12.金髪ギャルと遊ぶのは楽しい
ウインドーショッピングという名の冷やかし巡りも疲れたので、俺達はカフェで一休みすることにした。
「これ本当にありがとねっ。一生大事にする!」
「一生は無理じゃないか」
服がどれだけ持つかは知らないが、さすがに一生着られるほどの耐久力はないだろう。そもそもギャルは流行りに敏感だろうし、来年まで残っているとは思えない。
そうは思いつつも、大事そうに紙袋を抱えているのを見ていると、なんというか悪い気はしない。
適当に軽食を注文。雛森は巨大パフェを注文していた。晩飯食べられるのかな?
「そういえばさ、古川って何か部活やってるんだっけ?」
「あー、りっちゃんはバスケ部だね」
頭の中のメモに記入しておく。とりあえず体育館でやる部活はなしだな。
新入生に対して、部活動紹介というものをやっていたらしいのだが、その時の俺は病院のベッドの上だった。退院してからもクラスメイトとはあまり交流がなかったため、部活という存在をすっかり忘れていた。
別に何が何でもやりたい部活があるわけじゃない。だが部活に友情と青春はかかせない。
つまり、部活をすれば友達作りができるということだ!
「雛森は何か部活やってるのか?」
まずはどんな部活があるのか、部の雰囲気はどうか、どんな人がいるのか。仕入れたい情報はたくさんある。
情報源が雛森しかいないってのは寂しいところだが……。贅沢は言うまい。
「あたしは部活してないなぁ。三年間打ち込めるものって簡単に見つかんなくない?」
「一理ある」
そうか、部活をやれば休日だって潰れてしまうかもしれない。たまにならいいけど、三年間休みなし、なんて言われたらやっていく自信なくなるな。
とはいえ、これでは何の情報も入ってこない。もうちょっと何かないか?
「うーん、なんか軽く続けられそうな部活って知らないか?」
「てかさ、能見くんは部活やるの?」
「やるかやらないか、それを考えたいわけよ」
「遅くない? GWに入っちゃったし、仮入部の期間も終わってるよ」
気づくのが遅すぎたってのはわかってんだよ。だから一つでも情報を聞きたいんじゃないか。
唇を尖らせて態度で不機嫌さを表す。それを見た雛森はなぜかスマホを取り出した。
「ね、ねえっ、今の能見くんの顔撮っていい?」
興奮しちゃってなんなんだっ。俺そんなに変顔してたか?
「なんかやだよ。俺の変顔撮って笑いものにする気か」
「違う違う。誰にも見せないって。あたしだけの宝物にするからっ」
「余計嫌だよ!」
目的が意味不明すぎる。宝物って何の比喩? 無駄に高度な国語力を見せつけてくるなよっ。勉強見てたから大体の学力わかってんだからな。
スマホを構える雛森とカメラから逃げる俺の図がしばらく続いた。注文がきたので一時停戦した。
「おいしー!」
想像以上に巨大だったパフェは、すべて雛森の胃の中に収まった。これが女の子の別腹ってやつですかね。
カフェから出てからはゲームセンターへと向かった。
「おー、久しぶりー!」
テンション上がる俺。だって最後にゲーセンに行ったのは受験勉強する前のこと。血が沸き立つこの感じ……懐かしいぜ。
「前はけっこう来てたの?」
「いいや。金かかるしたまにだよ」
ゲームとか、はまると無限にやっちゃうからな。ゲーセンは手持ち以上にプレイすることはない。ゲームばっかで金欠になりたくないし。
「あらら、負けちゃったね」
「くっ……」
まずは俺のお手並みを見せつけてやろうと手近な格ゲーをプレイ。しかし道半ばでやられてしまった。
そういえば俺ってそんなにゲーム上手じゃなかったわ。だからこそ金かかっちゃうんだよな。思い出した思い出した、……はぁ。
「次、あたしやっていい?」
「どうぞー」
雛森も同じ格ゲーに挑戦した。席を譲って後ろから観戦する。
女子って格ゲーというか、アクション要素のあるゲームってやらないイメージだったな。俺がやってるのを見てたら自分もやりたくなったってとこだろうか。
とか思って甘く見ていた。
「おっしゃー! クリアしたよっ」
「……」
ガッツポーズする雛森を呆然と眺めることしかできなかった。
いくら難易度がイージーモードとはいえ全部倒しちゃったよ。俺の立つ瀬がねえ……。
「おめでとう雛森」
悔しさを押し殺して褒めた。男の意地である。器が小さいとわかっていても悔しいもんは悔しいのだ。
「ありがとう能見くん!」
とはいえ、こんな太陽のような笑顔を見れば、悔しがる気持ちも萎えてしまったけどな。
しばらくゲーセンの中を見て回った。気になったら百円投入! それ以上かかるものはスルーした。無限の金を生成する能力がほしくなる。
「俺トイレ行ってくるよ」
「あっ、じゃああたしも」
そんなわけでトイレタイム。本日初めて雛森と別れた。
いやー、なかなかに楽しい。女子とはいっても雛森相手なら緊張しなくて済むし、いっしょにいて気が楽だ。
こういう関係を友達っていうんだろうな。当たり前にあったはずの居心地の良さも久しぶりに味わえた。
用を足して手を洗いながら今日のことを思い出していると頬が緩む。鏡を見ればにまにま顔の自分。これは雛森には見せられない顔だ。
想像力を駆使して真面目な顔へと戻す。時間がかかってしまったことに気づいて慌ててトイレから出た。
「ねえねえ、君一人なの?」
「可愛いね。俺達と遊ばない?」
緊急事態発生。ちょっと目を離した隙に、雛森がナンパされていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます