第41話(上)引越しとパーティーと不審者、門下生達の忙しない一日
その日、ディアナは貴族街にいた。
足取りは軽く、鼻歌混じりで。井戸端会議中の貴婦人方に怪訝な目を向けられたが、一向にお構いなし。
秋の緩い日差しを浴びながら、ご機嫌に歩を進めていた。
豪勢な屋敷の並びを抜けて、世話の行き届いた鑑賞用の池を通り過ぎ、やがて外れにある邸宅に到着する。
ドアノッカーを鳴らすと、すぐに壮年の女中が姿を現した。佇まいに円熟味を漂わせたベテランの女中は、ディアナを認識するや否や笑顔になり、どうぞと中へ通す。
「久しぶりねディアナちゃん。最近この界隈でも不審者騒ぎがあるけど、大丈夫だった?」
「ぬふふ。不審者なんて、わたしにかかれば返り討ちだよおばさん。テトトって、今どこかな」
「トリス様のお部屋に呼ばれてたわ。奥様には話しておくから、ご自由に」
手土産の焼き菓子を預けつつ、遠慮なくディアナは屋敷に上がり込む。迷わず廊下を進み、階段を昇っていく。そしてノックもせずに、とある部屋に飛び込んだ。
「テトトー、ちょっとお願いあるんだけどー」
部屋の中には二人の男女がいた。
隅のクローゼットで衣類を探している女性と、先ず目が合う。白いエプロンドレスを身に付けた年若い女中だ。ウェーブのかかった短めの髪には、カチューシャが飾られてある。
門下生の一人で、ディアナ以外では唯一女性の年長組、ティトだった。
垂れ目を鋭く尖らせて、急な来訪者であるディアナを睨みつける。
「……何? 仕事中なんだけど」
「ほう、仕事とな。じゃあベッドに腰掛けてる薄着のトリッピーお坊ちゃまは、どういうことかな。もしや、お楽しみタイムを邪魔しちゃったかにゃー」
「じ、じじ、自分達はそのような間柄では無い! 外出着をティトに選んで貰っていただけだ! 誤解されては困る!」
肌着一枚で寝台に座る青年が、手をバタバタと振り回し、本気で慌てている。
こちらも門下生の一人、トリスタンだ。この屋敷の三男坊であり、ティトとは主従関係にある。
この家の長兄がアルノーの知り合いだったという縁があり、末弟の鍛練先として、二人は道場に預けられるようになっていた。
「本当かなー? キレーめな女中を組み倒して、
「違う、自分はやっていない! 家の者に手を出すなんて真似、父上や兄達が許すはずないだろう!」
「……ディアナ、そのネタもういいから。ウチの坊ちゃん、あんまり
呆れたようにティトが間に入る。
慰めないし愚痴も聞かない性分のくせに、面倒臭いも何も無いのではと、ディアナは思う。
だが弁明の声が大きくて
「というかディアナよ、どうやって家に入ったのだ? 不法侵入ではあるまいな?」
「フツーに女中長さんに入れて貰ったよ。パパさんにも、いつでも出入りオーケー貰ってるし」
「ち、父上……」
事実を知ったらしいトリスタンが項垂れる。
一方ティトは予想できていたのか、涼しい顔をしていた。騒いでいた間も仕事はしていたのか、薄手のチュニックをクローゼットから取り出し、トリスタンに渡す。
「そう、母さんが入れたならいいんじゃない。知らないけど。あと、トリスはいちいち煩い」
騒がないよう注意を促され、トリスタンが恥じ入るように声を籠らせる。
主従関係にあるのが信じられない光景だが、これがいつもの二人だった。というより、この家の家訓が関係しているのかもしれない。
トリスタンの父も兄達も厳格な人達で、無闇に権力を振り回すことを良しとしない。誰に対しても分け隔てない態度で接し、差別を嫌う。
そんな性格の一家だから、社交界では何かと煙たがれるのだが、そこがアルノーとウマがあったのかもしれない。
「やー、本当にいい家だよね。もし道場が無かったら、この屋敷で働きたかったよ」
「アンタ別に、道場でも何もしてないじゃん。ここ、働かない奴が住み込みできる場所じゃないよ」
