第4話(下)道場の日常、道場の非日常

 せがまれて皆の稽古に付き合っている、その最中だった。


 突如として、正面の引き戸が勢い良く開いた。

 武装した集団が次々と道場に上がり込んでくる。

 扉から一番近くにいた門下生、ディアナが逃げる間もなく捕まり、後ろ手に組まれる。

 アルノーは即座に近くにいた年少組数人を自分の近くに引き寄せた。


「動くな!」


 侵入者の一人が放った厳つい低音が、道場内に響く。道場にいた全員が、それでぴたりと止まった。

 アルノーはすぐに気配を辿る。

 正面から侵入したのは五人、うち一人がディアナを腕を締め上げて捕らえている。   

 奥の廊下からは、さっき一瞬だけ風が吹きすぐに止んだ。裏口も既に侵入されている可能性が高い。

 今は隠れているようだが、誰かがそちらから逃げようとすれば、すぐに襲いかかるだろう。

 恐らく外にも何人か待ち伏せている。完全に囲まれたと、アルノーは察した。


 困ったことにアルノーは、襲われる覚えがごまんとあった。

 とはいえ初手で仕留めにこないあたり、示威を示さずにいれらない無駄なプライドを感じる。ならば十中八九、現場に来ているはず。


「おい、どうせいるんだろう。傭兵の陰に隠れてないで出てこい」


 アルノーが声を掛けると、反応するかのように玄関側から一人、小太りの男が出てきた。

 他の者とは明らかに異なる出で立ち。金糸や銀細工を、悪趣味なほどにふんだんにあしらった外套を身に付けている。


「ふん、躾がなっていないな、ジェラールの犬め。無銘むめい風情が立場をわきまえろ」


 現れた男は、見下すような口調でアルノーに言葉を吐きかける。

 無銘むめいとは、貴族が庶民を罵倒するのに使われる言葉で、家の表札や墓に刻む姓すら持てぬ者、という意味からくる用語だ。一般市民でも姓を持てるようになった今でも、根強く残っている。

