4 三年後の転機

 転機が訪れたのは、ドルヘンを公主として押し頂いた現国王が突然の死を遂げたことからだった。

 彼女が嫁いでから三年が経っていた。

 王太子であった第一王子が即座に王座に就き、その知らせが帝国の方に送られた。


 その一方で、ドルヘンは父帝に対し、私信を送っている。

 彼女がこの国において様々に放った手の者からの国内各地の情報のありのまま、宮廷の様子、貴族の様子、庶民の様子、反乱の芽はあるか等々。

 事実と意見を両方詰め、信頼のおける者数名にそれぞれ別の文書を持たせ出発させた。

 一人には宮廷の様子、一人には庶民の様子、一人には…… と。

 そしてそのうち三人が到着できなかった、というのが追いかけ陣からの報告にあった。

 遺体は捨て置かれ、馬は盗まれた。


「馬の消息を」


 帝国の馬は王国の馬とは違う。草原を長距離駆けて行くものだ。

 ドルヘンの元にあるそれは、一目で王国のそれとは違う。

 そしてすぐにそれは見つかった。良い馬だ、とばかりに王宮の新王の下に進呈されたのである。

 ドルヘンは「新王が良い馬を進呈された」という「噂」を聞き、それを使って皆で狩りをしないか、という提案をした。

 公主の提案に新王はややうろたえたが、何か思うところがあったのだろう。諾、と答えた。



「ということで、其方も今度は出てもらおうと思う」


 寝所でドルヘンはレテにそう言った。


「僕がですか」

「最近ではずいぶん背も伸びた。腕に筋肉もついた。足も太くなった。馬も良く乗れる様になった。それに何と言っても弓の腕が良い」


 そう言って二十歳の妻は、十五の夫の腕を取った。


「何があったとしても、相手を倒せるだけの技量も身につけただろう」

「貴女を守ることもできる様に僕は訓練してきましたから」


 レテはドルヘンの正面を向く。


「いつまでも僕は子供ではありません」


 そうか、と彼女は夫の腕を引き寄せ、灯りを消した。

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