「そ、そうだ。父も兄もティトも、それはもう怖いんだぞ。君のような、いかがわしい態度と言動が多い者では、書類審査も通らないんだからな」
書類じゃ言動は分からないんじゃないかなと感想を抱きつつ、この家の主なら出来そうかもとディアナは思い直した。
元は軍属の流れを汲み、今では入国審査官を務めるトリスタンの父は、人を見る目に長けている。
「トリス。女性に対していかがわしいとか、そういう言動は慎んで。ウチの教育が疑われる」
「し、しかしながらティト。以前もこの女と来たら、勝手に我が家の女中服を着て、兄上にしれっと茶を入れていたのだぞ。やりたい放題過ぎる」
「ぬふ、あれ評判良かったよね。何なら、もいっかい着たげよっか?」
ディアナがその場でくるんとターンを決め、スカートの裾を持ち上げる動作を入れる。小首を傾げてウインクを入れると、トリスタンがすぐに真っ赤になった。
「いえーい。住み込みメイドのディアナでーす。ご注文はアフタヌーンティーですね。ご一緒にポテトはいかがですかー?」
「……それメイド違う。浜通りにある、漁師食堂の給仕さんだから」
「今ならスズキとアサリの煮込みと、スズキの塩釜焼きのセットが、金貨一枚で大変オトクでーす」
「高いし。あとそれ、胃袋破裂する」
「そういえばやたら獲れた年があったな、スズキ。白身魚は好きじゃないのに、死ぬほど食わされた」
自分で言って思い出したのか、トリスタンが気持ち悪そうに口を手で押さえる。
島国だけあって、リデフォールは海産資源が豊富だ。おまけに北大陸と南大陸の中継貿易のおかげで、様々な品種の食料が出回る。
ちなみに漁師食堂の給仕は、界隈では名の知れた看板娘である。容姿もさることながら、スマイルゼロ銀貨と言われるほど、誰に対しても活発に笑顔を振り撒く。城下町生まれの少年達は、だいたい彼女で初恋を経験する。
「とにかくだ。この家にいる間は、不埒な真似は控えてくれたまえ。正直、肩身が狭いのだよ」
「分かった。じゃあ今度、道場で着たげるね」
「だから、そういうのを止せと言っている!」
いちいちトリスタンが慌てふためく。
冷静沈着な従者と違って、主の方は感情の起伏が激しい。故にオモチャにされがちなのだが。
一方でティトは話に関わる気が無いらしく、クローゼットを片付けながら「ウチは貸さないから」とクールな対応を見せていた。
「いやー、トリッピーも貴族の子なんだから、ちっとは異性への免疫付けなー? こんな娼館出の女に乱されてたら、いつか本物のヤバい女に引っかかっちゃうよ」
軽口を言っていたら、トリスタンが急に静かになった。言い辛そうに言葉を詰まらせるだけで、何も喋ってこない。
ディアナが「おや?」っと思っていると、背後でティトが、これ見よがしに溜息を吐いた。
「そういうの、いちいち言わなくていいから」
「ん? ああ、そういうことか。まあ本当のことだし。みんな知ってるコトっしょ?」
あっけらかんとディアナが言い放つ。それでもトリスタンは納得していないようだった。
「言い方があろうに。娼館出と言っても、そこで生まれて、幼い頃から下働きさせられていただけであろう? 敢えて卑下するように言わずとも、なあ」
むうっと、ディアナが押し黙る。
別に本当に気にしてないし、負い目にすら感じていないことなのに。そのように周りに気を遣われると、
その話はもう何年も前に、終わったことなのに。
物心ついた時から、娼館で下働きさせられて。
館の主人に気に入られ、乱暴な扱いを受けることも無く。
おまけに買い手も決められていたから、客を取ることも無かった。
掃き溜めのような景色の中で、安定した寝食を供されて。
心も身体も傷付けられた女達を見ながら、蝶よ花よと周囲の大人に可愛がられた。
何年か後には、大金を残して王宮の高官に売られていく身で。
生まれを考えれば、不満なんていう筋合いがないくらい、恵まれた生活を送って。
救われる必要がないはずの人生で、それでも自分は救われた。
