第16話:御堂、なに偉そうに言ってんの?

***


 あれは9月中旬。文化祭が終わって片付けをしている時だった。

 みんなで一生懸命片付け作業をしてるのに、喋ってばかりで作業をサボってる女子二人を見かけた。

 俺は彼女たちに注意をした。


 もちろんニセリア充の俺だ。まともにストレートな注意なんて、恐ろしくてできない。

 だからおちゃらけたツッコミ風に声をかけた。


「おーいっ諸君! 片付けやろうぜっ! ノー片付け、ノーライフだぞ!」

「は……?」


 俺の言葉に振り返った女子二人のうち、一人は中学が一緒の女子だった。

 やべ……


御堂みどう、なに偉そうに言ってんの? 高校デビューの陰キャのくせに」

「え? 御堂君って陰キャだったの?」

「そりゃもう、見事な陰キャだったよ。きゃはは」


 そう。俺は中学の時、典型的な陰キャだった。

 だけど三年生の時に一人の女の子に恋をして、勇気を出して告白した。

 結果は……見事に玉砕。


 それは仕方なかったんだけど、後日その子が『陰キャの御堂に告られてサイテー』なんて言われてたことを伝え聞いた。


 ショックだった。

 自分でも陰キャだとわかってたけど、好きな子にバカにされて陰口を叩かれていたことが、トラウマになるくらいショックだった。

 だから高校に進学する春休みに従姉弟いとこに相談して、陽キャのフリをする努力をしたんだ。


 高校で同じ中学の者もいたけど、できるだけ関わらないようにしていた。

 だけどこの時は、ついうっかりと声をかけてしまった。

 しかもいきなり中学時代の陰キャを暴露されて、俺は動揺した。

 フラれた子にディスられたことがフラッシュバックして、足が震え、頭はぐるぐると周り、涙が浮かんだ。


 俺はその場から立ち去ろうとして、ふらふらと振り向いた。

 その時たまたま目の前にいたのが品川さんだった。


 俺の泣きそうな顔、がくがくと崩れそうな足腰。

 そんな俺を目撃した品川さんの目には……明らかに憐れみの色が浮かんでいた。


 情けない姿を憧れの品川さんに見られてしまった。

 それが俺のショックに輪をかけた。

 そしてそんな俺の姿を目にした品川さんが、リア充ナンバーワンの品川さんが。

 俺を気に入ってるなんてあり得ない。



 そんなことを思い出してしまった。

 以前の俺なら、その出来事を思い出すだけでメンタルがボロボロになったかもしれない。

 だけど、今はすごく穏やかな気持ちでいる。


 俺の頭には、堅田かただの笑顔が思い浮かんでいる。

 俺に頼ってくる堅田。

 俺に親しげに寄って来てくれる堅田。

 俺を必要としてくれる堅田。


 彼女の笑顔が、とても可愛いと感じる。

 そんな俺がいることに、自分でも驚きを隠せない。




***


 堅田かただ 美玖みくと急速に距離が縮まったきっかけになった、実家のカフェでの『事件』。それが起きてから初めての日曜日を迎えた。


 俺は日曜日はいつも夕方から、母が経営するカフェで手伝いをしている。

 今までカフェには毎週のように堅田が来店して、特に俺とは会話を交わすこともなくパソコンで一心不乱に執筆をしていた。


 でも先週から俺と堅田の距離感は激変している。

 果たして彼女は今までどおり店に来るのだろうか。


 この日もいつも通り、俺は夕方4時にカフェに入った。

 この時間から母は一時間くらい買い物に出かける。

 その間の店番を俺がするのがルーチンとなってる。

 そして同じく4時頃から堅田が来店するのがいつものパターン。


 だけど──この日は4時になっても堅田は現れなかった。


 どうしたんだろ?

 まあ堅田も毎週この店に来る義理があるわけじゃなし。

 そりゃ、来ない日もあるよな。

 だから俺は気にしない。


 お客様の対応をして、ひと段落する度に入り口ドアを見てしまう。

 だけど別に堅田のことが気になってるわけじゃない。

 ドアが壊れてないか確認してるだけだ。

 どうだ。俺って凄くキッチリした性格だろ?

 うん。彼女が来ようが来まいが俺は気にしない。


 4時半になっても堅田は姿を見せない。

 もしかしたら体調を崩したのかな。

 そう思ってスマホを見るけど、特に堅田からメッセージは入っていない。


 そう言えば俺たちって、LINE交換したきりメッセージは送っていなかったな。


 どうしてるのかメッセージを送ってみようか。

 でもそれってなんか、俺が堅田のことを気にしてるみたいじゃないか。

 俺は堅田がどうしてようと、気になんかしないんだ。

 気にしないったら気にしないんだよ。


 だけど俺と堅田は『ごっこ』とは言え、恋人同士のように振る舞うことになってる。

 恋人なら、いつもの時間に彼女が現われなかったら、心配してメッセージくらい送るよな。

 そうだ。恋人ごっこをしてる以上、メッセージを送らなきゃいけないんだ。

 よし。仕方・・なく・・メッセージを送ることにしよう。


 俺はスマホを手にして、LINEアプリを立ち上げる。

 その時ドアが開いた。


 あ……堅田だ。

 キターっ!!

 堅田が来たぁぁっっ!


 あ、いや。別に嬉しいわけじゃないんだけどさ。

 堅田が来たって事実を俺は言いたかっただけなんだよ。

 うん、ただそれだけなんだよね。

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