第32話:御堂君?変でしょうか?

 可愛い服を着た堅田は、まるでモデルだ。


 白いお洒落なブラウスも愛らしいし、ジャンパースカートも可愛いうえに、やっぱ短めなのがいいな。白くて長い脚が素晴らしい。


 うん、グッドチョイスだぞ俺。


 これなら品川さんと同等……いや品川さん以上に可愛い。

 服装や髪型の威力はすごい。

 元々可愛いとは思ってたけど、さらに大きく磨きがかかった。


「あの……御堂君? 変でしょうか?」


 俺が唖然としてフリーズしてるもんだから、堅田が不安そうに訊いてきた。


「あ、ごめん……全然変じゃないよ。……すっごく可愛い」

「ほ、ホントに?」

「ああ。嘘偽りなく可愛い。めっちゃ可愛い。この上なく可愛い」

「よかった……」


 ホッとする堅田。

 なんとも言えずほわんとした空気が彼女から立ち昇ってるように感じる。


「すっごく似合ってらっしゃいますよ。うん、可愛いです!」

「あ、ありがとうございます。じゃあコレ買います。靴まで全部」


 おおっ、太っ腹だ。

 でもこれ、コーディネートもいいし、全部買えるならそれに越したことはない。


「ありがとうございます~ あなたに買われて、この服も幸せです!」


 うんうん、俺もそう思う。

 堅田はメガネをかけ直して、姿見で自分の姿をじっくり見てる。


 身体を斜めにしたり、横から見たり。

 嬉しそうだ。良かった。


「あの……このまま着て行ってもいいですか?」

「もちろんです」


 店員さんは今着てる服の値札を切って、今まで着ていた服は大きな紙袋に入れてくれた。


「よっぽど気に入ったみたいだな」

「はい。生まれ変わったみたいです」


 服も髪型も変わって、ホントに別人みたい。

 ダサいメガネだけが今までの堅田の面影を残してる。


 店を出ようすると、堅田が店内で可愛い髪飾りを見つけて、俺に見せてきた。


「御堂君。これどう思いますか?」


 ハートをアレンジしたデザインで、すごく可愛い。

 白百合の髪飾りよりも堅田の顔が華やかになりそうな気がする。


「おお、いいね。すごく可愛いと思う」

「そうですか。じゃあこれも買っときます」


 それも包装してもらってから店を出た。


「そろそろお昼だし、メシ食いに行こうか」


 ショッピングモールにはフードコートがある。

 そこに二人で行った。


 色んな店があるけど、結局何度も言行ったことがあるハンバーガーチェーンに来てしまった。

 二人ともチャレンジ精神の無さに、顔を見合って苦笑いする。


 だけどいいんだよ。

 このハンバーガーとポテトとドリンクのセットが安くて旨いんだから。


 席がいっぱいで壁際のカウンター席に二人並んで座った。そして二人揃ってハンバーガーをパクつく。

 単なるハンバーガーでも、女の子と二人で食べるといつもより旨い気がするのが不思議だ。


「何げないハンバーガーでも、こうやってデートで食べると美味しいです」


 堅田も同じことを思ってるんだな。


 横に座る堅田がこちらを向いた。

 可愛い服装にいつもよりもラフな髪型。

 この可愛いカッコで『デート』なんて言われると、かなりときめく。


 でもダサい眼鏡が唯一残念だ。


「あのさ堅田。やっぱりメガネ取ってみない?」

「また御堂君は、私の生まれたままの姿を見ようとするのですね。えっちです」

「いや、だからその言い方! やましい気持ちじゃなくてだな……」

「わかってます。でも……恥ずかしいのです」

「わかる。わかるよ。でもそのメガネを取ったら、さらに可愛いんだからさ」

「むぐう……御堂君はズルいです」

「ズルい? なんで?」

「だって……こんなに恥ずかしいのに。さらに可愛いなんて言われたら、言うこと聞くしかないじゃないですか」


 可愛くぷっくりほっぺを膨らませながら、ゆっくり眼鏡を外す堅田。


 ──思わず絶句した。


 少女っぽい服装も相まって、こりゃまた超極上の美少女が姿を現した。


 堅田も恥ずかしいのか、少し視線を落としたままじっとしている。


「ごめん。ちょっと言葉を失うくらい可愛いな」

「もう一度言ってください」

「すっごく可愛い」

「もっとください」

「超かわいい!」

「アゲインです」

「眩しすぎてまともに見れないくらい可愛い!」

「もういっちょ」

「プリティすぎて、おれ死にそうっ!」


 なにやってんだろ。

 俺たちバカップルか?


 まあ知ってる人が誰もいないからこそやれることだ。

 こんなの知り合いに見られたら死ぬな。


「あれ? 翔也。偶然だな」


 振り返ると遊助が立っていた。


 ──うっげぇぇぇぇ!


 見られた!

 知り合いに見られた!

 しかも一番の親友に見られた!


 さっきのバカップルみたいな会話、きっと聞かれてたよな?

 ダメだ、もう死ぬ。


「なんだよ翔也。彼女できたのか? 全然知らなかったぞ」

「あ、いや……」


 俺がカウンター席から立ち上がると、横で堅田も一緒に立ち上がった。


「あ、初めまして。翔也の友達の谷町たにまち 遊助ゆうすけです……うおっ!!」


 堅田の顔を見た遊助が、突然大きくのけぞって叫んだ。

 なんだ?


「おいおいおい翔也! 彼女お洒落だしめっちゃくちゃ可愛いじゃん! どこで知り合ったんだよ? 翔也も隅に置けないなぁ」


 肘で脇をツンツン突いてくる。くすぐったい。


 それにしてもこんなところで遊助と会うなんて、

 なんたる偶然。


 いや、俺たちは小学校から一緒だ。

 ということは家が近い

 つまり休日の行動範囲も被る。

 会う確率はそれなりにある。


「こいつめちゃくちゃいいヤツなんで、ぜひ翔也のことをよろしくお願いします!」


 すっげえ爽やかな笑顔で、思いっきり俺をアピってくれた。

 やっぱいいヤツだ。

 だけどな遊助──


「コイツ、堅田かただ 美玖みくだぞ。おんなじクラスの。文芸部の」

「いやまさか。俺をからかうなよ翔也」

「マジだって」


 疑うような顔で、遊助は堅田の顔をじっと見る。

 じっくり見る。

 そして目を見開いた。


「え…? ええっ? ぇえええぇぇぇぇっ!? いや……よく見たら、確かに堅田さんだ」

「はい……私です……」


 堅田は消え入りそうな声で答えた。

 遊助は呆然と堅田を見つめてる。


「だからさ。俺の彼女じゃなくて……」

「彼女です」

「単なる部活仲間で……」

「彼女です」

「今日は文芸部の用事で買い物に来てて……」

「デートです」

「いや、堅田! なんでそんなこと言うのっ!?」


 俺たちのやり取りを見て遊助がプッと吹き出して、呆れたように訊いた。


「で、ホントはキミら、どういう関係?」

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