ある日、少女が娼館で客を取っていると噂を聞きつけ、アルノーとアーネがやってきて。
腕利きの用心棒を蹴散らし、娼館を叩き潰した。
王太子ジェラールの名の下、主人と太客達、それに裏で経営に参画していた貴族は、裁きの場に引き摺り出された。
全て、ハッピーエンドで幕を閉じた話なのだ。
「本当に、気にしてないんだけどねー」
「それでもディアナ。自分は君に、軽々とそのことを語って欲しくない。語らなくていいと、思っているのだよ」
優しげに、トリスタンが言葉を選んでくれる。その労わりは十二分に、ディアナにも伝わった。
だからそれ以上は釈明のしようが無くなって、「そっかー」とだけディアナは呟いた。
本当に、恵まれた人生だと思う。
今まで出会えた人達には、感謝しかない。
だからこそ。
戴冠式の日に、自分がしでかしてしまった恩知らずな仕打ちが、どうしようもなく許せない。
嫌悪感で胸がいっぱいになろうとした時、タイミングを見計らっていたかのように、ティトが口を開いた。
「で、結局アンタ何しに来たの? ウチに用があるんでしょ?」
「あー、だったわ。ねえテトト、ドレス貸してくんない?」
「は、何で? パーティーでも行くの?」
ディアナは今更、ここに来た要件を思い出した。
数日後に迫っている戦勝会、招かれたのはアーネだが、自分とデュオも従者として参加することになったのだ。
道場での遺言の一件以来、アーネが塞ぎがちになっていたので、ギリギリまでディアナ達には伝えられていなかった。
昨晩その話を聞いた時、アーネが珍しく平謝りをしていたのを、ディアナは覚えている。
そんな訳で、急ぎで戦勝会出席のための準備をしたのだ。
「ほら、わたしってドレスを買いに行く用のドレスも無いじゃん? テトトなら貴族の付人だし、持ってないかなって」
「持ってるけど、お断り」
迷いなく、即座にNGが出る。
「えー、何でよ」
「サイズが合わないから。ドレスって寸法とか正確に測ってオーダーメイドするし」
ティトが言うには、サイズが合わないドレスは似合わない。それが常識らしい。
ディアナとティトでは背格好も大分違う。高身長モデル体型のティトが持っているドレスでは、急いで繕い直しても、トランジスタグラマー系のディアナでは着こなせないであろう。
「ふむ。何なら馴染みの仕立て屋を紹介するが。名前を出せば、安く作ってもらえるはずだ」
「にしたって、今からじゃあ作るのが間に合わない。アンタもドレスとは言わないまでも、大人しい系の服持ってないの」
「服はいっぱいあるけど、カジュアルやかわいー系メインなのよなー。いかにもヒラヒラでキラキラでツヤツヤした服って、まあ無いこともないけど、探してみたら好きじゃないヤツしかなかった」
「では我慢して着れば良いだろうに。元はお前が、買うか貰うかしたものだろう」
「イヤ。かわいくない。着たくない」
手にした後に、「やっぱ違う。コレじゃない」というケースは、往々にしてあるものだ。その辺りの機微は分かるのか、ティトもじゃあ仕方ないかとばかりに、別の方策を考え込む。
「戦勝会でしょ? 軍服でいいんじゃない」
「わたし軍人じゃないから持ってないよ?」
「師範の昔のヤツならあるでしょ。ウチより師範のが、アンタと格好近いし」
叙勲を果たしたことでアーネは制服が変わり、従士時代のものはタンス行きとなっていた。
軍服は動作性に重きを置かれたデザインであるため、多少のサイズ差であれば気にならない。
おまけに、これ以上無いほどフォーマルな衣装でもある。他人に見られて恥ずかしいような格好では無い。
ディアナの好みとは程遠いが、妥協枠としては十分ありだった。
「まあ、それでもいっか。ねーさんに聞いてみなきゃ。あんがと」
「しかしパーティーとは羨ましいな」
「ん? 貴族ならパーティーくらい、しょっちゅうお呼ばれすんじゃないの」
