最終話
友達の投稿写真が更新された。スタバのフラペチーノを載せている。そうだよ、こういうオシャレなものはお店に任せておけばいいんだよ。
なんだか私は、形にこだわってばっかりだったな。そのくせ何一つ進展していない。何も形式にとらわれなくてもいいんだよね。
この緑茶を淹れた私、知恵と技術で乗り切ったんだもんね。写真をアップするのが目的じゃない、美味しく食べることが愉しいんだ。ぬるい緑茶を飲みながら、真理を悟った気分になる。
そういえば、お姉ちゃんはこの和菓子を食べてどう思ったんだろう。メールで尋ねるとすぐに返信が来た。
―あの和菓子、甘さ控えめだったね。私は好きだよ。あそこの店は甘さ控えめが売りらしいので、お母さんがそこのケーキを食べたいと言っている。明日買いに行くから、
まさかの、食べたいと思っていたケーキが食べられる。感動と喜びで震えてしまいそうだ。ありがとう、お姉ちゃん。
次の日、午前中から実家に向かう。せっかくなので昨日買った緑茶の茶葉を持って行こうと思ったけれども、ケーキなのでやめておいた。
実家に着くとケーキはすでに買ってあり、仏壇に供えられていた。寒い時期は少しくらいなら、冷蔵庫に入れなくても大丈夫な気温だ。
「未希、ケーキ持って来て」
「はーい」
私はケーキが入った箱を居間に持って行く。テーブルには人数分のカップにティーバッグの紅茶がセットされていた。
一人ずつ順番に、電気ポットからお湯を注ぐ。待ちきれないお父さんは、ストーブにかけてあるやかんのお湯を注いでいた。
みんながお湯を注いだら、お姉ちゃんがキッチンタイマーをセットした。
「ケーキだから良いお皿を使おうね」
お母さんはそう言い、白い丸皿を用意していた。これが良いお皿。
実家のお皿はよく分からない柄や金縁が入ったものが多かった。おかげで電子レンジに入れられるお皿が限られていた。
そうか、だから私はデパートに行ったとき、模様が描かれたお皿を選ばなかったのか。
私はガトーフレーズ、お姉ちゃんもガトーフレーズ。お母さんはモンブラン、お父さんには残ったチョコレートケーキが渡った。
キッチンタイマーが鳴り、みんな一斉にティーバッグを揺らす。
「紅茶の説明書に、揺らすなんて書いてないよね。何で揺らしちゃうんだろう」
お姉ちゃんが言う。確かにそうだ。
「このほうが紅茶のうま味が出るからじゃないのか?」
「全部出さないともったいないじゃない」
お父さんとお母さんも、自分なりの理由を言う。
「未希は何で揺らすの?」
「うーん、何となくかな。あっ、湯切りの効果もあるのかも」
「あー、なるほど」
他愛のない会話をして、みんなが役目を終えたティーバッグをお椀に入れる。あらかじめ用意しておいたお椀。
居間のテーブルの上はケーキが載ったケーキ皿と、紅茶が入ったバラバラのデザインのカップで埋め尽くされていた。
私はマグカップ、お母さんとお姉ちゃんはティーカップ、お父さんは湯呑み。絶対、全然写真映えしない。
「いただきます」
ケーキのフィルムをはがして、三角形の先端にフォークを入れる。
「美味しいわね、あんまり甘くなくて」
「食べすぎ注意だね」
「美味いな」
みんなが美味しいと言う。しっとりしたスポンジに軽いクリームが馴染んでいる。美味しい、いくらでも食べられそうだ。
インスタントの紅茶はとても美味しい。昔から売ってある黄色いパッケージの紅茶。インスタントでこのレベルなら、茶葉だったらもっと美味しいのかな?
ううん、きっとみんなと一緒だから美味しいんだ。
私はごちゃごちゃしたテーブルの上を写真に撮った。投稿することはないけれども、とっても大事な一枚になる気がした。
―終わり―
オシャレな写真 青山えむ @seenaemu
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