第33話:作戦失敗しちゃいました

「で、ホントはキミら、どういう関係?」


 ヤバい。遊助に誤解される。


「遊助、ちょっと待っててくれ。堅田こっちこい」


 少し離れたところで堅田を睨む。


「どういうつもりだよ? 遊助に誤解されるぞ」

「それは……(既成事実を作って外堀から埋める作戦失敗しちゃいました)」

「え? なんだって?」


 ごにょごにょして、なに言ってるかわからん。


「あ、いえ、ごめんなさい。『恋人ごっこ』モードでいました。御堂君が信頼する谷町君になら、言っちゃってもいいかなと」

「そういうことか。そうだなぁ……」


 確かに遊助なら信頼できる。執筆のためなんだとちゃんと説明したら変な捉え方をしないし、誰かに言いふらしたりもしない。

 それにこんな感じでごちゃごちゃ堅田と打ち合わせてから『単なる買い物です』と言ったら、遊助はより不審に思うだろう。


「わかったよ。そうしよう」


 遊助の元に戻ってきちんと説明したら、案の定ちゃんと理解してくれた。


 俺には「やっぱ翔也って人のために一生懸命になる、いいヤツだな」。

 堅田には「翔也に頼んで大正解だよ。こいつなら堅田さんのために一生懸命になってくれるだと?」

 爽やかなイケメンスマイルで、そんなふうに言ってくれた。


「家族と一緒に来てるから、俺もう行くわ。ごゆっくり」


 遊助は俺と堅田に手を振って、笑顔で立ち去った。


「えっと……これからどうする?」

「そうですねぇ……せっかくのデート……体験ですから、もうちょっと遊んでいきませんか?」


 堅田は恥じらうように頬を赤らめている。

 うん、俺ももう少し一緒にいたい。

 堅田と一緒にいるのがすごく楽しいし、このまま帰るのはあまりにもったいない気がした。


 そこで俺たちは、モール内のゲーセンに行くことにした。

 フードコートのフロアからゲーセンのあるフロアに歩いて移動する。

 堅田はメガネを外すと視界がぼやけるから抵抗があるようだった。しかし俺が『メガネナシのが可愛い』と言い続けていると、しばらくこのままいてくれることになった。


 ──うん、眼福眼福。


 でもゲーセンまでの道中、すれ違う人達から視線を向けられるのには困った。

 チラチラ見る人もいれば、びっくりしたような顔でガッツリ見つめる人もいる。

 中には「モデル……?」なんてつぶやく人もいて、やっぱり堅田の可愛さは相当なものだとわかる。


 そして堅田の顔から俺の顔に視線を移して……残念そうな顔するのはやめてくれ!


 と、悲しい気持ちになるのだけれども。

 堅田は視界がぼやけていて、他人のそんな視線に気づいてないのが幸いだ。


 ゲーセンに着いてクレームゲームをしてる時もそれは同じだった。

 遠巻きで何人もの男子がこちらを窺ってる。

 その一人は若い男性店員で、何度もガン見してる。

 仕事しろよ。


 でも俺も堅田もゲームは苦手で失敗ばかりだ。


「むぅぅぅ。難しいですね」

「だな。俺も苦手だ」

「私も今まで景品ゲットしたことありません」


 俺が一緒だからか店員も何も言ってこない。

 もしも堅田が一人で遊んでたら間違いなく『取りやすいようにしてあげよっか?』なんて声をかけてきたに違いない。


 俺がそんなことを言うと、堅田はきょとんと首をかしげた。


「え? なぜですか?」


 うん。まだ堅田は自分の可愛さが周りにどう見られてるか、まったく無自覚のようだ。


「だって堅田がそれだけ可愛ければ、どんな男でも一撃だよ」

「一撃?」

「うん。ちやほやしてくれる男は続出だし、堅田が好きになった男はまず間違いなく好きになってくれるだろうな」

「ほ……ホントですか?」

「ああ、俺が保証する」


 堅田が身体に染みついたコンプレックスが解消されるように、ちょっと大げさにそう言った。

 だから早く自信を持って欲しい。


「じゃあ今の私なら、もしも告白すれば、みど……」

「うん。きっとその気持ちに応えてくれるさ、緑川って男も」

「あ、そ、そうです……かね?」

「そうだよ」

「むむむ……」


 堅田はなぜか険しい顔をしてる。

 まだ俺の言葉を信用できないんだろう。

 それほど彼女のコンプレックスは根が深いということか。


 でもまあ俺はその緑川ってやつを知らないからな。

 絶対に大丈夫だなんて言いきらない方がいいかも。


「もう一度、ゲームにチャレンジします!」


 堅田は気分を変えるように突然そう言って、クレーンゲーム機の方に振り返るとコインを投入した。

 腰を折って上半身を低くし、景品の山を見つめている。

 今度はより真剣にやるつもりのようだ。


 それを後ろから見ているが、堅田が突き出すお尻が……

 可愛い短めのスカートだから、ぷりんとした小さなお尻が目の前にある。

 そしてそこから伸びる白くて形のいい脚。


 ヤバし。鼻血が出そうだ。


 気合を入れた堅田だったが、また失敗して景品ゲットはならなかった。


「ああんんん……悔しいっっ……」


 堅田はゲーム機に向かったまま『イヤイヤ』するよう腰を左右に振った。

 形が良いお尻が揺れている。


 なにすんだおめぇ、俺の理性がヤバいだろっ! ……って言いたくなるくらい煽情的だ。


「もういいです。あきらめますっ」


 突然堅田は身体を起こして、くるりんと振り返った。

 さっきまでお尻のあたりをガン見してた俺と目が合う。


「えっと……御堂君?」

「は、はいっ?」


 マズい。キョドり過ぎて声が裏返った。


「どこを……見てたのですか?」


 堅田は視線を下に落とし、自分のスカートの裾あたりを見た。

 さっきまで彼女のお尻があったところに、今は太ももが見える。

 靴下は短いヤツだからちょっと違うかもしれないけど、いわゆる絶対領域。


 そして彼女は真っ赤になる。

 ヤバい。俺の視線がバレてしまった。


「いや、えっと…ごめん」


 ここは素直に謝っておいた方がいい。

 俺は頭を下げた。


「御堂君。頭を上げてください」


 堅田は優しく言ってくれてる。

 よかった。怒っても嫌悪もされていない感じだ。


 ホッとして見た堅田の顔は……嬉しそうに口角が上がっている。

 そして怪しく光る瞳。


「ここが……見たいのですよね?」


 堅田は両手を使ってスカートを少しだけチラッとまくり上げた。

 絶対領域が広がり、美しい太ももがさらに上の方まで視界に入る。

 ほんの一瞬だけど、破壊力は抜群だった。目が釘付けになる。


 ガン見してる俺の視線を堅田が追う。

 彼女には俺がどこを見てるか、バッチリ気取られてる。

 それでも嫌がるどころか嬉しそうに笑う堅田。


 俺が堅田のセクシーな姿に興奮してることに気づいて、いつもの彼女のエッチスイッチが入ってしまったかもしれない。


 これは……マズい。

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