第35話:手伝ってあげる
彼女がどんな姿で学校に来てるのか、ドキドキしながら登校した。
眼鏡をかけずに髪型もぴっちりしたポニテはやめてふんわり可愛くする。制服もお洒落に着こなす。
そんな姿をみんなに晒そうものなら、クラスの男子達が超絶可愛い堅田を囲み、大騒ぎになっているに違いない。
教室の前まで来たが、特に教室の中は騒いでいる様子はない。
まだ堅田は登校してきてないのだろうか。
そう思いながら扉を開けて室内に入った。
──あれっ?
堅田は既に登校してた。
そう、いつもと変わりない地味な姿で自分の席に座ってる。
ただ髪飾りだけは、俺と一緒に買ったハート型のを付けていた。
ちょっと拍子抜けした。
そして同時にホッとした。
いやいや、なんでホッとするんだよ。
また自己嫌悪。
堅田が人気者になって、好きな相手と恋人になることを俺は応援する。
そう心に決めたはずなのに。
*
その日の放課後、文芸部室で堅田に尋ねたら、やっぱり勇気が出なかったと言った。
「また気が向いたらお洒落しようよ」
さすがに無理強いすることはできない。
俺はそう言って笑顔を彼女に向けた。
**
それから何日か経った日のことだった。
昨日は夜中まで動画配信を観てしまって、今日は珍しく寝不足だった。そのせいで数学の授業中に居眠りをしてしまった。
めちゃくちゃ厳しい先生で、叩き起こされてこっぴどく怒られた。
この先生の授業は誰も居眠りなんかしないのに、やらかしてしまった。
罰として放課後、数学教科準備室から倉庫まで資料を運ぶのを手伝わされることになった。
幸い今日は部活が無い日だし、まあいっか。
言われたとおりに、放課後に帰宅する前に教科準備室に向かった。
「悪い
「じゃあ手伝いは無しということで」
俺が立ち去ろうと振り向くと、教師が「ちょい待て」と襟首を掴まれた。
「そういうわけにはいかん。これは居眠りした罰だ。この段ボール箱二つだけ、西棟校舎1階の倉庫に持って行ってくれ」
教師いわく、あえて罰を与えることで失敗した反省を忘れさせないのだという。
なるほど。ちゃんとした理屈もなく罰を生徒に与えると、教育委員会や親がうるさいのだと聞いたことがある。
まあ先生の言うことは一理ある。
それに倉庫まで二往復するだけで済むなら、大した労力にもならない。
俺は素直に言うことを聞くことにした。
「倉庫の鍵は開いてる。会議が終わってから俺が鍵を閉めるから、荷物を置いたらそのまま帰ってくれていい」
教師はそう言って、準備室を飛び出していった。
二往復か。さて、どうしたもんかな?
段ボールは二箱同時だとちょっと持ちにくくはあるが、持てなくもない大きさだ。
試しに持ち上げてみると、重さもそれほどでもない。
よし、一往復で済ませてさっさと帰ろう。
そう思って、縦に重ねた二箱を抱えたまま準備室を出た。すると目の前の廊下で、壁に背中を預けて立ってる女子がいた。
明るい茶色のゆるふわヘア。
スタイル抜群でチェック柄のスカートから伸びる脚が美しい抜群の美少女。
品川さんだった。
やっぱり相当可愛い。
堅田とはタイプの違う美少女だ。
「御堂君。運ぶ荷物はまだまだあるの?」
「いや、この二個だけ。西棟の倉庫に運び終わったら帰っていいって」
「先生は?」
「会議があって二時間くらい帰ってこれないから、俺一人で運ぶことになった」
「そっか。じゃあ一個持ってあげる」
品川さんが上の段ボール箱をひょいと持ち上げたもんだから、急に手元が軽くなる。
「え? なんで?」
「手伝ってあげる」
「なんで?」
「いいからいいから。さ、行くよっ!」
戸惑う俺を置いて、品川さんが歩き始めた。
俺は早足で追いかけて、品川さんの横に並んだ。
そのまま二人並んで西棟へと向かう。
「悪いからいいよ」
「気にしないでいいって。ついでだし」
「なんのついで?」
「御堂君とお喋りするついで」
「は?」
意味がわからない。
荷物を運ぶついでにお喋りをするならわかるけど。
俺と喋るのが元々の目的ってこと?
「それにしても偶然だね。品川さんがあんなところにいるなんて」
「偶然のはずないよね。御堂君を手伝おうと思って来たんだし」
「やっぱり。そんな気がしてた」
「でしょ? ははは」
品川さんはケラケラ笑ってる。
なんか楽しそうだ。
「で、なぜそんなことをするの?」
「前回せっかく遊びに誘ったのに、断られて寂しかったから」
「あ、ごめん」
「だからね。ちょっと御堂君とお話しできたらなぁって思って、手伝いに来た」
「俺とお話したいって、冗談でしょ?」
「本気だよ。だって言ったでしょ。私、御堂君に興味あるって」
マジか?
単なる冗談だろうって前回は思ったけど、ホントに品川さんは俺に興味を持ってるんだ。
あの、憧れの品川さんが、だぞ。
素直に嬉しい。
「でさ。どうだった?」
「なにが?」
「私の誘いを断って行った
その言われ方に、心がズキリと痛んだ。
「だからデートじゃないって。文芸部の買い物だ」
「ふぅん……」
品川さんは横目で、疑わしそうにジトっと見てる。
文芸部の買い物ってのは嘘なのだから、ちょっと心苦しい。
「冗談だよっ。そんな暗い顔しないの! 私は気にしてないから」
品川さんは明るく笑った。
いつもの品川さんだ。
明るく天真爛漫で、何度見ても可愛いな。
それから楽しく雑談をするうちに西棟の倉庫に着いた。
中に入ると、普通の教室の半分くらいのスペースに、雑多に荷物が置いてあった。
窓にはカーテンがかかってるから薄暗い。
入り口横のスイッチで蛍光灯を点けた。
俺は少し奥の壁際に段ボール箱を置き、品川さんもその上に重ねて箱を置いた。
「ありがとう品川さん。じゃあ帰ろっか」
「ちょっと待って御堂君」
「え?」
品川さんはなぜか倉庫の扉を閉めた。
そして俺の方にゆっくりと歩いて近づいて来る。
「せっかくの機会だからさ。もうちょっとお話しようよ。二人っきりで」
品川さんはそう言った。
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