第49話 踏切で告白。視点、皇二

 目を覚ますと、カーテンの隙間から光が漏れ差した。

ベランダへ向かうと、澄んだ空気と青空が広がる。

アパートの寝室で目覚めた俺は、ふいに1年前の同月同日を思い出した。

悪夢の中で妄想したことにより、現実世界につながる穴が出現してそこから脱出することに成功した。

そして騒動に合わせた罪滅ぼしとして、天界の教員によって日本に送還される。


「おはようございます、皇二さん」


 横を見ると、セーラ服を纏ったメリディアナがいた。

彼女の背にはもう、黒い翼は生えない。

あの悪夢の影響からか、堕天してしまい人間とほぼ同じ存在へと変わってしまったのだ。


「あ、柄の悪そうな人たちが歩いてますね。思い出しちゃいますね、あの人のこと」


「あぁ」


 俺らに多大なる被害を負わせたアブラヘルという天使。

悪魔と契約した天使は、心を浄化するために人間としてまた一生を背負いことになるとメリディアナはいった。

それはつまり、言い方を変えれば人格そのものを人間として生を受けると同時に漂白されるということだ。

彼女のした悪さに関しては、何かしら償いがあるべきではある。

しかし、天界というのも意外とシビアな世界なんだと知った。

恐らく彼女は、そんな冷酷な部分と善的活動をする天界の姿に不満を持っていたのだろう。

まぁ、そんな彼女の隠れた感情を露にしたのは善なのかよくわからんがメリディアナという存在だった。

メリディアナは先生には好かれていたらしく、その行いと元カレを振ったことがトリガーとなって今回の騒動が巻き起こったのではないかと、勝手ながら考える。


「どうしたんですか皇二さん、早く朝食食べましょうよ」


「兄貴、立ったまま寝てるのか? 面白いから動画撮らせてくれよ」


 遠くで皇気がスマホの録画ボタンを押した。


「おい、せめてモザイクかけてくれよ」


 ハワイの一件以来、皇気とは無反応の関係ではなくなった。

多分これが普通の兄弟のあり方なんだと思う。


 朝食を済ませ、俺とメリディアナは皇気よりも早めに玄関へ向かった。

母はアパートに住んでからは「いってらっしゃい」の、一言だけ声をかけるようになった。

父との離婚も終え片親となって大変なはずだが、以前よりも素の姿を見せるようになり、どこかスッキリした顔に見える。

と、そんなことよりも今日は大事な柔道部入部の日だ。

少し駆け足になる俺に、メリディアナは少し不満げになる。


「待ってください! 私、浮遊しないと体力ないんですから!」


 そう、メリディアナは運動をする時には数ミリ地面から浮遊するというズルを今までしていた。

堕天してその能力を失った彼女は、実は俺よりも体力がないのだ。

息切れせずに体育の持久走をしたり、柔道部の練習に参加できたのも全部浮遊のおかげ。

これはしばらく仕返しに遊ばざるを得ないだろう。

そう思い、たまにこうして彼女が少し追い付けない程度に駆け足をしている。


「はぁ、はぁ。いっつも登校するとき、急に置いてこうとしますよね。そういうところなんじゃないですか? モテなかったり、友達1人もいないの」


 踏切で隣り合わせになると、肩を上下に揺らす彼女はグサグサと心に刺さるセリフを吐いた。


「うぅ、お前だって俺以外いないだろ?」


「まぁ......はい」


 中学卒業して以降、熱士たちとは別の進路に進んだ。

スマホの中で話すことはあっても、もうしばらく顔を合わせていない。

高校に進めば人生が変化すると思っていたが、コミュ障は完治しなかった。

今まで治ったと錯覚していたのは、メリディアナや家族に対してはあまり動揺することがなくなったからだろう。

まぁ、それだけでも少し自分としては成長を感じている。

それにやはり、隣に俺を知ってくれている人がいるというのは嬉しい。


「メリディアナ、ごめん」


「何がですか?」


「いや、言い過ぎたかなって」


「全然気にしてませんし、むしろこっちの方が」


 踏切の棒が上がると同時、俺と彼女は顔を合わせる。

そういえば俺とメリディアナ、あのクローゼットでの一件を忘れたように気にしなくなっていた。

もう一度言い出すのは恥ずかしく、この一年間ほぼ家族のようになってしまっていた。

そう思った俺は、ふいにもう一度彼女に好意を伝えてみた。

少し動揺しながらも、待っていたというように受け入れてくれた。

この瞬間、彼女が傍にいてくれるだけで、どんな辛いことが待ち受けていても乗り越えられる気がした。

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異世界妄想癖のある俺が、異世界転生の為に屋上で覚悟決めたら美少女天使に襲われて始まるよくわからん物語 たかひろ @niitodayo

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