 アルノーはその差別主義者の顔に、見覚えがあった。


「密輸の摘発以来か? あの時はせっかく大臣のパパが助けてくれたのに、こんな荒事を起こしたら、今度こそ見捨てられるぞアルマン」

「黙れ。お前こそ、王太子のお気に入りだからといって、いつまでもでかいツラが出来ると思うなよ」

「宰相の威を借りてでかいツラをしているのはお前だろ。親父は兎も角、お前は爵位持ちでも宮仕えでもない、ただの無職だぞ。お前が口を慎め」

「職が無くなったのはお前のせいだ! お前が私の興した商売を潰すからこうなったんだろうが!」


 密輸なぞしておいて商売を自負するとは、中々猛々しいことを言う。

 このアルマンという男は貴族の御曹司であるが、その実かつてアルノーが潰した密輸組織の首謀者でもあった。

 金持ちの御曹司が火遊びをしていたのを、騎士団に盛大に叱り飛ばされた形だが、ずっと逆恨みしていたらしい。

 組織を壊滅させた時点で捕縛したかったのだが、大臣の父親と宰相に強権を発動されて、それ以上の追求が出来なくなってしまっていた。

 強引にでも縛るべきだったと、アルノーは胸中で後悔する。

 武装した連中は、当時の伝手を使った傭兵といったところだろう。


「それで何の用だ。この家は競りに出ていたのを、俺が正規の手続きで落札したものだ。勝手に中に入るんじゃない」

「ふざけるな、お前が騎士団を動かして、無理矢理接収したのだろうが。元は俺が商いの拠点として購入したんだぞ」

「そうか、いいことを教えてやろう。買ったのはお前でも、売ったらお前のものじゃなくなるんだ。勉強になったな」

「バカにしているのか!」


 自分が買ったと喚くが、その金も親に用意させたものだろうに。

 よくもまあここまで胸を張って言いきることができるものだと、アルノーは呆れる。

 そもそも、資金源の線から父親ごと捕らえられないかと、当時躍起になっていたものだった。


「それで、その家を取り返しに来たと?」

「ふん。船の往来も増えて活気が出てきたからな。商売を再開したかったが、倉庫街は生憎宰相閣下が全て抑えている。代わりの拠点として、ここは申し分ない」


 昔の仕返しと、商いの再開。

 商売とやらも、どうせロクではないものであろう。今度こそ、この男を捕らえなくてはならない。

 挑発を繰り返しながら、アルノーは着々と準備は整えていた。そもそも最初の襲撃を受けた瞬間、既にお膳立ては受けていたのだ。

 侵入を確認した瞬間アーネは素早く動き、敵の制止を受ける前に道具箱から、ある武器を確保した。

 デュオは他の門下生の確保に動き、前を開けて一気に詰め寄れるよう、道を整備している。

 そして、一番動きが速かったのは捕まったディアナだった。

 奥で名残惜しそうに毛布にくるまって座っていたのが、いつの間にか玄関側に移動していた。

 窓際にいたので、外から来る敵意を敏感に感じ取っていたのかも知れない。

 襲撃に際しても無抵抗に捕まったように見えたが、その実、他の門下生が人質にならないよう体を張って守っていたのだ。

 基本的に年長者が道場の奥、年少組が道場手前側に座るので、彼女の行動がなかった場合、年少組が捕まっていただろう。その場合は、流石にアルノーも少々困ったことになっていた。


「あーうー。たーすけてー」

「どうだ。迂闊に動けば、この娘が報いを受けるからな。ああ、もちろん貴様が腕の立つ水使いであることは知っているぞ。だがこの場のどこに水がある。水のない水使いなぞ、ただの人よ。今度からは海の傍ではなく、海の中でチャンバラすべきだな」


 首謀者の御曹司が高笑いをする。包囲が完成した時点で、勝ちを確認しているのだろう。


「その子を離せ。人質を取るような状況でもないだろう」

「そうでもない。私は一方的に殴るのが好きだからな。万が一反撃されては構わん」


 ゲスなことを堂々と宣言する。

 そうなると心配なのが捕まっているディアナだが、今はまだ何かされるような気配もない。

 本人も腕を取られているものの、棒読みで助けを求めている辺り、まだまだ余裕はあるだろう。

 よって残りは、アルノーの準備がどのタイミングで完了するのかによる。撃退するだけならばどうとでもなるのだが、居合わせた子供達が怪我しないよう配慮するとなると、方法は限られてしまう。


 そしてたった今、その準備は完了した。襲撃者達に見えないよう、アーネに合図を送る。

 アーネは、貰ったばかりの炎の魔石を右手で強く握りしめた。石が砕け、粉塵が光となって舞い散る。

 同時に、先程隠し持った火打石と打金を器用に擦り、火花を起こす。魔石の光の中で生まれた火花は瞬時に膨れ上がり、襲撃者達に向かって走った。武装した男達は虚を突かれ、散りじりに避ける。

 その隙を突いて、捕まっていたディアナが動く。掴まれていた腕の力が弱まり、すぐに組み外す。

 ディアナを捕まえていた男が再度捕まえようとするが、デュオが突っ込み、カウンター気味に前蹴りを浴びせる。

 男が怯んだことを確認したもののデュオは深追いせず、そのままディアナと一緒に距離を取った。


「貴様ら、ふざけた真似を! もういい傭兵共、ガキ諸共こいつらを」

「もう遅い」


 襲撃者達に号令がかかるその瞬間、アルノーがその言葉を断じる。

 アルノーは周囲にいた門下生の子供達に、離れるように告げる。子供達で陰になっていたアルノーの全身を、その時初めて襲撃者達は見えることになった。アルノーの体は、軍服に包まれて分かりにくいものの、淡い光に包まれていた。

 襲撃の時、子供達を引き寄せたのは、その身を案じたからだけではない。術が発動するまでの間、洩れ出す光を遮蔽したかったからだ。


「水の無い水使いは、恐るるに足りないと言ったな。水使いが自分の操る水を、常備していないとでも思ったか」


 光が道場全体を包む。

 流し場の水瓶、屋根に沿う樋、路地横の古びた樽、苔生した庭の池。

 そこかしこから水が唸りを上げて、宙を舞う。

 道場の周辺一帯に光が溢れ、水をアルノーの元へ運んでくる。アルノーが指を上に突き立てると、運ばれた水は渦を描くように旋回を始める。


「気を付けるといい。横殴りの雨が降るぞ」


 アルノーの指が水流に触れると、分裂するかのように細かい水滴に変わる。そして次の瞬間、土砂降りの雨が水平方向から襲撃者達を襲った。一滴一滴が礫のように固められた水弾は、射線上の門下生達を傷付けることなく、襲撃者のみを的確に呑みこみ、壁際まで吹き飛ばした。

 異変を察知したのか、アルノーの背後の通路側から新手の武装集団が現れる。

 アルノーは自身の身体が発する光を伸ばし、玄関側の敵を打ち払った水分を掬うように残さず回収し、改めて後背の敵にも水弾を打ち据える。


「よし、これで残るはお前だけだ」


 正面にいた敵で唯一非武装だった首謀者のアルマンを見据える。一緒に叩きのめしても良かったのだが、この場で制裁を加えることは控えていた。

 と、そうやって気を抜きかけた瞬間、殺気のようなものを感じた。


「アルノー、右の窓から!」 


 アーネの警告が言い終わる前にアルノーが反応する。道場の窓ガラスを破って、武装した男が猛烈な勢いでアルノーに突っ込んできた。ナイフを持っており、そのまま刺突にくる。

 アルノーは襲ってくる男に対し、右手を突き出して手首から先で円を描くようにぐるりと回す。手の動きに合わせて、平らな水の壁が瞬時に現れる。

 そのまま水のラウンドシールドで、突っ込んできた男を真っ向から受け止めた。

 後ろに下がりつつ力を受け流し、勢いを徐々に減衰させる。

 水の盾が限界を迎えようというタイミングで、今度は盾を解除して水に戻す。

 流体に戻った水を、改めて術で掴み直し、今度は男の手をナイフごと水でくるんだ。

 まるで手枷のように、宙に浮いた水が男の手を封じる。バランスを失ったところで、足払いをかけて豪快に転倒させた。


「風使いか。思い切りのいい攻撃だった。少し危なかったぞ」


 後背部に追い風を発生させ、加速状態で敵に突撃するのは、風使いが得意とする戦法だ。

 今のように不意打ちとセットが基本で、目測を誤らせるので受け手側は対処を誤りやすい。

 アルノーは楯を作って攻撃を受け止めたが、もう少し速度が乗っていれば盾の形成が間に合わない、或いは盾そのものを破られていたところだった。

 蹌踉めきながら風使いの男が立ち上がる。ダメージがあるのか息が荒かったが、戦闘続行には問題無さそうだ。

 アルノーの後ろには、ちょうど門下生達が怯えながら固まっている。新手が加わる可能性も考えると、これ以上長引かせるわけにはいかなかった。


「仕方ない。水鏡ウォーターアバター、起動」


 胸に手を当てると、再び光が体を満たしていく。周囲の水が引き寄せられ、アルノーのすぐ隣で渦を巻く。渦は勢いを増しつつ、徐々に人の体を形成していく。やがて胴体が作られ、手足が出来上がり、最後は頭部が仕上がる。アルノーが操っていた水は、アルノーと同じ似姿を取って降り立った。


