第19話 裏神商会には関わるな
翌日から輝プリメンバー達は、リーダーの指示により情報収集に奔走する事になった。
「裏神商会? 知らねぇなぁ」
「窃盗グループ? さぁ、聞いた事ないわ」
「帽子を目部下に被った女の子を探してるって? それだけじゃ分からないよ」
手当たり次第に街人に声をかけるも、めぼしい情報は入ってこない。
それでも被害者に話を聞くことは出来たので、実際に事件が起きている事は確かだ。
犯罪組織と言うだけあって、巧妙な手口と統制が取れている組織とみて間違いない。
「──────はぁ。中々情報が集まらないわね」
「相手も馬鹿じゃないってことだね。闇の世界は奥深い…………」
「感心してる場合じゃないよ。さあ、続き頑張るよ! 情報は足で稼ぐ。これ常識だから」
「「はーい」」
この部隊はマロを中心とした、ハル、ヤエ、忍の四人構成。既に長い時間歩き回り疲労の色が見えていたが、マロは三人に更なる行動を求めた。
戦闘では活躍できずとも、こうした地道な作業ではマロが他者よりも一枚上手だ。
「ちょっとあんた達!」
再び聞き込みに行こうとした四人を、ある者が引き止めた。見れば見知った女の子。
「なんだバブミか」
「なんだじゃないわよ! もうちょっと驚きなさいよ! プンプンタイム突入するわよ!」
それはヤエの因縁の相手であり、女性唯一のトップランカーである『羽普美』ことバブミであった。
「羽普美が名前でバブミが愛称! そこ間違えないでくれる!?」
「誰に言っているのだ。生憎、わたし達は忙しいんだ。おまえに構っている暇等ない。また今度相手してやるから話し掛けるな。疲れてるんだ」
「なんという塩対応! それがトップランカーである私に対する対応なの!?」
「あーもう、煩いなぁ。あっちへ行ってくれ」
「せっかく忠告しに来たのに」
「なに?」
「あんた達『裏神商会』の情報を集めてるでしょ? 悪い事は言わないわ。やめておきなさい」
いつになく真剣な顔の羽普美をみたヤエは、心を改めその話に耳を傾けた。
「それはどういう事かな?」
「言葉の通りよ。裏神商会には関わるな、よ」
「アイツらの悪事をほっとけと?」
「そうは言っていないわ。あんた達では裏神商会には勝てない、と言っているのよ」
そんなはずは無い。
ギルドのランク的には圧倒的に輝プリの方が上で、戦力的に見ても上なはず。絶対に勝つとは限らないが、勝てないと言いきられるのも如何なものか。
「何故だ? 言うからには納得のいく根拠があるのだろうな?」
「あるわ。裏神商会は裏の世界では名の知れたギルド。そんなギルドが潰されずに今尚活動を続けられているのは何故だと思う? 正義感のあるプレイヤーはあんた達だけじゃ無い。それでも彼らは闇の世界で活動を続けている」
「つまり?」
「裏神商会はその特性故、一部のトップランカー御用達になっているのよ」
─────────っ!!
「なんだと……?」
「闇取り引きでしか手に入らない代物、情報、違法なアイテム。それらを手にする為、裏神商会を利用する者たちがいるわ。皮肉な事に、そんな害悪プレイヤー達によって彼等は守られている──────」
「バブミでも勝てないのか?」
「私と同等かそれ以上の戦力、それも誰が何人付いてるかも分かっていないわ。だけど、トップランカーがバックに居るのは確か。それに…………」
「それに?」
「裏神商会のリーダー『URAGAMI』は──────、強い」
────────?
羽普美が口にした『URAGAMI』というプレイヤー。ヤエはその名を知らなかった。
トップを目指すヤエにとって、戦力ランキングをチェックするのは日課も同然だが、その名は全く聞き覚えがない。
恐らく、自分より上の戦力では無いことは確か──────
「そいつは本当に強いのか?」
「強いわ…………胸のズキズキタイムが保証する」
いつも強気な羽普美が目を伏せたのが印章的だった。
恐らく、過去に羽普美はURAGAMIと一戦交えたのだろう。
「それで話は終わりか? なら改めて宣言しよう。私達は『裏神商会をぶっ潰す!』と」
「ちょっとちょっと! 私の話ちゃんと聞いてたの!?」
「もちろんだ。裏神商会は極悪で私達は名声を欲している。これ以上の相手は他にない」
「勝てないって言ってるの!! 負けたら全てを失うのよ!?」
「そんなものはやってみなきゃ分からん───────、でも忠告だけは感謝するわ。気を引き締めるには十分過ぎたわ。本当、ありがとうね」
ヤエはニコッと笑ってみせた。
普段見せない顔で、言葉で、羽普美を労った。
そして背を向け、再び情報収集へと向かって行くのであった──────
■■■■■■■■■■■■
「なあヤエ、さっきの話、気にならないの?」
「ならないと言えば嘘になるが、URAGAMIとやらに会ってみたい気もする。いずれにせよ、実態を知った上で手を出すかどうするか決めても遅くは無いだろう?」
「それは……」
「なんだ、お前はまた諦めるのか? 害悪プレイヤーを野放しにするのか? 『ネクロクリスタル』を盗まれたまま、泣き寝入りをするのか? それは自分に力が無いからか?」
「そんな事は……だけど……いくらなんでも危険すぎる…………」
ここに来て二人の意見は別れた。
それを間近で見ていたマロとハルは気が気ではない。ヤエを宥めながらも忍をフォローした。
「ふん。少しは成長したかと思ったが、所詮その程度か。実にガッカリだ」
「そんな言い方無いだろ!? 僕はヤエやギルドの心配をして言ってるんだ!」
白熱した舌戦が繰り広げられる中、マロが離れた所に居た女の子を指さした。
「あ、帽子を目部下に被った華奢な女の子」
──────え?
それを見たヤエ、忍、双方の記憶が合致した。
似ている。
これ程までに第六感に響いてくる探し人が居るだろうか。
間違いなく、二人が探していた女の子───────
「居た! 見つけた!」
「ちょっヤエ! どうするつもりだよ!」
「捕まえて縛り上げるのだ! 逃がすか!」
「待ってよ! そんな物騒な」
ヤエは忍の制止を振り切り勢いよく女の子に迫った。
人波を掻い潜り、角を曲がって─────
「───────、見失った…………?」
「姫様、あっち」
女の子は
女の子が周囲を警戒した様子で壁に手を当てると、壁の一部が回転し入口が現れ、そのままその子は壁の中へと消えていった。
「隠し扉!?」
後を追うように、ヤエ達は隠し扉のあったであろう壁の前にやって来た。
「こんな所に隠し扉があるとはな」
「この先に裏神商会のホームがあるのかもしれないね。探しても見つからない訳だ」
だが、女の子がやったように壁に手を押し当てても、コツコツと叩いてみても隠し扉は開かれない。
「ダメですね。誰でも入れるって訳じゃないみたいですね。姫様どうしましょう?」
「ギミックかパスで制御されているんだわ。でもここがどこかに通じてるのは確か。なら、壁をぶち破ろう」
「ヤエ! さっきから暴走し過ぎだよ! どうしたんだよ!?」
鋭い視線が忍を貫いた。
「負けたくないんだ」
「………………え?」
時折見せる、なんとも言えないヤエの目。それは揺るがない信念の象徴。
目標とするスタスタのトップに立とうとするならば、他の誰にも負ける事は許されない。
しかしそれとこれとは話は別だ。
自ら進んで危険に飛び込むのは、己の命を縮める事に他ならない────
「乗り気じゃないなら来なくていい。ここからは私とマロ、ハルの三人で行く。お前一人いた所で何も変わらんしな」
「………………くっ! 勝手にしろよ!」
仲違いは亀裂を深め、チームはここでバラバラになった。
言葉通りヤエは壁を強引にぶち破り、奥へと続く暗闇の通路へとその姿を消して行った。
大切な人が闇に連れ去られ、不安に心を潰されそうだったが、安いプライドが邪魔をして、忍にはそれ以上の引き止めの言葉を出す事が出来なかった──────
輝け!姫プリズム!! 風浦らの @fuura_rano
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