第27話:早く堅田のエロスイッチを切らないとまずい

「いいのですよ。もっと私を……乱してください」


 やば。

 堅田のエロスイッチを入れてしまったようだ。

 目がとろんとしてる。


 もしも髪飾りが愛洲あいすさんの盗聴器だとしたら、俺たちの会話は完全にエッチなことをしてるように聞こえる。

 果たしてその実態は、単に髪飾りを外したというだけだ。なんだか割が合わない気がする。


 うーむ、早く堅田のエロスイッチを切らないとまずい。


「はい堅田、これ返す。たまたま手が触れたら外れちゃったんだよ。ごめんな。可愛い髪飾りだねっ!」

「あ、はい。ありがとうございますっ」


 堅田の意識を髪飾りに向け、そして明るく声をかける。

 よし、作戦成功だ!

 堅田のエロモードが解除された。危機回避成功。


「あ、そう言えば御堂君。ちょっと気になってることがあるんですけど……」

「ん? なに?」

「今日教室で谷町君が『友達として大好きだ』って言ってましたよね? 御堂君と谷町君はボーイズラブな関係なんでしょうか?」

「いや、違うしっ! だから『友達として』って言ってただろ?」

「それは隠れみの……?」

「全然違う! 小学校からの親友だよ」

「そうですか。よかったです」


 よかった?

 そっか。堅田はいわゆる腐女子ではないってことだな。男同士の恋愛には抵抗があると。


「よかったです。ラッキーです。幸いです。えがった。最高かよ」


 喜びすぎだ。

 変なやつ。

 

「それと、谷町クンは御堂君のおかげで今があるって言ってましたよね。どういうことですか?」

「ああそれね。遊助は時々そう言うんだけど、大げさに言ってるだけだよ」

「大げさ……ですか? なにかあったのですか?」

「うーんと……そうだね」


 特に隠す必要もないかと思って、小学生時代の話をした。


 俺と遊助は小学校が同じで、たまたま地元の同じサッカークラブに通っていた。

 遊助は今でこそ180センチ以上の高身長だけど、小学校の頃は体が小さくて線も細くて、まだサッカーも下手だった。

 綺麗な顔つきもあって女の子みたいだったせいで、周りからよくからかわれていた。


 当時は俺の方が背が高かったし、同じ小学校のよしみもあって、俺がよく遊助をかばうことがあった。

 と言っても俺も子供の頃からコミュニケーション苦手少年だった。だから遊助を庇って「やめろ」というのが精一杯だったんだけど。


「だからかな。遊助はよく、『翔也のおかげでサッカー辞めずに済んだ』って言ってくれるんだ」


 今ではイケメンで男らしくて、サッカーが上手い遊助に、俺なんか足元にも及ばない。


「なるほろ……」


 なるほろってなに?

 ──って思ったら。


 俺の話を黙って聞いてた堅田が、鼻の頭を真っ赤にしてボロボロ泣いてる。

 可愛い顔がぐしゅぐしゅだぞ。


「さすがです御堂くん……実に感動的です。『えカノ』観た時くらい感動しましたぁ」


 さえかのってなに?

 よくわからんけど、観たって言うくらいだから漫画か映画だな。


「幼い頃はあまり冴えなかった谷町君を、御堂君が輝かせたのですね」

「だから違うって。遊助がサッカー上手くなったのはあいつ自身の努力だし、背が伸びてイケメンになったのだって、俺の貢献度はゼロだ」

「でも御堂君が谷町君を守ったからって部分はあるでしょ?」

「そんなのなくても、きっと遊助は自分で成長したさ。それに俺が守ったなんて課題評価しすぎ。からかわれる遊助の前に立って『やめろ』って言っただけだし」

「それを感謝してるからこそ、谷町君はあそこまで言うのですよぉ」

「いやあれは……今の情け無い俺をかばうために、遊助が大げさに言っただけだよ」


 きっとそうだよ。俺が遊助にしたことなんて、ホントにそんな大したことじゃない。


「でも御堂君は、同じように私を庇ってくれました。『だめだ。堅田が嫌がってる。それが唯一無二の理由だ!』うーん、カッコよかったなぁ御堂君」

「わわわ、恥ずいからそのセリフをリピートするのはやめてくれ!」


 俺を羞恥死させるつもりか。

 勢いであんな臭いセリフを言ってしまったけど、冷静になると恥ずすぎる。


「いいえ。今のセリフを動画にして、YouTubeにアップします。なんとしても百万回再生させますよ、ふふふ」

「無限地獄かよ!……や、やめてくれ」

「冗談はさておきまして。御堂君に助けてもらって、私、すごく嬉しかったです。きっと子供の頃の谷町君も同じじゃないかなって思います」

「そ、そっかな……堅田、俺を励ましてくれてるんだな。ありがとう」

「いいえ。励ますと言うか、事実を述べてるだけです。それと谷町君のおかげで御堂君が陽キャに見られてるだなんて、言語同断ごんごどうだん怒髪衝天どはつしょうてん切歯扼腕せっしやくわんです」


 さすが文学少女。語彙力が豊富すぎてついていけない。

 なに言ってるか俺にはさっぱりわからん。

 表情から、堅田が怒ってることだけはわかるけど。



「御堂君は間違いなく陽キャです。本物の陰キャの私が保証します」

「いや、サラッと自分をディスるな。……って言うか、俺は『元陰キャ』だし、ホントの陽キャじゃない。ニセ陽キャだ」


 堅田はなぜかぷっくりと頬を膨らませて、不満げに俺を見てる。

 そしていきなり意味のわからない質問をしてきた。


「御堂君は元々幼い頃は幼稚園児でしたよね」

「え? あ、ああ。そうだな」

「でも今は高校生です」

「ああ、そうだ」


 なに当たり前のことばかり言ってんだ?

 いったいなんの話?


「では御堂君は元幼稚園児だから、今はニセ高校生なのですか?」

「は……? いや、それは違うな。本物の高校生だ」

「でしょ? そういうことです」


 堅田は『してやったり』と、フフフと笑う。


「御堂君は昔より成長してるのです。私にとって御堂君は本物の陽キャなのですよ。優しいしカッコいいです」

「いや、そんなことは……」

「私、思うのです。ホントの陰キャって、陰湿なキャラの人なのだと。自分勝手で他人の幸せを素直に喜べない人。心の中にドロドロしたものを持ってる人。御堂君ってそんな人ですか?」

「いや、それは……違うな」

「ほら、やっぱり御堂君は陰キャじゃありません。立派な陽キャですよ。私が保証します」


 堅田は満足そうにニコリと笑った。

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