「水人形だと! それもここまで精巧なものを」

「水辺でしか動けない、そこらの水人形と一緒にするなよ。コレはよく動くぞ」


 風使いが驚愕の声を上げる。

 人形作成は土使いと水使いが扱う技能だが、土塊や砂などを土台とする土使いとは異なり、水使いは流体を用いるため、成形には困難を極める。

 さらに大量の水が必要となるため、維持するのにも常時労力を強いられ、術の負担が軽い水辺でなければ成立しないスキルとさえ言われていた。

 にも関わらずアルノーの作った水人形は、顔をはじめ各部のパーツが精巧に術者を模写している。

 そのうえ着ている軍服まで再現されているのだが、肌や服装の色合いや硬質感まで顕すのは、かなり高等技術になる。


「少し小さいが、まあいいか」


 危険を察知したのが、風使いがアルノー目掛けてナイフを投擲する。

 またも風を作り加速させているのか、ナイフは一息にアルノーの前まで到達した。

 だが分身体のアルノーが素早く手を伸ばし、水で出来た腕で刃を受け止める。

 腕部に突き刺さるものの貫通を許さず、ナイフはそのまま分身の手に収まった。

 水人形がナイフを抜き構え直し、そのまま真っ直ぐ風使いまで迫る。本体のアルノーも落ちていた木剣を拾い、その後を追う。

 水人形がナイフを真一文字に振るう。

 初撃を避けた風使いに、振り終わりに合わせてアルノーが木剣で刺突する。

 懐から出した新たなナイフで受け止めた風使いだが、再度水人形が斬りかかり、反撃の機を与えない。

 最初は凌いだ風使いもすぐに追い込まれ、四度目のコンビネーションとなるアルノーの胴払いをまともに浴び、悶絶してその場に崩れ落ちた。


「俺を討てば終わると踏んだんだろうが。魔石使いがあと一人足りなかったな」


 風使いが沈黙したことを確認して、即座に周囲に気を払う。外にはまだこちらを窺う気配があるが、追撃の様子はなかった。

 追い打ちをかける最後の機会だったのにそれが無いとすると、今の風使いがリーダー若しくはエース格だったのだろう。

 指示を出せる者がいなくなったのであれば、幕引きを図る頃合いと言えた。

 改めてアルマンを見ると、額に脂汗を浮かべて唇を噛み締めている。分かりやすい反応で助かった。


「おい。外の連中を呼んで、寝ている奴らを運び出せ。後は尻尾を巻いて失せろ」

「な、なに?」

「早くしろ。さっさとしないと衛兵を呼ぶぞ」

「いいの、アルノー? 捕まえなくて」


 アルノーの言葉に、アルマンばかりか味方まで驚いていた。

 周囲を見渡せば、子供達には怪我はないようだが、腰を抜かしてしまっていたり、今にも泣き出しそうな者が何人かいる。

 目があったディアナがこれ見よがしに腕をさすり始めるが、仮病の疑いが強いのでそこはノーコメント。


「衛兵を呼びに行ったところで、こいつらが大人しく待っているわけがないからな。これ以上暴れられたら、子供達の心身が持たない。だから手打ちだ」


 預かった大事な体でもある。家に帰すところまではアルノーの責任だ。巻き込むことは出来ない。


「ぐ、ぐぬ。おい、お前ら撤収だ。さっさとこの役立たず共を運び出せ!」


 この期に及んで威勢のいい。円滑な信頼関係を築く思いは無いようだった。

 アルマンに呼ばれ、外から何人かが入ってくる。まだ敵対心を向けているようだったが、それ以上は何をするでもなく、倒れている仲間の元へと向かった。

 倒れているものに手を貸し、起き上がれないものには肩を貸して、襲撃者達がぞろぞろと玄関から外に出て行く。アルマンも、その後に続いて道場を出て行った。

 これでようやく、一息着いた。

 割れた窓の片付け、足跡だらけの床の掃除などやるべきことはまだあるものの。


「よし、みんなお疲れ。巻き込むことになって悪かった。この通りだ」


 門下生のみんなに向かって頭を下げる。気が抜けたのが、泣くのを我慢していたらしい子供の何人かが遂にぐずり始めた。年長組が傍に寄って、それを慰める。


「師範が謝られることではありません。悪いのは襲ってきた連中です」

