倒れ伏す竜

爪木庸平

倒れ伏す竜

 野っ原だ。何人かいる。立ち尽くしている。さてこれからこの倒れ伏す竜をどうしようか。

 手当てしようと言う者もいればトドメを刺して解体しようと言う者もいる。議論は膠着し、とりあえず様子を見てみようということになった。

 対応に困るのが竜は酒を飲んでいるらしいという点だった。酔いが醒めたらまた空へと昇っていくのかしらん。会話をしようにも譫言を口にするばかりで何を言っているのかわからない。

 竜殺しを背負うことはできないと誰かが言う。この竜が復活していずれ我々の里を襲ったとしても、仕方がないことじゃないか。受け入れるべきだ。

──帰ろう。


 倒れ伏す竜を前にした日のことは生活の中でやがて忘れ去られる。あの日竜を間近で見たんだよなと仲間に言っても、あれそうだっけと答え。


 夢の中で竜と出会った。竜は人間の言葉を解した。

 必死になって家族や仲間の話をした。気に入ってもらえなければ殺されるかもしれない。人生で最もよく喋った瞬間だった。夢の中のことだが。

 竜は話をよく聞いた。人間の話を聞くのは慣れているらしい。相槌は打たなかったが実際竜は聞き上手だった。

「気に入った。お前の話をこれからも聞きたいと望む。好きなだけいていい」


 夢から覚めると竜の巣にいた。竜曰く、里を焼き払ったらしい。

 そして俺は竜と共に永遠を生きたんだ。

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倒れ伏す竜 爪木庸平 @tumaki_yohei

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