に一人の男性と話をした。


「お前本当に出てっちゃうのか!?」


そう真太郎に一言声をかけたのは、小清水こしみず雅裕まさひろだ。

真太郎と同じ派遣元の派遣社員であり、真太郎よりも2ヶ月くらい先にこの派遣先で働き始めたのだ。


真「はい…。すみません…。」

小「仕方ない。気持ちはわかるよ。俺だって不動産で収入を得ながら派遣やってるからな。でもよ、遊びに行ったっていうのは流石にまずかったな。」

真「本当にすみません…。」

小「いやいや、もうなっちまった事は仕方ない。目黒さん泣いてたよ。普通何かやらかした人にはこれ以上相手にしない人だけどお前には違っただろ?色々と。」

真「そうですね…。目黒さんには色々と助けて貰いました。長期で仕事を休んだ時も僕を心配して色々差し入れてくれました。でも仇で返すような事を…」

小「いや、目黒さんはそんな事思ってなかったよ。むしろあの人も自分のやりたいように生きて今も独り身だろ?まあ俺は子供いるけどよ、俺らが君に共通して思っていることは『息子のようだ』って事だ。」


そして小清水は、真太郎にある一言を突きつける。


「後藤さんは俺ら2人で絶対に追い出す。あの人は許しておけない。」


この一言は真太郎の頭に焼き付いている。


「どういうことでしょうか…!?」


だが、


「ほら、早く行きなさい。早く出てかないと怒られるよ。」


そう言われて真太郎は、3年ほど住んだ集合寮を去っていった。



こうして、真太郎が金持ちニートデビューしてホテル暮らしを満喫する日々が始まった。



本気で遊び本気で仕事をする中で、今までに知らなかった世界や新たに出会う人たちと、真太郎はどのような物語を描いていくのだろうか。


感動の再会がこれからの付き合いに発展。

未だ開けられなかった涼一郎の秘密の扉。

恐怖で人を支配する狂気の大天使。

自分をゲームの主人公に見立て上司を倒そうと試みる社会不適合者。



真太郎が新しい人生を歩んでいく中で、自分自身の充実と成長のためこれから進むべき方向へ突っ走る。




真太郎の物語は続く!!

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派遣契約終了した俺は、金持ちニートデビューします。 丸山カイト @lunardial

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