ペディキュア

高山小石

ペディキュア

「大丈夫。今まで、もう何回も出席してるんだから。まぁ、親友の結婚式は初めてだけど。用意はバッチリだってば」


 実家を離れて一人暮らしをしているからか、恵の母親は、最近、心配性だ。


「今? 今は最後の仕上げをしてる」


 すでに手は塗り終わっていた。足も、あと小指を一本塗れば終わる。


 幼かった頃、恵の小さな爪に母親が塗ってくれた。花が咲いたように幸せな気分になったのを、今も覚えている。


「私も、どこかにいい人がいれば、すぐにでもって思うけど。よしっ。完成」


 恵は、ふっと足先に息を吹きかけた。


 それが合図だったかのように、鮮やかなピンク色が剥がれるように消えた。


「あれ? ゴメン、お母さん。またね」


 スマホを置いた手を見ると、指先からも色が消えていた。


 翌日、披露宴が始まる少し前、席に着いた恵は友人に昨日のことを話した。


「じゃあ、最初は何色の予定だったのよ?」


 離れたテーブルの上に、鮮やかなピンク色の蝶が舞っているのが見えた。


「あそこにいるチョウチョみたいな色」


「蝶? ここに虫なんていないよ」


 あんなにハッキリ見えるのに? と、恵は席を立ち、十匹の蝶が舞うように見える場所に近づいた。


 蝶の舞う場所には、見知らぬ男性グループが座っていた。新郎の友人のようだ。


「あの、ここにピンクの蝶がいますよね」


「君にも見えるんだ」


 振り返った一人の男と目が会った瞬間、蝶は消えた。


「恵ちゃん、今ごろ出会ってるわよね、運命の人と。私もそうやってお父さんと出会ったんだから」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ペディキュア 高山小石 @takayama_koishi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説