曲がり曲がっても、トリスタンの家は男爵の家柄だ。入国審査官という肩書も持っている。
最近でこそ王宮は慌ただしいが、その前は頻繁に社交パーティーが開かれたとも聞いている。
「我が家は堅物が多くてね。煙たがられがちなのさ。全く無いわけじゃあないが、父や兄がいる以上、自分に出番は回ってこない」
トリスタンが寂しそうに言う。
確かにこの家主催のパーティーが開かれるという話は、ついぞ聞いたことがない。
「そっかあ。トリッピー、貴族様の間でもハブにされてるんだね。かわいそう」
「も、ってなんだ。も、って! 道場では別にハブられていないぞ」
「ですね。お坊っちゃまには、ウチが付いていますので。一人ではございません。ふ」
「笑うな、その庇い方は庇ってないぞティト! ベンやイクスとつるんでいるの、知っているだろ!」
「ベン様とクッスなら、朝道場に来てたよ」
「何だと?」
悲しいカミングアウトを、ディアナが容赦無く告げる。
「よく二人で朝稽古に来てんのよ、コレが。今日もたまたま居合わせたら組手に付き合えって煩くて。仕方ないから一人三十秒までで相手してやった。どっちも十秒でケリつけてやったぜ」
可愛く舌を見せて、ウインクしながらグーサインを出す。楽しい思い出風に言っているが、内容は割とえげつなかった。
「……てかいいの? アンタすぐ見境なくなるから、組手禁止じゃなかった?」
「そのための時間制限だし。道場にはデュオもいたし、最悪アイツが何とかするっしょ」
迷惑そうな顔を浮かべるデュオが、目に浮かぶ。
誰もやりたがらない事後処理やフォローを任せたら、あの男の右に出るものはいない。
そして仲が良いはずのベンとイクスに、今まで一度も誘われていないことを知ってしまったトリスタンは、半ば涙目になっていた。
この辺り、実は根深い話である。例え三人の仲が良くても、やはり貴族と庶民の関係なのだ。
「あんま気にすんなって。あのマッスルコンビが繊細な気を回せる奴らじゃないの、知ってんだろー」
トリスタンが寂しそうに窓の外を見る。泣くのを我慢しているのかもしれない。
そろそろフォローしてやれと、ディアナがティトに視線でパスを出していると、トリスタンの表情が急に変わった。目を細め、外の一点を見つめている。
「どったのトリッピー。幽霊でもいた?」
「いや。見慣れない甲冑の騎士が歩いていてな。怪我でもしてたのか、足を引き摺ってたんだ」
「……騎士? 見回りの衛兵ではなく?」
貴族街は治安維持の名目で、頻繁に見回りが入る。他の街区以上に保全要員が確保されているのは知られた話で、王宮が自己都合で身贔屓していた。
「衛兵とは格好が違った。戦時中じゃあるまいし、街中を見回るのに甲冑は着けないだろう」
トリスタンの見間違いでなければ、フル装備の見知らぬ軍人が、怪我したまま徘徊しているということになる。
そう言えばとディアナも思い出す。屋敷を訪れた際、ティトの母である女中長から、不審者について問われていたのだ。或いは今見た謎の騎士とも、無関係ではないのかもしれない。
念のため、ディアナとティトも窓に近付く。
部屋が二階のため、意外に見晴らしは良い。
丁字路の曲がり角辺りをトリスタンが指差すが、今現在不審者がいる様子は無かった。
「……詰所に通報しとく?」
ティトの言葉はどこか投げ槍だった。
だが言わんとしていることは、ディアナとトリスタンにも分かっていた。
曲がり角の先には街を流れる川があって、川沿いに土手を歩けば大きな通りに出る。
見晴らしが良く人通りも多いから、ここで自分達が通報しなくても、誰かの目には留まるだろう。本当に不審者がいたならば、そこで衛兵が出張ることになる。
強いて言えば土手の周りは開けているが、そこでは隠れるような場所は無い。
うーんと唸って、トリスタンが判断に迷う。
見たのは彼一人だから、自信が無くなってきたのだろう。話を大袈裟にしたくないのか、ここにきて悩んでいるようだった。
