指輪と喧嘩の行き着いた先

しーんーせーかー

指輪と喧嘩の行き着いた先

「ねえねえ、知ってる?」

 朱色に輝く指輪をはめている、黒髪に青系で統一された制服をまとった女子、レイが席にきてわたしを見つめた。

 その目は、宝石のようにきらきらと輝いている。

「放課後にしか出ない幽霊がいるんだって」

「どうでもいいわ、そんなこと」

「サキ、つっけんどんに否定しないでよー」

 ずいっと身体を学校の机に身を乗り出し、頬を膨らませる。

 まるで子どもだ。

 でも、そんなところが可愛いとも、思う。

「じゃあ、探してみる?」

 彼女、レイの好奇心は止まることを知らない。

 内心では、勉強をしたい気分なのだが、親友の頼みを断れないでいるのは、それを知っているからだ。

「うふふ、さっすがサキー。私のこと、よく知ってるもんね」

「嫌でもね、何年一緒にいるんだか」

 そう、もう何年という歳月を、学校という閉じられた世界の中、わたしたちは生きている。

 というと大げさかもしれないが。

「じゃあしゅっぱつー!」

「あ、こ、転ぶってば!」

 わたしの悲鳴などなんのその、濡羽色の髪を揺らしながら、レイはわたしを無理矢理立たせる。

 そして、幽霊探しは授業後、夕方から始まった。

 ――にしても、だ。

「どうして、はぁ、全教室を見て回る羽目になった?」

 青筋を立てつつ、わたしはレイの、怯える黒い瞳に問いかける。

「だ、だって場所知らないし、鍵はかかってないじゃない? それに――」

 ちらっと二人、視線の先を見る。

 白衣に身をまとっているものの、怒気が漏れている姿は東洋の鬼のよう。

 それは理科室の教師の……名前は忘れたが、背が男子たちより小さい、先生のようだった。

「もう下校時間はとっくに過ぎてるぞ、メスガキども」

 口が、悪い。

 会ったことがない気がするのは、きっとわたしの勘違いだろう。

 こんなに生徒に対して暴言を吐く先生を、わたしは知らない。

「メスガキって、先生が生徒に使っていい言葉じゃないと思いまーす」

「いっちょ前に指輪つけてる馬鹿女はメスガキでいい」

「む」

 あ、指輪は触ってはいけないレイの話題だ。

 レイもいくら先生が相手でも、形見であるそれを悪く言われると収まりがつかなくなる。

「あーのーでーすーねー先生? 理科室の先生でも事情はご存知でしょう?」

「はぁ?」

「校長先生以下の先生方にもつけることを許可されてます。ね、サキ」

「え、ま、はぁ……」

 そうだ。レイは両親を事故で亡くしており、また指輪も特別な魔法がかけられているらしい。

 どんな魔法かはレイ本人も知らないらしいが、身につけていないと不安になるそうだ。

「ふん、そういうことか。まぁ、今日は見逃してやる」

「……?」

「いいって言われているものを見逃すって、何言ってるんです? ちび先生」

 ぶちっと、何かが切れる音がした。

 鬼のような形相で、小さい先生がレイを睨みつける。

 それから罵り合いが、始まるのは、あっと言う間で。

 夕方から夜の帳がおりるまで続いて。

 その声を聞いてやってきた、見回りの用務員さんが首を傾げてこう言った。

「一人で怒鳴っていたから、びっくりしたよ」

 と、白衣の姿がいつの間にか消えていて。

 その時、初めてわたしたちは、幽霊と出会っていたのだと、わかったのだった。

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指輪と喧嘩の行き着いた先 しーんーせーかー @cinseiqa

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