2 年下の少年王子
さて、第二王子が居なくなったことで、この公主が戻ってしまえば、帝国は確実にそれを口実に攻め込んで来る。
「と言うことで、僕で宜しければお願い致します」
そう第四王子レテはドルヘンに向かって頭を下げた。
婚約ではまた下手なことがあるかもしれない、ということで、正式な婚儀をさっさとあげることとなった。
そしてその前の顔合わせである。
「ああ宜しく。其方幾つだ? 私は十八だが」
「十三です。こんな小さくて申し訳ないと思いますが、すぐ上の兄上には、幼なじみの婚約者が居りますので、僕でよければ」
ドルヘンは真っ直ぐレテを見て思う。
歳の割には華奢な子だ。
「ちょっとこっちに来い」
そして彼についてきた召使い達を下がらせる。
ドルヘンは立ち上がると、彼の前に立った。
「ちょっと胸を広げてみろ」
「え」
「いいから」
おずおずと、少年は公主の言う通りにベストとシャツの前を広げ、素肌を見せる。
「……筋肉が無いな。其方、何か病気はあるか?」
「いいえ」
「それとも、まだ剣の稽古をつけてはいないか?」
「……」
彼は押し黙った。
ドルヘンは少し考えると、腕とすねを見せる様に、とも言った。
「思った通りだ」
「な、何がですか」
「其方、今まで何処で暮らしていた?」
少年ははっとする。
「この腕とすねのカサカサした具合、とても普通の王子のものではない。其方、この国で言うところの庶子ではないか?」
「……判るのですか?」
「其方に碌な食事が与えられていないこと、病気がある訳でもない王子として受けるべき教育の一つである剣の稽古もつけられていないこと。そして」
くしゃ、と彼の髪をかき回す。
「色艶が失せている。乾ききってもいる。この国の貴族連中なぞ、そこに金をかけるのが当然とばかりのつやつやしっとりしてるもんだ。そういう世話もされてなかったとみた。……辛かったろうな」
すると少年の目から見る見るうちに涙があふれ出た。
「……はい、僕の母上は父陛下が市井を忍び歩きしていた時に出会ったと聞きます。その時何かあったら王宮にこれを持ってくるように、と証拠の品を預けておいたことで、母上と僕はこの王宮の端に住まわせていただいたのですが」
「碌な食事も世話も教育も受けられず、か。母上はご壮健か?」
少年は顔を曇らせた。
「義母殿のところへ連れていってもらえるか?」
「え」
「其方はあの痴れ者と違い、非常に自身の現状をよく把握し、しかも謙虚だ。その様に其方を育てて下さった母君に私はぜひご挨拶をしておきたい」
すると少年の表情がぱぁっと輝いた。
「ありがとうございます!」
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