11.男と女が遊びに出かける、という普通の休日
GWがやってきた。
この大型連休に俺は予定を入れていた。友達と遊びに行く。そんなありふれた予定に心躍らせていた。気分は遠足当日の子供とそう変わらないだろう。
「ごめんっ、待った?」
「いいや、今来たところだ」
あれ、何このやり取り。まるでデートの待ち合わせみたいなやり取りじゃないか。
場所は駅前広場。天気は晴れ。相手は雛森。これから遊びに行くのだ。うん、普通だな。
「……」
「そんなに見つめて……何?」
「はっ!? い、いや……私服初めて見たなーって」
気づかず見つめてしまっていたようだ。変態扱いされる前に顔を逸らした。
「能見くん」
「な、なんだよ?」
見つめすぎだと怒られるだろうか。平然を装って彼女を見た。
「あ、あたしの私服姿……どうかな?」
まるで恥じらっているかのような声色で尋ねられた。金髪ギャルがそんなことくらいで恥じらったりはしないだろうし、たぶん俺の勘違い。
俺に女性の服装がどうとかってわかるわけがない。雛森の服も、春っぽい色だなぁとか、スカート短いなぁとか、感想としてはそんなもんである。
「か、可愛いと思う……ぞ」
だから具体的なことは何一つ口にせず、素直な印象を言った。
「う、ん……。ありがと……」
身震いする雛森。お礼を口にしてくれたけど、あまりの内容のなさに内心では怒っているのかも。顔真っ赤になってるし。
こういうイベントって恋人同士でやるもんだと思っていたよ。もっと気の利いたこと返せるようになりたいものだ。そして将来活かしたい。
「……」
「……」
なぜか二人揃って黙り込む。遊びに行くのが久しぶりすぎて何から始めればいいかわからなくなった。非リアが充実しすぎるとこんな不具合が起こる。
「ぷっ」
「どした?」
急に噴き出す雛森。脳内非リア発言を悟られたのかと焦る。
「だって、なんか能見くんのお見舞いに行った時のこと思い出しちゃって」
「ああ」
そういえば、初対面の頃はお互い黙り込んじゃってたな。一応緊張してたんだなってしみじみ思う。
雛森と見つめ合う。俺もつられて噴き出した。
「じゃあ、行こっか」
「おう」
自然と隣に並んで歩き始めた。
俺と雛森は人混みへと消えていった。意味深なことは何もなく、ただ遊びに出かけた。
※ ※ ※
「何これっ。超似合ってんじゃん」
「ほんとかよ」
嘘くせー。ニュアンスが「ウケるー」みたいに聞こえるのは俺がひねくれているのだろうか?
現在ウィンドウショッピングの真っ最中。雑貨屋のおしゃれ眼鏡に反応した雛森によって、俺はいくつもの眼鏡をかけさせられていた。
「なんか頭良く見えるねぇ」
「その発言はバカっぽくないか?」
「なんで!?」
だって眼鏡かけたら頭良く見えるって……。眼鏡にどんだけの信頼感があるんだよ。眼鏡かけてもかけなくてもその人の頭の出来は変わらないだろうに。
「雛森も眼鏡かけてみろよ。もしかしたら勉強できるようになるかもだぞ」
「そ、そうかな?」
んなわけないだろ。だからどんだけ眼鏡を信頼しているんだか。
たくさんの眼鏡を前にして、彼女は「んー」と考える仕草を見せる。
「よし、これだ」
すっと一つの眼鏡を手に取り装着した。雛森が選んだのはフレームが赤色の眼鏡だった。
「ど、どう?」
眼鏡をかけた雛森が俺へと顔を向ける。
金髪ギャルの眼鏡姿。意外と言ってはなんだが、けっこう似合っていた。
彼女は眼鏡のブリッジ部分をくいっと持ち上げながらアピールしてくる。知的な印象を伝えようとしているように見えた。その仕草がちょっとバカっぽくて笑いそうになる。
「なんか頭良さそうに見えるぞ」
「そ、そう? えへへ、嬉しいな」
本当に嬉しそうにはにかむ雛森。こいつって純粋だよな。なんだか俺の方がとてつもなくバカみたいに思えてきた。
「そろそろ次行こうか」
「うんっ」
あまりこの空気の中にいると危険だ。何が危険なのかはわからないが、俺の頭の中でアラームが鳴った気がしたのだ。
ウィンドウショッピングは金銭面を考えないところがいい。ただ「あれ良いなぁ」とか「これ欲しいなぁ」とか、そんな軽い気持ちだけでも楽しんでいられる。
まあ一人だったらわざわざ商品を見るためだけに出かけたりはしないが。
だから、ウィンドウショッピングが楽しいものだと、俺は初めて知った。今日雛森と出かけなければ知らずにい続けたことだろう。
金髪ギャルだからか、それとも女子はみんなそうなのか。やたら服やアクセサリーを見ては足を止めていた。それだけならまだしも、服屋ではプチファッションショーをしてしまった。買う気ないのにいいのかなと思わなくもない。
「能見くんもこれ着てみせてよ」
バトンタッチ。俺も強制的にファッションショーに参加させられた。途中から店員さんも加わり、これがいいあれがいいと言って女性二人で盛り上がっていた。
さすがに店員さんをここまで付き合わせておいて、何も買わない、というのは心がとがめた。
「雛森、これ」
「え?」
服屋から出た後に、紙袋を雛森に押しつけた。
「これって……」
中身を確認する雛森。少しの戸惑いの後、うかがうように口を開いた。
「もらっていいの?」
「女物だからな。返されても困る」
「でも、高かったでしょ?」
雛森はちょっと申し訳なさそうだ。付き合ってくれた店員さんのため、というのも少なからずあるが、いきなりこんなことをするのは迷惑だったかもしれないね。
「さっき雛森が着ていた中で一番似合ってたって思ったからな。あれだ、着せ替え人形に洋服買ってあげるみたいな、そんだけの気持ちで買っただけだから」
まずったな。あの中じゃ安かったし、店員さんの顔も立てられるしいいかと考えてたけど、逆に気を遣わせてしまったかもしれない。
「ぷっ、着せ替え人形って。男の子なのに着せ替え人形持ってたの?」
「俺も昔は可愛かったんだぞ。ばあちゃんが女の子だって勘違いするくらいはな。さすがにお人形をもらった時はびびったよ」
「へぇ、可愛かったんだぁ」
おっと、いらんこと言ったかも。
気づけば雛森は満面の笑顔になっていた。俺が渡した紙袋をぎゅぅと抱きしめる。
「ありがとう! 大事にするね」
喜びの感情が弾けたのだと伝わってくる。金髪ギャルでも、これは可愛かった。
まあ、あくまで店員さんに申し訳なくて買ったものだからな。雛森のファッションショーの中でできるだけ安そうな物を選んだ。選ばせて高い物をねだられても困るからな。この感じだと、それはいらない心配だったようだけどな。
何はともあれ、喜んでもらえたのなら良かった。雛森の笑顔を見ていると、本当に安い買い物だったと思った。
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