「まー、みんな怪我無くて済んだしぃ、これで良かったんじゃないかなー」


 古株のデュオとディアナがフォローに回る。この二人が指示もなく陽動とカバーに入ってくれたおかげで、アルノーも大分動きやすかった。

 もう、門下生呼ばわりできない時期になっているのかも知れない。


「いやー、ほんと頑張り過ぎちゃったよ。にーさんにはご褒美請求しちゃおうかな」

「そうだな。ディアナには危険な真似をさせてしまった。お詫びといっては何だけど、高くてもある程度なら奮発してやるぞ」

「アルノー、ディアナに甘すぎ」


 教育担当のアーネがジト目を向けてくるが、ここは無視する。論功勲章は国の常だ。ある程度のインセンティブは、使う側が積極的に生み出さなくてはならない。

 

「おお、にーさん太っ腹。お言葉に甘えてー、何にしよっかなあ。お昼寝用の毛布? 新作のウイッグ? 春用のお洋服もそろそろと思ってたし」

「ディアナ、師範の社交辞令をあまり真に受けすぎないように。せめてほどほどで」

「もう、デュオは頭固いなあ。んー、お金がかからないもので言うと」

「何でもいいぞ、ほんと。こういう時のために貯めてるようなものだし」

「はいはい、じゃああたしも! あたしも頑張ったよ。合図逃さないで、口火切ったのあたし」

「お前は俺の従士だろ。仕事の一環だ。ディアナは民間の協力者。立場が違う」

「ずーるーいぃ。ディアナばっかり甘やかす」


 アーネが横でぎゃあぎゃあとわめき立てる。食事だの何だの、普段十二分に世話をしているというのに。

 ディアナの方が明らかに普段何もしてやれないので、良い機会だと思ったのだが。

 話の持っていき方が悪かったのか、想像以上にアーネが食いついてしまった。

 その様子を横で見ていたディアナが、何か思いついたような顔をする。


「んーと、それじゃあ。私が次生まれ変わったら、今度はにーさんとねーさんの子供になりたいな」

「そうか。慕ってくれてありがとう。でもお願いは今生におけるものにしてくれ」

「ええー。今から死ねば、仕込みに間に合うんじゃないかなー。きっと」

「計画が未定だからな。あと縁起でもない話は、頼むから止めてくれ。アーネは後で説教な」

「なんであたし! こっちも流れ矢飛んできてるんですけど!」

「逆セクハラはお前の仕込みだろ。後続は先達の背中を見て育つんだぞ。反省しろ」

「納得いかない!」


 ふと顔を向けると、ディアナがにこにことご満悦だった。良くも悪くも、アーネの一番弟子に相応しい成長を遂げてしまった。


「とりあえずデュオとディアナは、他の年長組と一緒に、子供達の世話を頼む。その間にアーネは念のため残党がいないか、周囲の索敵をしておいて欲しい」

「いいけど、アルノーは?」

「騎士団の詰所。衛兵でも良いけど、連中は宰相の息が掛かっているから。念のため身内に動いてもらう」


 状況を考えれば、まず間違いなくアルマンの独断だろうが、それでも身内かわいさに庇われると厄介だ。圧力を掛けて無かったことにされても困る。

 その点騎士団ならば、団長補佐であるアルノーであれば、ある程度融通は利く。


「状況説明や指示出しの必要性も考えると、俺が直接言った方が早いだろう。それと周囲の安全が確認できたら、子供達を送ってくれると助かる」

「了解致しました。道場の方はお任せ下さい」


 こういう時のデュオは実に頼りになる。セオリー通りの行動も、臨機応変な対応も間違いない判断を下してくれる。補佐役としての能力に関しては、現時点でもアルノーを越えている。

 アルノーが道場に毎日顔を出さなくても済むのは、デュオの実務スキルの高さに依るところが大きい。


「では後は頼む」


 道場の方はこれで後は大丈夫だろう。

 アルノーは三人が見送るなか、道場を後にする。

 出て行く際の子供達の不安そうな顔には、後ろ髪を引かれる思いになった。


 早くあるべき平和を確立しなくては。

 改めてそんな思いに駆られた。

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