第4話
「それで、アプリコット・クラウンはすっかりディオンのことがトラウマになってしまって、生徒会には絶対に近寄らないしディオンの話題が出ただけでも吐きそうになるぐらい重度の「ディオンアレルギー」を患ってしまい、我に返って冷静になったディオンが謝ろうとしても姿が視界に入っただけで逃げられて、結局この三年間まったく謝罪が出来ていないという訳だ」
「ざまぁwww」
エドワードの説明に、ジャンが草を生やす。
「この公爵令息の失態があまりに面白すぎて、学園中の貴族にあっという間に広まり、その家族にまで顛末が広まって、貴族では「エイブリー・コットの悲劇」を知らない者はいない。「ディオンが卒業までに謝罪できるか」が賭の対象になっているぐらいだ」
「高位貴族の失態とか平民の俺にはメシウマwwwっす」
ジャンは表情に乏しく無表情気味であるのに、思ったことは素直に口にする物怖じしない男である。
ディオンは怒りでぶるぶる震えた。
あの時は、長年待ち続けた「エイブリー・コット」が実在しないという事実に打ちのめされて、つい暴言を吐いてしまったのだ。よく考えてみたら、アプリコットは別に悪くない。ディオンが勝手に男の子だと勘違いしていただけだ。
だから、謝りたいとは思っている。
思っているのだが、アプリコットはディオンが近寄ると逃げるし、友人の背に隠れるし、教室を訪ねれば居留守を使われる。机の下でぷるぷる震えながら「あぷりこっとはいましぇん……」と言われると、それ以上教室に踏み込めなくなる。
クラスメイト達の鬼か蛇を見るような冷たい目も耐え難いし、なんなら時々実力行使で追い払われる。よってたかってドングリを投げつけられた日は、夜に一人でちょっと泣いた。
「なるほど。そのアプリコットちゃんがお茶会に参加するんで硬直してたんすねwww」
参加者名簿を見てジャンが言う。
「でも、チャンスじゃないっすか。お茶会できちんと謝って許してもらえばいいんすよ。公爵令息の全力土下座が見たいっすね、俺は」
「そうだ。ジャンの言う通りだぞ。この機会にしっかりと謝るんだ」
「そういうことでしたら協力しますわ」
「では、土下座の練習から始めよう。さあ、平伏せ」
好き勝手に茶化されて、ディオンは怒りで拳を握り締めた。
「テメェらに言われるまでもねぇ!完璧に謝ってやらあ!」
ディオン・フォーゼル。十八歳。
負けられない戦いが始まろうとしていた。
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