そうやって、トリスタンが日和かけたところで。
開いたままの窓から、ディアナがジャンプして飛び出した。トリスタンの部屋は二階だというのに、全くのお構いなし。着地の瞬間に膝を曲げ衝撃を逃し、何事も無かったように快走する。
トリスタンの呼び止める大声と、ティトのわざとらしい溜息を置き去りにして走って行く。
「ま、こういうのは
住宅地の角を曲がってすぐ、ディアナはあることに気付く。だがそれは一旦棚上げにして、そのまま真っ直ぐ追跡を続けた。ほどなく、街を流れる川の横手に辿り着く。
今いる砂利道は土手になっていて、川に沿うように整備された道路が走っている。
ディアナは足を止め、顎に手を当てて考え込む。
やがて背後から、複数の足音が近付いてきた。
「危ないだろう、二階から飛び出すなんて! 着地できても、膝を壊すぞ!」
「二個あるから大丈夫。トリッピーは心配性すぎ」
「ディアナがそんなドジ踏むわけないし。で、何か分かった?」
道場で鍛えられているからか、トリスタンとティトは特に息を乱すことなく、付いてきていた。
だが追いかけるのに精一杯で、あることを見逃しているようだった。
そんな二人のために、ディアナは無言で地面を指差す。指し示された周辺は、よく見ればそこだけが何故か濡れていた。それはまるで足跡のように、貴族街から川に向けて、移動してきている。
「何だこれは、自分が見掛けた騎士のものか? こんな晴れ間で、一体どうして濡れているんだ?」
「……まだ新しい。ついさっきまでこの辺にいた」
「二人は見てないかもだけど、その跡、貴族街の池くらいから出てきたんだよね」
そして川で足跡は完全に消えた。河原には人が潜む場所は無く、誰かが泳いでいる形跡も無い。
ここまで言えば、トリスタンとティトにも気付くことがあったようだ。
「水人形か! 池で作って、川まで移動させたのか。こんな真っ昼間に、いったい誰が何のために」
「……或いは水術師本人。最近不審者騒ぎがあったけど、それもそいつの仕業? 何でこんな人目の多いところで」
「さあねえ。スパイだったりするのか、それともどこぞの考え足らずが水術の練習してたのか」
とは言え前者の場合、濡れた足跡がお粗末すぎる。
できれば後者で、高い
「後は池で『発動』したんじゃなく、池の水脈を『移動』してきたパターンもあるかなー」
「あの池の水源は、地下水脈だぞ。通れるわけがないだろう」
王都の地下水脈は、街のあちこちで井戸や池として湧水する。
しかし水術に利用するには土砂が多分に混じって術が維持しにくいし、単純に人が通れる経路がない。流体である水人形ならば可能性はあるが、高度な水術師であっても術を維持、移動させるのは困難だ。
何よりやっぱり、池や川などの水辺を渡って歩く目的が分からない。
水術は水辺で真価を発揮するが、こんな雑な方法で術を行使しながら出歩けば、住民に不信感や警戒心を与えてしまう。
そう言った意味では、城下町の人間の犯行では無さそうなのだが。分かるのは精々、そこまでだ。
「逆に手掛かり多すぎだねー。どれを取っ掛かりにしたものやら」
トリスタンとティトには伝えていないが、城の近郊で公爵軍が動いているという噂もある。
不審者騒ぎにまで首を突っ込みたくはないが、火の粉が近くで舞っているとあっては、サボり癖持ちのディアナとて他人事ではいられない。
「……誰も見当たらない以上、ウチはもう帰るけど。ディアナはまだ続ける?」
「んー、デュオに振っとくかあ。側近のえっ君も動かしてるっぽいし、どーにかすんでしょ」
「デュオとエクトルも災難だな。一応、不審者目撃の件で、詰所には自分から連絡しておこう」
本当に、人任せにできる話ならば良いのに。
そうはならないであろう予感を、ディアナはひしひしと感じていた。
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