第3話 立ち消え……

「……お父さんには黙っていたけど、真央が野良猫に引っかかれたのよ!」

「理由は、言うまでも無いよね」


「他のネコ画像を求めて、野良猫までに手を出したのか、真央は……」


「えぇ…。幸い引っかかれただけだし、側に菜子ちゃんも居た事から、直ぐに菜子ちゃんが初動対応をしてくれたわ」

「私は菜子ちゃんのお母さんから電話連絡を貰って、直ぐに菜子ちゃんの家に向かって、真央を引き取った後は町医者に連れて行ったわ」


「数日間様子を見たけど、真央に特に異変は起きなくて、引っかかれただけの不幸中の幸いで済んだわ」


「……そうか」

「真央が無事なら良いが、もう少し早く、俺にも連絡が欲しかったな…」


「うゆ。ごめんね///」

「お父さんを心配させたくなかったし、大きな傷でも無かったから、報告はしないつもりで居たの」


「まぁ、引っかき傷だから、大事にしたくない母さんの気持ちも分かるけど……」


 これが単身赴任中で無ければ、リアルタイムに物事が把握出来るが、今はそうは行かない。

 SNSアプリ内に家族グループも有るが、恐らく母さんが箝口令かんこうれいをしいたのだろう。

 真央が怪我をした事は、家族グループ内には一言も書かれてなかった。


「真央が無事なら問題は無いが、それがどうペットと関係してくるのだ?」

「母さん…?」


「野良猫に引っかかれたからの真央は、今まであんなに『ネコ、ネコ』と言っていたのに、急に言わなく成っちゃったの……」

「余程、野良猫に引っかかれたのがショックだったみたい……」


「野良猫を菜子ちゃんの『ちびちゃん』だっけ?」

「飼い猫を野良猫と同じ様に扱えない事を、真央は理解し切れていなかったのだな」


「えぇ、そうね…。私もネコを飼った事が無いし、菜子ちゃんがネコの事を理解しているから安心しきっていたわ」


「そうなると母さん…。真央はネコの候補を下げるのか?」


 真央がネコに怪我をさせられて、ネコに興味を失ってしまえば、そう成る流れに成ると俺は思った。


(候補は、小鳥かうさぎに成るのか?)


 俺は心の中でそう感じたが、母さん次の言葉で俺は納得してしまう。


「ううん……」

「これはね、宮子とも話し合ったのだけど…、我が家でペットを飼う事はやっぱり止めようと思うの」

「止めるだと言葉が悪いから、一旦中断!」


「今の真央は、ネコを恐れているのは勿論有ると思うけど、此処でうさぎや小鳥を飼っても真央は近寄らない気がするの」

「うさぎも小鳥も、絶対に攻撃しないとは限らないからね!」


「うーん」

「そう言う方向に持って来たか。母さん!」


「宮子はその意見に賛成してくれたけど、お父さんは反対…?」


「俺は……真央が言うまでペットに関しては興味が無かったし、俺はペットを飼うより娘達を大事にしたいからな」


「あら、嬉しい事言ってくれるわね♪」

「私としても、ペットより娘だわ!!」


 此処でやっと母さんは、元気な口調で喋る。


「じゃあ、今日の連絡は、ペットを飼わない連絡で良いのだよね?」


「そんな感じかな。事後報告に成ったけど、真央が怪我をした事も!」


「真央が無事なら、それで良いけど……咲子は納得するのか。母さん?」

「咲子もかなり、うさぎを飼いたがっていただろ?」


「その辺は、お母さんと宮子で説得させるわ!」

「真央が又、ネコに興味を持ち始めたら、改めて話し合いをしましょうと、咲子に言うわ♪」

「そう言えば、咲子も納得するしか無いでしょう。お父さん」


「まぁ、そうだな」

「ネコとは少し距離を置いた真央だが、菜子ちゃんとの距離は変わらないからな」

「しばらくすれば、再び菜子ちゃんの家に行くと思うし、そうなると自然と“ちびちゃん”も来るからな」


「うん。まぁ、そんな感じ!」

「だから、ペットを飼う話は一時中断で♪」


 今までの通話の中で、一番嬉しそうに言う母さん!

 やっぱり、母さんの内心では、ペットを飼う事は大反対で有った様だ。


 ……


 その後、しばらく雑談をした後、母さんとの通話を終える。

 通話終了後、スマートフォンのディスプレイを見ると、30分近く母さんと話し込んでいた。

 氷がすっかり溶けてしまった、焼酎の水割りを飲む。


「うん…。薄いな!」

「でも、これで、良かったのかな…?」


 我が家の経済状況では、ペットを飼うのはほぼギリギリだ。

 再来年には咲子も大学に進学する筈だし、真央も来年は中学生だ。

 全員が女の子だから、男の子と比べて、何かと入り用成る。

 本当に小鳥ならまだしも、ネコやうさぎだと、“あれやこれや”でお金が掛かるはずだ。


「我が家はペットが居なくても、賑やかだからな!」

「咲子は本当にネコみたいにだし、母さんも陽気な性格だからこそ、俺はペットに興味は持たなかった」


「ペットの行方は今後どうなるかは分からないが、今回はこれで棚上げだな」

「恐らく母さんの事だから、このまま永久に棚上げにしたままにしそうだが……」


 俺はすっかり冷めてしまった晩ご飯や、ぬるく成った焼酎の水割りで晩酌を再開させた。

 真央が無事だったのは良かったが、真央にとっては気の毒な事に成ってしまった。


 でも、時が経てば再び真央は、ネコに興味を持ち始めるだろう。

 俺はそう思いながら、晩酌を続けた……

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色鳥(いろどり) 小春かぜね @koharu_kazene

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