第3話 父の葬儀にて

 中学に入学してようやく慣れて来た頃、父が帰宅途中に交通事故で亡くなった。

 元々、母がいなかった上、唯一の肉親である父まで亡くした私は、絶望に打ちひしがれ、同じ思いを共有している祖父母宅に引き取られる事になった。

 祖父母は隣町に住んでいて、年に数回ほどしか会ってなかったが、会う度に優しく接してくれていた。

 祖父母に面倒を見てもらえるのは有難かったものの、馴染みのあるこの町を離れるのは辛かった。

 

 葬儀の参列者は、ほとんどが父の会社の人々だったが、どこで知ったのか、その中に根元さんの姿が有った。


「この度はご愁傷様でした。お父さんがこんな事になって、亜子ちゃんは、これから、どうやって生活するの?」


「隣町のおじいちゃんおばあちゃんの所でお世話になるんです」


「そう、隣町に......」


 根元さんが話し続けようとした時、祖父母が現れた。


「あなた、どうして、こんな所にいるの?亜子と会うのは禁じていたはずでしょう!」


 我が子を失い、失意のどん底にある祖母が、根元さんの姿を見るなり、金切り声をあげた。


「おばあちゃん、根元さんを知っているの?」


「知っているも何も......」


 と言いかけたが、祖父に止められ、それ以上を話すのを思い止まった祖母。

 根元さんの困惑ぶりと、祖父母の様子を見て察した。


「根元さんが、前に話していた、死にかけた赤ちゃんって、もしかして私......?」

 

 お母さんは、死んでいなかった!


 お父さんは、それを隠し通そうとして、児童館に行って、根元さんと会うのを止めさせた!


「ごめんなさい、亜子ちゃん......」


「私、根元さんがお母さんだったら、どんなにか幸せなのにって、いつも思っていた」


 祖父母は必死になって、私を根元さんから引き離そうとしたけど、私の気持ちは、もう祖父母の方に向いてなかった。


 葬儀が終わり落ち着いた頃、私は隣町に引っ越す事無く、慣れ親しんだこの町で、約15年ぶりに母と同じ屋根で暮らし始めた。

 余分な物の無い殺風景な室内だけど、窓辺には、母の日に初めて私がプレゼントしたカーネーションが飾られていた。


    【 完 】


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家族をまた1人失った時に...... ゆりえる @yurieru

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