5 狩りから始まる、そして王国を手に入れる

 そして狩りの日。

 揃った馬の品評会の様相の中、一斉に参加した王族貴族達が東の狩り場に広がった。

 新王も新しい素晴らしい馬を駆って、得意げである。

 面白いくらいに成果が出るとばかりに、皆夢中であった。

 今回の狩り場は王国内でも特に広い東の森であった。

 それを越えると国境に近い、人気の無い山に繋がっていく場所である。

 やがて新王達も貴族も散らばって、誰が何処にいるのか判らないくらいの状態になった。

 そんな中、奇妙な笛の音が鳴り響いた。


「うわ!」


 新王は突如自身の乗る馬が暴れ出したのに驚いた。

 どうやっても制御ができない。

 周囲も慌てて馬から下りて、王の身の安全を確保しようとする。

 だがそれは無理だった。

 とうとう王は放り出されてしまい、馬は何処かへと走り去って行った。

 王自身は皆に受け止められて無事だった。

 周囲の一人が自身の馬を貸し、一度本隊に戻ることにした。

 だが正直、その時には皆自分が何処に居るのか判らなくなっていた。

 慣れぬ森の中、武器は持ったとしても、本隊から離れ、心細くなってくる。

 そんな時に、がさ、と音がした。


「陛下」


 そう言ったのは、脇腹も脇腹の第四王子だった。


「お前か。……公主殿もおいでか」

「あの馬は如何いたした」 


 ドルヘンは問いかける。


「知らぬ。奇妙な笛の音がしたと思ったら、何処かへ……」


 声が止まる。

 彼女達の後ろから、一頭の馬が率いられてきた。そこには自分の鞍が乗せられていた。


「その笛の音とはこういうものではありませんでしたか?」


 ドルヘンは腰から笛を出して吹いた。あ、と王側の皆が唖然とした。


「私達の馬は笛で戻る様に訓練されているのですよ。私はこれを帝都の父上への書状を送るべく走らせました。さて陛下、一体これを何処で手に入れたのですか陛下」。

「それは……」

「まあ宜しい。言われなくとも、証拠は揃っております。我々はこれから帝都へ戻ります故。首を洗って待っておられると良い」


 そう言ってドルヘンはその場を抜けようとする。

 無論、王側では剣を抜いて威嚇する者も居た。だが。

 ひゅんひゅんひゅん!

 三本の矢が勢いよく一気に飛ぶ。その矢入れには美しい刺繍がされている。


「レテ、お前……」

「長いこと、お世話になりました兄上」


 レテは「陛下」とは呼ばなかった。


「行くぞ」


 そう言って、王達を吹き飛ばす勢いで、ドルヘンは彼女とその夫、そしてその母を連れた公主の宮の皆で一気にその場を駆け抜けた。

 何のために東の狩り場を使ったのか。

 その端に追い込んだのか。

 その辺りに気付けない新王は、ただそこで立ちすくむだけだった。



 それから間もなく、帝国の侵攻が始まった。

 皇帝の軍は、実にあっさりと国王一族と無能貴族達を排除した。

 だが国と民のことを思う心ある貴族達には手を出さない徹底ぶりだった。

 やがてそこに、新たな王として戻ってきたのが、誰だったのかは言うまでもなない。

 そしてその妻の手には、跡継ぎの姿もあったことも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄された帝国公主は後釜の少年王子と共に王国をその手に入れる 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