3 少年王子との暮らし

 式の前に、ドルヘンは自身に与えられた宮にレテとその母親マドリガルを招き入れた。

 レテの母親はどうやら落ちぶれた貴族の令嬢が家族のために酒も出す食堂で働いていたところを見初められたのだという。

 元々美しい人だったので、大国公主の宮で充分な食事と世話をする様に申しつけたら、元々の美しさが戻ってきた。

 しかも教養もなかなかなものだった。


 ドルヘンはいつも繰り返し感謝の居を述べてくる彼女にこう言った。


「では義母君、私とレテに作っていただきたいものがあるのだが」

「何でしょうか」


 ドルヘンが出したのは、革製の防具入れだった。


「私は自分のものは自分で作るが、レテはさすがに刺繍まではできないだろう。彼に合うものを作ってやっていただけないか」

「革に刺繍…… ですか」

「可能だろうか?」

「はい。お手本があれば」


 マドリガルはうなづいた。

 彼女はドルヘンの言わんとすることをうすうす気付いた。

 自分にとってこの先できることをつけておいて欲しい、そうすれば、何かあった時にも力になれる、と。

 そして夫であるレテに対しては、自身で剣と弓の稽古を付けだした。


「身体を鍛えろよ、レテ」

「はい。今の僕には貴女に勝てる日が来るなんて想像ができない」

「そんなことはない。こちらに来てから、ずいぶんと肉もついてきた」


 二人は一応夫婦ということで、寝所も一つにしていた。

 レテは戸惑うのだが、彼女は夜具を殆どつけない。

 身体を休めるには一番いいのだという。

 その身体で少年の髪をかき回してから眠る。

 それ以上のことをする訳ではない。

 寝台も広い。

 二人で寝ていても、それまで彼が使っていた寝台の一人分より広いくらいだ。

 彼女は日々忙しく身体を動かしているせいか、夜はさっと眠ってしまう。

 そして朝ははよから剣と弓の稽古、時には狩りに出かけるのだ。

 最近ではその狩りにレテを連れて行くことも多い。

 寝台の上、むき出しになっている彼女の腕の筋肉は美しい、と少年は思う。


 一方のドルヘンが少年に対し手出しをしないのは、彼が自分の女の身体に対し、恐怖めいた表情を浮かべたからだった。

 何かあったのだろう、と容易に推測はできる。

 ので彼女は今のところ手出しはしていない。彼の身体と気持ちが育つのも待っている。

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