第14話(中)開戦、初手の攻防
「当然、地下通路からの侵入が読まれることは想定済みだ。だが百年前の内乱で改築した折、取り潰された旧道までは手が回らなかったようだな」
鎧を着込み馬に乗ったアルノーが、小さな笑みを作る。
場所は城の南側。既に市街地に入り込んでおり、今まさに城を包囲しようとしていた。
急に笑みを浮かべたアルノーを、気味の悪いものでも見たかのようにアーネが訝しむ。
「まーた何か悪いこと考えてるよ」
「潜入させた傭兵からの、秘密の合図を受け取っただけだ。このまま南門を目指すべしってな」
「え、そうなの。城の方に変化無さそうだけど」
「少数精鋭だからな。なんにせよ地下通路を使った侵入は成功だ。陽動のために一部隊余計に割いた甲斐があった」
アーネ達には、地下道を使った潜入工作をしていると連絡済みだ。
何故知っているのかと問い詰められたが、王太子から事前に聞いていたと答えると、思いの外簡単に納得してくれた。もちろん、王太子からそんな抜け道のことは聞いていないのだが、ジェラールなら或いは、と思ってくれたらしい。
攻城戦になると分かった時から、アルノーは地下道を使った侵入を考案していた。だがジェラール襲撃時にも、雇った暗殺者を侵入させるために使ってしまっている。
それを踏まえて今回はさらに一本、道を追加した。初代国王鎮圧戦で城が戦場になった際、破壊が酷く廃棄された道だ。
事前の調査で、完全に埋め立てられたわけではなく、石材で簡単に塞がれた程度だったことをアルノーは知っていた。その程度の簡易的な閉鎖ならば、流体である自分の
廃棄された地下道は城の地図には無く、大昔の改築設計図に残る程度だったので、ロベールも認知していなかったのだろう。
たとえ地下道があったことは知っていても、塞がれた地下道を通れる者がいるとまでは、考えが及ばなかったはずだ。
そして気付いたときにはもう手遅れ。アルノーの水人形はまんまと廃棄された地下道を通り、空白地に躍り出ることに成功した。
「あとは侵入部隊が、門を開けてくれる。そうなれば傭兵達を雪崩れ込ませて終わりだ」
頭数こそ少ないものの、水人形は斬ろうが砕こうが、再生して敵陣を蹂躙する。今頃城内でも対応に苦慮しているだろう。
中継役の水人形の核となる魔石を破壊すれば、指揮下の水人形諸共崩れてしまうが、敵方が攻略法に気付くまではまだ時間が掛かる。
よしんば早期に見抜かれたとしても、南門に突入できれば、相手の布陣は乱れる。そうなれば北門及び西門の味方が隙を突くことが出来る。
水人形の大群、
「援軍がある以上、籠城戦で構わない。そう考えたんだろうが、安直だったな。まともな攻城戦など挑むものかよ」
南門の方角が騒がしい。どうやらつつがなく攻略が進んでいるようだった。
このままでも、クラオン領の敵援軍が到着する前に、城は制圧できるだろう。
「とはいえロベールのことだ。何もないまま終わる訳がない。上手く最後の罠に嵌ってくれれば、手っ取り早いんだが」
気になることもあった。
デュオからの報告によれば、見張りをつけていたアディが道場での一件以来、姿を消しているらしい。
デュオはすぐに潜入予定のエクトルを派遣したのだが、どうも城には戻っていないようだった。
タイミング的には、道場からの帰り道で何かあったに違いないのだが、まるで痕跡が見つけられないまま今に至る。
あの日からすぐに拠点を郊外の兵舎に移したため、アルノーもまともに捜索することが出来ないでいた。
計画に関しては、アディに事前に伝えた分は漏れても構わない。
だが可能性は低いものの、人質にされると厄介だった。戦略的には、例えそうなっても見捨てる他ないが。
個人的に知己を結んでいた相手を安易に見捨てたとあっては、後々の瑕疵と為りかねない。自分は、人々に認められて王にならねばならないのだ。
為るようにしか為らない。覚悟を決め、進むべき方角へ目を向ける。
馬を走らせるアルノーの目の前には、白亜の城がそびえ立つ。
首都リデフォールが、三度目の炎に包まれようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます