吸血鬼、この刻で『愛』を知る
御厨カイト
吸血鬼、この刻で『愛』を知る
「……お主は私と刻を過ごしたことを後悔しておるか?」
「フフフ、何を今更。何十年も一緒に過ごしてきた僕に対して、その質問は愚問だよ。」
「そうか……」
「まぁ、君からしたら長い刻のほんの寸刻だったと思うけど。」
「いや、そんなことは無い。私も……、お主と出会えて、短くもとても濃い刻を過ごすことが出来た……」
「……君がそんな事を言うなんて珍しいな。どうしたって言うんだい。君からしたら、もう何十回目の『別れ』だろうに。」
「……今までのとは違う!まさか……、まさか!もうお主と別れる時が来るなんて、思ってもいなかった……」
ベッドの傍らでジッと僕の事を見守っている彼女がそう言う。
「だから最初に言っただろう。『僕ら人間は君のような高位悪魔である吸血鬼と比べて、短い刻しか生きることが出来ない。僕と付き合っても暇つぶしにしかならないぞ』って。」
「それは勿論分かっておる。私も最初は暇つぶしのはずだった。いや、暇つぶしにもなればマシだとも思っておった。だけど、お主と過ごす日々は……」
「……楽しかったかい?」
「あぁ……、ものすごく。今まで味わったことのないものばかりだった。「おはよう」や「おやすみ」を毎日言える幸せ。「ありがとう」と言われる喜び。「ごめんなさい」と言う心苦しい気持ち。全て今まで何百年と1人で生きてきたが味わったことのない事ばかりだった。」
そう言いながら、彼女はゆっくりと瞬きをする。
「だからこそ、だからこそだ。色々なことを知った後だからこそ、お主と別れるのが悲しい……」
「……ふむ、高位魔族である君にそう言っていただけて嬉しいね。」
「グッ……、私のことを高位魔族と言うな!」
語気を荒げる。
「何が高位魔族だ!お主のような大切な人1人救えない、愛する人と同じ刻を歩めないような私のどこが『高位魔族』だ!もっと、もっとお主と一緒に居たいのに、まだまだ先を一緒に見たいのに、こんなのって……」
彼女の目元がうるっと光る。
「……まさか1人の人間がここまで君のことを溶かすなんてね。びっくりだよ。」
「……その溶かした張本人が何を言うか。」
「ハハハッ、確かにそうだな。」
「そうだ、お主には私をこんなにした責任がある。だから……、だから、そのけじめをつけるまではずっと私といてもらいたい。」
「そのけじめがつくのはいつだい?」
「私が死ぬ時だ。」
「それはちょっと厳しいな。」
「ぐぬぬ、もう少し生きる気概ぐらい見せてくれよ。」
「生きる気概なんて、国を滅ぼすほどの力を持つ君と何十年も一緒に過ごした時に死ぬほど見せただろう?」
「それは……、確かにそうだな。」
僕らはお互いに少し笑う。
「……本当に逝ってしまうのか。」
「あぁ、もうそろそろだな。」
「そうか……」
「……悲しいかい?」
「……当たり前だ。愛するお主が逝ってしまうのだ。悲しくないわけがない……」
「何だか、君に悲しんでもらえて嬉しいよ。」
「……まったくお主と言う奴は悪趣味なやつだ。そんな悪趣味なやつを好きになるのは先にも後にも私だけだろうよ。」
「僕はそうだとしても……、君はこれからも生き続ける。少し……」
「……心配か?」
「あぁ」
「フッ、安心しろ。これからも私が好きなのはお主だけだ。ずっと心の中でお主のことを想い続けよう。だからお主も天界で現を抜かしていたら許さんぞ。」
「分かってるって。……そう言ってもらえて嬉しいよ。でも、君も魔族だ。これから先にどう想いが変わるかも分からない。」
「なっ!私は……」
「分かっている。君がそんなことをしないであろうことは。だけど、絶対とは言えないだろう?……だから、君が死ぬ時まで僕の事を想い続けてくれたら、また天界でも僕の事を愛しておくれ。」
「……勿論、勿論だとも!何を当たり前のことを。我が名のもとに約束しよう!」
そう言い、彼女は軽くなった私のことを抱く。
「もう、そろそろか……」
「そう……だな……」
「……お主と過ごした日々はとても楽しかった。本当にありがとう。」
「こちらこそ、君との人生は楽しかった。……僕の事を最後まで愛してくれてありがとう。」
「……そう言ってもらえて、私はとても嬉しいよ。だけど、やっぱり離れたくないな……」
そう言いながら、彼女は僕の服の裾を優しく引っ張る。
「……これは私とお主を引き離す運命に対してのささやかな抵抗だ。」
彼女は微笑む。
「まったく……、君という人は……、最後まで可愛い人だ……」
僕もそんな彼女の様子に微笑みながら、
ゆっくりと目を瞑る。
吸血鬼、この刻で『愛』を知る 御厨カイト @mikuriya777
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