第48話 告げる思い。視点、皇二
「メリディアナ!? どうしてお前がここに!?」
皇気がどこかに消えたかと思えば、今度は彼女が目の前に現れた。
それとほぼ同時にダムの決壊のごとく、窓から大量の言霊が流れ込んだ。
その中の1つが、彼女目がけて接近する。
悲鳴を上げるメリディアナに飛びかかり、間一髪救い出すことに成功した。
すぐに彼女を覆う身体を引き剥がそうとしたが、頭上を通過する文字の攻撃のため、身動きをとれない。
「とりあえず2階まで逃げましょう!」
屈んだまま移動をし、俺たちは自室のクローゼットへと隠れた。
何故クローゼットに入ったかというと、2階の窓にもすでに文字が何度もぶつかっていたためだ。
早いことどうにかしなければならないが、何が起きているのか事情を聞かずにはいられない。
「皇気はどうなったの?」
その後、こちらと外で起きた事情をメリディアナから聞くこととなった。
どうやら皇気は無事に脱出することはできたが、石が消失したため悪夢は解除することはほぼ不可能になったという。
弟が無事なのは嬉しいけど、それよりも......。
「何でメリディアナはここに来たんだよ! もう戻れないって知ってたんだろ!」
本当にこの悪夢から逃げ出す術がないなら、俺一人犠牲になるだけで済んだというのに。
彼女の両肩を思わず掴んでしまった。
「あ、ごめん」
痛がる彼女を見て、そっと手を放し顔を背ける。
あーもう、こんな状況で何してるんだよ俺は!
外に響く言霊の衝突音は、徐々に大きくなり2階に侵入するタイムリミットがすぐそこまで迫っている事を知らせていた。
何か、何かないのか?
彼女だけでも、この場から脱出させる方法は!
「皇二さん、もうここから逃げる術はありません。私があなたと出会ったことが全ての過ちです。その責任をとるためにも、ここに来たんです」
そう話す彼女の顔は、覚悟を決めていた。
こいつ、どこまで馬鹿なんだ。
俺に迷惑をかけた責任に心中しようとしているとか、馬鹿以外の何物でもない。
それにこいつは勘違いしている。
「俺こそお前に対して過ちを起こした。柔道部の一件でお前に離れるよう、きつい言葉を放った。いや、それだけじゃない。最初は何度、お前のことを心の中で見下していたか。ごめん!」
ようやく、肩の荷が下りたような気持ちだ。
彼女にやっと、今までしてきたことを謝罪できた。
頭を下げる俺へ、メリディアナは小さく笑う。
「ふふっ。私たち、本当にコミュニケーション下手ですよね。死ぬ前にならないと、こうして本音を出せないんですから」
涙を浮かべて笑う彼女を見て、俺も同じように大粒を垂らして笑顔になった。
「そうだな。そういえば初めて見たメリディアナの姿、今思えばめちゃくちゃ面白かったな。猿ぐつわつけて、馬のイチモツ口に含ませた奴が天使とか普通思わないよ」
「えー酷いですよ! そんなこというなら、私だってベロベロに酔っぱらった皇二さん見て変人だと思いましたよ! って、そういえば」
「そうか変人か、ハハハ」
「皇二さん! 脱出する方法見つけました!」
「またまた~、そんな冗談死ぬ前にいうなって」
きっと今のは、彼女なりに目前に迫る死への恐怖を薄れさせようとしたのだろう。
「本当ですよ! 屋上で皇二さん、悪夢から自力で脱出したじゃないですか!」
「あぁ、でもあれは異世界チートっていう妄想をしたからで。今の俺は、あの時と同じくらい具体的な異世界妄想できないんだよ」
そう、指パッチンしても何の効果もない。
加えてあの頃は現実逃避のため、よりリアルな異世界妄想をしていたから。
そう思えば、妄想しなくなった今は多少なりとも自分としても満足する現実を生きていたのだろう。
「そうです! 人の妄想というのは夢に具現化して、影響を及ぼすんですよ! 別に異世界妄想じゃなくても、今ここから抜け出して一番やりたいことを強く念じるんです! そうすればきっと、具現化してこの悪夢を消せるはずです!」
「そんなこといっても、一番やりたいことなんて......」
いや......ある。
今目の前にいる、普通とは少し変わった女の子。
メリディアナはここから抜け出せても、さよならだ。
彼女のノルマは達成できていないから、天界とこちらの世界で二度と出会うことはできない。
俺は謝る以外にも、まだ言い出せていない気持ちがある。
この気持ちはきっと、友達が欲しい彼女には拒絶される。
そう思って、言うのを伏せていた。
けれどもし、この気持ちを念じて夢だけでも具現化できるなら。
俺はメリディアナと......付き合いたい。
「皇二さん?」
普通でいい、彼女と一緒に映画見る。
つまらなくても、面白くてもいい。
喫茶店で感想話し合って、またデートの約束をして。
最初はできなかったけど、帰り道には勇気を出して手を握りたい。
そんなデートを何回かして、キスとかもいつか。
って、こんな妄想悪夢を消し去ることと関係ないよな。
「悪いメリディアナ、あんまり意味っ!?」
目を開くと同時、メリディアナは唇を重ねてきた。
唖然と固まる俺は、ただ彼女が唇を離すまで何が起きているのか懸命に見届けるしかなかった。
彼女は頬を染め、俺に触れた唇に自身の人差し指を添える。
「皇二さん、妄想するのはいいんですけどね。その、口に出てましたよ全部」
「え、マジ?」
そう呟くと、彼女は無言で小さく頷いた。
その瞬間、穴があったら入りたいと恥ずかしさのあまり脳みそがパンクした。
心の中でそう思うと同時、周囲は白い閃光へと変化。
これは......死んだのか?
「やった! 助かりましたよ皇二さん!」
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